事後強盗罪と共犯とは
じごごうとうざいときょうはん
事後強盗罪と共犯とは、窃盗に関与していない者が、窃盗犯人による238条の目的での暴行・脅迫にだけ加担した場合に、その者に事後強盗罪の共犯が成立するかという問題です。事後強盗罪を身分犯とみるか結合犯とみるかで、65条の問題になるか承継的共同正犯の問題になるかが分かれます。
甲が万引きをして被害者に追い掛けられているところへ、友人の乙が通り掛かり、事情を察して一緒に被害者を殴って甲を逃がしたとします。乙は盗みには一切関わっていません。甲に事後強盗罪が成立することに争いはありませんが、暴行にしか関わっていない乙まで事後強盗罪の共犯になるのか、暴行罪にとどまるのかは、事後強盗罪をどのような構造の罪と考えるかによって結論が変わります。
事後強盗罪を身分犯とみるか、窃盗と暴行・脅迫の結合犯とみるかで、使う条文が変わります
238条は主体を「窃盗」と定めています。この「窃盗」を、窃盗犯人という身分と考えるのが身分犯説です。身分犯説からは、暴行・脅迫だけが事後強盗罪の実行行為であり、窃盗をしていない者が加担した場合は65条(共犯と身分)の問題になります。これに対し、事後強盗罪を窃盗行為と暴行・脅迫行為が結び付いた結合犯と考えるのが結合犯説です。結合犯説からは、窃盗行為も実行行為の一部であり、窃盗が終わった後に暴行・脅迫だけに加担した者は、先行者の行為を引き継ぐかという承継的共同正犯の問題になります。下級審の裁判例は、身分犯とみたうえで真正身分犯とするものと不真正身分犯とするものに分かれています。
身分犯説のうち、真正身分犯とみれば65条1項で事後強盗罪の共犯となり、不真正身分犯とみれば暴行罪の限度にとどまります
真正身分犯説は、事後強盗罪は「窃盗」という身分を有する者だけが犯すことのできる罪で、暴行罪や脅迫罪の加重類型ではないと考えます。この見解に立ち、65条1項は真正身分犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めたものと解すると、暴行にだけ加担した者には65条1項により事後強盗罪の共犯が成立し、その刑が科されるという結論になります。窃盗犯人が逮捕を免れるために暴行を加えた際に、事情を知った者がその暴行を幇助した事例について、この見解からは、窃盗行為に全く関与していなかったとしても事後強盗罪の幇助犯が成立し、その刑が科されるという結論になります。不真正身分犯説は、事後強盗罪を、窃盗犯人という身分によって暴行罪・脅迫罪の刑が加重された罪と考えます。この見解に立ち、65条について同じ理解をとると、身分のない者には65条2項により暴行罪又は脅迫罪が成立するという結論になります。不真正身分犯説に立ちつつ、65条1項は真正身分犯・不真正身分犯を通じて共犯の成立を定め、2項は不真正身分犯の科刑を定めたものと解すると、65条1項により事後強盗罪の共犯が成立し、2項により暴行罪の刑が科されるという結論になります。不真正身分犯説に対しては、事後強盗罪は財産犯であって、暴行罪・脅迫罪とは罪質が違うので、その加重類型とみることはできないという批判が向けられます。
- 真正身分犯説65条1項により事後強盗罪の共犯が成立し、その刑を科す
- 不真正身分犯説(1項=真正身分犯、2項=不真正身分犯と解する)65条2項により暴行罪・脅迫罪が成立する
- 不真正身分犯説(1項=共犯の成立、2項=科刑と解する)65条1項により事後強盗罪の共犯が成立し、2項により暴行罪の刑を科す
- 結合犯説・承継的共同正犯を肯定事後強盗罪の共犯が成立する
- 結合犯説・承継的共同正犯を否定暴行罪・脅迫罪の限度で共犯が成立する
結合犯説からは、承継的共同正犯を肯定するかどうかで結論が分かれます
結合犯説に立つと、後から加わった者は、窃盗という先行行為に関与していません。この者に事後強盗罪の成立を認める考え方は、先行者がすでに行った窃盗を引き継ぐことを認めるもので、承継的共同正犯を肯定しています。先行者の窃盗の効果を利用して暴行に加担したことを根拠にします。承継的共同正犯を否定する立場からは、後から加わった者は自分が関与した暴行・脅迫についてだけ責任を負い、暴行罪又は脅迫罪の限度で共犯になるという結論になります。関与する前の行為には因果性を及ぼせないことを理由にします。
身分犯説と結合犯説は、条文の文言と既遂・未遂の決まり方を根拠に互いを批判します
身分犯説は、238条が「窃盗が」と主体の形で定めていることを根拠にします。身分犯説に対しては、身分犯であれば暴行・脅迫だけが実行行為になるはずなのに、窃盗の既遂・未遂によって事後強盗罪の既遂・未遂が決まることを説明できないという批判が向けられます。結合犯説は、既遂・未遂が窃盗の既遂・未遂で決まること、事後強盗罪が財産犯であることを根拠にします。結合犯説に対しては、窃盗行為が実行行為の一部だとすると、窃盗に着手しただけで事後強盗罪の未遂を肯定することになってしまうのではないかという批判が向けられます。後から暴行・脅迫をするつもりのない窃盗犯人にまで事後強盗の着手を認めることは不当だという趣旨です。この問題は、総論の共犯と身分、承継的共犯とつながっており、どの立場をとるかを決めたうえで一貫して論じることが求められます。
刑法238条
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
刑法65条
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
論文ではこう使う
論文では、窃盗に関与していない者が、窃盗犯人と意思を通じて暴行・脅迫にだけ加担した事例で論じます。まず窃盗犯人本人に事後強盗罪が成立することを認定します。次に、後から加わった者について、事後強盗罪の構造をどう理解するかを示します。身分犯とみる場合は、「窃盗が」という文言から窃盗犯人であることを身分と解し、事後強盗罪が財産犯であって暴行罪・脅迫罪の加重類型ではないことから真正身分犯として、65条1項により共同正犯(又は幇助犯)の成立を認めるのが一つの筋です。結合犯とみる場合は、承継的共同正犯の可否を論じ、先行者の窃盗の結果を自己の犯罪遂行の手段として利用したといえるかを事実から評価します。どちらの立場でも、反対の立場からの批判(既遂・未遂の基準を説明できるか、着手時期が早まりすぎないか)に一言答えておくと説得力が増します。死傷の結果が生じた場合は、強盗致死傷罪の共犯の成否に進みます。
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