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間接正犯とは

かんせつせいはん

刑法 共犯

間接正犯とは、他人を道具として利用することによって、自ら手を下したのと同じように犯罪を実現することです。事情を知らない者、意思を抑圧された者、被害者自身などを利用した者は、教唆犯ではなく正犯として処罰されます。

リモコンでロボットを動かして店の品物を持ち出させれば、盗んだのはリモコンを握っていた人だと誰もが考えます。刑法は、事情を知らない人や逆らえない人を同じように道具として使った場合にも、背後の利用者を、自ら手を下した者と同じ正犯として扱います。犯罪が実現するかどうかを実際に支配していたのは、動かされた人ではなく利用者だからです。

工事現場の資材置場の場面。奥で、事情を知らない買取業者の男性(札「情を知らない買主」)がトラックに機械を積み込んでいる。手前に、売買契約書を手にした男性(札「利用者 甲」)が立ち、甲の手から買主へ操り糸のような矢印が伸びる。先生が検察官役(

他人を道具として利用し、犯罪の実現を支配した者が間接正犯になります

正犯とは自ら犯罪を実行した者をいいますが、実行は自分の手でする必要はありません。被利用者が犯罪事実を知らない、意思を抑圧されている、是非を弁別する能力がないといった事情により、自分の意思で犯罪を思いとどまることが期待できない場合には、被利用者は利用者の道具にすぎず、利用者が犯罪の実現を支配しています。そこで利用者は、他人を自己の犯罪実現のための道具として利用する意思で、その者を一方的に利用したときに間接正犯になります。反対に、被利用者が事情を知ったうえで自分の意思で犯罪を決意したときは、利用者は犯罪の実現を支配しておらず、共同正犯か教唆犯が成立するにとどまります。間接正犯になる利用の仕方は、次のように分けて考えます。

  • 故意のない者の利用事情を知らない買主に他人の物を搬出させる場合です。被利用者に過失があっても間接正犯が成立します
  • 是非を弁別する能力のない者の利用幼児や重い精神の障害がある者に物を取って来させる場合です
  • 意思を抑圧された者の利用日頃の暴行で逆らえなくなっている者に命じて窃盗をさせる場合です
  • 被害者自身の行為の利用被害者を他の行為を選択することができない精神状態に陥らせ、自らを死亡させる危険の高い行為をさせる場合です
  • 適法行為の利用医師の正当な治療行為や緊急避難に当たる行為を利用して結果を生じさせる場合です
  • 身分や目的のない者・手足として動くだけの者の利用身分のない故意ある道具、故意ある幇助的道具と呼ばれる場合です

刑事未成年者を利用した場合は、意思を抑圧していたかどうかで間接正犯と共同正犯に分かれます

14歳に満たない者は処罰されませんが(41条)、是非善悪の判断能力を備えていることは多く、刑事未成年者であるというだけで道具になるわけではありません。最決昭和58年9月21日は、日頃から暴行を加えて意のままに従わせていた12歳の養女に窃盗を命じた事案で、養女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている養女を利用したのだから窃盗の間接正犯が成立するとしました。したがって、「乙に是非善悪の判断能力があると認められる以上,甲には窃盗罪の共同正犯が成立する」という肢は誤りです。同じ理由で、日頃から暴行を加えて意のままに万引きをさせていた満12歳の実子に万引きを命じた事例について、「甲に,窃盗罪の間接正犯は成立せず,Xとの間で同罪の共同正犯が成立する」という肢も誤りです。これに対し、最決平成13年10月25日は、母親が12歳の長男に強盗を指示した事案で、指示は長男の意思を抑圧するに足る程度のものではなく、長男は自らの意思により強盗の実行を決意し、臨機応変に対処して強盗を完遂したとして、母親に強盗の間接正犯ではなく共同正犯が成立するとしました。ですから、「乙が刑事未成年である以上は,甲には強盗罪の間接正犯が成立する」という肢は誤りであり、「乙が是非善悪の判断能力を有していたか否か,甲の指示により意思を抑圧されていたか否かにかかわらず,甲には強盗罪の間接正犯が成立する」という肢も誤りです。成人と刑事未成年者の間でも共同正犯は成立し得るので、「成人と刑事未成年者との間で共同正犯が成立することはなく,成人に間接正犯が成立するにすぎない」という肢は誤りです。22歳の者と12歳の者が強盗を共謀した事例について「この場合、甲に強盗罪の共同正犯が成立することはない」という肢も誤りです。親に言い聞かされた12歳の長男が、小遣い欲しさから承諾してバーに行き、自己の判断で出入口の鍵を掛けるなどして現金を強取し、逃げる際に被害者を転倒させて負傷させたという事例でも、長男は自らの意思で実行しているので、親は間接正犯にはなりません。この事例の親には、強盗罪の間接正犯でも強盗致傷罪の間接正犯でもなく、強盗致傷罪の共同正犯が成立します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、法壇の前に二枚の立て札が並ぶ。左の立て札「12歳の養女:日頃の暴行で意思を抑圧されていた → 間接正犯」、右の立て札「12歳の長男:自らの意思で決意し臨機応変に実行した → 共同正犯」

