第915条相続の承認又は放棄をすべき期間過去問 7
1相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
この条文の過去問 7問
家庭裁判所に申述が受理された相続の放棄は、撤回することができない。
解説
本肢は正しい。民法919条1項は、「相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない」と定める。すなわち、熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月)がなお残っている段階であっても、いったん承認または放棄をした以上、これを任意に翻すことは許されない。趣旨は、相続財産をめぐる法律関係に利害を有する他の共同相続人・次順位相続人・相続債権者・第三者の地位を早期に安定させる点にある。相続の放棄は家庭裁判所への申述という要式行為であり(938条)、申述が受理されればその効力が生じ、放棄者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされる(939条)ところ、これを撤回できるとすれば相続人の範囲が事後的に動き、取引の安全を害するからである。もっとも、撤回が許されないことと取消しが許されないこととは別問題であり、919条2項は総則・親族編の規定による取消し(制限行為能力・詐欺・強迫等)を妨げないとし、同条3項・4項でその期間制限と家庭裁判所への申述という方式を定める。本肢は撤回の可否を問うものであるから、919条1項どおり撤回することができないとするのが正しい。
家庭裁判所に申述が受理された相続の放棄は、撤回することができない。
解説
本肢は正しい。民法919条1項は、「相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない」と定める。すなわち、熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月)がなお残っている段階であっても、いったん承認または放棄をした以上、これを任意に翻すことは許されない。趣旨は、相続財産をめぐる法律関係に利害を有する他の共同相続人・次順位相続人・相続債権者・第三者の地位を早期に安定させる点にある。相続の放棄は家庭裁判所への申述という要式行為であり(938条)、申述が受理されればその効力が生じ、放棄者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされる(939条)ところ、これを撤回できるとすれば相続人の範囲が事後的に動き、取引の安全を害するからである。もっとも、撤回が許されないことと取消しが許されないこととは別問題であり、919条2項は総則・親族編の規定による取消し(制限行為能力・詐欺・強迫等)を妨げないとし、同条3項・4項でその期間制限と家庭裁判所への申述という方式を定める。本肢は撤回の可否を問うものであるから、919条1項どおり撤回することができないとするのが正しい。
相続人が未成年者であるときは、相続の承認又は放棄をすべき期間は、その法定代理人が未成年者のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
解説
本肢は正しい。民法915条1項本文は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に単純承認、限定承認又は放棄をしなければならないと定め(熟慮期間)、917条は「相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と定める。承認・放棄は相続人の財産関係を確定させる重要な意思表示であり、制限行為能力者本人の認識を基準に熟慮期間を進行させると、本人が事態を理解できないまま期間が経過して法定単純承認(921条2号)が生じかねない。そこで法は、本人に代わって判断すべき法定代理人の認識を起算点とし、制限行為能力者を保護したものである。したがって、相続人が未成年者であるときは、その法定代理人が当該未成年者のために相続の開始があったことを知った時から熟慮期間が起算されることになり、本肢は条文どおりで正しい。なお、熟慮期間の起算点については、相続財産が全く存在しないと信ずるにつき相当な理由がある場合には相続財産の全部又は一部の存在を認識した時等から起算するとした判例がある(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。また、成年年齢引下げ(令和4年4月1日施行)により未成年者の範囲は18歳未満となったが、917条の適用構造自体に変更はない。
相続の放棄は,相続の承認又は放棄をすべき期間内は,撤回することができる。
解説
