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刑法の適用範囲(国内犯・国外犯・刑の変更)とは

けいほうのてきようはんい

刑法 刑法の基礎

刑法の適用範囲とは、刑法がどの場所で犯された罪に、どの時点の行為に適用されるかという範囲です。日本国内で犯された罪にはすべての者に適用し(国内犯)、日本国外で犯された罪には2条から4条の2までに掲げる罪に限って適用し(国外犯)、犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものによります。

海外旅行中の日本人が現地で殴られてけがをしたとき、日本の刑法で犯人を処罰できるかは、当然には決まりません。国の刑罰権は自国の領土の中に及ぶのが基本だからです。そこで刑法は、まず日本国内で犯された罪には誰にでも適用するという原則を置き、国外で犯された罪には、日本の重要な利益を害する罪や、日本国民が犯人または被害者となる重い罪に限って適用することにしています。行為の後に法律が変わったときに新旧どちらを使うかも、あらかじめ決めてあります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で、黒板に貼った世界地図の前に立つ。地図の日本の部分は丸で囲まれ札「日本国内:1条 すべての者に適用」。日本の外側の海と外国の部分に札「日本国外:2条から4条の2までの罪に限る」。日本の丸の外に小さな船

犯罪を構成する事実の一部が日本国内で生じていれば、国内犯としてすべての者に刑法が適用されます

刑法1条1項は、日本国内において罪を犯したすべての者に刑法を適用すると定めています。これを属地主義といい、犯人の国籍は問いません。「罪を犯した」とは、犯罪を構成する事実の全部又は一部が生じたことをいうと解されており、行為が行われた場所、結果が発生した場所、その間の因果関係が経過する場所のどれかが国内にあれば足ります(遍在説)。したがって、外国人が日本国内で毒薬を飲ませ、被害者が公海上の外国船舶内で死亡した事例では、実行行為が国内にあるので殺人罪が適用されます。未遂犯では結果発生の危険が生じた場所も犯罪地になります。A国民の甲がB国から毒入りの酒を発送した事例で、「V5に対する行為について刑法(殺人未遂罪)が適用される」という肢は正しいです。毒入りの酒は日本国内のV5方に配達されて飲める状態に置かれ、殺人未遂の危険が国内で生じたからです。これに対し、「V2に対する行為について刑法(殺人未遂罪)が適用される」という肢と「V3に対する行為について刑法(殺人未遂罪)が適用される」という肢は誤りです。判例は毒物が相手方に届いて飲食できる状態になった時に実行の着手を認めており(大判大正7年11月16日)、V2方には届かず、V3方には中身が無くなって届いたので、そもそも殺人未遂罪が成立しません。また、1条2項により、日本国外にある日本船舶又は日本航空機内で罪を犯した者にも刑法が適用されます。公海の上空を飛行中の日本航空機内で外国人が外国人に毒薬を飲ませ、被害者が外国の病院で死亡した事例でも、実行行為が日本航空機内にあるので殺人罪が適用されます。

共犯の犯罪地には正犯行為の場所と共犯行為の場所の両方が含まれますが、正犯の犯罪地に共犯行為の場所は含まれません

教唆犯と幇助犯については、自分の教唆行為や幇助行為をした場所のほか、正犯が実行した場所も犯罪地になります。最決平成6年12月9日は、日本国外で幇助行為をした者であっても、正犯が日本国内で実行行為をした場合には、国内犯として刑法が適用されるとしました。短答では、この考え方を【見解】として示したうえで当てはめさせる出題があります。「狭義の共犯の場合,正犯行為が行われた場所が共犯の犯罪地になるほか,共犯行為が行われた場所も共犯の犯罪地になるが,共犯行為が行われた場所は正犯の犯罪地にはならない」という見解からは、外国のホテルで乙にナイフを貸し、乙が日本国内で殺害した事例の甲には、正犯行為の場所が国内にあるので殺人幇助罪が適用されるという結論になります。日本国内で乙にピストルを貸し、乙が外国で外国人を殺害した事例の甲にも、共犯行為の場所が国内にあるので殺人幇助罪が適用されるという結論になり、「適用されない」とする記述はこの見解からの帰結として成り立ちません。他方で、この事例の正犯である乙には、共犯行為の場所が正犯の犯罪地にならないので、殺人罪は適用されないという結論になります。共犯は正犯に従属しますが、正犯が共犯に従属するわけではないからです。

国境線を挟んだ二つの場面を左右に並べた図。左側は札「日本国外」のホテルの一室で、男性(札「幇助犯 甲」)が別の男性にナイフの入った箱を手渡している。右側は札「日本国内」の街角で、箱を受け取った男性(札「正犯 乙」)が立っている。左から右へ国