故意のない者を利用した場合は、その者に過失があっても間接正犯が成立します

犯罪事実を知らない者は、その犯罪を思いとどまるきっかけを持たないので、利用者の道具になります。最決昭和31年7月3日は、他人の所有する機械を自己に処分権があるかのように装って情を知らない買主に売却し、買主に搬出させた事案で、売主は窃盗罪の刑事責任を免れることはできないとしました。被利用者が不注意で事情に気づかなかったとしても、故意がない以上は道具であることに変わりがありません。「情を知らないことにつき丙に過失があったとしても,甲は窃盗罪の正犯となる」という肢は正しいです。所有者に成り済まして中古機械買取業者に機械を売却し搬出させた事例について、「この場合,甲に,Xに対する窃盗罪の間接正犯が成立する」という肢も正しいです。名義人をだまして文書に署名押印させる場合も同じ構造になります。建物の売買契約書を会員制クラブの入会申込書であると偽って署名押印させた事例について、「甲には,有印私文書偽造罪の間接正犯が成立する」という肢は正しいです。他方で、公務員でない者が情を知らない公務員に虚偽の申立てをして内容虚偽の公文書を作らせる場合は、公正証書原本不実記載等罪との関係で虚偽公文書作成罪の間接正犯が制限されます。この点は各論の虚偽公文書作成罪の語で扱います。

被害者自身の行為を利用した場合は、他の行為を選択できない精神状態に陥らせたかが決め手になります

被害者に自分を傷つける行為をさせた場合にも、被害者が道具といえれば利用者が正犯になります。最決平成16年1月20日は、暴行・脅迫を繰り返して被害者を被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせ、岸壁から車ごと海中に転落させた事案で、被害者に命令して車ごと海に転落させた行為は殺人罪の実行行為に当たるとしました。この事案の被害者は車から脱出して助かったので、成立したのは殺人未遂罪です。被害者が溺死した事例に置き換えた「甲は自ら殺人の実行行為を行ったとはいえないので,殺人罪の正犯とならない」という肢は誤りです。崖から海に飛び込ませて死亡させた事例について「この場合,甲に,Xに対する殺人罪は成立しない」という肢も誤りです。被害者が死の意味を理解していない場合も同じです。大判昭和8年4月19日は、通常の判断能力がない被害者を、首をつっても生き返るとだまして死亡させた事案を殺人罪としました。「Vに首をつらせて窒息死させた。甲には自殺関与罪が成立する」という肢は誤りです。自殺関与罪は被害者が死ぬことを理解して自ら決意した場合の罪だからです。なお、財物の占有者に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加えて財物を差し出させた場合は、暴行・脅迫を手段として財物を奪っているので強盗罪そのものが成立します。「この場合,甲に,Xに対する強盗罪は成立せず,窃盗罪の間接正犯が成立する」という肢は誤りです。

夜の漁港の岸壁の場面(車が海に落ちる前)。岸壁に止まった自動車の運転席に、うつむいた男性(札「被害者」)が座る。車の外に男性(札「甲」)が立ち、海の方向を指さして命じている。少し離れた位置に先生が検察官役(札「検察官」)で立つ。先生の吹き出

適法行為を利用した場合や、手足として動くだけの者を利用した場合にも間接正犯が成立します

被利用者の行為が適法であっても、背後の利用者にとっては違法な結果を生じさせる手段になります。判例は、医師に腹痛を装って麻薬注射が必要であると誤診させ注射をさせた事案で、医師の正当な行為を利用した間接正犯を認めています(最決昭和44年11月11日)。妊婦の生命を救うための医師の緊急避難行為を利用して堕胎の結果を生じさせた事案でも、間接正犯が認められています(大判大正10年5月7日)。正当防衛に出ざるを得ない状況を作って相手を負傷させる場合も、同じように考えます。被利用者に故意があっても、身分や目的を欠くために正犯になれない場合や、利用者の指示どおりに機械的に動くだけの場合には、利用者を正犯とする余地があります。判例は、使用人に命じて物を運搬させた事案で、使用人を自己の手足として自ら運搬したものとして利用者を実行正犯としました(最判昭和25年7月6日)。もっとも、事情を知って関与した者との間では共同正犯が成立するとみる見解も有力です。間接正犯が否定されたときは、共同正犯、教唆犯の順に成否を検討します。

最決昭和58年9月21日

たとえ所論のように同女が是非善悪の判断能力を有する者であつたとしても、被告人については本件各窃盗の間接正犯が成立する

最決平成16年1月20日

被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たるというべきである。

論文ではこう使う

論文では、実行行為を自らしていない者の罪責を検討する最初の段階で使います。まず、間接正犯は他人を道具として利用し犯罪の実現を支配した場合に成立することを示します。次に、被利用者が道具といえるかを事実から認定します。刑事未成年者であれば、年齢、利用者との関係、指示の内容と強さ、被利用者が自分で判断して動いた部分があるかを拾い、意思を抑圧されていたといえるかを論じます。被害者を利用した事例では、暴行・脅迫の程度と期間から、他の行為を選択することができない精神状態に陥っていたかを認定します。道具性が否定されたときは、そこで終わらせずに、共謀と正犯意思を認定して共同正犯の成否を検討し、それも否定されれば教唆犯を検討します。利用者が被利用者を道具だと誤信していた場合は、関与形式の錯誤として38条2項を使って処理します。

試験ではこう問われる

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