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用語集 / 刑法 / 職権濫用の罪

職権濫用の罪とは

しょっけんらんようのつみ

刑法 国家的法益に対する罪

職権濫用の罪とは、公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害する罪(公務員職権濫用罪・193条)と、裁判、検察、警察の職務を行う者などが職権を濫用して人を逮捕・監禁し、又は暴行や陵辱若しくは加虐の行為をする罪(194条・195条)の総称です。

警察官や裁判官から「職務で必要です」と言われれば、多くの人は断りにくいと感じて従います。公務員には、相手に負担や不利益を受け入れさせる力のある権限が与えられているからです。その権限を、仕事を装って私的な目的や違法な目的に使えば、国民の自由や権利が害され、公務が適正に行われているという信頼も失われます。そこで刑法は、公務員が職権を濫用して人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害する行為を処罰しています。

刑務所の所長室の場面。先生が刑務所長役(札「刑務所長」)で机に座り、机の上に厚い帳簿(表紙に「身分帳」)が置かれている。机の前にスーツの男性(札「裁判官」)が立ち、帳簿に手を伸ばしている。男性の吹き出し「職務上の調査に必要なので、身分帳を見

「職権」は、相手方に法律上・事実上の負担や不利益を生じさせるに足りる特別の職務権限をいいます

公務員職権濫用罪(193条)は、公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときに成立します。判例は、ここにいう「職権」とは、公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生じさせるに足りる特別の職務権限をいうとしています(最決平成元年3月14日)。「公務員職権濫用罪にいう「職権」は,職権行使の相手方に対し,必ずしも法律上又は事実上の負担や不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限であることまで要しない」という肢は誤りです。他方で、その権限は法律上の強制力を伴うものである必要はなく、濫用された場合に、相手方に事実上義務のないことを行わせ、又は行うべき権利を妨害するに足りる権限であれば含まれます(最決昭和57年1月28日)。「公務員職権濫用罪にいう「職権」は,必ずしも法律上の強制力を伴うことまで要しない」という肢は正しいです。この決定は、裁判官が、職務上の参考にするための調査であるかのように装って刑務所長に受刑者の身分帳の閲覧を求めた事案についてのものです。裁判官が刑務所長に資料の閲覧を求めることは、これに応ずべき事実上の負担を生じさせるので、相手方に義務のないことを行わせるに足りる権限として「職権」に含まれるとされました。一般的職務権限が認められるために、法令上の明文の根拠規定は必ずしも必要ではないことも示されています。

「濫用」は、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることをいいます

判例は、職権の濫用とは、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることをいうとしています(最決昭和57年1月28日)。外形は職権の行使に見えても、中身が違法又は不当であるという場合です。簡易裁判所の裁判官が、自分の担当する窃盗被告事件の被告人である女性と私的な交際をする意図で、被害弁償のことで話したいと言って夜間に喫茶店に呼び出した行為は、職権の濫用に当たるとされました(最決昭和60年7月16日)。問題になるのは、行為が職務として行われたかどうかではなく、職権を濫用して行われたかどうかです。判例は、公務員の不法な行為が職務としてなされたとしても、職権を濫用して行われていないときは公務員職権濫用罪が成立する余地はなく、その反面、職務とかかわりなくなされたとしても、職権を濫用して行われたときには同罪が成立することがあるとしています(最決平成元年3月14日)。「公務員職権濫用罪の成立には,必ずしも公務員の不法な行為が職務としてなされることまで要しない」という肢は正しいです。

相手方の意思に働きかけることは不可欠の要件ではありませんが、警察官の行為でないことを装った盗聴は職権の濫用に当たらないとされました

最決平成元年3月14日は、警察官が、政党に関する情報を得るため、電話線に工作をして政党関係者の自宅の電話を盗聴した事案です。原審は、公務員職権濫用罪が成立するには、行為が相手方の意思に働きかけ、これに影響を与える職権行使の性質を備えていなければならないとして、同罪の成立を否定していました。最高裁は、相手方の意思に働きかけることを不可欠の要件とすれば、同罪が成立し得る場合の一部について成立を否定する結果になりかねないとして、この理由づけを採りませんでした。「公務員職権濫用罪の成立には,必ずしも職権行使の相手方の意思に直接働きかけ,それを制圧することまで要しない」という肢は正しいです。もっとも、最高裁は、この事案の警察官が盗聴行為の全般を通じて終始何人に対しても警察官による行為でないことを装う行動をとっていたことから、警察官に認められている職権の濫用があったとみることはできないとして、公務員職権濫用罪の成立を否定した原審の結論を維持しています。職権の行使に仮託したといえない行為は、公務員が行った違法な行為であっても、この罪には当たりません。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、黒板に電柱と電話線と一軒の家の略図が描かれている。電柱のそばに作業服の人物の略図があり、札「警察官であることを隠している」が付いている。先生の吹き出し「終始、警察官による行為でないこと

公務員職権濫用罪の成立には、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したという結果が必要です

公務員職権濫用罪は、公務員であることが成立要件となる身分犯で、職権を濫用しただけでは足りず、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したという結果の発生が必要です。未遂を処罰する規定はありません。妨害される「権利」は、法律に明記された権利に限られず、法令上保護される利益であれば足りると解されています。「公務員職権濫用罪にいう「権利の行使を妨害した」の「権利」は,必ずしも法律に明記されたものであることを要しない」という肢は正しいです。法定刑は2年以下の拘禁刑です。この罪は、公務の適正とこれに対する国民の信頼を保護するとともに、職権行使の相手方となる個人の自由や権利も保護しています。

特別公務員暴行陵虐罪は、被害者の承諾があっても成立します

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者については、職権を濫用して人を逮捕し、又は監禁する行為(特別公務員職権濫用罪・194条)と、職務を行うに当たり被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をすること(特別公務員暴行陵虐罪・195条1項)が、重く処罰されます。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者が、その拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも同じです(195条2項)。陵辱若しくは加虐の行為とは、暴行以外の方法で精神上又は肉体上の苦痛を与える行為をいい、わいせつな行為もこれに含まれます。特別公務員暴行陵虐罪は、第一次的には公務執行の適正とこれに対する国民の信頼を保護する罪なので、相手方個人の承諾があっても成立します。「甲は,自らが刑務官を務める刑務所で受刑中の成人女性乙と恋愛関係になり,乙の承諾を得て,勤務中,同刑務所内において,乙と性交した。この場合,甲には,特別公務員暴行陵虐罪が成立する」という肢は正しいです。裁判例にも、留置中の者が同意していたと認定したうえで、相手方個人の承諾はこの罪の違法性を阻却しないとして成立を認めたものがあります。これらの罪を犯して人を死傷させたときは、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(196条)。

  • 公務員職権濫用罪(193条)公務員が、職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した。2年以下の拘禁刑
  • 特別公務員職権濫用罪(194条)裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁した。6月以上10年以下の拘禁刑
  • 特別公務員暴行陵虐罪(195条)1項は194条と同じ主体が、職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をした。2項は法令により拘禁された者を看守し又は護送する者が、その拘禁された者に対して同じ行為をした。7年以下の拘禁刑
  • 特別公務員職権濫用等致死傷罪(196条)194条・195条の罪を犯し、よって人を死傷させた。傷害の罪と比較して、重い刑により処断する
法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。証言台の前に制服姿の男性(札「被告人の刑務官」)が立っている。男性の吹き出し「相手は承諾していました」。先生の吹き出し「この罪が守っているのは、公務執行の適正とこれに対する国民の

刑法193条

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の拘禁刑に処する。

刑法195条2項

法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。

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