承継的共犯とは
しょうけいてききょうはん
承継的共犯とは、先行者が犯罪の実行に着手した後、まだ終了しないうちに、後行者が先行者と意思を通じて途中から加わった場合に、後行者が加わる前の行為や結果についても共犯としての責任を負うかという問題です。
リレーの第三走者は、第一走者と第二走者が走った分の疲れまで背負うわけではありません。しかし、チームの記録は四人全員のものになります。犯罪の途中から加わった者についても、加わる前に仲間がしたことの責任まで負わせてよいのかが問題になります。自分が関わる前に既に起きてしまった結果には、後から影響を与えることができません。そこで、どこまでが後から加わった者の責任になるのかを、罪の種類ごとに考えます。
後から加わった者が加わる前の行為と結果に責任を負うかについて、三つの見解が並びます
承継的共犯は、先行者の行為と後行者の行為が合わさって一つの犯罪になる場合に問題になります。出題では、次の三つの見解が示されます。全面肯定説は共犯を一個の犯罪を共同して行うものと捉える考え方に、全面否定説は共犯は自分の行為と因果性のある結果についてだけ責任を負うという因果的共犯論に、それぞれ基づいています。「Aの見解は,共犯の処罰根拠に関する因果的共犯論に基づいて主張される」という説明は、全面肯定説には当てはまりません。限定肯定説は、過去の結果そのものは承継しないとしつつ、先行者が作り出した状態がなお続いていて、後行者がそれを利用した場合に限って、犯罪全体の責任を認めます。
- 全面肯定説共犯は一個の犯罪を共同して行うものであり、後から加担した者も、情を知って一罪の一部に加担した以上、犯罪全体について責任を負うとします
- 全面否定説共犯は自己の行為と因果性がある範囲においてのみ責任を負い、自らが生じさせていない過去の事実については責任を負わないとします
- 限定肯定説先行者が生じさせた結果は承継しないが、先行者が生じさせた犯行を容易にする状態を後行者が利用して犯罪を実現したときは、後行者も犯罪全体について責任を負うとします
各説には、一罪性の重視、処罰の間隙、単独犯との不均衡という批判が向けられます
全面肯定説に対しては、何を一罪として扱うかは立法政策によって決まるのだから、一罪であることに決定的な意味を認めるのは適切でないという批判が向けられます。全面否定説に対しては、複数の行為からなる犯罪で後行行為だけでは処罰されない場合に、処罰の間隙が生じるという批判が向けられます。詐欺罪で、欺罔行為の後に現金の受領だけに関与した者が処罰できなくなるというのがその例です。限定肯定説に対しては、単独犯との比較からの批判があります。憂さ晴らしで暴行を加えて相手を抗拒不能にした後に財物を奪う意思が生じ、その状態を利用して財物を奪っても、一般に強盗罪は成立しないとされています。それなのに、他人が作った抗拒不能の状態を利用した後行者には強盗罪を認めるのは均衡を欠く、という批判です。また、限定肯定説からは、傷害の結果が共謀成立の前後いずれの暴行から生じたか特定できない場合、後行者には傷害罪の承継的共犯が成立しないことになるのが自然です。この帰結に対しては、意思の連絡がない場合でさえ傷害罪の責任を負わせる207条との関係で不均衡であるという批判が向けられます。
判例は、加担する前に既に生じていた傷害結果について、後行者に共同正犯の責任を負わせません
最決平成24年11月6日は、先行者らが被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に、被告人が共謀加担してさらに暴行を加え、傷害を相当程度重くした事案について判断しました。決定は、共謀加担前に先行者が既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはないとしました。責任を負うのは、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてだけです。被害者が負傷して抵抗が困難になっている状態を利用したという事情も、加担後に暴行をした動機ないし契機にすぎず、加担前の傷害結果について責任を問う理由にはならないとされました。先行者の暴行で脳挫傷を負った被害者に、その状態を利用して後から暴行を加えた事例について、「甲には,脳挫傷の傷害についても乙との傷害罪の共同正犯が成立する」という肢は誤りです。傷害がどの段階の暴行から生じたか分からない場合に207条の同時傷害の特例が適用されるかは、各論の同時傷害の特例の語で説明します。
