第295条留置権の内容過去問 23
1他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
この条文の過去問 23問
甲社が乙社から買った目的物の代金をその弁済期になっても支払わない場合には、別段の意思表示がない限り、乙社は、甲社から修理のために預かっていた別の動産であって甲社が所有するものの返還を拒むことができる。
解説
本肢は正しい。商法521条本文は、商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者はその債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者所有の物又は有価証券を留置することができると定める。会社である甲社・乙社は商人であり(会社法5条、商法4条参照)、その事業としてする売買も修理の委託も双方のために商行為となるから、本肢は商人間の留置権の要件を検討すべき場面である。
民法上の留置権(民法295条1項)は、留置する物「に関して生じた債権」であることを要し、被担保債権と留置物との間の個別的牽連性を要求する。これに対し商事留置権は、継続的取引関係にある商人間の与信を包括的に担保するため、この牽連性を要件から外し、代わりに、被担保債権が双方的商行為から生じたこと、留置物が債務者の所有に属すること、その占有取得原因が債務者との間の商行為であることを要件とする。本肢では、被担保債権である売買代金債権は双方的商行為である売買から生じ、弁済期も到来している。留置の対象となる動産は債務者甲社の所有物であり、乙社はこれを修理の委託という甲社との間の商行為によって占有するに至っている。売買代金債権と修理のため預かった動産との間に個別の牽連性はないが、商事留置権ではこれは要件とならない。
また同条ただし書は当事者の別段の意思表示があるときは留置権が成立しないとするところ、本肢は「別段の意思表示がない限り」との留保を付している。よって乙社は当該動産の返還を拒むことができ、本肢は正しい。
Aが所有する動産甲についてBが留置権を行使している場合において、CがBのもとから甲を窃取したときは、Bは、Cに対して、占有回収の訴えによって甲の返還を求めることができない。
解説
本肢は誤り。197条後段は「他人のために占有をする者も、同様とする」と定め、他主占有者にも占有の訴えを認めている。留置権者は、他人の物を債権の担保として自己のために所持する者であり(295条1項本文)、当然に占有者として占有訴権を有する。したがって、Bは甲を窃取したCに対し、占有回収の訴えにより甲の返還を請求することができる(200条1項)。
確かに302条本文は「留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する」と定めており、留置権は占有の継続を存続要件とする。しかし、占有を奪われた場合には203条ただし書が働き、占有者が占有回収の訴えを提起したときは占有権は消滅しない扱いとなる。判例・通説によれば、占有回収の訴えに勝訴して現実に物の返還を受けたときは、侵奪の間も占有が継続していたものと擬制され、その結果、留置権も消滅しなかったことになる。つまり、占有回収の訴えは留置権者にとって自己の担保権を回復する手段としても機能するのであり、留置権行使中の占有者であることは占有訴権を否定する理由にならない。
よって、Bが占有回収の訴えによる返還請求をできないとする本肢は誤りである。
AがBの所有する甲建物を権原がないことを知りながら占有を開始した場合であっても、その後にAが甲に関して生じた債権を取得したときは、Aは、その債権の弁済を受けるまで、甲を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権は、他人の物を占有する者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで目的物を留置できる法定担保物権である(民法295条1項本文)。もっとも、同条2項は「占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない」と定め、占有取得の態様が不法行為に当たるときは留置権の成立自体を否定する。これは、自ら違法に他人の物を支配した者に、その物を人質として債権の回収を図る地位を与えるのは公平に反するという、留置権の趣旨(当事者間の公平)から導かれる制限である。
本肢のAは、甲建物を占有する権原がないことを認識しながら占有を開始しており、Bの所有権を侵害する故意の侵奪として、その占有は不法行為によって始まったものといえる。したがって、占有開始後にAが甲について必要費・有益費の償還請求権など甲に関して生じた債権を取得したとしても、295条2項によって留置権は成立せず、Aは弁済を受けるまで甲を留置することはできない。
