共同正犯と正当防衛・過剰防衛とは
きょうどうせいはんとせいとうぼうえいかじょうぼうえい
共同正犯と正当防衛・過剰防衛とは、共同して反撃した者の一部にだけ正当防衛や過剰防衛の要件が備わる場合や、侵害が終わった後に一部の者だけが暴行を続けた場合に、各人の罪責をどう決めるかという問題です。判例は、過剰防衛の成否を共同正犯者の各人について検討します。
友人と二人で歩いていて突然殴りかかられ、二人で押し返して相手が逃げ出したとします。そこで自分は手を止めたのに、友人だけが追いかけてさらに殴りました。最初に一緒に押し返したからといって、友人が勝手に続けた分まで自分の責任になるのは納得できません。身を守るための反撃は適法な行為です。適法な行為を一緒にしたことから、その後の違法な行為についての責任が当然に出てくるわけではありません。
共同正犯の一人に過剰防衛が成立しても、他の者に当然には成立せず、各人について要件を検討します
最決平成4年6月5日は、被告人が、飲食店の店長から攻撃されることを予期し、その機会に友人に包丁で反撃させようと考えて友人を店に向かわせ、友人が店長から突然暴行を受けて、身を守る意思で包丁を用いて刺殺した事案について判断しました。決定は、共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであり、一人について過剰防衛が成立したとしても、その結果当然に他の共同正犯者についても過剰防衛が成立することになるものではないとしました。過剰防衛による刑の減軽・免除は、急迫不正の侵害に直面した者の事情に基づくものなので、その事情のない者には及びません。
積極的な加害の意思で侵害に臨んだ共同正犯者にとっては、侵害の急迫性が欠けます
同じ決定は、各人ごとに検討した結果として、友人と被告人とで結論を分けました。友人は、突然暴行を受けたのであり、積極的な加害の意思はなかったので、店長の暴行は友人にとって急迫不正の侵害です。友人の反撃は防衛の程度を超えていたので、友人には過剰防衛が成立します。これに対し、被告人は、攻撃を予期し、その機会を利用して友人に反撃させようという積極的な加害の意思で侵害に臨んでいます。そのため、店長の暴行は被告人にとっては急迫性を欠き、被告人には過剰防衛が成立しません。同じ一つの侵害であっても、急迫性があるかどうかは共同正犯者ごとに判断されます。
共同して防衛した後に一部の者が暴行を続けた場合は、新たに共謀が成立したかどうかを検討します
最判平成6年12月6日は、仲間の女性の髪をつかんで引き回した相手に対し、数人が共同して暴行を加えてやめさせた後、相手がなお悪態をついたため、そのうちの一人がさらに殴打して重傷を負わせた事案について判断しました。被告人は、後の暴行には加わらず、制止もしていません。判決は、相手方の侵害に対し複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、侵害が終了した後になおも一部の者が暴行を続けた場合には、侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であるとしました。そして、侵害現在時の暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであるとしました。この判旨について、「第1行為と第2行為とを一体のものとして考慮するためには,第2行為についての新たな共謀が必要だと考えている」という肢は正しいです。「甲が乙による第2行為を防止する措置を講じなかったにもかかわらず,甲に共謀関係からの離脱を認めたものである」という肢は誤りです。判決は離脱という枠組みを使っていません。最初の共謀は適法な防衛行為をすることの共謀であり、そこから侵害終了後の違法な暴行についての責任は出てこないので、後の暴行を防止する措置を講じたかどうかは問題になりません。正当防衛として共同で暴行を加えた後、逃走する相手を一人が追いかけて暴行を加えた事例について、「乙が暴行を加えるのを傍観していた。この場合、甲には、傷害罪の共同正犯が成立する」という肢は誤りです。傍観していただけでは、新たな共謀が成立したとはいえません。
新たな共謀が認められるときは、一連の行為を全体として考察し、過剰防衛が成立し得ます
平成6年の判決は、新たな共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為の相当性を検討すべきであるとしました。後の暴行に加わっていない者にも新たな共謀が認められれば、その者についても、前後の行為が一体のものとして評価されます。全体として防衛の程度を超えていれば、過剰防衛が成立します。「甲に第2行為についての新たな共謀が認められる場合には,甲に過剰防衛が成立する余地はない」という肢は誤りです。新たな共謀が認められない者については、侵害現在時の行為に正当防衛が成立し、侵害終了後の行為については共同正犯にならないので、犯罪は成立しません。共同正犯は構成要件に該当する違法な行為を共謀することによって成立すると考える見解からも、侵害現在時の行為は適法なので共同正犯にならず、侵害終了後の行為には共謀がないので、不可罰という結論になります。この見解からの結論は、判旨の結論と一致します。
違法性阻却事由を共同者ごとに判断する見解からは、一方が正当防衛でも他方には犯罪が成立します
出題では、共同正犯の成立については、違法性阻却事由又は責任阻却事由が一部の共同者に認められても他の共同者には影響しない、という見解が示されることがあります。この見解からは、二人が共同して被害者を殴って傷害を負わせた場合に、一方が正当防衛の要件を充足する状況にあり、他方がその状況になかったときは、正当防衛の状況になかった者には傷害罪が成立し、正当防衛の状況にあった者には犯罪が成立しないという結論になります。平成4年の決定が過剰防衛の成否を各人ごとに判断したことは、共同正犯者の間で違法性の評価が分かれ得ることを認めたものと受け止められています。これに対し、違法性は関与者全員に共通に決まるという考え方を共同正犯にも貫く見解からは、一方の行為が正当防衛として適法であれば、それを共同した他方の行為も適法になるという結論になります。
刑法36条1項
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
刑法36条2項
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
論文ではこう使う
論文では、共犯者の一人だけに積極的加害意思がある事例と、追撃に加わらなかった者の罪責を論じる事例で使います。前者では、まず実行した者について正当防衛・過剰防衛の成否を検討します。次に、背後の者について、過剰防衛の成否は共同正犯者の各人について検討するという判例を示し、その者が侵害を予期していたか、その機会を利用して加害しようとしていたかを事実から認定して、急迫性を判断します。後者では、行為を侵害現在時と侵害終了後に分け、侵害現在時の暴行に正当防衛が成立することを先に確定します。そのうえで、侵害終了後の暴行について、離脱ではなく新たな共謀の成否を検討すると述べ、追撃に加わらなかった者の言動、追撃した者との位置関係、制止や加勢の有無から共謀を認定します。新たな共謀があれば前後を一体として相当性を検討し、過剰防衛の成否を論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。