司法試験・予備試験AIブートラボ 司法試験AIブートラボ
用語集 / 刑法 / 胎児と人の区別

胎児と人の区別(堕胎の罪・胎児性傷害)とは

たいじとひとのくべつ

刑法 生命・身体に対する罪

胎児とは、母体から一部も露出していない段階の生命をいい、堕胎の罪の客体になります。母体から一部でも露出すれば「人」となり、殺人罪や傷害罪の客体になります。

お腹の中の赤ちゃんに危害が加えられた場合と、生まれた後の赤ちゃんに危害が加えられた場合とでは、適用される条文が違います。刑法は、殺人罪や傷害罪の相手を「人」と定め、生まれる前の胎児については堕胎の罪という別の規定で守っているからです。そこで、いつから「人」になるのか、胎児のときに受けた害が生まれた後に現れた場合はどちらの罪になるのかが問題になります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板に左から右へ時間の流れを示す横線があり、線の途中に縦の区切り線と札「母体から一部露出」。区切り線の左側の区間に札「胎児:堕胎の罪(212条〜216条)」、右側の区間に札「人:殺人罪

母体から一部でも露出すれば「人」となり、それより前は胎児として堕胎の罪で保護されます

殺人罪や傷害罪の客体は「人」であり、胎児を客体とする罪は堕胎の罪です。胎児がいつから人になるかについては、母体から一部でも露出した時点とする一部露出説が通説です。一部でも露出すれば、母体を介さずに直接攻撃を加えることができるようになるので、その時点から人として保護する必要があるというのが理由です。堕胎とは、胎児を母体内で殺すこと、又は自然の分娩期に先立って人工的に胎児を母体から分離・排出することをいいます(大判明治44年12月8日)。排出された胎児が死亡しなくても、堕胎の罪は成立します。堕胎の罪は、第一に胎児の生命・身体の安全を、あわせて母体の生命・身体の安全を守るものと考えられています。

堕胎の罪は妊婦の承諾の有無と行為者の身分で四つに分かれ、未遂を処罰するのは不同意堕胎だけです

妊婦自身が堕胎すれば自己堕胎罪(212条)、妊婦の嘱託を受け又は承諾を得て他人が堕胎させれば同意堕胎罪(213条)、その他人が医師・助産師・薬剤師・医薬品販売業者であれば業務上堕胎罪(214条)、嘱託も承諾もなく堕胎させれば不同意堕胎罪(215条)になります。妊婦の承諾があっても胎児の生命は妊婦が自由に処分できるものではないので、承諾は罪を不成立にするのではなく、軽い罪に振り分ける働きをします。夫が妊娠している妻と話し合ったうえ薬物を使用して堕胎させた事例について「堕胎について乙があらかじめ甲に対して承諾していた場合,甲の行為は,不同意堕胎罪の構成要件に該当せず」という肢は正しく、「堕胎についてAが承諾をしているから、甲に不同意堕胎罪が成立することはない」という肢も正しいです。この場合、夫には同意堕胎罪が成立します。未遂を処罰する規定があるのは不同意堕胎罪だけです(215条2項)。同意堕胎・業務上堕胎・不同意堕胎には、妊婦を死傷させた場合の加重規定があります。

  • 自己堕胎罪(212条)妊娠中の女子が自ら堕胎する。一年以下の拘禁刑
  • 同意堕胎罪(213条)嘱託・承諾を得て堕胎させる。二年以下の拘禁刑。致死傷は三月以上五年以下の拘禁刑
  • 業務上堕胎罪(214条)医師・助産師・薬剤師・医薬品販売業者が嘱託・承諾を得て堕胎させる。三月以上五年以下の拘禁刑。致死傷は六月以上七年以下の拘禁刑
  • 不同意堕胎罪(215条)嘱託も承諾もなく堕胎させる。六月以上七年以下の拘禁刑。未遂を処罰する
  • 不同意堕胎致死傷罪(216条)傷害の罪と比較して、重い刑により処断する

医師の適法な行為を利用して胎児を排出させた場合も、堕胎に着手した者に同意堕胎罪が成立します

医師ではない者が妊婦から依頼を受けて堕胎手術を始めたところ、妊婦の生命に危険が生じたため、医師に胎児の排出を求め、医師が妊婦の生命を救うために胎児を母体外に排出させた事例があります。判例は、医師の行為が適法であっても、その行為を利用して堕胎の結果を遂げた者には堕胎罪が成立するとしています(大判大正10年5月7日)。「Bに緊急避難が成立する場合、甲に同意堕胎罪は成立しない」という肢は誤りです。違法性が阻却されるかどうかは行為者ごとに判断され、医師に緊急避難が成立しても、危険を自ら作り出して医師の行為を利用した者の行為まで適法になるわけではないからです。