なお、判例は、占有開始時には権原があったが後にこれを失い、その事実を知りながら(または過失により知らずに)占有を継続した者が費用を支出した場合についても、295条2項を類推適用して留置権の成立を否定している(最判昭和46年7月16日、最判昭和51年6月17日)。本肢は占有開始時から悪意である以上、同項が直接適用される場面であり、結論は一層明らかである。
留置権者は、留置物の滅失によって債務者が受けるべき保険金請求権に対しても、これを差し押さえることにより留置権を行使することができる。
解説
本肢は誤り。物上代位とは、担保目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても担保権の効力が及ぶという性質であり、民法304条が先取特権について定め、350条により質権に、372条により抵当権に準用されている。これらはいずれも目的物の交換価値を把握して優先弁済を受ける権利であるため、その価値の代替物にも効力を及ぼす必要があるからである。
これに対し留置権は、目的物を手元にとどめて引渡しを拒むことにより債務者に心理的圧迫を加え、間接的に弁済を促す権利にすぎず(295条1項本文)、目的物を換価して他の債権者に優先して弁済を受ける権利ではない。優先弁済的効力を欠く以上、目的物の価値代替物を捕捉する必要もなく、304条を留置権に準用する規定は置かれていない。したがって、留置権には物上代位性が認められないというのが一般的な理解である。
よって、留置物が滅失して債務者が保険金請求権を取得したとしても、留置権者がこれを差し押さえて留置権を行使することはできない。なお、留置物が滅失すれば留置の対象自体が失われるため、留置権は目的物の消滅により消滅する。留置権者としては、被担保債権について一般債権者として保険金請求権を差し押さえるほかない。
AがBの所有する甲建物を権原がないことを知りながら占有を開始した場合であっても、その後にAが甲に関して生じた債権を取得したときは、Aは、その債権の弁済を受けるまで、甲を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権は、他人の物を占有する者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで目的物を留置できる法定担保物権である(民法295条1項本文)。もっとも、同条2項は「占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない」と定め、占有取得の態様が不法行為に当たるときは留置権の成立自体を否定する。これは、自ら違法に他人の物を支配した者に、その物を人質として債権の回収を図る地位を与えるのは公平に反するという、留置権の趣旨(当事者間の公平)から導かれる制限である。
本肢のAは、甲建物を占有する権原がないことを認識しながら占有を開始しており、Bの所有権を侵害する故意の侵奪として、その占有は不法行為によって始まったものといえる。したがって、占有開始後にAが甲について必要費・有益費の償還請求権など甲に関して生じた債権を取得したとしても、295条2項によって留置権は成立せず、Aは弁済を受けるまで甲を留置することはできない。
なお、判例は、占有開始時には権原があったが後にこれを失い、その事実を知りながら(または過失により知らずに)占有を継続した者が費用を支出した場合についても、295条2項を類推適用して留置権の成立を否定している(最判昭和46年7月16日、最判昭和51年6月17日)。本肢は占有開始時から悪意である以上、同項が直接適用される場面であり、結論は一層明らかである。
留置権者は、留置物の滅失によって債務者が受けるべき保険金請求権に対しても、これを差し押さえることにより留置権を行使することができる。
解説
本肢は誤り。物上代位とは、担保目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても担保権の効力が及ぶという性質であり、民法304条が先取特権について定め、350条により質権に、372条により抵当権に準用されている。これらはいずれも目的物の交換価値を把握して優先弁済を受ける権利であるため、その価値の代替物にも効力を及ぼす必要があるからである。
これに対し留置権は、目的物を手元にとどめて引渡しを拒むことにより債務者に心理的圧迫を加え、間接的に弁済を促す権利にすぎず(295条1項本文)、目的物を換価して他の債権者に優先して弁済を受ける権利ではない。優先弁済的効力を欠く以上、目的物の価値代替物を捕捉する必要もなく、304条を留置権に準用する規定は置かれていない。したがって、留置権には物上代位性が認められないというのが一般的な理解である。
