強盗の罪の周辺類型(昏酔強盗・強盗予備・強盗不同意性交等)とは
ごうとうのつみのしゅうへんるいけい
強盗の罪の周辺類型とは、236条の強盗のほかに刑法が定める、昏酔強盗罪(239条)、強盗予備罪(237条)、強盗・不同意性交等罪(241条)をまとめた呼び名です。昏酔強盗は強盗として扱われ、強盗予備は準備の段階を、強盗・不同意性交等は強盗と性交等が重なった場合を処罰します。
強盗の罪には、暴行・脅迫で物を奪う236条のほかに、形の違う三つの類型があります。睡眠薬で眠らせて財布を抜き取る行為は、殴ってはいませんが、抵抗できなくして奪う点で強盗と同じなので、昏酔強盗として強盗と同じに扱われます。強盗は重大な犯罪なので、凶器を用意する準備の段階も強盗予備として処罰されます。強盗と不同意性交等が同じ機会に重なった場合には、さらに重い刑が定められています。
昏酔強盗は、財物を盗む目的で人を昏酔させる行為を始めた時点で着手が認められます
239条は、人を昏酔させてその財物を盗取した者を「強盗として論ずる」と定めています。昏酔させるとは、睡眠薬や酒などを用いて、意識作用に一時的又は継続的な障害を生じさせ、財物に対する支配ができない状態にすることをいいます。実行の着手は、財物を盗取する目的で昏酔させる行為を始めた時点で認められます。「Xに多量の睡眠薬を飲ませたが,Xが眠らなかったため,Xの腕時計に触れることすらできなかった。甲には昏酔強盗未遂罪が成立する」という肢は正しいです。昏酔させる行為が手段であり、財物に手を伸ばす前でも実行に着手しているからです。昏酔は、犯人自身が財物を盗む目的で生じさせたものでなければなりません。すでに泥酔して眠っている人や、他人が昏酔させた人から財物を取っても、窃盗罪にとどまります。また、殴って意識を失わせた場合は、暴行を手段としているので236条1項の強盗罪になります。「財物奪取の意思で乙の頭部を強打して意識を喪失させた上で乙の財物を奪った場合,昏酔強盗既遂罪(刑法第239条)が成立する」という肢は誤りです。昏酔強盗も「強盗として論ずる」ので、240条の「強盗」に当たります。
強盗予備罪の「強盗の罪を犯す目的」には、事後強盗を犯す目的も含まれます
237条は、強盗の罪を犯す目的でその予備をした者を二年以下の拘禁刑に処します。窃盗には予備を罰する規定がありません。そこで、盗みに入って発見されたら凶器で脅して逃げるつもりで凶器を携帯して徘徊する行為、つまり事後強盗を目的とする準備が、強盗予備罪に当たるかが問題になります。最決昭和54年11月19日は、237条の強盗の目的には238条の事後強盗を目的とする場合を含むとしました。「強盗予備罪の「強盗の罪を犯す目的」には,事後強盗を犯す目的も含まれる」という肢は正しく、家人が帰ってきたら脅迫を加えて逃げる意図でサバイバルナイフを携帯して留守宅を探したが侵入を断念した事例について「甲には,強盗予備罪が成立する」という肢も正しいです。肯定する見解は、238条が「強盗として論ずる」と定めていること、窃盗に着手した後に財物を奪うための暴行に出る居直り強盗と事後強盗とを予備の段階で区別するのは実際上困難で、処罰に差を設けるのは妥当でないことを根拠にします。否定する見解は、条文の配置上、事後強盗罪の規定が強盗予備罪の規定の後に置かれていること、実質的に不可罰である窃盗の予備を処罰することになること、事後強盗罪は窃盗犯人を主体とする身分犯で、身分のない段階で予備をすることはできないことを根拠にします。
強盗予備罪に中止犯は成立せず、自分の意思でやめても刑の減免はありません
43条ただし書の中止犯は、「犯罪の実行に着手して」これを遂げなかった場合の規定です。予備は実行に着手する前の段階なので、判例は「予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないもの」としています(最大判昭和29年1月20日)。「誰かに発見されたら包丁で脅して逃げるため,これを携帯しながら盗みに入ることができそうな事務所を探して街をはいかいしていたが,悔悟の念を生じたため,盗みに入ることを断念した。甲に強盗予備罪の中止犯は成立しない」という肢は正しいです。強盗予備罪には、殺人予備罪や放火予備罪のような情状による刑の免除の規定もありません。この結論に対しては、実行に着手してから中止すれば刑が必要的に減免されるのに、それより前の段階でやめた者に減免がないのは均衡を欠くとして、43条ただし書の準用を認める見解があります。予備の中止の一般論は総論の予備罪で扱います。
