業務妨害罪の「業務」と公務とは
ぎょうむぼうがいざいのぎょうむとこうむ
業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいいます。公務のうち、強制力を行使する権力的公務は業務妨害罪の業務に当たらず、それ以外の公務は業務に当たるというのが判例です。
役所の窓口で大声を上げ続けて手続を止めさせても、職員に暴行や脅迫を加えていなければ、公務執行妨害罪にはなりません。会社の受付で同じことをすれば威力業務妨害罪になるのに、役所では罪にならないとすると、釣り合いがとれません。そこで判例は、逮捕のように実力で妨害を排除できる公務を除いて、公務も業務妨害罪の「業務」として守られるとしています。
業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいい、営利の目的は要りません
判例は、業務を、精神的なものか経済的なものかを問わず、広く職業その他継続して従事することを要する事務又は事業をいうとしています(大判大正10年10月24日)。営利を目的とする必要はなく、宗教団体の活動や政党の集会も業務に当たります。「職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいい,営利を目的とするものでなくても」業務に含まれるとする肢は正しいです。「営利を目的とするものであることを要する」という肢は誤りです。他方、社会生活上の地位に基づくものでなければならないので、個人的な活動や家庭生活は業務に含まれません。「運転免許を取得した者が娯楽のために行う自動車の運転も本罪の業務に含まれる」という肢は誤りです。「学生の学習活動を妨害した場合も,同罪が成立する」という肢も誤りです。業務上過失致死傷罪の「業務」は、人の生命や身体に危険を及ぼすおそれのある行為に着目した概念で、娯楽のための狩猟も含まれます。同じ「業務」という言葉でも、範囲が異なります。
行政取締法規に違反する営業でも、事実上平穏に行われていれば業務として保護されます
業務妨害罪は、事実上平穏に行われている人の社会的活動の自由を守る罪です。そのため、業務は刑法で保護するに値するものであれば足り、適法であることまでは要りません。「業務自体が適法なものであることを要するから,行政取締法規に違反した営業行為は」業務には当たらないとする肢は誤りです。「行政上の許可を受けていない営業行為や行政取締法規に違反する営業行為は、同罪で保護されることはない」という肢も誤りです。判例も、路上生活者の段ボール小屋を撤去する都の工事について、業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵があったとは認められないとして、業務に当たるとしています(最決平成14年9月30日)。問われるのは、適法かどうかではなく、保護に値するかどうかです。
強制力を行使する権力的公務は業務に当たらず、それ以外の公務は業務に当たります
判例は、県議会の委員会の条例案採決等の事務について、強制力を行使する権力的公務ではないから、威力業務妨害罪の業務に当たるとしました(最決昭和62年3月12日)。公職選挙法上の選挙長の立候補届出受理事務(最決平成12年2月17日)や、路上生活者に退去を説得して段ボール小屋を撤去する工事(最決平成14年9月30日)も、同じ理由で業務に当たるとされています。逮捕のような強制力を行使する権力的公務は、暴行や脅迫に至らない妨害を自力で排除できるので、業務妨害罪で守る必要がないと考えられています。県議会の審議中に傍聴席で大声を上げながら椅子を叩いて審議を中断させた事例で、「妨害の対象となったのは公務であるから,威力業務妨害罪ではなく公務執行妨害罪が成立する」という肢は誤りです。暴行も脅迫もないので公務執行妨害罪は成立せず、威力業務妨害罪が成立します。選挙長の立候補届出受理事務について、「暴行・脅迫に至らない言動を用いてその事務を滞らせた場合,威力業務妨害罪が成立する」という肢は正しいです。他方、公務執行妨害罪の職務は、公務員が取り扱う事務のすべてを含むと解されています。そのため、強制力を行使しない公務は、業務妨害罪の業務にも、公務執行妨害罪の職務にも当たります。「強制力を行使しない非権力的公務は」公務執行妨害罪の公務に当たるとともに業務妨害罪の業務にも当たるとする肢は正しいです。「強制力を行使しない公務は」業務妨害罪の業務には該当するが公務執行妨害罪の職務には該当しないとする肢は誤りです。