よって、留置物が滅失して債務者が保険金請求権を取得したとしても、留置権者がこれを差し押さえて留置権を行使することはできない。なお、留置物が滅失すれば留置の対象自体が失われるため、留置権は目的物の消滅により消滅する。留置権者としては、被担保債権について一般債権者として保険金請求権を差し押さえるほかない。
建物の賃借人は,造作買取請求権の行使によって生じた賃貸人に対する代金債権を被担保債権として,建物について留置権を行使することができる。
解説
本肢は誤り。建物賃借人が賃貸人の同意を得て建物に付加した造作については、賃貸借終了時に時価での買取りを請求することができ(借地借家法33条1項)、この形成権の行使により造作代金債権が発生する。問題は、この代金債権を被担保債権として建物自体に留置権(295条1項)を行使できるかであり、牽連性すなわち「その物に関して生じた債権」といえるかが争点となる。判例は、造作買取代金債権はあくまで造作という独立の動産に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではないとして、建物についての留置権の成立を否定している(最判昭和29年1月14日)。造作は建物とは別個の物であり、賃借人は造作そのものについては留置権を主張し得ても、これを被担保債権として建物全体の明渡しを拒むことは、債権額と留置により拘束される財産価値との著しい不均衡を招き、留置権の趣旨に反するからである。同様の理由から、判例は造作代金債権と建物明渡義務との同時履行の抗弁も否定している。これに対し、必要費・有益費の償還請求権(608条)は建物自体に投下された費用に関する債権であるから建物との牽連性が認められ、建物について留置権が成立する点と対比して理解すべきである。よって、造作買取代金債権を被担保債権として建物に留置権を行使できるとする本肢は誤りである。
建物の賃借人が,賃貸借終了後,有益費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使している場合において,賃貸人の請求により裁判所がその償還について期限を許与したときは,留置権は消滅する。
解説
本肢は正しい。賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸借終了時に、価格の増加が現存する場合に限り、賃貸人の選択に従い支出額または増価額の償還を請求することができる(608条2項本文、196条2項)。この有益費償還請求権は目的物自体に関して生じた債権であるから牽連性が認められ、賃借人は建物について留置権を行使し得るのが原則である。もっとも、留置権が成立するためには被担保債権が弁済期にあることを要する(295条1項ただし書)。そして608条2項ただし書は、有益費償還請求について、裁判所が賃貸人の請求により相当の期限を許与することができると定めている。裁判所が期限を許与すると、有益費償還請求権は弁済期未到来の債権となるから、295条1項ただし書により留置権は成立の基礎を失い、既に行使されていた留置権も消滅する。これは、増価分の回収という賃借人の利益に対し、賃貸人が高額の有益費の即時支払を強いられて目的物の返還を長期間受けられなくなる不利益を調整する趣旨の制度である。したがって、期限の許与があったときは賃借人は留置権による明渡拒絶をすることができず、本肢は正しい。なお、留置権者が留置物について有益費を支出した場合の償還請求についても、同様に裁判所による期限の許与が認められている(299条2項ただし書)。
他人の物の占有者は,その物に関して生じた債権が弁済期にないときであっても,その物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権の成立要件は、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権(牽連関係のある債権)を有すること、③その債権が弁済期にあること、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(295条2項)である。このうち③について、295条1項は本文で「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」と定めつつ、ただし書で「その債権が弁済期にないときは、この限りでない」と明示している。
これは、弁済期前の債務者は期限の利益(136条1項)を有しており、まだ履行を請求できない段階で目的物の引渡しを拒み事実上の履行強制を及ぼすことは、その期限の利益を奪うに等しく不当だからである。
この帰結が具体的に問題となる典型例が有益費償還請求権である。占有者や賃借人の有益費償還請求について、裁判所が回復者・賃貸人の請求により相当の期限を許与したとき(196条2項ただし書、608条2項ただし書)は、その債権が弁済期にない状態となるため、留置権は成立しない。これに対し必要費償還請求権は直ちに請求できるため、留置権の被担保債権となり得る。
