任務違背・図利加害目的・財産上の損害とは
にんむいはいとりかがいもくてきざいさんじょうのそんがい
任務違背とは、他人の事務を処理する者が、信任関係に基づいて誠実に事務を処理すべき任務に背く行為をすることです。図利加害目的とは、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的をいい、財産上の損害とは、経済的見地から評価して本人の財産の価値が減少し、または増加すべき価値が増加しなかったことをいいます。
銀行の融資担当者が、返せる見込みのない知人の会社に、担保も取らずに多額の融資をした場面を考えます。お金はまだ返済期限が来ていないので、帳簿の上では貸付金という財産が残っています。しかし、返ってこない貸付金には実質的な価値がありません。背任罪は、任された仕事のルールに背いて本人の財産を実質的に減らす行為を処罰するので、帳簿上の形ではなく、経済的に見て価値が減ったかどうかで損害を判断します。
任務違背は、誠実な事務処理者としてなすべき行為に反することをいいます
任務に背く行為とは、その事務の処理者として、法令、契約、内部の規程や信義則に照らして当然になすべきことに反する行為をいいます。回収の見込みがないのに十分な担保を取らずに融資する行為や、限度額を超えて保証する行為が代表例です。最決平成21年11月9日(任務違背行為の意義)は、銀行の取締役に求められる注意義務の程度は一般の株式会社の取締役に比べて高い水準のものであり、経営判断の原則が適用される余地は限定的であるとしました。そして、実質的に倒産状態にある企業への無担保の追加融資は、客観性を持った再建・整理計画などがない限り、著しく合理性を欠き任務違背に当たるとしています。法令に反する事務処理も任務違背になります。「この場合、上記給与所得者の利益を図る目的であったとしても、甲にはA村に対する背任罪が成立する」という肢は正しく、最決昭和47年3月2日は、法令上の根拠なく村民税を過少に賦課徴収した村長に背任罪を認めました。
図利加害目的は、意欲や積極的認容までは不要で、主たる目的が自己・第三者の利益にあれば認められます
背任罪が成立するには、故意に加えて、自己もしくは第三者の利益を図る目的、または本人に損害を加える目的が必要です。ここでの利益は財産上の利益に限られません。「「自己若しくは第三者の利益を図る目的」の「利益」とは,経済的利益のことをいい,社会的地位や信用等の身分上の利益を含まない」という肢は誤りで、大判大正3年10月16日は、身分上の利益その他すべての自己の利益を図る目的で足りるとしています。「「本人に損害を加える目的」があるというためには,加害の点につき意欲ないし積極的認容が必要である」という肢も誤りです。最決昭和63年11月21日は、図利加害の点について、意欲ないし積極的認容までは要しないとしました。この目的が要件とされているのは、本人のためにした行為を処罰から外すためです。専ら本人の利益を図る目的であった場合には、背任罪は成立しません。もっとも、「「自己若しくは第三者の利益を図る目的」があるというためには,主として自己又は第三者の利益を図る目的があれば足りるが,これと本人の利益を図る目的とが併存している場合は含まない」という肢は誤りです。本人の利益を図る目的が併存していても、主として自己または第三者の利益を図る目的であれば、図利加害目的が認められます。最決平成10年11月25日(背任罪における図利加害目的)は、本人である銀行の利益を図る動機があったとしても、それが融資の決定的な動機でなければ本人図利の目的とは認められないとして、第三者図利目的を肯定しました。
- 利益の内容財産上の利益に限られない。社会的地位、信用、面目などの身分上の利益を含む
- 認識の程度意欲ないし積極的認容までは要しない(最決昭和63年11月21日)
- 本人図利目的との併存主たる目的が自己・第三者図利であれば認められる。本人図利が決定的な動機であれば否定される
- 専ら本人の利益を図る目的図利加害目的がなく、背任罪は成立しない
財産上の損害は、経済的見地から本人の財産状態を評価して判断します
