財産犯の体系(領得罪と毀棄罪・1項犯罪と2項犯罪)とは
ざいさんはんのたいけい
財産犯の体系とは、財産に対する罪を、不法領得の意思の有無で領得罪と毀棄罪に、客体が財物か財産上の利益かで1項犯罪と2項犯罪に分けて整理した見取り図です。領得罪はさらに、占有を奪う窃盗・強盗、相手に交付させる詐欺・恐喝、占有の移転がない横領に分かれます。
他人の自転車を黙って持ち去る行為、うそをついて代金を払わせる行為、預かった金を使い込む行為、腹いせに車を傷つける行為は、どれも他人の財産を害しますが、罪名も刑の重さも違います。刑法は、何を害したか(物か利益か)、どうやって手に入れたか(相手の意思に反して奪ったか、相手に交付させたか)、自分のものとして利用するつもりがあったかで罪を分けているからです。この分け方を先に押さえると、事例の罪名を順に絞り込めます。
財産犯は、物を自分のものとして利用する領得罪と、物の効用を失わせる毀棄罪に分かれます
領得罪とは、他人の財物を自分の物として利用・処分する意思(不法領得の意思)で取得する罪をいい、窃盗・強盗・詐欺・恐喝・横領がこれに当たります。毀棄罪とは、物の効用を失わせる罪をいい、器物損壊罪や文書等毀棄罪がこれに当たります。物を壊せば持ち主は二度と使えなくなるので、被害だけを見れば毀棄罪のほうが大きい場合もあります。それでも窃盗罪が十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金、器物損壊罪が三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料と、領得罪のほうが重く定められています。物を利用して得をしようという動機は誰もが抱きやすく、強く禁じておく必要があるからです。嫌がらせのために隠すだけの目的で持ち出した場合に窃盗罪が成立しないのは、この区別によります。盗品等に関する罪は、領得罪の犯人を事後に助ける罪として領得罪の側に置かれ、背任罪は物ではなく全体としての財産に損害を加える罪として別に置かれます。
領得罪は、占有を自分で奪う奪取罪、相手に交付させる交付罪、占有の移転がない横領に分かれます
窃盗罪と強盗罪は、占有者の意思に反して占有を移す罪で、奪取罪と呼ばれます。詐欺罪と恐喝罪は、欺かれ又は畏怖した相手が自分の意思で財物を交付する罪で、交付罪と呼ばれます。両者を分けるのは、相手の処分行為があるかどうかです。「支配人に「いってらっしゃいませ。」と言われて旅館を立ち去った行為には,窃盗罪は成立しない」という肢は誤りです。宿泊客はうそを言っていますが、支配人は外出を見送っただけで、浴衣の占有を客に移す処分行為をしていないので、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します。強盗罪と恐喝罪は、暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧するに足りる程度かどうかで分かれます。これらに対し、横領罪は自己の占有する他人の物を領得する罪で、占有の移転がありません。占有を侵害しないぶん、単純横領罪の刑は五年以下の拘禁刑と窃盗罪より軽く、遺失物等横領罪はさらに軽くなっています。事例では、まず物の占有が誰にあったかを確かめ、被害者にあれば奪取罪か交付罪、行為者にあれば横領罪、誰にもなければ遺失物等横領罪を検討します。
- 窃盗罪・強盗罪占有者の意思に反して占有を移す(奪取罪)。強盗は反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を用いる
- 詐欺罪・恐喝罪相手の処分行為によって交付させる(交付罪)。恐喝は反抗を抑圧するに至らない暴行・脅迫を用いる
- 横領罪自己の占有する他人の物を領得する。占有の移転がない
- 遺失物等横領罪誰の占有にも属さない他人の物を領得する
財産上の利益を客体とする2項犯罪は、強盗・詐欺・恐喝にしかありません
