有価証券偽造の罪とは
ゆうかしょうけんぎぞうのつみ
有価証券偽造の罪とは、行使の目的で、手形、小切手、株券などの有価証券を偽造・変造し、又は有価証券に虚偽の記入をする罪と、偽造などがされた有価証券を行使し、交付し、輸入する罪をいいます。
手形や小切手、商品券は、その紙を持っている人がお金や品物を受け取れる仕組みになっています。紙そのものに権利が乗っているので、受け取る側は、紙が本物であることを信じて取引をします。にせの手形や小切手が出回ると、受け取った人が損をするだけでなく、だれも安心して手形や小切手を使えなくなります。そこで刑法は、通貨に次いで信用が大切なものとして、有価証券を偽造・変造する行為や、にせ物を使う行為を重く処罰しています。
有価証券とは、財産権を表章した証券で、権利の行使又は移転にその証券の占有を必要とするものをいいます
162条は、公債証書、官庁の証券、会社の株券を例に挙げています。手形、小切手、乗車券、定期券、商品券、宝くじ、競馬の馬券なども有価証券に当たります。これに対し、預金通帳は、預金債権があることを証明する文書にとどまり、権利の行使に証券の占有を必要とするものではないので、有価証券には当たりません。運転免許証、口座開設申込書、キャッシュカードも有価証券ではなく、これらを不正に作成して預金口座を開設した事例では、有価証券偽造罪は成立しません。クレジットカードは、支払用カード電磁的記録に関する罪の客体です。宝くじは有価証券ですから(最決昭和33年1月16日)、その番号を改ざんする行為は有価証券偽造の罪の問題になり、私文書偽造・変造罪にはなりません。「外れた宝くじの番号を当選番号に改ざんした。甲には有印私文書変造罪が成立する」という肢は誤りです。「この場合、甲に有印私文書変造罪が成立する」という肢も誤りです。外れた宝くじは当せん金を請求する権利を表していないので、これを当選番号に改ざんする行為は、新たに有効な証券の外観を作り出すものとして有価証券偽造罪に当たるとした裁判例があります(福岡高判昭和26年8月9日)。なお、有価証券も文書の性質を持つので、文書毀棄の罪の客体にはなります。「手形や小切手等の有価証券は,私用文書等毀棄罪の客体とはなり得ない」という肢は誤りです。
- 有価証券に当たるもの公債証書、株券、手形、小切手、乗車券、定期券、商品券、宝くじ、馬券
- 有価証券に当たらないもの預金通帳、貯金通帳、運転免許証、口座開設申込書、キャッシュカード、クレジットカード
真正に成立した小切手の金額欄を改ざんする行為は、偽造ではなく変造です
偽造とは、作成権限のない者が、他人名義の有価証券を作成することをいいます。一般人に真正な有価証券であると誤信させるに足りる外観を備えることが必要です。変造とは、権限のない者が、真正に成立した他人名義の有価証券に改ざんを加えることをいいます。金額欄の数字を書き換えても、有価証券としての同一性は失われないので、判例は、他人振出名義の小切手の金額欄の数字を改ざんする行為を有価証券変造罪としています(最判昭和36年9月26日)。他人が振り出した額面10万円の小切手の金額欄に「0」を加えた事例について、「額面100万円の小切手に改ざんした。甲には有価証券変造罪が成立する」という肢は正しいです。「額面1000万円の小切手に改ざんした。この場合、甲に有価証券偽造罪が成立する」という肢は誤りです。虚偽記入(162条2項)とは、有価証券に真実に反する記載をすることをいい、判例は、裏書・引受け・保証などの付随的な証券行為についての記載をこれに当たるとし、振出しのような基本的な証券行為について他人の名義を偽る行為は偽造に当たるとしています。偽造・変造・虚偽記入のいずれも、行使の目的が必要です。
手形の作成権限が内部的に制限されているだけなら偽造になりませんが、実質的に作成権限がなければ偽造になります
会社や組合の役職者が、内部の決裁を経ずに代表者名義の手形を振り出した場合、偽造になるかは、その者に手形の作成権限があったかで決まります。権限の行使方法が内部的に制約されているにすぎない場合は、権限の濫用にとどまり、偽造にはなりません。これに対し、最決昭和43年6月25日は、漁業協同組合の参事が、組合長又は専務理事の決裁・承認を受けずに組合長振出名義の約束手形を作成した事案で、参事は法令上支配人に関する規定が準用される地位にあるものの、手形の作成権限は専務理事に属し、参事は起案者・補佐役として関与するにすぎなかったという事実関係のもとでは、単に内部的な制約があったにとどまらず、実質的には作成権限そのものがなかったとして、有価証券偽造罪の成立を認めました。代理権の制限を善意の第三者に対抗できず、手形が私法上有効になり得ることは、偽造の成否を左右しません。
偽造有価証券は、真正なものとして見せるだけでも行使になり、情を知る者に渡せば交付になります
163条1項は、偽造・変造・虚偽記入の有価証券を行使する行為、行使の目的で人に交付する行為、輸入する行為を処罰します。行使とは、真正な有価証券として使用することをいい、通貨と違って流通に置くことは必要ありません。信用を誇示するだけの目的で偽造の約束手形を真正なものとして取引先に提示した事例について、「偽造有価証券を真正なものとして流通に置く必要があるから,甲には同罪は成立しない」という肢は誤りです。交付とは、偽造であることを告げて、又は偽造と知っている相手に渡すことをいいます。行使と交付は、相手方が偽造と知っているかどうかで分かれます。行使罪・交付罪の客体は、行使の目的で作成されたものである必要はありません。未遂は処罰されます。通貨には、収得した後に偽造と知って行使した場合の軽い罪(152条)がありますが、有価証券にはこのような規定がありません。偽造通貨又は偽造有価証券を収得した後に偽造と知って「これを行使した場合には,各客体の収得後知情行使罪が成立する」という肢は誤りです。偽造有価証券を収得後に偽造と知って行使すれば、偽造有価証券行使罪が成立します。
- 客体公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券
- 偽造・変造・虚偽記入(162条)行使の目的が必要。3月以上10年以下の拘禁刑
- 行使・交付・輸入(163条1項)交付・輸入は行使の目的が必要。3月以上10年以下の拘禁刑
- 未遂行使・交付・輸入の未遂を処罰する(163条2項)。偽造・変造・虚偽記入の未遂は処罰規定がない
- 罪数偽造罪と行使罪は牽連犯。行使罪と詐欺罪も牽連犯
偽造有価証券を行使して金品をだまし取れば、偽造有価証券行使罪と詐欺罪が成立して牽連犯になります
偽造通貨を行使して財物をだまし取った場合、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収されます。偽造通貨の行使はふつう財物の取得を伴い、通貨の罪の刑がそれを見込んで重く定められているからです。これに対し、偽造有価証券を行使して金品をだまし取った場合は、偽造有価証券行使罪とは別に詐欺罪が成立し、両罪は手段と結果の関係にあるので牽連犯になります。「詐欺罪は偽造通貨行使罪には吸収されるが,詐欺罪と偽造有価証券行使罪とは牽連犯となる」という肢は正しいです。
刑法162条1項
行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。
刑法162条2項
行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。