防衛行為と第三者とは
ぼうえいこういとだいさんしゃ
防衛行為と第三者とは、急迫不正の侵害に対する防衛行為が、侵害者以外の第三者の法益に関わる場合の処理をいいます。侵害者が第三者の物を用いた場合、防衛する者が第三者の物を用いた場合、反撃の結果が第三者に生じた場合の三つがあります。
襲ってきた相手を押し返すのは正当防衛です。では、身を守るために、そばにあった他人の傘をつかんで振り回し、その傘を壊してしまったらどうでしょう。傘の持ち主は何も悪いことをしていません。悪くない人に対して「正当防衛だ」とは言えないので、別の理屈が必要になります。危険を避けるために他に方法がなく、やむを得なかったといえるなら、緊急避難として許されます。誰の利益を害したのかによって、使う制度が変わります。
第三者が関わる場面は、誰の物を誰が使ったか、結果が誰に生じたかで三つに分かれます
正当防衛は、不正の侵害をした者に対する反撃を正当化する制度であり、不正対正の関係を前提にしています。侵害と無関係の第三者は不正の侵害をしていませんから、第三者との関係は正対正であり、正当防衛の考え方をそのまま当てはめることができません。場面は三つに分けられます。第一は、侵害者が第三者の物を使って攻撃してきたので、その物を壊して身を守った場合です。第二は、防衛する者が第三者の物を使って反撃し、その物を壊した場合です。第三は、侵害者に向けた反撃が逸れるなどして、第三者に結果が生じた場合です。
- 侵害者が第三者の物を用いた場合その物を壊す行為は、侵害に対する反撃として正当防衛になる
- 防衛する者が第三者の物を用いた場合その物を壊した行為は、緊急避難の問題になる
- 反撃の結果が第三者に生じた場合緊急避難とする見解、誤想防衛の一種とする見解などが対立する。最高裁判例は無い
侵害者が第三者の物を用いて攻撃してきた場合、その物を壊す行為は正当防衛になります
侵害者が他人の所有するバットを持って殴りかかってきたので、そのバットを叩き落として壊したという場合、バットは不正の侵害の一部になっています。バットを壊す行為は、侵害そのものに対する反撃ですから、器物損壊罪の構成要件に該当しても、正当防衛として違法性が阻却されると考えるのが一般的です。バットの所有者は不正の侵害をしていないことを重視して、所有者との関係では緊急避難になるとする見解もあります。もっとも、どちらの見解からも、要件を充たす限り処罰されないという結論は変わりません。
防衛する者が第三者の物を用いて反撃し、その物を壊した場合は、緊急避難の問題になります
襲われた者が、そばにあった第三者の物を使って反撃し、その物を壊した場合、相手方への反撃自体は正当防衛になり得ます。しかし、物の所有者である第三者は不正の侵害をしておらず、防衛する者と第三者は正対正の関係にあります。そこで、物を壊した行為については、現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為として、緊急避難の成否を検討します。「第三者の所有物を用いて相手方に反撃し,同所有物を損壊した場合において,その行為が器物損壊罪の構成要件に該当するとき,その行為につき緊急避難が成立する余地はない」という肢は誤りです。他に方法がなく、生じた害が避けようとした害の程度を超えなければ、緊急避難が成立します。
侵害から逃げるために無関係の第三者を害した場合も、正当防衛ではなく緊急避難の問題です
侵害者に反撃するのではなく、侵害から逃れるために第三者を害した場合も、同じ考え方をとります。仲の悪い相手から大型犬をけしかけられ、逃げようとして偶然通り掛かった人を突き飛ばして傷害を負わせた事例についての「丙は転倒して全治約1週間を要する足首捻挫の傷害を負った。この場合,甲には正当防衛が成立する」という肢は誤りです。突き飛ばされた人は不正の侵害をしておらず、その人に対する行為を正当防衛で正当化することはできません。この事例では、犬に襲われるという現在の危難を避けるための行為として、緊急避難の成否が問題になります。
反撃の結果が第三者に生じた場合は、緊急避難とする見解と誤想防衛の一種とする見解が対立します
拳銃で撃たれそうになったので防衛のために撃ち返したところ、弾丸が侵害者を貫通して、たまたま通り掛かった第三者にも当たったという事例を考えます。第一に、防衛行為として行われた以上、第三者に生じた結果も含めて正当防衛が成立するという見解があります。この見解に対しては、第三者との関係は正対不正の関係とはいえないという批判が向けられます。第二に、第三者との関係では緊急避難が成立するという見解があります。この見解に対しては、緊急避難が成立するには、第三者の法益を侵害したことによって初めて現在の危難を避けることができたという関係が必要であり、逸れた弾が当たっただけではこの関係がないという批判が向けられます。第三に、行為者は主観的には正当防衛と認識して行為しているので、誤想防衛であり、故意が阻却されるという見解があります。この点についての最高裁判例はありません。裁判例には、襲撃者に向けて車を急後退させたところ、助けようとした兄を轢いて死亡させた事案で、正当防衛にも緊急避難にも当たらないが、誤想防衛の一種として故意責任を肯定することはできないとしたものがあります(大阪高判平成14年9月4日)。
刑法37条1項
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
論文ではこう使う
論文では、まず侵害者に対する反撃について正当防衛の成否を検討し、次に第三者に生じた結果を分けて検討します。反撃が逸れて第三者に当たった事案では、方法の錯誤として第三者に対する故意が認められるかを先に論じます。故意を認める立場に立ったうえで、第三者との関係で違法性が阻却されるかを検討します。第三者は不正の侵害をしていないので正当防衛は成立しないこと、第三者を害したことで危難を避けられたという関係がなければ緊急避難も成立しにくいことを示します。そのうえで、行為者が正当防衛に当たる事実を認識して行為したことから、誤想防衛の一種として責任故意が阻却されるかを論じ、過失犯の成否を検討します。どの段階の議論をしているのかを明示して書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。