刑罰論(応報刑論・一般予防論・特別予防論)とは
けいばつろん
刑罰論とは、国家が犯罪を行った者に刑罰を科すことがなぜ正当化されるのかを説明する理論です。刑罰を犯罪に対する応報とみる応報刑論と、犯罪の予防という目的から説明する目的刑論があり、目的刑論は一般人の犯罪を予防する一般予防論と、行為者の再犯を予防する特別予防論に分かれます。
子どもが友達をたたいたとき、親が叱る理由は一つではありません。悪いことをしたのだから叱られて当然だという理由もあれば、きょうだいが真似をしないようにという理由も、本人が二度としないようにという理由もあります。刑罰も同じで、人の自由や財産を奪う重い制裁ですから、なぜ科してよいのかを説明できなければなりません。どの理由を軸に置くかによって、刑の重さの決め方や、処罰しなくてよい場合があるかどうかの答えが変わってきます。
応報刑論は、刑罰を犯罪に対する非難として加えられる苦痛と捉え、犯罪と刑罰の均衡を求めます
応報刑論は、過去に目を向けて、犯罪が行われたから刑罰を科すと考えます。刑罰は犯罪を行った者が果たさなければならないしょく罪であり、責任の重さに見合ったものでなければならないので、犯罪との均衡を失する刑罰は許されません。この見解は、人は自由な意思で犯罪を選んだのだから非難できるという理解を前提にしています。「応報刑論に対しては,論者が前提としている人間の意思の自由が科学的に証明されていないとの批判がある」という肢は正しいです。刑罰をしょく罪とみる見解に対しては、犯罪があれば必ず刑罰を科すことになり、処罰を猶予する余地がなくなるとの批判が向けられます。また、犯罪予防のために必要な刑であっても、責任に対応する刑を超える刑を科すことができなくなるとの批判も向けられます。他方で、刑罰をしょく罪とみる見解は罪刑の均衡に親和的ですから、軽微な犯罪を行った者について一般予防の必要性が高いときはその刑を重くしなければならないという考え方には結び付きません。
- 応報刑論刑罰は犯罪に対する非難として加えられる苦痛。批判は、意思の自由が証明されていない、処罰を猶予する余地がなくなる
- 一般予防論刑罰による威嚇を通して一般人の犯罪を予防する。批判は、刑罰は重ければ重いほどよいことになり、罪刑の均衡を失した重罰化を招く
- 特別予防論行為者が将来再び犯罪を行うのを予防する。批判は、再犯可能性がなければ処罰できない、軽微な犯罪でも長期の拘禁が正当化される、刑罰と保安処分の区別がなくなる
- 積極的一般予防論処罰により行為が犯罪であると公的に確認され、これを通して一般人の犯罪を予防する
一般予防論は、刑罰による威嚇で一般人の犯罪を予防しようとし、重罰化を招くと批判されます
一般予防論は、将来に目を向けて、犯罪が行われないように刑罰を科すと考える目的刑論の一つです。一定の行為に刑罰を予告し、実際に科すことで、犯罪者以外の一般人が同じ犯罪を行わないように威嚇します。威嚇の効果は刑が重いほど高まるので、この見解に対しては、刑罰は重ければ重いほどよいという考え方に陥るおそれがあるとの批判が向けられます。「応報刑論に対しては,犯罪を防止するために罪刑の均衡を失した重罰化を招くおそれがあるとの批判がある」という肢は誤りです。重罰化を招くという批判が向けられるのは一般予防論であり、応報刑論はむしろ犯罪に相応する刑罰を求めて重罰化に歯止めをかける見解だからです。
特別予防論は、行為者の再犯を予防しようとし、再犯可能性がなければ処罰できなくなると批判されます
特別予防論は、刑罰を科すことで行為者自身を改善し、将来再び犯罪を行わないようにすることを目的とします。刑の重さを決めるのは行った犯罪の重さではなく行為者の危険性ですから、二つの方向から批判が向けられます。一つは、軽微な犯罪を行った者であっても、その更生に必要であれば長期の拘禁刑を科すことが正当化されるおそれがあるという批判です。もう一つは、重大な犯罪を行っても再犯のおそれがなければ刑罰を科す理由がなくなるという批判です。「応報刑論に対しては,重大な犯罪を犯した者であっても,再犯可能性がなければ刑罰を科すことができなくなるとの批判がある」という肢は誤りです。応報刑論は犯罪を行ったこと自体を処罰の根拠とするので、再犯可能性がなくても刑罰を科すことができます。「応報刑論に対しては,刑罰と保安処分の区別がなくなるとの批判がある」という肢も誤りです。行為者の危険性に応じて改善のための処分を行うという特別予防論の発想が、危険性を理由とする保安処分と重なるのであって、応報刑論にこの批判は当たりません。沿革についても、「応報刑論は,産業革命に伴う工業化・都市化によって累犯が増加したことを契機として,支持者が増えた」という肢は誤りです。累犯の増加は、犯罪に見合う刑を科せば足りるとする応報刑論への反省を促し、行為者の改善を重視する目的刑論が支持を広げる契機になりました。
積極的一般予防論は、処罰による規範の確認を通して一般人の犯罪を予防しようとします
一般予防論のうち、威嚇ではなく規範意識の強化を重視する見解を積極的一般予防論といいます。処罰によってその行為が犯罪であると公的に確認され、人々の「犯罪はしてはならない」という意識が保たれることで、一般人の犯罪が予防されると考えます。これと対比して、威嚇を重視する伝統的な見解を消極的一般予防論と呼びます。積極的一般予防論は、人が自由な意思で行動を選べないとする決定論を前提として初めて成り立つものではありません。規範を確認された一般人が自分の判断で犯罪を思いとどまることを期待する見解ですから、自由な意思を認める立場からも説明できます。
通説の相対的応報刑論は、責任に応じた刑の範囲内で一般予防と特別予防に配慮します
今日の通説は、刑罰は犯罪に対する応報であることを基本に据えながら、犯罪予防の目的もあわせて考慮します。これを相対的応報刑論といいます。応報の考え方によって、行為者の責任に応じた刑罰だけが正当化され、責任主義と罪刑の均衡が保たれます。そのうえで、責任に見合う刑の範囲の中で、一般人による犯罪の予防と行為者の再犯の予防に配慮することは妨げられません。現行法にもこの考え方が表れています。刑法12条3項は、拘禁刑に処せられた者に、改善更生を図るため必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると定めており、刑の執行の場面で特別予防に配慮しています。情状により刑の全部の執行を猶予できるという制度も、応報だけを貫く見解からは説明しにくく、予防の必要性を考慮するものです。
刑法12条3項
拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
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