蔵匿・隠避の意義(身代わり出頭・参考人の虚偽供述)とは
ぞうとくいんぴのいぎ
蔵匿とは、官憲による発見・逮捕を免れるための場所を提供してかくまうことです。隠避とは、蔵匿以外の方法により、官憲による発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいい、逃走資金の供与、身代わり出頭、口裏合わせに基づく虚偽の供述がこれに当たります。
犯人を自宅の押し入れに隠すのが、かくまう行為の典型です。しかし、逃げるための金を渡す、自分がやったと名乗り出て身代わりになる、警察に嘘の説明をするといった行為でも、警察は犯人にたどり着けなくなります。刑法103条は、場所を提供してかくまう行為を蔵匿、それ以外の方法で発見や身柄の拘束を免れさせる行為を隠避と呼び、どちらも同じ刑で処罰しています。隠避は方法を問わないので、どこまでが隠避に当たるかが問題になります。
蔵匿は場所を提供してかくまうこと、隠避は蔵匿以外の方法で発見・身柄の拘束を免れさせる一切の行為です
蔵匿とは、官憲による発見・逮捕を免れるための場所を提供してかくまうことをいいます。自宅や別荘にかくまう行為のほか、自己の所有する船舶に乗船させてかくまう行為も蔵匿に当たります。隠避とは、蔵匿以外の方法により、官憲による発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいいます(大判昭和5年9月18日)。逃走先を示して逃亡を勧める行為や、逃走のための資金を与える行為が隠避に当たります。強盗事件を犯した息子を逮捕から免れさせるため、「乙に逃走資金を与えた。甲には,犯人隠避罪が成立する」という肢は正しいです。親族であることは、刑を免除することができるという105条の問題で、犯人隠避罪の成立は否定されません。保釈中の被告人について、「乙を逃亡させるため,乙にその資金を与えた。甲には,犯人隠避罪が成立する」という肢も正しいです。犯人蔵匿等罪は抽象的危険犯であり、実際に捜査が妨害されたという結果は要りません。
警察官の質問に答えないだけの不作為は、隠避に当たりません
隠避は一切の行為を含みますが、何もしないことまで当然に含むわけではありません。一般の人には、犯人の所在を捜査機関に知らせる義務がないからです。逃亡中の犯人の所在を知っていた者が、「その所在を警察官に尋ねられた際,その質問に答えなかった。甲には,犯人隠避罪が成立する」という肢は誤りです。質問に答えないだけでは、官憲による発見・逮捕を免れさせる行為をしたとはいえません。これに対し、嘘の所在を教える、犯人はいないと積極的に偽るといった行為は、作為による隠避に当たり得ます。
身代わり犯人として出頭する行為は、犯人が既に逮捕・勾留されていても隠避に当たります
真犯人の代わりに自分が犯人であると申告する身代わり出頭は、捜査機関に犯人の特定を誤らせる行為で、隠避の典型です。犯人が既に逮捕・勾留されている場合については、もはや免れさせる発見や逮捕がないのではないかが争われましたが、判例は、103条が捜査、審判及び刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰する趣旨の規定であるとして、犯人として逮捕勾留されている者も客体に含まれ、現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も隠避に当たるとしました(最決平成元年5月1日)。殺人罪を犯して逮捕勾留された者に依頼され、「乙の身代わり犯人として警察署に出頭し,自己が犯人であるという嘘の申告をした。甲には犯人隠避罪が成立する」という肢は正しいです。勾留中の者の身代わりになるよう他人を唆した事例について、「乙は既に拘束されているので,甲に犯人隠避教唆罪は成立しない」という肢は誤りです。また、身代わり出頭は、「間接的に犯人の身柄確保を妨げるものにすぎないから、犯人隠避罪は成立せず、証拠偽造罪が成立する」という肢も誤りです。
口裏合わせに基づく参考人の虚偽供述も、隠避に当たります
参考人が取調べで嘘を述べる行為は、偽証罪や証拠偽造罪との関係でも問題になりますが、犯人隠避罪との関係では、身柄の拘束を免れさせるような性質の行為といえるかで判断されます。判例は、犯人が逮捕・勾留された後、犯人との口裏合わせに基づいて、参考人として警察官に対し、犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の虚偽の供述をした行為について、現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるとして、「隠避させた」に当たるとしました(最決平成29年3月27日)。現実に捜査が妨害されたことや、身柄の拘束が解かれたことまでは求められていません。犯行時間帯に犯人が別の場所にいたことにする口裏合わせをしたうえで、参考人として取調べを受けた際にその旨の「うその供述をした行為については,犯人隠避罪が成立する」という肢は正しいです。
隠避を逃走を容易にする行為に限る見解からは、犯人の特定を誤らせる行為が隠避から外れます
隠避の範囲については、限定する見解もあります。隠避は蔵匿以外の方法により官憲の発見逮捕を免れさせる一切の行為をいうとしつつ、犯人の逃走を容易にさせることによって身柄の確保を妨げる行為に限り、犯人の特定作用を妨げてその結果として身柄の確保を妨げる行為は含まないとする見解です。この見解からは、アリバイを偽る内容の上申書を作らせて警察に提出させる行為は、犯人の特定を誤らせる行為にすぎないので隠避に当たらず、犯人隠避教唆罪は成立しないという結論になります。判例は、身代わり出頭や口裏合わせに基づく虚偽供述を隠避に当たるとしており、犯人の特定を誤らせる行為も隠避に含めています。また、同じ行為が犯人隠避罪と証拠偽造罪の両方に当たる場合の罪数については、犯人隠避罪は犯人の確保の観点から、証拠偽造罪は適正な証拠の収集の観点から刑事司法作用を保護するもので、保護法益が異なることを重視する見解からは、両罪がともに成立して観念的競合になります。
刑法103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、身代わり出頭や取調べでの虚偽供述が出てくる事例で使います。まず、相手が「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に当たることを認定し、次に、隠避とは蔵匿以外の方法により官憲による発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいうと定義を示します。犯人が既に逮捕・勾留されている事例では、103条が広く刑事司法作用を保護する規定であることから、現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も隠避に当たるという判例の解釈を示し、身代わり出頭や口裏合わせに基づく虚偽供述がその性質をもつことを事実に即して当てはめます。犯人自身が身代わりを頼んだ事例では、頼まれた者に犯人隠避罪が成立することを先に認定してから、犯人に教唆犯が成立するかの検討に進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。