欺く行為(重要事項性・挙動と不作為)とは
あざむくこうい
欺く行為とは、相手方が財物や財産上の利益を交付するかどうかを判断する基礎となる重要な事項を偽ることです。言葉でうそを言う場合のほか、挙動による場合と、告知義務に反して真実を告げない不作為による場合があります。
財布にお金がなく払う気もないのに、黙って定食を注文する場面を考えます。客は「払います」とは言っていませんが、店は注文されれば代金を払う客だと受け取って料理を出します。詐欺罪は、相手をだまして自分から財産を差し出させる罪ですから、相手が「それなら出さなかった」といえる大事な点を偽ったかどうかが出発点になります。そのため、欺く行為は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることと定義されています。
欺く行為は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいいます
詐欺罪は、欺く行為によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて財物や利益を交付するという流れをたどって成立します。そこで、欺く行為は、相手方の交付に向けられ、交付するかどうかの判断を左右する事項についてのものでなければなりません。最決平成22年7月29日(搭乗券詐欺事件)は、搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは係員にとって「交付の判断の基礎となる重要な事項」であるとし、他人を搭乗させる意図を秘して交付を請求する行為を欺く行為と認めました。「航空会社の空港係員に対し,内心では,外国への不法入国を企てている知人を搭乗させるつもりであるのに,自らが搭乗するとうそを言って,あらかじめ航空券を購入していた航空便について搭乗券の交付を求め,同係員から搭乗券の交付を受けた場合,当該搭乗券についての詐欺罪が成立する」という肢は正しいです。航空会社が本人確認を徹底し、乗客以外の者を搭乗させないことを経営上重要としていたため、運賃が支払われていても重要な事項を偽ったことになります。「他人から預金通帳と届出印鑑を一時的に預かったにすぎない者が,それを利用して勝手に銀行窓口で銀行員から預金払戻名下に金員の交付を受けた場合,預金の払戻権限がないのにそれがあるように偽っているので,銀行員を相手方とする詐欺罪が成立する」という肢も正しく、払戻権限があるかどうかは、銀行が払戻しに応じるかを決める重要な事項に当たります。
- うそを言う事実と異なることを言葉で告げる。価格が暴落すると偽る、警察官を装うなど
- 挙動による欺罔行為そのものに一定の意思や事実の表示が含まれる。支払意思がないのに注文する、他人を搭乗させる意図を隠して搭乗券を請求する
- 不作為による欺罔告知義務があるのに真実を告げない。誤振込みを告げずに払い戻す、釣銭を多く渡されたと気付いたのに告げずに受け取る
支払う意思がないのに注文する行為は、作為による欺罔行為に当たります
代金を支払えない者が黙って注文した場合、「支払えないことを告げなかった」という不作為が問題になるようにも見えます。しかし、最決昭和43年6月6日は、商品買受けの注文には、特に反対の事情がある場合のほかは代金を支払う旨の意思表示が含まれているのが通例であるとして、その注文の行為自体を欺罔行為としました。「商品買受けの注文の際,代金支払の意思も能力もないのに,そのことを告げることなく,単純に商品買受けの注文をした場合,その注文行為が刑法第246条第1項の詐欺罪における作為による欺罔行為となる」という肢は正しいです。挙動によって「支払います」と表示したと評価されるので、告知義務があるかどうかを論じる必要はありません。無銭飲食や無銭宿泊も、最初から支払う意思がなければ、注文や宿泊の申込みが欺く行為になります。これに対し、最判平成26年3月28日(暴力団関係者によるゴルフ場利用と詐欺罪)は、暴力団関係者が氏名を偽らずに受付表を提出して施設利用を申し込む行為は、当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められないとして、欺く行為に当たらないとしました。挙動がどのような事実を表示しているかは、その取引で相手方が確認していた事項によって決まります。他方で、暴力団関係者の利用を拒絶する措置がとられていたゴルフ場を、同伴者が暴力団関係者であることを申告せずに利用させた事案(最決平成26年3月28日)や、暴力団員でないことを表明して確約したうえで口座を開設した事案(最決平成26年4月7日)では、判例は欺く行為を認めています。
告知義務があるのに真実を告げないことも、不作為による欺罔行為になります
欺く行為は不作為によっても行うことができます。「詐欺罪については積極的な欺罔行為を要するから、不作為による欺罔行為が認められることはない」という肢は誤りです。判例は、生命保険契約の締結に際して既往症を告知しなかった場合に法令上の告知義務違反を認め(大判昭和7年2月19日)、誤振込みと知りながらこれを告げずに預金の払戻しを受けた場合に信義則上の告知義務違反を認めています(最決平成15年3月12日)。「甲には,上記の誤った振込入金があったことを告知する義務はなく,詐欺罪は成立しない」という肢は誤りです。銀行には組戻しなどの措置をとる利益があるので、受取人は継続的な預金取引を行う者として誤振込みを告知する信義則上の義務を負います。釣銭を多く渡されたことにその場で気付いたのに、告げずに受け取る場合も、不作為による欺罔行為になります。不作為が欺く行為となるのは、法令・契約・信義則などから告知義務が認められる場合に限られます。
