毀棄・損壊の意義とは
ききそんかいのいぎ
毀棄・損壊とは、文書や建造物、その他の物について、その効用を害する一切の行為をいうとするのが判例です。物理的に壊す行為に限られず、隠す、汚す、使えなくする行為も含まれます。これに対し、物の全部または一部を物理的に破壊・毀損する行為に限るとする見解もあります。
飲食店の皿に用を足した客がいたとします。皿は割れても欠けてもいません。洗えば見た目は元どおりです。それでも、その皿でもう一度料理を出すことはできません。物は、形が残っていても、本来の使い道に使えなくなれば、持ち主にとっては壊されたのと同じです。そこで判例は、「損壊」を、物の形を壊すことに限らず、物の効用を害する行為の全部を指すと解しています。
判例は、毀棄・損壊を、物の効用を害する一切の行為と解しています
毀棄の罪は、領得を目的とせずに、他人の物の利用を妨げる罪です。判例は、損壊を、物を物理的に壊す行為に限らず、事実上または感情上その物を本来の用途に使えなくする行為を含むと解しています。大判明治42年4月16日は、料理店の食器に放尿した行為に器物損壊罪を認めました。最決平成18年1月17日(落書きと建造物損壊罪)は、公園の公衆便所の外壁にラッカースプレーで落書きをした行為について、建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたものであって、建物の効用を減損させたとして、建造物損壊罪を認めました。効用を害したかどうかは、汚損の程度と原状回復の難しさを合わせて判断されます。器物損壊罪の条文は「損壊し、又は傷害した」と定めており、「傷害」は動物を客体とする場合をいいます。動物を殺傷する行為のほか、飼われている鳥や魚を逃がす行為もこれに当たります。大判明治44年2月27日は、養殖池の水門を開けて他人が飼育する鯉を流出させた行為を「傷害」に当たるとしました。物を隠匿する行為(大判昭和9年12月22日)や、建造物に多数のビラを貼り付ける行為(最決昭和41年6月10日)も、判例は毀棄・損壊に当たるとしています。
効用を害する行為とする見解と物理的な破壊に限る見解とで、隠匿や汚損の結論が分かれます
毀棄・損壊を、対象物の効用を害する一切の行為とする見解からは、物を隠す行為も、持ち主が使えなくなる以上、毀棄・損壊に当たることになります。食器への放尿が食器を破壊することと同視されるという説明は、この見解の論拠になります。この見解によれば、効用が害されたかを判断するので、原状回復の難易も考慮されることになります。この見解によれば、他人が観賞用に鳥籠で飼っている小鳥を屋外に逃がした場合には器物損壊罪が成立し、公衆トイレの外壁に美観を著しく損ねる落書きをして使用継続を困難にさせ、原状回復に相当の費用を生じさせた場合には建造物損壊罪が成立することになります。これに対し、対象物の全部または一部を物理的に破壊・毀損する行為に限るとする見解からは、建物の美観・外観を汚損するにとどまるビラ貼り行為は「損壊」に当たらないことになります。この見解によれば、他人の宝石を隠しても器物損壊罪は成立せず、裁判所から隠匿目的で競売記録を持ち出して自宅で保管しても公用文書毀棄罪は成立しないことになります。なお、器物損壊罪の客体は、どちらの見解によっても、文書や建造物以外の他人の物であり、動産に限られず土地などの不動産を含みます。
- 食器への放尿効用を害する行為とする見解:損壊に当たる/物理的な破壊に限る見解:当たらない
- 物を隠す(宝石・競売記録)効用を害する行為とする見解:毀棄・損壊に当たる/物理的な破壊に限る見解:当たらない
- 小鳥を鳥籠から逃がす効用を害する行為とする見解:器物損壊罪が成立する
- 外壁への落書き・ビラ貼り効用を害する行為とする見解:美観を著しく損ね原状回復が困難なら損壊/物理的な破壊に限る見解:美観の汚損にとどまれば当たらない
- 原状回復の難易効用を害する行為とする見解では考慮される
信書隠匿罪の位置づけは、損壊の意義についての見解によって説明が変わります