本肢は誤り。919条1項は、「相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない」と定める。すなわち、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という熟慮期間(915条1項)が経過していない段階であっても、いったんした相続の放棄を任意に撤回することはできない。その趣旨は、相続の放棄が家庭裁判所への申述という要式行為とされており(938条)、放棄によって当該相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされる(939条)結果、他の共同相続人の相続分や相続債権者・後順位相続人の地位が確定的に定まる点にある。事後の翻意を許せば、これらの利害関係人の地位が覆され、法律関係が著しく不安定となるため、熟慮期間内であっても撤回を認めないこととしたのである。したがって、「相続の承認又は放棄をすべき期間内は撤回することができる」とする本肢は、919条1項に正面から反し誤りである。もっとも、撤回の禁止は、瑕疵ある意思表示の取消しまで排除する趣旨ではない。919条2項は、総則編および親族編の規定により承認・放棄の取消しをすることを妨げないとしており、制限行為能力(5条2項等)や詐欺・強迫(96条1項)を理由とする取消しは可能である。ただし、その取消権は追認をすることができる時から6か月、承認・放棄の時から10年で消滅し(同条3項)、取消しは家庭裁判所への申述によってしなければならない(同条4項)。
遺産分割は,相続の承認又は放棄をすべき期間内には,することができない。
解説
本肢は誤り。民法は、遺産分割の時期について、被相続人が遺言で分割を禁じた場合(908条1項。禁止できる期間は相続開始時から5年を超えない範囲)や、家庭裁判所が期間を定めて分割を禁じた場合(907条2項ただし書、908条4項)などの例外を除き、共同相続人は「いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定めており(907条1項)、分割自由の原則を採用している。相続の承認・放棄をすべき期間(熟慮期間。915条1項)内は遺産分割をすることができないという制限規定は存在しない。したがって、熟慮期間中であっても、共同相続人が確定している限り遺産分割協議を成立させることは可能である。もっとも、実質的には、相続人が遺産分割協議に加わって遺産を処分することは相続財産の処分(921条1号)に当たり、法定単純承認の効果を生じ得るため、その後に放棄をすることは原則としてできなくなる。これは分割が禁止されているからではなく、分割への関与が単純承認とみなされる結果にすぎない。よって、熟慮期間内には遺産分割ができないとする本肢は誤りである。
相続の放棄をした者は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であっても,これを撤回することはできない。
解説
本肢は正しい。相続の承認及び放棄は、915条1項の熟慮期間内であっても撤回することができない(919条1項)。相続の放棄は家庭裁判所への申述という要式行為であり(938条)、放棄をした者はその相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされる(939条)。その結果、後順位者が相続人となり、また相続債権者の引当てとなる責任財産の帰属先も変動するなど、多数の利害関係人の地位が一挙に確定的に動く。この法律関係を早期に安定させる要請から、たとえ熟慮期間が残っていても、単なる翻意による撤回は認められないとされたのである。もっとも、919条1項が封じるのは撤回にとどまり、意思表示に瑕疵がある場合の取消しまで否定する趣旨ではない。すなわち、制限行為能力を理由とする取消し(5条2項等)や詐欺・強迫を理由とする取消し(96条1項)など、民法総則・親族編の規定による取消しは妨げられない(919条2項)。ただし、この取消権は追認をすることができる時から6か月、承認又は放棄の時から10年の経過で消滅し(919条3項)、限定承認又は放棄の取消しは家庭裁判所への申述によってしなければならない(919条4項)。本肢は撤回が許されない旨のみを述べており、919条1項の内容と一致する。
単独で金銭債務を負う債務者が死亡し,複数の相続人がいる場合,遺産分割によってその金銭債務を負う者が決定するまでの間は,その債務について消滅時効は中断する。
解説
本肢は誤り。時効の完成猶予・更新事由は147条から152条までに限定列挙されており、債務者が死亡して相続が開始したことや、遺産分割が未了で債務の負担者が確定していないことは、そのいずれにも該当しない。そもそも金銭債務のような可分債務は、相続開始と同時に法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて分割された債務を承継するのであって、遺産分割の対象とはならない(最判昭34.6.19)。共同相続人間で特定の者が債務を負う旨の分割協議をしても、債権者の同意がない限りこれを債権者に対抗できない。したがって、債権者は相続開始と同時に各相続人に対して権利を行使できるのであり、権利行使が妨げられている状況は存在しない。また、160条は「相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と定めるが、これは相続財産をめぐって権利行使の相手方が不明であるため権利行使が事実上困難な期間について完成猶予を認めた規定にすぎない。しかも同条にいう「相続人が確定した時」とは、915条以下の相続の承認・放棄等によって誰が相続人となるかが確定した時を指すのであり、遺産分割によって債務を負う者が決定する時を意味しない。以上より、遺産分割が成立するまでの間、消滅時効の進行が妨げられることはない。なお、「中断」は平成29年改正前の用語であり、現行法では完成猶予・更新に整理されている。