観念的競合(「1個の行為」の意義)とは
かんねんてききょうごう
観念的競合とは、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合です。数個の罪が成立しますが、刑を科すうえでは1罪として扱われ、その最も重い刑により処断されます(刑法54条1項前段)。
石を1回投げて、建物の窓ガラスを割り、中にいた人にもけがをさせたとします。器物損壊罪と傷害罪の2つの罪が成立しますが、投げたのは1回だけです。行為が1個なら、罪を犯すという意思決定も1回しかしていません。そこで刑法は、2つの罪を別々に処罰して刑を足し合わせるのではなく、重い方の刑で1回だけ処断することにしています。これが観念的競合で、決め手は行為が1個といえるかどうかです。
「1個の行為」かどうかは、構成要件を離れた自然的観察のもとで判断されます
判例は、「1個の行為」とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価を受ける場合をいうとしています(最大判昭和49年5月29日)。どの罪の構成要件に当たるかという法律の目で切り分けるのではなく、行為者の動きを事実として見て、社会通念上1個といえるかで決めます。2つの罪の実行行為が重要な部分で重なり合っていれば1個の行為といえます。不作為でも同じで、ひき逃げをした運転者が救護義務と報告義務のどちらも果たさずに立ち去った場合、2つの義務違反の不作為は社会的見解上1個の動態であり、観念的競合になるとされています(最大判昭和51年9月22日)。
酒酔い運転と無免許運転は観念的競合ですが、酒酔い運転と運転中の人身事故は併合罪です
「甲は,酒に酔った状態で,自動車を無免許で運転した。甲には酒酔い運転の罪と無免許運転の罪が成立し,これらは観念的競合となる」という肢は正しいです。無免許であることも酒に酔っていることも運転者の属性にすぎず、その状態で自動車を運転することは、社会的見解上1個の車両運転行為だからです。これに対し、同じ判例は、酒酔い運転の罪と、その運転中に人身事故を起こした業務上過失致死罪とは併合罪になるとしました。運転は時間的な継続と場所的な移動を伴う行為であり、事故は運転中の一時点一場所での出来事なので、両者は社会的見解上別個のものと評価されます。出題当時の業務上過失致死罪は、現在は過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)にあたります。事故どうしの関係も行為の個数で決まります。「甲には,乙に対する自動車運転過失致死罪及び丙に対する自動車運転過失傷害罪が成立し,両罪は併合罪となる」という肢は誤りです。1回の追突という1個の行為から2人の死傷が生じているので、観念的競合になります。逆に、「甲には,自動車運転過失致死罪と自動車運転過失傷害罪が成立し,両罪は観念的競合となる」という肢は誤りです。脇見運転による衝突と、逃走しようとしたUターンの際の衝突は別個の行為なので、併合罪になります。
1個の行為で複数の被害者や複数の法益を侵害したときは、観念的競合になります
触れる罪名は、異なる罪名でも同じ罪名でもかまいません。「甲には傷害罪と器物損壊罪が成立し,両罪は併合罪となる」という肢は誤りです。眼鏡の上から顔面を殴るという1個の行為が傷害罪と器物損壊罪に触れるので、観念的競合です。「甲には,3個の恐喝罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は誤りです。3名を面前で同時に恐喝する行為は1個なので、3個の恐喝罪は観念的競合になります。「甲には,2個の強盗罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢も誤りです。「甲には,恐喝罪と傷害罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は誤りです。恐喝の手段である暴行が同時に傷害罪に当たるので、両罪は観念的競合です。「甲に乙に対する公務執行妨害罪が成立する場合,同罪と傷害罪は観念的競合となる」という肢は正しいです。「甲には往来妨害罪と傷害罪が成立し,両罪は牽連犯となる」という肢は誤りです。ロープを張るという1個の行為が往来妨害罪と傷害罪に触れるので、牽連犯ではなく観念的競合になります。肢「公務員が,電化製品を盗品であると知りながら,賄賂として収受した」に観念的競合を対応させる組合せは正しいです。1個の収受行為が収賄罪と盗品等無償譲受け罪に触れるからです。
侵害された法益が1個であれば、そもそも1罪であって観念的競合にはなりません
観念的競合は、数個の罪が成立することを前提にしています。1個の行為から複数の結果が生じても、侵害された法益が実質的に1個であれば、成立する罪は1個です。「甲には2個の現住建造物等放火罪が成立し、これらは観念的競合となる」という肢は誤りです。放火罪は公共の安全を保護する罪であり、1個の放火行為で複数の現住建造物を焼損しても、生じた公共の危険が1個であれば、1個の現住建造物等放火罪が成立するにとどまります(大判大正2年3月7日)。これに対し、生命や身体は被害者ごとに独立した法益なので、1個の爆弾で2人を殺害すれば2個の殺人罪が成立し、観念的競合になります。
幇助犯の罪の個数は正犯の罪の数で決まり、1個の行為かどうかは幇助行為で判断します
判例は、幇助罪の個数は正犯の罪の個数に従って決まるが、幇助罪が数個成立する場合にそれが1個の行為によるものかどうかは、幇助行為それ自体について判断するとしています(最決昭和57年2月17日)。「甲には2個の殺人幇助の罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は誤りです。正犯が2人を殺害したので殺人幇助の罪は2個成立しますが、ナイフ1本を手渡すという幇助行為は1個なので、観念的競合になります。「甲には,2個の住居侵入罪の従犯が成立し,両罪は観念的競合となる」という肢は正しいです。「甲に2個の傷害罪の幇助犯が成立し、これらは観念的競合となる」という肢も正しいです。「甲には,2個の強盗幇助罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は誤りです。模造拳銃1丁を貸し与える行為は1個だからです。
観念的競合は最も重い刑で処断され、併合罪のような加重はされません
観念的競合では、成立した数個の罪のうち最も重い刑により処断します。刑の上限も下限も重い方によります。併合罪のように長期を1.5倍にする加重はありません。「1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合,それらの罪についていずれも有期懲役に処するとき,その刑は,その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする」という肢は誤りです。最も重い罪の刑の長期にその2分の1を加えるのは併合罪の処理(47条)であり、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合は、その最も重い刑により処断するだけです。
刑法54条1項
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
最大判昭和49年5月29日
一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。
論文ではこう使う
論文では、各罪の成立を認定した後、罪数処理の最後に書きます。1個の行為が複数の罪に当たるときは、「以上の罪は1個の行為によるものなので観念的競合となる(54条1項前段)」と条文を挙げて結びます。公務執行妨害罪と傷害罪、1個の暴行で複数の被害者に傷害を負わせた場合、1個の幇助行為で複数の正犯の罪を幇助した場合がその例です。行為が1個かどうかが分かれる事例では、判例の基準を示したうえで、実行行為が重要な部分で重なり合うかを事実から述べます。行為が別個であれば併合罪、手段と結果の関係にあれば牽連犯として処理します。
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