263条は、他人の信書を隠匿した者を、器物損壊罪より軽い刑で処罰しています。効用を害する行為とする見解からは、隠匿も損壊の一形態ですから、信書隠匿罪は、器物損壊罪の構成要件にも当たる行為を特に軽く処罰する規定と解することになります。この見解の中でも、信書の「隠匿」だけを軽く処罰する規定と解すれば、信書を隠した場合は信書隠匿罪、信書を破った場合は器物損壊罪になります。信書の「損壊」全体を軽く処罰する規定と解すれば、信書を隠した場合も破った場合も信書隠匿罪になり、器物損壊罪にはなりません。これに対し、物理的な破壊に限る見解からは、隠匿は毀棄・損壊の一形態ではありません。この見解からは、信書隠匿罪は、信書の隠匿によって名宛人がその情報に接することが妨げられるために、処罰範囲を隠匿にまで広げて特に設けられた規定と説明することになります。この見解によれば、信書を破った場合は器物損壊罪が成立し、信書を隠した場合は信書隠匿罪が成立します。
物理的な破壊に限る見解には、隠匿目的の持ち去りを処罰できなくなるという批判が向けられます
窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要であり、単に隠したり捨てたりする目的で他人の物を持ち去った場合は、利用・処分する意思を欠くので窃盗罪は成立しません。最決平成16年11月30日(毀棄目的と不法領得の意思)も、廃棄するだけで他に何らかの用途に利用・処分する意思がなかった場合には不法領得の意思を認めることができないとしています。この場合、効用を害する行為とする見解からは、隠匿や廃棄を毀棄・損壊として毀棄の罪で処罰できます。物理的な破壊に限る見解に立つと、隠匿目的で他人の物の占有を取得する行為は、窃盗罪でも毀棄の罪でも処罰できなくなります。この批判は、効用を害する行為とする見解から、物理的な破壊に限る見解に対して向けられるものです。反対に、効用を害する行為とする見解に対しては、損壊という言葉の日常的な意味から離れ、処罰範囲が広がりすぎるという批判が向けられます。
盗んだ物を後で壊しても、窃盗罪とは別に器物損壊罪は成立しません
窃盗犯人が、盗んだ物を後で壊したり焼いたりした場合、所有者の所有権に対する侵害は、すでに窃盗罪によって評価されています。「甲は、転売目的でA所有のバッグを盗み、自宅に持ち帰ったが、転売先が見付からなかったため、同バッグを焼却した。この場合、甲に窃盗罪及び器物損壊罪が成立し、両罪は併合罪となる」という肢は誤りです。「甲は,乙方から絵画を盗み,自宅に持ち帰ったが,その後売却先が見付からなかったため,その絵画を破り捨てた。甲には,窃盗罪と器物損壊罪が成立し,両罪は併合罪となる」という肢も誤りです。盗品の損壊は、窃盗罪によって通常予想される違法状態の範囲内の行為であり、不可罰的事後行為として、別に器物損壊罪を構成しません。これに対し、盗んだ物を使って別の被害者の財産を侵害した場合、たとえば盗んだ通帳で預金の払戻しを受けた場合は、新たな法益侵害があるので別の罪が成立します。
刑法261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法263条
他人の信書を隠匿した者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
論文ではこう使う
論文では、物を持ち去って捨てた、隠したという事例で、窃盗罪の不法領得の意思を否定した後の受け皿として現れます。答案では、窃盗罪について権利者排除意思と利用処分意思を検討し、専ら隠匿・廃棄の目的であったときは利用処分意思を欠くとして窃盗罪を否定します。次に、器物損壊罪や文書毀棄罪を検討し、「損壊」「毀棄」とは物の効用を害する一切の行為をいうと定義を示したうえで、隠匿や廃棄によって持ち主がその物を利用できなくなったことを認定します。落書きや汚損の事例では、最決平成18年1月17日に沿って、外観・美観の汚損の程度と、原状回復の難しさ・費用を具体的に拾い、建物や物の効用が減損されたかを評価します。軽微で容易に元に戻せる汚れにとどまる場合は損壊を否定する余地があることにも触れます。客体に応じて、公用文書、私用文書、建造物、その他の物のどの罪に当たるかを最後に確定します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。