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用語集 / 刑法 / 犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆

犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆とは

はんにんによるぞうとくいんぴしょうこいんめつぎしょうのきょうさ

刑法 国家的法益に対する罪

犯人による蔵匿・隠避・証拠隠滅・偽証の教唆とは、犯人が他人を唆して、自己をかくまわせ、自己の刑事事件の証拠を隠滅させ、又は自己の事件で偽証させることです。犯人が自ら行えば処罰されない行為ですが、判例は、他人を教唆した場合には教唆犯が成立するとしています。

罪を犯した人が自分で逃げ隠れしたり、自分の犯行の証拠を捨てたりしても、犯人蔵匿等罪や証拠隠滅等罪にはなりません。捕まりたくないと思うのは人として無理もないことで、そうしないことを期待できないからです。では、友人に頼んで自分をかくまってもらったり、証拠を捨ててもらったりした場合は、話が変わります。自分でやれば処罰されないことを他人にやらせたときに、頼んだ犯人が教唆犯として処罰されるかが、ここでの問題です。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、黒板は左右に分かれている。左の枠には一人で走って逃げる男性の図と札「犯人が自分で逃げ隠れる:処罰されない」。右の枠には、男性(札「犯人」)が別の男性(札「友人」)に家の鍵を指さして頼ん

犯人自身による蔵匿・隠避や証拠隠滅は、処罰されません

犯人蔵匿等罪(103条)の客体は「罪を犯した者」であり、犯人自身が逃げ隠れする行為は構成要件に当たりません。証拠隠滅等罪(104条)の客体も「他人の刑事事件に関する証拠」に限られ、自己の刑事事件の証拠を自ら隠滅しても成立しません。いずれも、犯人にそうしないことを期待できないという、期待可能性の欠如を考慮したものと説明されます。偽証罪(169条)についても、被告人は自己の事件で宣誓した証人にはならないので、被告人自身が法廷で虚偽を述べても偽証罪にはなりません。なお、これとは逆に、他人が犯人を唆して犯人自身に証拠を隠滅させた場合は、正犯である犯人の行為が構成要件に該当しないので、唆した者に教唆犯は成立しないと解されています。

判例は、犯人が他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させた場合に、教唆犯の成立を認めています

判例は、犯人が他人を教唆して自己を隠避させたときは犯人隠避罪の教唆犯が成立するとしています(最決昭和35年7月18日、最決昭和40年2月26日)。他人を教唆してまで目的を遂げようとすることは防御の濫用であり、法の放任する防御の範囲を逸脱するというのがその理由です。強盗罪を犯した後、「友人乙に事情を話して唆し,自己を隠避させた。甲には犯人隠避罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。知人に頼んで別荘に身を隠した事例について、「犯人自身に逃げ隠れしないことを期待できないので,甲に犯人蔵匿教唆罪は成立しない」という肢も誤りです。「犯人が他人を教唆して自己を隠避させることは定型的に期待可能性がないので、丁に犯人隠避罪の教唆犯は成立しない」という肢も誤りです。逃亡中に友人に頼んでかくまってもらった事例について、「甲には,犯人蔵匿罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。身代わり犯人を立てるよう配下に命じた場合も、同じく犯人隠避罪の教唆犯が成立します。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。証言台の前に被告人の男性(札「犯人:隠避を頼んだ」)が立ち、その横に弁護人の男性(札「弁護人」)が立って発言している。弁護人の吹き出し「自分で逃げても罪にならないのだから、人に頼

