包括一罪(接続犯・集合犯・混合的包括一罪)とは
ほうかついちざい
包括一罪とは、数個の行為や数個の法益侵害があっても、1つの構成要件で包括して評価し、1罪として扱う場合です。同じ罪名の行為をまとめる接続犯・集合犯のほか、罪名の異なる罪をまとめる混合的包括一罪があります。
一晩のうちに同じ倉庫から米俵を3回に分けて運び出した人を、窃盗を3回犯したと数えるのは実態に合いません。同じ被害者の同じ倉庫から、1つの決意で、続けて運び出しただけだからです。法益侵害が実質的に1つにまとまり、行為も1つの意思に貫かれているときは、全体を1個の罪として評価すれば足ります。これが包括一罪で、法益侵害の一体性と行為の一体性の両方から判断されます。
同じ意思で近接して繰り返した同種の行為は、包括して1罪になります
1つの意思決定に基づき、時間的・場所的に近接して、同じ法益に向けて数個の行為が行われた場合を接続犯といいます。判例は、約2時間の間に同じ倉庫から3回にわたり米俵を窃取した事案で、包括して1個の窃盗罪が成立するとしました(最判昭和24年7月23日)。期間が長くても包括されることがあります。同じ被害者に対して約4か月又は約1か月の間に同種の暴行を繰り返して傷害を負わせた事案で、判例は、被害者ごとに傷害罪の包括一罪になるとしています(最決平成26年3月17日)。同一の被害者の身体という法益に向けられ、共通の動機から繰り返し犯意を生じて行われたことが理由です。
同種の行為の反復を予定した罪では、繰り返しても1罪です
構成要件が最初から同種の行為の反復を予定している罪を集合犯といいます。常習賭博罪(186条1項)は、常習者が賭博を何回行っても1個の常習賭博罪です。わいせつ物頒布等罪(175条1項)も、反復して頒布することを予定した罪です。「甲には,わいせつ図画販売罪の一罪が成立する」という肢は正しいです。出題当時のわいせつ図画販売罪は、現在はわいせつ物頒布等罪にあたります。街頭募金詐欺も包括一罪とされます。「甲に詐欺罪の包括一罪が成立する」という肢は正しいです。詐欺罪は個人の財産に対する罪なので、被害者ごとに1罪となるのが原則です。しかし判例は、不特定多数の通行人に同一内容の定型的な働きかけをしたこと、1個の意思・企図に基づき継続して行われたこと、募金箱に投入された現金は個々に区別して受領するものではないことから、全体を一体のものと評価して包括一罪としました(最決平成22年3月17日)。
1つの条文が数個の行為態様を定めている場合も、包括して1罪になります
1つの構成要件が同じ法益に向けられた数個の行為態様を定めているときは、その数個に当たる行為をしても1罪です。人を逮捕し、引き続き監禁した場合について、「甲には,逮捕罪と監禁罪が成立し,これらは牽連犯となる」という肢は誤りです。判例は、220条の包括一罪が成立するとしています(最大判昭和28年6月17日)。同じ被害者から財物と財産上の利益の両方を得た場合も同様です。「甲は,乙を恐喝して乙から財物の交付を受けるとともに財産上の利益を得た。甲には,包括して1個の恐喝罪が成立する」という肢は正しいです。恐喝罪の1項と2項は同じ罪質だからです。「甲に刑法第246条第1項の詐欺罪及び同条第2項の詐欺罪が成立し、両罪は併合罪となる」という肢は誤りです。宿泊と朝食は、同じ機会に、同じ欺く行為と同じ錯誤に基づいて提供されているので、包括して1個の詐欺罪が成立します。
生命・身体のように被害者ごとに独立した法益は、被害者が異なれば包括されません
包括一罪になるには、法益侵害が実質的に1つにまとまることが必要です。生命や身体は一身専属的な法益で、被害者ごとに独立した意味をもつので、被害者が異なれば別の罪になります。「甲には、2個の傷害罪が成立し、これらは包括一罪となる」という肢は誤りです。1つの計画に基づき、同じ場所で続けて殴打していても、AとBの身体は別の法益なので、2個の傷害罪は併合罪となります。「甲及び乙にはそれぞれ3個の傷害罪が成立し,これらは併合罪となる」という肢は正しいです。判例は、共同正犯が数人に傷害を負わせた場合、被害者の数だけ傷害罪が成立し、併合罪になるとしています(最決昭和53年2月16日)。街頭募金詐欺で包括が認められたのは、財産という法益について、少額の現金が募金箱の中で区別できなくなるという特徴があったからです。
罪名の異なる罪でも、密接に関連していれば包括して重い罪の1罪になります
罪名の異なる数個の罪を包括して1罪とする場合を、混合的包括一罪といいます。包括できるかは、法益侵害の同一性や時間的・場所的近接性があるか、1つの意思に貫かれているかで判断します。判例は、取引を装って覚醒剤を受け取った後、その返還や代金の支払を免れるために相手を殺害しようとした事案で、先行する窃盗罪又は詐欺罪と2項強盗による強盗殺人未遂罪とを包括一罪とし、重い強盗殺人未遂罪の刑で処断すべきものとしました(最決昭和61年11月18日)。「甲には、詐欺罪と強盗殺人罪が成立し、これらは包括一罪となる」という肢は正しいです。財物をだまし取る行為と、その返還を免れるための殺害は、同じ財産に向けられ、最初からの計画に貫かれているからです。
過失で負傷させた後に殺意を生じて殺害したときは、包括されず併合罪になります
同じ被害者に対する行為でも、意思が別であれば包括されません。「甲には、業務上過失傷害罪と殺人罪が成立し、これらは包括一罪となる」という肢は誤りです。判例は、熊と誤認して猟銃を発射し負傷させた後、殺意をもって更に発砲して死亡させた事案で、業務上過失傷害罪と殺人罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました(最決昭和53年3月22日)。前の行為は過失、後の行為は殺意に基づくもので、1つの意思に貫かれているとはいえないからです。
刑法220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。
刑法186条1項
常習として賭博をした者は、三年以下の拘禁刑に処する。
論文ではこう使う
論文では、同じ被害者に対する複数の行為や、罪名の異なる複数の罪を最後に整理するところで使います。まず各行為について犯罪の成立を認定し、そのうえで、法益侵害が同一か、時間的・場所的に近接しているか、1つの意思に貫かれているかを事実から拾って、包括して1罪になると書きます。財物をだまし取った後に返還を免れるため暴行・脅迫や殺害に及んだ事例では、詐欺罪又は窃盗罪と2項強盗の罪を認定し、両罪は包括一罪となり重い罪の刑で処断すると結びます。被害者が複数いる生命・身体に対する罪は包括せず、観念的競合か併合罪かを検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。