刑法236条・246条・249条は、1項で財物を、2項で財産上不法の利益を客体としています。これに対し、窃盗罪の客体は財物だけで、利益を客体とする規定がありません。そのため、暴行・脅迫も欺く行為も用いずに利益だけを得る行為(利益窃盗)は、刑法上の財産犯として処罰されません。「借り受けた自動車を乙会社に返還し,そのまま料金を支払わずに行方をくらました。甲に刑法上の財産犯は成立しない」という肢は正しいです。借りた時点では支払う意思があり、返還の際にも従業員を欺いておらず、免れたのは料金債務という利益だけだからです。同じ理由で、「事後強盗罪は,強盗罪と同様,財物と財産上の利益について成立する」という肢は誤りです。事後強盗罪の主体は「窃盗」であり、窃盗罪は財物についてしか成立しないので、利益について事後強盗罪が成立する余地はありません。1項と2項は同じ条文の同じ罪です。「甲は,乙を恐喝して乙から財物の交付を受けるとともに財産上の利益を得た。甲には,包括して1個の恐喝罪が成立する」という肢は正しく、宿泊と朝食をだまし取った事例について「甲に刑法第246条第1項の詐欺罪及び同条第2項の詐欺罪が成立し、両罪は併合罪となる」という肢は誤りです。1個の欺く行為で財物と利益の両方を得ても、全体として1個の詐欺罪が成立するにとどまります。
未遂を罰する規定と親族間の特例は、罪ごとにあるかどうかが決まっています
未遂は各本条に定めがあるときだけ処罰されます。窃盗・不動産侵奪・強盗・事後強盗・昏酔強盗・強盗致死傷の未遂は243条が、詐欺・恐喝・背任の未遂は250条が罰しています。横領罪、盗品等に関する罪、毀棄・隠匿の罪には未遂を罰する規定がありません。横領罪は不法領得の意思が外部に現れた時点で既遂になるので、未遂の段階を考える余地が小さいことが背景にあります。親族間の犯罪に関する特例(244条)は、窃盗罪と不動産侵奪罪について置かれ、詐欺・恐喝・背任には251条が、横領には255条が準用しています。強盗罪には適用も準用もありません。「刑法第244条第1項は強盗罪にも適用されるから、その刑は免除される」という肢は誤りです。244条1項が挙げるのは235条・235条の2とその未遂罪だけで、暴行・脅迫という身体への侵害を伴う強盗は、親族間の自律に委ねる対象から外されています。毀棄・隠匿の罪にも準用はなく、盗品等に関する罪には257条が独自の特例を置いています。
- 窃盗・不動産侵奪2項犯罪なし/未遂あり(243条)/親族間の特例あり(244条)
- 強盗2項犯罪あり/未遂あり(243条)・予備あり(237条)/親族間の特例なし
- 詐欺・恐喝2項犯罪あり/未遂あり(250条)/244条を準用(251条)
- 背任未遂あり(250条)/244条を準用(251条)
- 横領2項犯罪なし/未遂なし/244条を準用(255条)
- 盗品等に関する罪未遂なし/257条に独自の特例
- 毀棄・隠匿未遂なし/親族間の特例なし
刑法236条
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法243条
第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。
論文ではこう使う
論文では、罪名を選ぶ順番としてこの体系を使います。まず客体が財物か財産上の利益かを確かめます。利益であれば、暴行・脅迫か欺く行為・恐喝行為がない限り財産犯は成立しません。財物であれば、行為の時点で占有が誰にあったかを認定します。被害者に占有があれば、占有者の意思に反して移したのか(窃盗・強盗)、処分行為によって交付させたのか(詐欺・恐喝)を分け、行為者に占有があれば横領、誰にも占有がなければ遺失物等横領を検討します。そのうえで、不法領得の意思が欠ければ領得罪ではなく毀棄・隠匿の罪を検討します。罪名が決まった後に、未遂を罰する規定があるか、親族間の特例が適用又は準用されるかを条文で確かめると、処理の漏れを防げます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。