うその犯罪予告で警察を出動させた場合は、偽計業務妨害罪が成立するとされています
警察の捜査や警戒は強制力を行使する権力的公務を含みますが、強制力で排除できるのは目の前の妨害だけです。うその通報にだまされて出動させられる場合には、強制力は役に立ちません。裁判例は、インターネットの掲示板にうその犯罪予告を書き込んで警察を警戒に当たらせた事案で、うその通報さえなければ遂行されたはずの本来の警察の公務が妨害されたとして、偽計業務妨害罪の成立を認めています(東京高判平成21年3月12日)。強制力を行使する権力的公務が業務から外れるのは、妨害を自力で排除できるからです。その理由が当てはまらない偽計による妨害については、業務として保護されることになります。
公務が業務に含まれるかについては見解が分かれ、それぞれに批判が向けられます
一つ目は、公務はその性質にかかわらずすべて業務に含まれるとする見解です。業務妨害罪は人の社会的活動の自由を保護するもので、公務も人の社会的活動にほかならないことを理由とします。この見解に基づけば、公務員と共に公務に従事する非公務員に暴行を加えてその公務を妨害した場合に、威力業務妨害罪が成立すると考えることが可能です。公務が暴行又は脅迫によって妨害された場合には、公務執行妨害罪は業務妨害罪の特別法という関係にあるから前者のみが成立すると考えることも可能です。この見解に対しては、公務執行妨害罪という国家的法益に対する罪と業務妨害罪のような個人的法益に対する罪とを安易に混同するものであるとの批判が可能です。逮捕行為のような強制力を行使する権力的公務は、暴行にも脅迫にも至らない手段による妨害を自力で排除し得るから、そのような公務まで業務として保護する必要はないとの批判も可能です。二つ目は、公務は業務に含まれないとする見解です。国家的法益に対する罪と個人的法益に対する罪とでは罪質が違うことを理由とします。「威力や偽計による公務の妨害は公務執行妨害罪にも業務妨害罪にも当たらないこととなり,公務が業務に比して刑法上軽い保護しか受けられないという不都合がある」という批判は、この二つ目の見解に向けられるものです。公務はすべて業務に含まれるとする一つ目の見解に対する批判にはなりません。三つ目は、強制力を行使する権力的公務を除いた公務が業務に含まれるとする見解で、判例の立場です。この見解に対しては、強制力を行使しない公務が公務執行妨害罪と業務妨害罪の両方で保護され、民間の業務より厚く保護されることになるという批判があります。
- 公務はすべて業務に含まれるとする見解威力や偽計による公務の妨害に業務妨害罪が成立します。国家的法益に対する罪と個人的法益に対する罪を混同するという批判があります
- 公務は業務に含まれないとする見解威力や偽計による公務の妨害はどちらの罪にも当たらず、公務の保護が業務より軽くなるという批判があります
- 強制力を行使する権力的公務を除いて業務に含まれるとする見解(判例)強制力を行使しない公務には業務妨害罪も公務執行妨害罪も成立し得ます。二重に保護されるという批判があります
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法234条
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
刑法95条1項
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、公務を偽計や威力で妨害した事例で、まず暴行又は脅迫がないので公務執行妨害罪が成立しないことを確認します。次に、妨害された公務が業務妨害罪の業務に当たるかを論じます。強制力を行使する権力的公務は業務に当たらず、それ以外の公務は業務に当たるという判例の規範を示し、理由として、強制力を行使する権力的公務は暴行や脅迫に至らない妨害を自力で排除できることを書きます。当てはめでは、妨害された公務の内容が窓口の事務なのか、議会の審議なのか、逮捕や捜索なのかを特定し、その場で強制力を行使して妨害を排除できる性質のものかを検討します。うその通報のように偽計による妨害の事例では、強制力では妨害を排除できないことを指摘します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。