詐欺罪では、欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与した者が、加功前の欺罔行為を含めて責任を負います
最決平成29年12月11日は、共犯者が被害者にうそを言った後、被害者がうそを見破って警察のだまされたふり作戦に協力していた事案で、作戦の開始を知らずに荷物の受領を引き受けて受け取った者について判断しました。決定は、被告人は、欺罔行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者と共謀の上、詐欺を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与しているから、作戦の開始いかんにかかわらず、加功前の欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うとしました。したがって、「乙の加功前になされた欺罔行為を含む詐欺未遂罪の共同正犯は成立しない」という肢は誤りです。この判旨について、「欺罔行為と財物受領行為の一体性を根拠として,財物受領行為のみに関与した者について,詐欺罪の承継的共同正犯を認めるとの立場と矛盾するものではない」という肢は正しいです。判旨は積極的に利用する意思を要件にしていないので、「同欺罔行為を自己の犯罪の手段として積極的に利用する意思がない場合には,詐欺未遂罪の共同正犯の成立が否定される」という肢は誤りです。手段となる行為と財物の取得が一体になっている点は強盗罪も同じですから、「強盗罪における財物奪取行為のみに関与した者には,同罪の共同正犯の成立を認めることはできない」という肢も誤りです。判旨は作戦の開始にかかわらず責任を負うとしており、受領行為自体の危険性を一般人が認識できた事情から判断するという不能犯の枠組みを前提にしているという説明は当たりません。他方で、この判旨に対しては、被害者がうそを見破っている以上、被告人が関与した時点では詐欺罪が既遂に至る可能性がなく、被告人が法益侵害の危険性を惹起したとはいえないという批判が向けられます。
強盗罪では、加わった後に暴行・脅迫と財物の奪取を共同すれば、強盗罪の共同正犯になります
後行者が加わった後に、手段となる行為と結果となる行為の両方が行われれば、承継を論じるまでもなく共同正犯が成立します。知人が被害者を縛り上げて草むらに連れ込んだところへ来て、所持金を山分けする合意をし、知人が緩んでいたロープをきつく縛り直した後に所持金を奪った者には、強盗罪の共同正犯が成立します。合意の後にも反抗を抑圧する行為が続けられているからです。加わった後に暴行・脅迫がなく、先行者が作った反抗抑圧の状態を利用して財物を奪っただけの場合が、承継的共犯の本来の問題になります。古い判例には、夫が強盗の目的で被害者を殺害した後に、頼まれて財物を奪うのを手伝った妻について、強盗殺人罪の幇助犯の成立を認めたものがあります(大判昭和13年11月18日)。しかし、加担前の傷害結果について因果関係を否定した平成24年の決定の考え方からは、加わる前に生じた死傷の結果についてまで後行者に責任を負わせることはできないと考えられています。
刑法60条
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
論文ではこう使う
論文では、暴行や欺罔の後に途中から加わった者の罪責で使います。まず、後行者が加わった時点を事実から特定し、加わる前に何が行われ、どの結果が既に生じていたかを整理します。次に、共犯は自己の行為と因果性のある結果についてだけ責任を負うという出発点を示し、加わる前に既に生じた結果には因果性を及ぼせないと述べます。傷害罪であれば、平成24年の決定に沿って、加担後の暴行が生じさせた傷害又は重くした部分に限って共同正犯を認めます。傷害がどの暴行から生じたか分からないときは、同時傷害の特例の適用を検討します。詐欺罪・恐喝罪・強盗罪であれば、先行者の行為が生じさせた錯誤や畏怖、反抗抑圧の状態が続いており、後行者がその状態のもとで財物の取得という犯罪の完遂に不可欠な行為を共同したことを認定して、犯罪全体について共同正犯を認めます。強盗致死傷罪では、加わる前に生じた死傷の結果は承継しないことを書き分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。