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用語集 / 刑法 / 責任能力の判断方法

責任能力の判断方法(精神鑑定と裁判所の判断)とは

せきにんのうりょくのはんだんほうほう

刑法 責任

責任能力の判断方法とは、被告人が心神喪失又は心神耗弱に当たるかどうかを、誰がどのような資料で判定するかという問題です。判例は、これを裁判所に委ねられた法律判断としつつ、精神鑑定の意見は合理的な事情がない限り十分に尊重すべきであるとしています。

体調を崩したとき、病名を診断するのは医師ですが、仕事を休ませるかどうかを決めるのは職場です。責任能力の判断も同じ構造をしています。被告人にどのような精神の障害があったかは精神科医が鑑定しますが、その人を刑法上非難できるかは法律の問題なので、最後に決めるのは裁判所です。ただし、診断という医学の専門領域については、裁判所も鑑定意見を十分に尊重しなければなりません。

法廷の場面。証言台に白衣の男性(札「鑑定人(精神科医)」)が立ち、鑑定書(表紙に「精神鑑定」)を差し出している。鑑定人の吹き出し「被告人には精神の障害がありました」。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、鑑定書を受け取りながら六法を開

心神喪失・心神耗弱に当たるかは法律判断であり、専ら裁判所が判断します

判例は、被告人の精神状態が39条の心神喪失又は心神耗弱に当たるかどうかは法律判断であって、専ら裁判所に委ねられるべき問題であるとしています(最決昭和58年9月13日)。責任能力は、その人を刑法上非難できるかという評価であり、医学上の診断そのものではないからです。この決定は、判断の前提となる生物学的要素(精神の障害)と心理学的要素(弁識能力・制御能力)についても、究極的には裁判所の評価に委ねられるとしました。「責任能力の有無は法律判断であり,専ら裁判所の評価に委ねられるべきであるため,その前提となる生物学的・心理学的要素についても,最終的には裁判所により判断される」という肢は正しいです。「責任能力の有無は,精神医学・心理学等の専門的見地から判断されるものであるから,裁判所は,これらの専門家の意見に拘束される」という肢は誤りです。「精神鑑定により心神喪失と鑑定された場合には,裁判所は,被告人の責任能力を認めることはできない」という肢も誤りです。最決昭和59年7月3日は、鑑定書の結論の部分に犯行当時心神喪失の状況にあった旨の記載があるのにその部分を採用せず、心神耗弱と認定した原判決を是認しています。

裁判所は、犯行当時の病状・犯行前の生活状態・犯行の動機や態様等を総合して判定します

裁判所は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して、責任能力の有無・程度を判定します(最決昭和59年7月3日)。最判昭和53年3月24日(責任能力の基準)も、被告人の病歴、犯行態様にみられる奇異な行動、犯行以後の病状などを総合考察して、心神耗弱の疑いがあるとしました。「心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって,専ら裁判所の判断に委ねられており,犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判断される」という肢は正しいです。「責任能力の有無・程度は、行為者の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定される」という肢も正しいです。病名から結論が自動的に決まるわけではありません。「犯行当時,行為者に重度の精神疾患があれば,そのことだけで直ちに心神喪失の状態にあったと判断されることになる」という肢は誤りです。また、総合されるのは行為者の精神状態を推し量るための事情に限られます。「被害者やその遺族の処罰感情も含む諸事情を総合的に考慮して判断される」という肢は誤りです。処罰感情は、行為者が行為の時に弁識能力や制御能力を備えていたかどうかとは関係がないからです。

裁判官室の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で机に向かい、机の上に三枚のカード「犯行当時の病状」「犯行前の生活状態」「犯行の動機・態様」を並べて一つの盆に載せている。机の外、少し離れた床に一枚のカード「被害者・遺族の処罰感情」が置かれ、深

精神医学者の意見は、採用し得ない合理的な事情がない限り十分に尊重されます

裁判所が鑑定に拘束されないといっても、専門家の意見を自由に退けてよいわけではありません。最判平成20年4月25日は、生物学的要素である精神障害の有無及び程度と、これが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であるとしました。そのうえで、専門家である精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきであるとしています。鑑定の前提条件に問題がある場合などが、採用し得ない合理的な事情の例です。精神障害が心理学的要素に与えた影響は精神科医にも分からないとする不可知論という考え方もありますが、判例はそのようには考えていません。判例の立場をまとめると、最終的な判断権は裁判所にあるものの、診断という医学の領域については合理的な事情がない限り専門家の意見を十分に尊重する、ということになります。

裁判所は、鑑定意見の一部だけを採用することもできます

鑑定意見の扱いは、全部を採用するか全部を退けるかの二者択一ではありません。最決平成21年12月8日(責任能力の認定)は、裁判所は、特定の精神鑑定の意見の一部を採用した場合においても、責任能力の有無・程度について、当該意見の他の部分に事実上拘束されることなく、犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定することができるとしました。この事件では、心神喪失とする鑑定意見の結論を採用せず、被告人は心神耗弱にとどまるとした原判決が是認されています。「専門家たる精神医学者の意見を十分に尊重して判定すべきであるから,精神鑑定の意見の一部だけを採用することは許されない」という肢は誤りです。意見を十分に尊重すべきことと、結論まで鑑定に従わなければならないこととは別の問題だからです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に立ち、一冊の鑑定書(札「精神鑑定の意見」)を開いている。鑑定書の左のページに「採用する部分」と書いた付箋、右のページに「採用しない部分:結論は心神喪失」と書いた付箋が貼られている。証言台の脇

判例の判断方法は、精神の障害と弁識能力・制御能力の両方を基準とする混合的方法です

判例の判断方法は、精神の障害という生物学的要素と、弁識能力・制御能力という心理学的要素の両方をともに基準とするもので、混合的方法と呼ばれます。短答では、統合失調症の被告人が交通事故を起こした事例で、病勢が被告人の人格や行動を圧倒していないことと、事故が病的体験と直接的あるいは不可避的な因果関係があるとは認め難いことを挙げて責任能力を認めた裁判所の判断について、その前提と批判が問われています。この判断は、混合的方法によることを前提としていると評価されます。また、同じ精神の障害の状態にありながらその事故については責任能力を認めているので、責任能力を個々の行為ごとに判断する見解、つまり部分的責任能力を肯定する見解を前提とするものと評価できます。責任能力を個々の行為から離れた行為者の属性とみる見解に基づくものとはいえません。この判断方法に対しては、犯行と精神の障害との因果関係が明らかである場合に限って責任能力を否定することになり、心神喪失や心神耗弱を認める場合が不当に制限されるおそれがあるという批判が向けられます。鑑定人が心神耗弱の状態にあったとの意見を述べていても、鑑定意見と異なるというだけで裁判所の判断が誤りになるわけではありません。

最決昭和58年9月13日

被告人の精神状態が刑法三九条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所に委ねられるべき問題であることはもとより、その前提となる生物学的、心理学的要素についても、右法律判断との関係で究極的には裁判所の評価に委ねられるべき問題である

試験ではこう問われる

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