強盗・不同意性交等罪は、強盗と性交等の先後を問わず、同じ機会に両方を犯せば成立します
241条1項は、強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が177条の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は177条の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときを、無期又は七年以上の拘禁刑に処します。平成29年の改正前は、強盗犯人が強姦をした場合だけを強盗強姦罪として重く処罰し、強姦の後に強盗の犯意を生じて財物を奪った場合は強姦罪と強盗罪の併合罪にとどまっていました。改正により先後を問わなくなり、令和5年の改正で罪名が強盗・不同意性交等罪になっています。「強制性交を行った直後に強盗の犯意を生じて,同じ被害者に対し,強盗罪の手段に当たる脅迫を加えて財物を強取した場合には,強制性交等罪と強盗罪の併合罪となる」という肢は誤りです。出題当時の罪名で強盗・強制性交等罪、現在は強盗・不同意性交等罪が成立します。「甲は,V女を強姦した後,同女から金品を奪う意思を生じ,同女に更なる暴行・脅迫を加え,その反抗を抑圧して同女の財布を奪った。甲には強盗強姦既遂罪は成立しない」という肢は、出題当時は強姦罪と強盗罪の併合罪になるので正しい肢でしたが、現在は同じ事例に強盗・不同意性交等罪が成立します。この罪は、強盗と不同意性交等の一方又は双方が未遂でも成立し、241条1項の罪そのものに未遂罪はありません。「甲には,強盗・強制性交等未遂罪が成立する」という肢は誤りです。双方が未遂のときは、人を死傷させた場合を除いて刑を減軽することができ、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは刑を減軽又は免除します(同条2項)。241条1項の罪に当たる行為により人を死亡させた場合は死刑又は無期拘禁刑で(同条3項)、この3項の罪には未遂を罰する規定があります。
- 昏酔強盗(239条)人を昏酔させて財物を盗取する。強盗として論ずる。未遂を罰する
- 強盗予備(237条)二年以下の拘禁刑。事後強盗の目的を含む。中止犯は成立しない。情状による免除の規定なし
- 強盗・不同意性交等(241条1項)無期又は七年以上の拘禁刑。先後を問わない。一方又は双方が未遂でも成立する
- 双方が未遂の場合(241条2項)死傷させたときを除き任意的に減軽。自己の意思で中止すれば必要的に減軽又は免除
- 同致死(241条3項)死刑又は無期拘禁刑。未遂を罰する
刑法237条
強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。
刑法239条
人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。
刑法241条1項
強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が第百七十七条の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は同条の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、窃盗に入る前の段階で検挙された事例で、強盗予備罪の成否を論じます。行為者の意図が、発見されたら凶器で脅して逃げるという事後強盗の目的にとどまる場合、237条の「強盗の罪を犯す目的」に当たるかを、238条が「強盗として論ずる」と定めていること、居直り強盗の目的との区別が実際上困難であることから肯定します。窃盗の予備を処罰することになるという批判に対しては、凶器を準備して暴行・脅迫に及ぶ意思がある点で単なる窃盗の準備とは危険性が違うと答えます。目的は確定的なものである必要があり、発見されたら凶器を使うという条件付きの意思でも、条件が満たされれば実行する意思が確定していれば足りると書きます。自分の意思で断念した場合は、予備罪に中止犯の規定が適用又は準用されるかを論じ、判例の否定説と、均衡を理由に準用を認める見解を対比します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。