日本国外で犯された罪は、2条から4条の2までに掲げる罪に限って処罰されます

国外犯は、条文に掲げられた罪だけが処罰されます。2条は日本の国家的・社会的な利益を害する罪を誰が犯しても処罰し、3条は日本国民が犯した一定の罪を、3条の2は日本国民が被害者となった一定の重い罪を、4条は日本国の公務員が犯した職務に関する罪を処罰します。A国民の甲がB国内で日本国民V1を毒殺した事例で、「V1に対する行為について刑法(殺人罪)が適用される」という肢は正しいです。3条の2第2号が、日本国外において日本国民に対して殺人の罪を犯した日本国民以外の者に刑法を適用すると定めているからです。同じ酒を飲んで死亡したB国民V4について、「V4に対する行為について刑法(殺人罪)が適用される」という肢は誤りです。被害者が日本国民でなく、犯人も日本国民でなく、行為も結果も国外にあるので、どの規定にも当たりません。なお、外国で確定裁判を受けた者を同一の行為について更に処罰することは妨げられませんが、外国で言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除します(5条)。

  • 2条 すべての者の国外犯内乱、外患誘致、通貨偽造、公文書偽造、有価証券偽造、支払用カード電磁的記録不正作出、公印偽造など
  • 3条 国民の国外犯現住建造物等放火、私文書偽造、不同意わいせつ、不同意性交等、贈賄、殺人、傷害、傷害致死、保護責任者遺棄等、逮捕及び監禁、略取及び誘拐、名誉毀損、窃盗、強盗、詐欺、背任、恐喝、業務上横領、盗品譲受け等など
  • 3条の2 国民以外の者の国外犯日本国民に対する不同意わいせつ、不同意性交等、殺人、傷害、傷害致死、逮捕及び監禁、略取及び誘拐、強盗、強盗致死傷など
  • 4条 公務員の国外犯看守者等による逃走援助、虚偽公文書作成等、公務員職権濫用、特別公務員暴行陵虐、収賄
  • 4条の2 条約による国外犯条約により国外で犯したときも罰すべきものとされている罪
外国の街角の場面。背景に外国風の建物と札「日本国外」。先生が検察官役(札「検察官」)で条文の板「3条の2:日本国民に対する殺人」を持って立つ。前に二人の被害者役の男性が並び、左の男性に札「V1:日本国民」、右の男性に札「V4:外国の国民」。

犯罪後の法律によって刑の変更があったときは軽いものにより、「犯罪後」とは実行行為の終了後をいいます

行為の後に刑を重くする法律を遡って適用することは、遡及処罰の禁止に反して許されません。逆に刑が軽くなったときは、6条により軽い新法が適用されます。行為時の法律と裁判時の法律を比べ、中間に別の法律があればそれも含めて、最も軽いものによります。6条の「犯罪後」とは実行行為の終了後をいいます。暴行を加えた後、被害者が死亡するまでの間に傷害致死罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例では、実行行為である暴行は改正前に終わっているので、結果の発生が改正後であっても旧法が適用されます。自己が占有する他人の宝石を第三者に売却する契約を締結した後、引渡しの前に横領罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例でも、横領行為は売却の契約の締結で終わっているので旧法が適用されます。自動車を窃取した後、乗り回している間に窃盗罪の法定刑を軽くする改正法が施行された事例では、窃盗罪は窃取の時点で終了しているので、犯罪後に刑が軽く変更されたことになり、新法が適用されます。殺害の後、死体を遺棄する前に殺人罪の法定刑を軽くする改正法が施行された事例でも、殺人罪については新法が適用されます。

実行行為が刑の変更の前後にまたがる継続犯には、6条の適用がなく新法が適用されます

監禁罪のような継続犯では、被害者を監禁している間ずっと実行行為が続いています。監禁中に監禁罪の法定刑を重くする改正法が施行された事例では、改正法の施行後も実行行為が行われているので、「犯罪後の法律」による刑の変更に当たらず、新法が適用されます。最決昭和27年9月25日も、継続犯の実行行為が刑の変更の前後にまたがる場合に新法を適用しました。これに対し、窃盗罪のような状態犯では、窃取の後に違法な状態が続いていても実行行為は終わっているので、この扱いは及びません。「刑の変更」には刑の廃止も含まれ、犯罪後の法令により刑が廃止されたときは免訴の判決が言い渡されます(刑事訴訟法337条2号)。もっとも、廃止された罪の行為がほかの規定で処罰される場合は刑の変更にとどまり、最判平成8年11月28日は、尊属傷害致死罪の規定が行為後に廃止された事案について、旧法と比べて軽い傷害致死罪で処罰しました。失効の期日を定めた限時法については、失効後も期間内の違反を処罰できるとする見解がありますが、通説は、失効後も罰則を適用する旨の規定がない限り処罰できないとしています。

教室の黒板に左から右へ伸びる時間の線が二本描かれた場面。先生が教師役(札「先生」)で指し棒を持つ。上の線は札「監禁罪(継続犯)」で、線の全体が太い帯になっており、途中に縦線と札「刑を重くする改正法の施行」、帯は縦線の右側まで続き、右側の帯に

刑法1条1項

この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

刑法1条2項

日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

刑法3条の2柱書

この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。

刑法6条

犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。

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