相手方に過失があっても、未成年者が相手でも、欺いて交付させれば詐欺罪が成立します
詐欺罪の成立には、行為者の欺く行為だけで相手方が錯誤に陥ったことまでは必要ありません。「相手方を欺罔して錯誤に陥らせ,これにより相手方から財物の交付を受けたとしても,錯誤に陥ったことに相手方の過失が認められるときには,刑法第246条第1項の詐欺罪は成立しない」という肢は誤りです。大判大正14年4月7日は、被害者自身の判断の誤りが錯誤の一因となっている場合でも詐欺罪の成立は妨げられないとしています。また、「知慮浅薄な未成年者を欺罔して錯誤に陥らせ,これにより未成年者から財物の交付を受けた場合,刑法第248条の準詐欺罪が成立する」という肢は誤りです。準詐欺罪(248条)は、未成年者の知慮浅薄や人の心神耗弱に乗じて、欺く行為に至らない誘惑などの方法で交付させる場合の規定です。未成年者に対してであっても、欺いて錯誤に陥らせて交付させたのであれば、246条の詐欺罪が成立します(大判大正4年6月15日)。15歳の者に対し、返す意思がないのにあるように装って借金を申し込み現金を交付させた事例でも、成立するのは詐欺罪です。
商取引の誇張であっても、重要な事項について虚偽の外観を作れば欺く行為になります
商品の宣伝に多少の誇張が伴うことは取引上予定されており、それだけでは欺く行為になりません。しかし、「商人が、自己と通謀して客を装い他の客の購買心をそそる者(いわゆる「さくら」)を使って、商品の効用が極めて大きく世評も売れ行きも良いように見せかけて客を欺罔し、これを信じた客に効用の乏しい商品を売り付けた場合、正当な業務による行為に当たるから、詐欺罪が成立することはない」という肢は誤りです。大判昭和6年11月26日は、客を装う「さくら」を使って商品の効用が大きく売れ行きも良いように見せかけ、効用の乏しい商品を売り付けた行為は、商人としての業務上正当な行為とはいえないとして、詐欺罪の成立を認めました。買うかどうかの判断を左右する事項について、積極的に虚偽の外観を作り出しているからです。
欺く行為は、人の判断に向けられていなければなりません
欺く行為は、人を錯誤に陥らせて交付させる行為ですから、機械を誤作動させる行為や、人の注意をそらすだけの行為は欺く行為に当たりません。パチンコ店で、通常の方法で遊技しているように装って従業員の目を欺き、特殊な器具でパチンコ台を誤作動させて玉を排出させた事例では、従業員は玉を交付する判断をしていないので、詐欺罪は成立せず、窃盗罪が成立します。うそが相手方の交付の判断に向けられていない場合に詐欺罪が否定される点は、処分行為の問題と表裏の関係にあります。クレジットカードの利用者と名義人が同一であるかも、加盟店にとって交付の判断の基礎となる重要な事項とされています。名義人から利用を許されていても、名義人に成り済ましてクレジットカードを利用すれば詐欺罪が成立するという見解は、クレジットカード利用者と名義人の同一性が加盟店にとって商品交付の判断の基礎となる重要な事項に当たると理解しています。名義人に成り済ます行為が欺く行為とされるのは、この重要事項性の理解に基づきます。
刑法246条1項
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
刑法246条2項
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
最決平成22年7月29日
搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは、本件係員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、自己に対する搭乗券を他の者に渡してその者を搭乗させる意図であるのにこれを秘して本件係員らに対してその搭乗券の交付を請求する行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず
論文ではこう使う
論文では、まず行為者が偽った事項を具体的に特定します。「支払意思がないのにあるように装った」「自ら搭乗するかのように装った」というように、どの事実について相手方に誤った認識を持たせたかを一文で示します。次に、その事項が「交付の判断の基礎となる重要な事項」に当たることを、相手方の業務の内容、確認の手続、真実を知っていれば交付しなかったといえる事情から認定します。対価が支払われている事案では、財産的損害の有無と重ねて論じることになるので、相手方がその事項を重視していた理由が経営上・取引上のものであることを問題文の事実から拾います。不作為による欺罔を論じるときは、告知義務の発生根拠を法令・契約・信義則のいずれかから示したうえで、告げなかったことを欺く行為と評価します。挙動による欺罔といえる場合には告知義務の認定は不要ですから、まず挙動による表示があるかを検討し、それが否定されるときに不作為を検討するという順序で書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。