間接正犯と共犯の錯誤(関与形式間の錯誤)とは
かんせつせいはんときょうはんのさくご
間接正犯と共犯の錯誤とは、他人を道具として利用するつもりだったのに相手が事情を知っていた場合や、唆すつもりだったのに相手が事情を知らないまま実行した場合のように、行為者が考えていた関与の形式と実際に生じた関与の形式が食い違うことです。関与形式間の錯誤とも呼ばれ、重なり合う軽い関与形式の限度で犯罪が成立します。
荷物の中身を知らない配達の人に危険な物を運ばせるつもりで渡したところ、相手は中身に気づき、それでも自分の考えで届けてしまったとします。渡した人は相手を道具のつもりで使いましたが、実際には相手は自分の意思で動いていました。この場合、渡した人を、何も知らない人を操った者として扱うことはできません。けれども、相手に犯罪をさせたことは確かなので、唆した者としての責任は負います。
関与形式の食い違いは、重なり合う軽い関与形式の限度で処理します
間接正犯は、規範的な障害のない他人を一方的に利用して犯罪を実現するものです。教唆犯は、他人に犯行を決意させて実行させるものです。両者は、他人を介して結果を実現するという点で共通しており、構成要件が実質的に重なり合っています。重い間接正犯の故意は、軽い教唆の故意を含んでいるといえます。そこで、行為者が考えていた関与形式と実際に生じた関与形式が食い違う場合は、抽象的事実の錯誤の一種として、重なり合う軽い関与形式の限度で犯罪が成立します。重い罪に当たる事実を知らなかった者をその重い罪で処断することはできないという38条2項が、ここでも働きます。関与形式は、間接正犯、教唆犯、幇助犯の順に軽くなります。
- 間接正犯のつもりで、実際は教唆にとどまった場合教唆犯が成立します。相手が初めから事情を知っていて、自分の意思で実行した場合です
- 教唆のつもりで、実際は間接正犯の事実が生じた場合教唆犯が成立します。相手が事情を知らないまま実行した場合です
- 教唆のつもりで、実際は幇助にとどまった場合幇助犯が成立します。相手が既に犯行を決意していた場合です
- 幇助のつもりで、実際は教唆の結果が生じた場合幇助犯が成立します。相手がまだ犯行を決意していなかった場合です
間接正犯のつもりで利用した相手が事情を知っていた場合は、教唆犯が成立します
医師が患者を殺害しようと考え、事情を知らないと思っている看護師に、治療用の薬だと言って毒薬を渡し、患者に飲ませるよう命じたとします。ところが、看護師は毒薬であることに気づいており、自分も殺意を抱いて患者に飲ませました。看護師は自分の意思で実行しているので、道具ではなく、殺人罪の正犯です。医師は、客観的には看護師に犯行を決意させたことになり、教唆の事実しか生じていません。医師には間接正犯の故意がありましたが、間接正犯の故意は教唆の故意を含んでいるので、重なり合う軽い教唆犯の限度で故意が認められ、医師には殺人罪の教唆犯が成立します。
相手が途中で事情を知った場合は、間接正犯の実行の着手時期によって処理が分かれます
看護師が毒薬を受け取った後で毒薬だと気づいた場合には、医師が指示した時点で既に間接正犯の実行の着手があったかどうかが先に問題になります。利用者の行為の時に着手を認める見解からは、医師が指示した時点で殺人罪の実行の着手があり、少なくとも間接正犯の未遂が成立し得ます。そのうえで、着手の後に被利用者が事情を知った場合について、間接正犯の既遂を認める見解と、間接正犯の未遂と既遂罪の教唆犯が成立し結論として既遂罪の教唆犯になるとする見解があります。被利用者の行為の時に着手を認める見解や、結果発生の現実的危険が生じた時点で着手を認める見解からは、指示の時点ではまだ着手がありません。この場合、客観的には教唆の事実しか生じていないので、間接正犯と教唆犯の錯誤として、軽い教唆犯が成立するという結論になります。
教唆のつもりで相手が事情を知らないまま実行した場合も、教唆犯にとどまります
逆の向きの食い違いもあります。医師が看護師に、この薬で患者を殺せと言って毒薬を渡したところ、看護師は冗談だと思い、治療用の薬と誤信して患者に飲ませたとします。客観的には、事情を知らない者を利用した間接正犯の事実が生じています。しかし、医師には相手を道具として利用する意思がなく、あったのは教唆の故意だけです。軽い教唆犯を実現する意思で重い間接正犯の事実が生じたのですから、38条2項により間接正犯は成立せず、重なり合う軽い教唆犯が成立します。看護師に注意義務違反があれば、看護師には業務上過失致死罪が成立し得ます。教唆と幇助の間の食い違いも同じように処理します。唆すつもりで実行を勧めたが、相手が既に犯行を決意していたために決意を強めるにとどまった場合は、幇助犯が成立します。
刑法38条2項
重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
論文ではこう使う
論文では、道具だと思っていた相手が事情を知っていた事例で使います。まず、実行した者について、事情を知って自分の意思で実行したことを認定し、正犯が成立することを確定します。次に、背後者について間接正犯の成否を検討し、相手が道具とはいえないことを理由に客観的な成立を否定します。相手が途中で事情を知った事例では、ここで間接正犯の実行の着手時期を論じ、指示の時点で着手があったといえるかを自説から判断します。続いて、客観的には教唆に当たる事実が生じていることを認定します。最後に、背後者には間接正犯の故意しかないことを指摘し、間接正犯と教唆犯は他人を介して結果を実現する点で構成要件が実質的に重なり合うから、38条2項の趣旨により軽い教唆犯の限度で故意が認められると書いて、教唆犯の成立を結論にします。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。