第303条先取特権の内容過去問 6
先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
この条文の過去問 6問
Bが弁済期到来後も代金債務を履行しない場合、Aは、先取特権に基づき、Bに対して甲の引渡しを請求することができる。
解説
本肢は誤り。先取特権は、法律の定める特殊な債権を有する者が債務者の財産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利であり(303条)、その効力の中核は優先弁済的効力にある。動産の売買代金債権を有するAは動産売買の先取特権を取得するが(311条5号、321条)、この担保物権は留置権(295条)や質権(342条、344条)と異なり、目的物の占有を成立要件とも存続要件ともしない非占有担保物権であって、目的物を占有し使用収益する権能を含まない。したがって、Aが把握しているのはあくまで甲の交換価値であり、Bが弁済期到来後に履行遅滞に陥ったとしても、先取特権を根拠として甲の引渡し(占有の移転)を請求することはできない。Aが権利を実現する方法は、民事執行法190条に基づき甲を差し押さえて動産競売に付し、その売却代金から優先弁済を受けること、あるいは甲が第三者に転売された場合等に304条の物上代位により代金債権等を差し押さえることであり、いずれも価値の把握にとどまる。目的物の占有を確保したいのであれば、質権の設定を受けるか、本問の別の記述にあるような所有権留保等の約定担保によるほかない。以上より、先取特権に基づく引渡請求を認める本肢は誤りである。
旅館に宿泊客が持ち込んだ手荷物がその宿泊客の所有物でなく他人の所有物であった場合,旅館主は,その手荷物がその宿泊客の所有物であると過失なく信じたときであっても,その手荷物について旅館の宿泊の先取特権を行使することはできない。
解説
本肢は誤り。先取特権は債務者の財産の上に成立するのが原則であり(303条)、旅館の宿泊の先取特権も、「宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物」について成立するものとされている(317条)。したがって、持ち込まれた手荷物が宿泊客以外の第三者の所有物であれば、本来は先取特権の目的とならないはずである。
しかし民法は、不動産賃貸・旅館宿泊・運輸という動産の上に成立する三つの先取特権について、動産の占有という外形への信頼を保護する必要が高いことから、即時取得に関する規定を準用している(319条、192条から195条まで)。すなわち、債権者が、その動産を債務者(宿泊客)の所有物であると信じ、かつそう信じたことについて過失がないときは、その動産が他人の所有物であっても先取特権を取得することができる。旅館主は宿泊客が持ち込む荷物の権利関係を逐一調査できないから、占有の外形を信頼した旅館主を保護し、宿泊契約に基づく債権の回収を確保する趣旨である。
よって、旅館主が手荷物を宿泊客の所有物であると無過失で信じた場合には、旅館の宿泊の先取特権を取得し、これを行使することができる。行使できないとする本肢は誤りである。
動産売買の先取特権者がその代金債権を第三者に譲渡した場合,その先取特権は代金債権とともに第三者に移転する。
解説
本肢は正しい。先取特権は、法律の定める特殊の債権を有する者が債務者の財産から他の債権者に先立って弁済を受ける権利であり(303条)、動産の売主は、その動産の代価及びその利息に関し、当該動産の上に先取特権を有する(311条5号、321条)。
先取特権は法定担保物権であるが、特定の債権を担保するために存在するという点では約定担保物権と変わらず、担保物権に共通の通有性である付従性・随伴性・不可分性・物上代位性を備える。随伴性とは、被担保債権が譲渡等によって他人に移転した場合に、担保権もこれに従って当然に移転するという性質をいう。先取特権について随伴性を否定すべき特段の規定はなく、被担保債権と切り離して先取特権のみを債権者のもとに残すことにも意味がない。
したがって、動産売買の先取特権者がその代金債権を第三者に譲渡すれば、当該債権を担保する動産売買の先取特権もこれに随伴して譲受人に移転する。譲受人は、目的動産について競売を申し立て、あるいは買主が転売した場合には転売代金債権に対して物上代位(304条1項)を行うこともできる。なお、動産売買の先取特権には登記等の対抗要件は不要である反面、目的動産が第三取得者に引き渡されると先取特権を行使できなくなる(333条)から、譲受人が権利を実現できるかは目的物の所在状況に左右される。以上より、本肢の記述は正しい。
宿泊客が旅館に持ち込んだ手荷物がその宿泊客の所有物でない場合,旅館の主人は,その手荷物がその宿泊客の所有物であると過失なく信じたとしても,その手荷物について先取特権を行使することができない。
解説
