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用語集 / 刑法 / 権利行使と恐喝

権利行使と恐喝とは

けんりこうしときょうかつ

刑法 財産犯(詐欺・横領・背任ほか)

権利行使と恐喝とは、債権者が債務者を脅して弁済を受けた場合のように、正当な権利を持つ者が恐喝の手段を用いてその権利を実現したときに、恐喝罪が成立するかという問題です。判例は、権利の範囲内であっても、方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱すれば恐喝罪が成立するとしています。

貸した5万円を返してもらえない人が、相手の家に押しかけて「払わないとどうなるか分かっているな」と脅して取り立てた場合を考えます。5万円は本来返してもらえるお金ですから、相手は財産を失っていないようにも見えます。しかし、法律は、権利があっても裁判などの手続を通じて実現することを求めています。脅して払わせることまで許せば、力の強い者が自分で取り立てる社会になってしまうので、やり方が度を超えれば恐喝罪が成立します。

アパートの玄関先の場面。男性(札「甲:貸金5万円の債権者」)が借用証書を片手に、もう一方の手で拳を握ってドアの内側の男性(札「A:債務者」)に迫っている。Aは畏怖して財布から紙幣を出している。玄関の外に先生が解説役(札「解説」)で立ち、吹き

権利の行使でも、方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を逸脱すれば恐喝罪が成立します

最判昭和30年10月14日(権利の実行と恐喝罪)は、他人に対して権利を有する者がその権利を実行することは、その権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、違法の問題を生じないとしました。そのうえで、この範囲や程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪が成立することがあるとしています。この判例は、要求に応じなければ身体に危害を加えるような態度を示して畏怖させた手段は、権利行使の方法として許される程度を逸脱するとしました。債務者が脅されて支払った金銭は、債務者が適法に持っていた財産であり、畏怖しなければ交付しなかったものですから、弁済として債務が消えるとしても、金銭を失ったこと自体が損害になります。恐喝罪の構成要件に当たることを前提に、権利行使として違法性が阻却されるかを、権利の範囲と手段の相当性から判断するという枠組みです。

  • 権利の範囲内か債権額を超えて要求していないか、弁済期が来ているか
  • 方法が社会通念上一般に忍容すべき程度か害悪の内容、言動の激しさ、人数、時間帯などから判断する。身体に危害を加える態度を示すことは逸脱に当たる
  • 両方を満たす場合違法の問題を生じない
  • いずれかを逸脱する場合違法となり、恐喝罪が成立することがある

債権額を超えて交付させた場合、交付を受けた全額について恐喝罪が成立します

最判昭和30年10月14日は、3万円の債権を有する者が被害者を畏怖させて6万円を交付させた事案で、債権額のいかんにかかわらず、6万円の全額について恐喝罪の成立を認めました。「甲が交付を受けた現金20万円のうち5万円は正当な債権の行使によるものであるから、同貸金額を超える15万円について甲に恐喝罪が成立するにとどまる」という肢は誤りです。畏怖に基づいて交付された現金は全体として1個の交付であり、手段が忍容すべき程度を逸脱している以上、債権額に当たる部分だけを切り離して適法とすることはできないからです。したがって、この事例では20万円の全額について恐喝罪が成立します。

教室の黒板の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の横に立つ。黒板には横長の帯が描かれ、帯全体の上に「交付させた現金20万円」、帯の左4分の1に「貸金5万円」、残りに「超過15万円」と書かれている。帯全体を囲む枠に「全額について恐喝罪」の文

権利の範囲内であれば恐喝罪は成立しないとする見解は、財産上の損害がないことを理由にします

この問題については見解が分かれます。権利の範囲内で弁済を受けた場合には債務者に財産上の損害がないとする見解からは、恐喝罪は成立せず、手段である脅迫について脅迫罪が成立するにとどまるという結論になります。この見解からは、債権額を超えて交付させた場合には、超過部分についてだけ恐喝罪が成立することになります。この見解に対しては、債務者が現に持っていた金銭を畏怖によって失ったことを損害と評価しないのは、個別の財産を保護する恐喝罪の性質に合わないという批判が向けられます。これに対し、恐喝罪の構成要件に当たるとしたうえで違法性阻却の問題として扱う見解からは、手段が相当であれば違法性が阻却され、相当でなければ交付を受けた全額について恐喝罪が成立するという結論になります。判例は後者の立場です。自分の所有物を脅して取り戻した場合も同じ構造で、他人が占有する自己の財物は他人の財物とみなされるので(251条・242条)、恐喝罪の構成要件に当たり得ます。そのうえで、権利を実現するために実力行使に出る必要性、緊急性、手段の相当性を満たすときは、自救行為として違法性が阻却される余地があると論じられています。

刑法249条1項

人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。

最判昭和30年10月14日

他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがある

論文ではこう使う

論文では、まず恐喝罪の構成要件該当性を認定します。脅迫によって畏怖させ、その畏怖に基づいて現金を交付させたことを示し、債権があることは構成要件該当性を否定しないと述べます。損害については、債務者が交付した金銭そのものの喪失が損害であると一言触れます。次に、違法性阻却の段階で、最判昭和30年10月14日の基準を示します。権利の範囲内か、方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えていないかの二点です。当てはめでは、債権の存在と額、弁済期、債務者の対応、取立ての言動の内容と激しさ、時間や場所、人数を拾い、手段の相当性を評価します。逸脱が認められるときは、債権額を超える部分に限らず交付を受けた全額について恐喝罪が成立すると結論づけます。逸脱がないときは、正当行為として違法性が阻却されると結論づけます。

試験ではこう問われる

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