没収・追徴とは
ぼっしゅうついちょう
没収とは、犯罪に関係する物の所有権を奪って国庫に帰属させる付加刑です(刑法19条)。追徴とは、犯罪行為によって得た物などを没収することができないときに、その価額を納めさせる処分です(19条の2)。
殺人に使われた包丁や、犯行の報酬として受け取った現金を、犯人の手元に残しておくわけにはいきません。危険な物をまた使わせないため、そして犯罪で得をさせないために、裁判所は刑の言渡しに付け加えてこれらの物を取り上げることができます。これが没収です。現金を使ってしまったなどの理由で物そのものを取り上げられないときは、代わりにその価額を納めさせます。これが追徴です。他人の物まで取り上げると無関係の人が損をするので、対象は原則として犯人の物に限られます。
没収できる物は、組成した物・供用した物・生じた物や得た物・その対価の4種類です
19条1項は没収できる物を4つの号で挙げています。1号は犯罪行為を組成した物で、偽造文書行使罪における偽造文書がその例です。2号は犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物で、殺人に使用された包丁がその例です。3号は、犯罪行為によって生じた物(文書偽造罪における偽造文書)、犯罪行為によって得た物(賭博に勝って得た金品)、犯罪行為の報酬として得た物です。4号は3号に掲げる物の対価として得た物です。「犯罪行為の報酬として得た貴金属を売却して得た現金は,追徴ではなく,没収の対象となる」という肢は正しいです。報酬として得た貴金属は3号の物で、これを売却して得た現金は4号の対価として得た物なので、価額を追徴するのではなく、現金そのものを没収できます。犯罪行為の用に供した物は、犯行そのものに使った物に限られません。「強制性交の犯人が,被害者に犯行の様子を撮影録画したことを知らせて捜査機関に対し処罰を求めることを断念させる目的で,ひそかに撮影録画したデジタルビデオカセットは,犯罪行為の用に供した物ではないため,没収の対象とならない」という肢は誤りです。判例は、被害者に処罰を求めることを断念させて刑事責任の追及を免れる目的で犯行の様子を隠し撮りしたデジタルビデオカセットは、犯罪行為の用に供した物に当たり没収できるとしています(最決平成30年6月26日)。出題当時の強制性交等罪は、現在は不同意性交等罪にあたります。
- 1号 組成物件犯罪行為を組成した物(偽造文書行使罪における偽造文書)
- 2号 供用物件犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(殺人に使用された包丁、侵入に使った道具)
- 3号 生成物件・取得物件・報酬物件犯罪行為によって生じた物(文書偽造罪における偽造文書)、犯罪行為によって得た物(賭博に勝って得た金品)、犯罪行為の報酬として得た物
- 4号 対価物件3号に掲げる物の対価として得た物(報酬として得た貴金属を売却して得た現金)
19条の没収は裁判所の裁量によりますが、収受した賄賂は必ず没収します
19条1項は「没収することができる」と定めており、没収するかどうかは裁判所の裁量です。犯罪行為によって得た物であっても同じです。「犯罪行為によって得た物(刑法第19条第1項第3号)は,犯罪により不当に得た利益を犯人から剥奪する必要があるため,任意的没収ではなく,必要的没収の対象となる」という肢は誤りです。これに対し、犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は「没収する」と定められ、没収できないときはその価額を「追徴する」とされています(197条の5)。「犯人が収受した賄賂は,任意的没収の対象となる」という肢は誤りです。賄賂は必要的没収の対象です。また、拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ没収を科すことができません。ただし、犯罪行為を組成した物の没収はすることができます(20条)。
没収は付加刑なので、有罪として主刑を言い渡すときにだけ科すことができます
没収は主刑に付け加えて言い渡す刑です。物の危険性に着目した面があっても、主刑を言い渡さない場合に没収だけを科すことはできません。「犯罪行為の用に供した物(刑法第19条第1項第2号)の没収は,物の危険性に着目した処分であるため,行為者が責任無能力を理由に無罪の言渡しをされたときであっても科すことができる」という肢は誤りです。責任無能力を理由に無罪となるときは、没収もできません。他方、有罪とされた罪との関係で対象物に当たればよいので、手段となった行為が起訴されている必要はありません。「被害者宅に侵入して行われた窃盗事犯において,被害者宅への侵入に際して道具として使用された鉄棒は,住居侵入罪について公訴提起されていなければ没収できない」という肢は誤りです。判例は、侵入に使われた鉄棒は窃盗の手段としてその用に供した物であるとして、窃盗罪だけで有罪とする場合にも没収を認めています。対象物が押収されていることも要件ではありません。「判決により没収の言渡しをするためには,対象物が判決時に裁判所により押収されている必要がある」という肢は誤りです。「主物を没収するときは,その従物も没収できる」という肢は正しいです。判例は、仕込み杖の刀を没収するときは、その従物であるさやも没収できるとしています(大判明治44年4月18日)。