本肢は誤り。旅館の宿泊によって生じる債権については動産の先取特権が認められ(311条2号)、この先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、「その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する」(317条)。
先取特権は債務者の財産の上に成立する担保物権であるから(303条)、目的物が債務者以外の第三者の所有に属する場合には、本来その物の上に先取特権は成立し得ないはずである。しかし、民法は、不動産賃貸・旅館宿泊・運輸の各先取特権について、192条から195条までの即時取得の規定を準用する旨を定めている(319条)。旅館の主人は、宿泊客が持ち込んだ手荷物が誰の所有に属するかを一々調査することが事実上不可能であり、持込みという外観を信頼して宿泊サービスを提供せざるを得ない立場にある。そこで、この外観への信頼を保護し、旅館営業に伴う短期・少額の債権の回収を確保するために、動産取引における即時取得と同様の保護を与えたのである。
したがって、持ち込まれた手荷物が宿泊客の所有物でなかったとしても、旅館の主人が宿泊客の所有物であると平穏かつ公然に信じ、そう信じたことに過失がなければ、319条・192条により先取特権を取得し、これを行使することができる。過失なく信じた場合であっても先取特権を行使することができないとする本肢の記述は、319条の趣旨に反し誤りである。
債権者は,債務者との合意によって先取特権の設定を受けることはできないが,債務者との合意により留置権の設定を受けることはできる。
解説
本肢は誤り。先取特権も留置権も、いずれも法律の定める要件が備わったときに当然に成立する法定担保物権であり、当事者の合意によって設定することはできない。前段は正しいが、後段が誤っている。
すなわち、先取特権は、民法303条が「債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と定めるとおり、306条以下・311条以下・325条以下に列挙された特定の債権について法律上当然に発生する権利であって、約定によって新たに創設することは認められない。これに対し合意によって設定する担保物権は、質権(342条以下)および抵当権(369条以下)という約定担保物権に限られる。
留置権もまた同様であり、295条1項本文は「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」と定める。したがって、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権(牽連性のある債権)を有すること、③債権が弁済期にあること(同条1項ただし書)、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(同条2項)という法定の要件が満たされれば、当事者の意思にかかわらず留置権が成立する。逆に、これらの要件を欠く場合に、当事者間の合意によって「留置権を設定する」ことはできない。
もっとも、当事者が契約により債務の履行があるまで目的物を引き渡さない旨を合意することは契約自由の範囲で可能であるが、それは債権的な引渡拒絶の合意にすぎず、第三者にも対抗できる物権としての留置権が発生するわけではない点に注意を要する。
留置権者は,留置物について留置権に基づき競売を申し立てることができ,換価金から優先的に弁済を受けることができる。
解説
本肢は誤り。留置権者が留置物について競売を申し立てること自体は認められているが、その換価金から優先的に弁済を受けることはできない。後段が誤っている。
まず前段について、民事執行法195条は「留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による」と定めており、留置権者は形式競売(換価のための競売)を申し立てることができる。留置権者は目的物を保管し続けなければならず(298条1項の善管注意義務)、その負担から解放される必要があるためである。
しかし、留置権は目的物を留置して債務者に心理的圧迫を加え、事実上弁済を促すという効力(事実上の優先弁済的効力)を有するにとどまり、法律上の優先弁済権を伴わない。優先弁済権を明文で認めるのは、先取特権(303条)、質権(342条)、抵当権(369条1項)であり、留置権にはこれに対応する規定が存在しない。したがって、民事執行法195条による競売は担保権実行としての競売の手続を借用するだけの換価手続にすぎず、その売却代金は本来所有者(債務者)に交付されるべきものである。留置権者は、交付されるべき代金の上に留置権類似の地位を及ぼす(あるいは引渡しを拒む)にとどまり、他の債権者が配当要求をした場合には、一般債権者として債権額に応じた按分弁済を受けるにすぎない。
なお、留置権者が留置物から生じた果実については、297条により他の債権者に先立って弁済に充当することができるが、これは果実に限った例外であり、留置権に一般的な優先弁済権を認めたものではない。