堕胎によって生きて生まれた子は「人」であり、放置して死亡させれば保護責任者遺棄致死罪が成立します

堕胎は胎児を母体から排出した時点で成立するので、排出された子が生きていれば、その子は母体から露出した「人」です。最決昭和63年1月19日は、産婦人科医師が妊婦の依頼を受けて妊娠第26週に入った胎児の堕胎を行い、出生した未熟児を、保育器等の設備のある病院の医療を受けさせれば生育する可能性があると認識し、その措置を迅速容易にとることができたのに、自己の医院内に放置して約54時間後に死亡させた事案で、業務上堕胎罪に併せて保護責任者遺棄致死罪の成立を認めました。母体保護法上許されない堕胎を行った産婦人科医師が、生育する可能性があると認識しながら生存に必要な保護を行わずに未熟児を死亡させた事例について「同医師に,保護責任者遺棄等致死罪(刑法第219条,第218条)が成立し得る」という肢は正しいです。

胎児のときに受けた侵害で出生後に死傷した場合について、判例は人に対する罪の成立を認めています

妊婦に侵害が加えられ、胎児に病変が生じたが堕胎には至らず、生まれた子がその病変のために傷害を負い、又は死亡した場合を、胎児性傷害と呼びます。侵害が及んだ時点では客体は胎児であり「人」ではないので、傷害罪や過失致死傷罪が成立するかが問題になります。最決昭和63年2月29日(熊本水俣病事件)は、胎児は堕胎の罪において独立の行為客体として特別に規定されている場合を除き母体の一部を構成するものと取り扱われているから、胎児に病変を発生させることは人である母体の一部に対するものとして人に病変を発生させることにほかならないとし、胎児が出生して人となった後にその病変に起因して死亡した場合には、病変の発生時に客体が人であることを要するとの立場を採ると否とにかかわらず、業務上過失致死罪が成立するとしました。見解は三つ並びます。判例のように母体の一部に傷害を負わせたと捉える見解からは、人である母体に傷害を負わせ、出生した人に致死の結果をもたらしたとして過失致死罪が成立するという結論になります。出生した人に対する罪と捉える見解からは、侵害作用が及ぶ時点で人が存在している必要はなく、結果が発生する時点で人が存在していれば足りるとして、過失致死罪が成立するという結論になります。否定する見解からは、人に対する罪は成立しないという結論になります。母体の一部と捉える見解に対しては、胎児が母体の一部であるなら自己堕胎は自傷行為として不可罰になるはずであり、現行法が自己堕胎を処罰していることと矛盾するという批判が向けられます。出生した人に対する罪と捉える見解に対しては、侵害作用が及ぶ時点で人が存在していない以上、「人」に胎児を含めて解釈することになるという批判が向けられます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。壁の掲示に三つの箱が矢印で左から右へつながり、順に「胎児に病変が発生」「出生して人となる」「病変に起因して死亡」。一つ目の箱の下に札「胎児は母体の一部=人である母体に病変を発生させた」

刑法213条

女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、二年以下の拘禁刑に処する。よって女子を死傷させた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。

刑法215条1項

女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。

刑法215条2項

前項の罪の未遂は、罰する。

論文ではこう使う

論文では、妊婦への侵害によって胎児に病変が生じ、出生後にその子が死傷した事例で、人に対する罪が成立するかを論じます。まず、侵害が及んだ時点で客体が胎児であり、傷害罪や過失致死傷罪の客体である「人」ではなかったことを問題として示します。次に、判例の立場として、胎児は堕胎の罪で独立の客体とされる場合を除き母体の一部として扱われるので、胎児に病変を生じさせることは人である母体に病変を生じさせることに当たり、出生した人が死亡すれば致死の罪が成立すると書きます。自己堕胎の処罰と整合しないという批判があることにも触れます。堕胎によって生きて生まれた子を放置した事例では、その子が「人」であることを確認したうえで、堕胎という先行行為と医師としての立場から保護責任を認め、堕胎の罪と保護責任者遺棄致死罪の両方を検討します。

試験ではこう問われる

「胎児と人の区別」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型7件と関係する過去問の肢6本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、刑法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

関連する用語

共犯

間接正犯

生命・身体に対する罪

傷害の意義と傷害罪の故意