公正証書原本不実記載等罪とは
こうせいしょうしょげんぽんふじつきさいとうざい
公正証書原本不実記載等罪とは、公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利・義務に関する公正証書の原本や、免状、鑑札、旅券に、不実の記載をさせる罪をいいます。原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせる場合も含みます。
不動産の登記簿や戸籍は、役所が自分で調べて書くのではなく、届け出た人の申請をもとに書き込まれます。本当は結婚するつもりがないのに婚姻届を出せば、戸籍にはうその婚姻が載ります。登記簿や戸籍は、だれが所有者か、だれとだれが夫婦かを世の中に示す台帳ですから、うその記載が入ると多くの人の取引や手続が狂います。そこで刑法は、公務員にうその申立てをしてこうした台帳に事実と違う記載をさせる行為を、申立てをした人の罪として処罰しています。
157条は、公務員に虚偽の申立てをして重要な公文書に不実の記載をさせる行為を、申立てをした者の罪として処罰します
内容の虚偽な公文書を作る罪である虚偽公文書作成罪(156条)は、作成権限のある公務員だけが主体になります。157条は、公務員でない者などが、情を知らない公務員に虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿などに不実の記載をさせる行為を、156条より軽い刑で処罰する規定です。判例は、公務員でない者が虚偽の公文書作成の間接正犯であるときは、157条の場合のほかは処罰しない趣旨であるとしています(最判昭和27年12月25日)。そのため、情を知らない公務員に虚偽の申立てをして登記簿に不実の記載をさせた事例では、157条1項の罪が成立し、虚偽公文書作成罪の間接正犯にはなりません。「甲には虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する」という肢は誤りです。
客体は、1項の権利義務に関する公正証書の原本と、2項の免状・鑑札・旅券に分かれ、刑の重さも違います
1項の客体である「権利若しくは義務に関する公正証書の原本」とは、公務員が職務上作成する文書で、権利義務に関するある事実を証明する効力を持つものをいいます(最判昭和36年6月20日)。条文が挙げる登記簿、戸籍簿のほか、公証人が作成する公正証書、土地台帳、住民票などがこれに当たります。原本として用いられる電磁的記録も客体で、登記簿の磁気ディスク、戸籍の原本として用いられる電磁的記録、自動車登録ファイルなどがあります。電磁的記録の場合は、不実の「記録」をさせる罪になり、電磁的公正証書原本不実記録罪と呼ばれます。2項の客体は免状、鑑札、旅券で、運転免許証や医師免許証が免状に当たります。2項の刑は1項よりも軽く定められています。1項・2項とも未遂が処罰されます。
- 1項の客体登記簿、戸籍簿その他の権利・義務に関する公正証書の原本(公正証書、土地台帳、住民票など)と、原本として用いられる電磁的記録
- 1項の刑5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
- 2項の客体免状(運転免許証など)、鑑札、旅券と、その全部又は一部として用いられる電磁的記録
- 2項の刑1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金
- 行為公務員に対し虚偽の申立てをして、不実の記載・記録をさせること
- 未遂処罰する(157条3項)
- その後の行為不実の記載をさせた原本を備え付けさせる行為、電磁的記録を公正証書の原本としての用に供する行為は、158条の行使罪・供用罪
婚姻の意思がないのに婚姻届を出して戸籍に記録させれば、不実記録罪と供用罪が成立し、両者は牽連犯になります
虚偽の申立てとは、真実に反する事実を申し立てることをいい、不実の記載・記録とは、事実に反する内容を記載・記録させることをいいます。外国籍の者に在留資格を得させるため、婚姻する意思がないのに内容虚偽の婚姻届を提出し、情を知らない市役所の係員に戸籍の原本として用いられる電磁的記録へ婚姻の記録をさせ、事務処理に用いられる状態に置かせた事例について、「甲には電磁的公正証書原本不実記録罪,同供用罪が成立する」という肢は正しいです。売買や抵当権設定の事実がないのに、その旨の登記を申請して登記簿に記録させる行為も同じです。不実の記録をさせる行為(157条1項)と、その記録を公正証書の原本としての用に供する行為(158条1項)は、手段と結果の関係にあります。情を知らない登記官に虚偽の申立てをして登記簿の磁気ディスクに不実の記録をさせ、閲覧可能な状態にした事例について、「甲には,電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪が成立し,これらは牽連犯となる」という肢は正しいです。
157条が予定しているのは情を知らない公務員への申立てで、情を知っている公務員に依頼した場合は157条の罪になりません
157条の行為は、公務員に対し「虚偽の申立て」をして不実の記載をさせることです。公務員が虚偽であることを知らされ、依頼に応じて自ら内容虚偽の記載・記録をした場合は、公務員自身が虚偽の公文書や電磁的記録を作ったことになります。この場合、公務員には、紙の文書であれば虚偽公文書作成罪、電磁的記録であれば公電磁的記録不正作出罪(161条の2第2項)などが成立し、依頼した者はその共犯になります。自己の土地の登記記録を改ざんしようと考え、担当登記官に情を打ち明けて依頼し、登記簿の磁気ディスクに内容虚偽の記録をしてもらった事例について、「甲には電磁的公正証書原本不実記録罪,同供用罪の共同正犯が成立する」という肢は誤りです。
虚偽の申請をして旅券の交付を受けても、詐欺罪は成立せず、157条2項の罪だけが成立します
免状、鑑札、旅券は、名義人が交付を受けて所持しなければ役に立たない文書です。判例は、157条2項の罪は、不実の記載をさせることだけでなく、不実の記載をされた免状等の交付を受けることも当然に含んでいるとして、交付を受ける行為について別に詐欺罪は成立しないとしています(最判昭和27年12月25日)。157条2項の刑が詐欺罪よりも大幅に軽いことも理由に挙げられています。内容虚偽の旅券申請書を作成して旅券の交付を受けた事例について、「甲には,詐欺罪が成立するので,免状等不実記載罪は成立しない」という肢は誤りです。成立するのは免状等不実記載罪で、詐欺罪は成立しません。
刑法157条1項
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法157条2項
公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札若しくは旅券に不実の記載をさせ、又は電磁的記録文書等その他の電磁的記録であって、免状、鑑札若しくは旅券の全部若しくは一部として用いられるものに不実の記録をさせた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、不動産の二重譲渡や、売買・抵当権設定の実体がないのに登記を申請した事例で、横領罪や背任罪などの財産犯とあわせて検討します。登記の申請が「虚偽の申立て」に当たること、登記簿(磁気ディスクであれば原本として用いられる電磁的記録)が1項の客体に当たること、申請どおりの登記がされて「不実の記録」がされたことを、事実を挙げて順に認定します。登記が完了して公証できる状態に置かれれば、158条1項の供用罪も成立し、不実記録罪と供用罪は牽連犯になります。財産犯との罪数関係も最後に示します。登記官が情を知っていた場合は、157条ではなく、登記官に成立する罪の共犯を検討します。
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