犯人以外の者に属する物は、その者が犯罪の後に情を知って取得した場合を除き、没収できません
没収は、犯人以外の者に属しない物に限りすることができます(19条2項本文)。「没収の対象は,刑罰の一身専属性の見地から,犯人の所有物に限られる」という肢は誤りです。条文は「犯人の所有物」ではなく「犯人以外の者に属しない物」としているので、誰の物でもない物は没収できます。犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは没収できます(同項ただし書)。ここでいう犯人には共犯者が含まれます。「犯罪行為を組成した物が共犯者に属するときは,その物を没収することができない」という肢は誤りです。共犯者に属する物は、犯人以外の者に属する物ではないので没収できます。盗品はどうなるかというと、「窃盗によって取得された盗品は,取得物件であるが,没収できない場合がある」という肢は正しいです。盗品は犯罪行為によって得た物ですが、所有権は被害者に残っているので、犯人以外の者に属する物として没収できません。
追徴は、得た物や対価を没収できないときにその価額を納めさせる処分で、刑ではありません
19条の2が追徴を認めるのは、19条1項3号又は4号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときです。組成した物や供用した物については追徴できません。追徴は没収に代わる処分であり、9条が挙げる刑の種類に入っていないので、刑ではありません。「財産刑には,罰金,没収及び追徴が含まれる」という肢は誤りです。賄賂の追徴については、いくらを追徴するかが問われます。「収賄罪において,収受した賄賂が没収不能となった時点で,収受時と比較してその価額が減じていた場合には,没収不能時の価額を追徴することになる」という肢は誤りです。判例は、収賄者は賄賂を収受した当時の価額に相当する利益を得たのであり、その後の価額の増減は収受とは別個の原因によるものなので、追徴すべき金額は授受当時の価額によるとしています(最大判昭和43年9月25日)。
賄賂が無形の利益であるときや共同して収受したときも、価額を追徴します
没収できるのは有体物だけです。賄賂が無形の利益であるときは、最初から没収することができないので、価額を追徴します。「公務員が自己に代わって債務を弁済してもらったことが賄賂になる場合のように,賄賂として収受した無形の利益についてはおよそ没収の対象とはならないが,金銭に換算可能であれば,その価額は追徴しなければならない」という肢は正しいです。借金の形をとっていても金銭の贈与を受ける趣旨であれば、金銭そのものが賄賂です。本当に借りただけであれば、賄賂は金銭を借りられるという利益です。「公務員が賄賂として関係業者から借金をした場合,借金という形をとっても実は金銭の贈与を受ける趣旨であれば,当該金銭は没収の対象となるが,本当に借金したにすぎない場合には,刑法第197条の5の規定によっては,受領した金銭を没収することはできない」という肢は正しいです。共同して収受した場合について、「裁判所は、収賄の共同正犯者が共同して収受した賄賂について、共犯者各自に対し、公務員の身分の有無にかかわらず、それぞれその価額全部の追徴を命じることができ、相当と認められる場合には、裁量により、各自にそれぞれ一部の額の追徴を命じ、あるいは一部の者にのみ追徴を科することも許される」という肢は正しいです。判例は、共同して収受した賄賂が現存すれば共犯者各自に全部の没収を言い渡せるのだから、追徴も各自に価額全部を命じることができ、公務員の身分のない共犯者についても異ならないとしています(最決平成16年11月8日)。
刑法19条1項
次に掲げる物は、没収することができる。一 犯罪行為を組成した物 二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物 三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物 四 前号に掲げる物の対価として得た物
刑法19条2項
没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
刑法19条の2
前条第一項第三号又は第四号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
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