肯定説と否定説は、期待可能性の及ぶ範囲と共犯の処罰根拠の理解で分かれます

教唆犯の成立を認める見解は、犯人自ら逃げ隠れる行為のみが、法律の放任行為として国家による干渉を受けない防御の自由の範囲内にあると考えます。他人を巻き込む行為はこの範囲を超えるので、防御の濫用として処罰されることになります。また、教唆犯の処罰根拠は正犯者を犯罪に引き込み、有責で処罰される状態に陥れたことにあるとする理解も、成立を認める見解の根拠になります。この理解に対しては、共犯の処罰根拠を他人を罪責に陥れたことに求める考え方そのものが妥当でないという批判が向けられます。これに対し、成立を否定する見解は、正犯行為に期待可能性がないのであれば、教唆行為にも期待可能性はないと考えます。教唆にとどまると可罰的であるのに、より犯情の重い正犯に及ぶと不可罰になるのは相当でないという指摘も、否定する見解の論拠です。犯人隠避は隠避させる者に犯人が働き掛けることによって行われるのが通常予定される事態であり、本来は必要的共犯と理解すべきであるという説明も、犯人の働き掛けを処罰の対象から外す方向に働き、否定する見解に結び付きます。

  • 成立を認める見解の根拠犯人自ら逃げ隠れる行為のみが防御の自由の範囲内にある/教唆犯の処罰根拠は正犯者を犯罪に引き込み処罰される状態に陥れたことにある
  • 成立を否定する見解の根拠正犯行為に期待可能性がないなら教唆行為にもない/教唆は可罰的で、より重い正犯が不可罰になるのは相当でない/犯人隠避は本来必要的共犯と理解すべきである

証拠隠滅や偽証を教唆した場合も、教唆犯が成立します

証拠隠滅等罪についても、判例は、犯人が他人を教唆して自己の刑事被告事件に関する証拠を偽造させたときは、証拠偽造罪の教唆犯が成立するとしています(最決昭和40年9月16日)。隠滅の場合も同じです。自己が犯した事件に関する「証拠の隠滅をAに教唆して実行させた。甲には証拠隠滅罪の教唆犯が成立する」という肢は正しいです。「自己の犯罪行為に関する証拠の隠滅を他人に教唆し実行させた場合,証拠隠滅罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。偽証罪についても、判例は、被告人自身に黙秘権があるからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責任を免れないとしています(最決昭和28年10月19日)。自己が被告人となっている事件で知人に偽証をさせた事例について、「被告人が自己の刑事事件につき虚偽を述べても罪にならないから、偽証罪の教唆犯は成立しない」という肢は誤りです。見解としては、証拠偽造教唆罪は、被教唆者・教唆者以外の者の刑事事件に関する証拠を偽造するよう教唆した場合に限って成立するとするものもあり、この見解からは、犯人が自己の事件の証拠の偽造を教唆しても教唆犯は成立しないという結論になります。

共犯者をかくまう行為にも、犯人蔵匿等罪が成立します

共犯者の一人が他の共犯者をかくまう行為は、他人をかくまう行為であると同時に、自分の事件の発覚を防ぐ行為でもあります。裁判例は、共犯者に対する蔵匿・隠避が行為者自身の刑事事件に関する証拠隠滅の側面を併せもつとしても、それは防御として放任される範囲を逸脱するもので、一般的に期待可能性を失わせる事由にはならないとして、犯人蔵匿・隠避罪の成立を認めています(旭川地判昭和57年9月29日)。証拠については、自己と共犯者に共通する証拠を隠滅した場合に証拠隠滅罪が成立するかが争われており、専ら共犯者の利益のために隠滅した場合には成立するという見解が多数です。共通の証拠は自己の事件の証拠でもあるから成立しないとする見解もあります。

刑法103条

罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

刑法104条

他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

論文ではこう使う

論文では、犯人が知人に身代わり出頭を頼む、証拠を処分させる、アリバイの証言を頼むといった、自己の事件に他人を巻き込む事例で問われます。まず、頼まれた側に犯人隠避罪・証拠隠滅罪・偽証罪の正犯が成立することを認定します。次に、犯人自身が行えば処罰されないのは期待可能性を欠くからであることを示したうえで、他人を教唆する場合にまでその理由が及ぶかを問題にします。判例に従うなら、他人を教唆してまで目的を遂げることは防御の濫用であり、法の放任する防御の範囲を逸脱するとして教唆犯の成立を認めます。否定説を採るなら、正犯として期待可能性がない以上、それより軽い関与形式である教唆ではなおさら期待可能性がないと書きます。頼んだ相手が親族である場合は、105条の扱いを続けて検討します。

試験ではこう問われる

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