最決昭和58年5月24日(財産上の損害)は、「本人に財産上の損害を加えたとき」とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、行為によって本人の財産の価値が減少したとき、または増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうとしました。そのうえで、信用保証協会の支所長が返済能力のない者の債務を協会に保証させたときは、債務がまだ不履行の段階に至らず、代位弁済による現実の損失が生じていなくても、経済的見地においては協会の財産的価値は減少したと評価されるとしています。「乙の金融機関に対する債務がいまだ不履行の状態に至らず、上記協会に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていなくても、甲に背任罪が成立する」という肢は正しいです。「返済の可能性が著しく低い無担保貸付けについては,その債務不履行が確定しなければ損害が発生したとはいえない」という肢は誤りです。法律上は貸金債権や求償権が残っていても、回収の見込みがなければ経済的な価値はないので、貸付けや保証を実行した時点で損害が発生します。
判旨は、背任罪が全体財産に対する罪であり侵害犯であることを前提にしています
司法試験2023年問19は、最決昭和58年5月24日の判旨の読み方を問いました。判旨は、本人の財産状態を全体として経済的見地から評価しているので、背任罪が本人の全体財産に対する罪であることを否定していません。判旨は、協会の財産的価値が減少したと認定したうえで損害を認めているので、背任罪が侵害犯であることを否定してもいません。判旨は、「返済能力のない」者の債務を保証させたことを前提にしており、主債務者の返済能力を問わないとしたものではありません。判旨によれば、保証債務を負担させた時点で損害が発生して既遂になるので、その後に主債務者が偶然金銭を入手して期限内に弁済したとしても、未遂罪にとどまることにはなりません。判旨に対しては、どの程度の財産的価値の減少をもって「損害」というのかが明確ではないという批判が向けられます。なお、背任罪には未遂の処罰規定があり(250条)、任務違背行為に着手したが損害が発生しなかった場合は未遂になります。
不正融資の借り手も、任務違背に加担すれば背任罪の共同正犯になります
融資を受ける側は、事務処理者の身分がなく、取引の相手方として融資を申し込む立場にあります。融資を申し込むこと自体は通常の経済活動ですから、任務違背であることを知っていただけで直ちに共犯になるわけではありません。最決平成15年2月18日(不正融資の借り手側の責任)は、借り手が、貸し手側の任務違背と財産上の損害について高度の認識を有し、融資担当者が図利目的を有していることを認識し、貸し手が融資に応じざるを得ない状況にあることを利用し、迂回融資の手順に協力するなどして融資の実現に加担したことを挙げて、特別背任罪の共同正犯を認めました。支配的な影響力を行使したり、社会通念上許されない方法で積極的に働きかけたりしたことまでは必要とされていません。取引の相手方であることは共同正犯の成立を当然に否定する理由にならず、債権の二重譲渡を強く働きかけた譲受人について「甲と乙はいわゆる必要的共犯の関係に立つため、甲に背任罪の共同正犯が成立することはない」という肢が誤りとされるのも同じ理由です。
刑法247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
論文ではこう使う
論文では、不正融資や冒険的な取引の事例で、任務違背、図利加害目的、財産上の損害を順に認定します。任務違背では、行為者の地位と権限を示し、法令・定款・内部規程や、その職務に通常求められる注意義務に照らして、問題の行為が許されないものであったことを論じます。融資の事例では、融資先の経営状況、担保の有無、回収の見込み、内部の決裁手続を踏んだかを拾います。図利加害目的では、行為者の動機を特定し、本人のためという動機が主張されるときは、それが決定的な動機であったかを、行為の必要性・緊急性、本人に生じる危険の大きさ、行為者自身の保身や第三者との関係から評価します。財産上の損害では、最決昭和58年5月24日の基準を示し、債権や求償権が法律上残っていても回収の見込みがない以上、実行時に経済的な価値の減少があると認定します。借り手の罪責が問われるときは、65条1項の適用と、融資の実現への加担の程度を具体的に論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。