したがって、弁済期にないときであっても留置できるとする本肢は、295条1項ただし書に反し誤りである。
留置権者は,留置権に基づき,目的物の競売を申し立てることはできない。
解説
本肢は誤り。留置権は目的物を留置して弁済を間接的に促す権利であって(295条1項)、抵当権や質権のように目的物の交換価値を把握して優先弁済を受ける権利ではない。しかし、優先弁済権がないからといって換価が一切できないとすると、留置権者は被担保債権の弁済があるまで保管義務(298条1項の善管注意義務)を負ったまま目的物を抱え続けることになり、その負担は著しい。そこで民事執行法195条は、留置権による競売について担保権の実行としての競売の例による旨を定め、留置権者に形式的競売の申立権を認めている。
この競売は債権回収そのものを目的とするものではなく、留置の負担から留置権者を解放し目的物を換価金に換える手続(換価のための競売)と位置づけられる。したがって、売却代金から留置権者が当然に優先弁済を受けられるわけではなく、他の債権者が配当要求をすれば債権額に応じた平等の割合による弁済にとどまると解されている。
もっとも、留置権者には果実からの優先弁済(297条)や、費用償還請求権(299条)を被担保債権として改めて留置する余地があり、また事実上の優先弁済的機能は留置的効力そのものによって確保されている。
よって、競売を申し立てることができないとする本肢は誤りである。
他人の物の占有者は,その物に関して生じた債権が弁済期にないときであっても,その物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権の成立要件は、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権(牽連関係のある債権)を有すること、③その債権が弁済期にあること、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(295条2項)である。このうち③について、295条1項は本文で「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」と定めつつ、ただし書で「その債権が弁済期にないときは、この限りでない」と明示している。
これは、弁済期前の債務者は期限の利益(136条1項)を有しており、まだ履行を請求できない段階で目的物の引渡しを拒み事実上の履行強制を及ぼすことは、その期限の利益を奪うに等しく不当だからである。
この帰結が具体的に問題となる典型例が有益費償還請求権である。占有者や賃借人の有益費償還請求について、裁判所が回復者・賃貸人の請求により相当の期限を許与したとき(196条2項ただし書、608条2項ただし書)は、その債権が弁済期にない状態となるため、留置権は成立しない。これに対し必要費償還請求権は直ちに請求できるため、留置権の被担保債権となり得る。
したがって、弁済期にないときであっても留置できるとする本肢は、295条1項ただし書に反し誤りである。
留置権者は,留置権に基づき,目的物の競売を申し立てることはできない。
解説
本肢は誤り。留置権は目的物を留置して弁済を間接的に促す権利であって(295条1項)、抵当権や質権のように目的物の交換価値を把握して優先弁済を受ける権利ではない。しかし、優先弁済権がないからといって換価が一切できないとすると、留置権者は被担保債権の弁済があるまで保管義務(298条1項の善管注意義務)を負ったまま目的物を抱え続けることになり、その負担は著しい。そこで民事執行法195条は、留置権による競売について担保権の実行としての競売の例による旨を定め、留置権者に形式的競売の申立権を認めている。
この競売は債権回収そのものを目的とするものではなく、留置の負担から留置権者を解放し目的物を換価金に換える手続(換価のための競売)と位置づけられる。したがって、売却代金から留置権者が当然に優先弁済を受けられるわけではなく、他の債権者が配当要求をすれば債権額に応じた平等の割合による弁済にとどまると解されている。
もっとも、留置権者には果実からの優先弁済(297条)や、費用償還請求権(299条)を被担保債権として改めて留置する余地があり、また事実上の優先弁済的機能は留置的効力そのものによって確保されている。
よって、競売を申し立てることができないとする本肢は誤りである。
留置権は,債務者以外の者の物についても成立する。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その弁済を受けるまで目的物を留置することができる法定担保物権である(295条1項本文)。ここでの「他人の物」とは、占有者自身の所有物ではないという意味にとどまり、その所有者が被担保債権の債務者であることまでは要求されていない。留置権の成立要件は、①他人の物の占有、②その物に関して生じた債権の存在(牽連性)、③被担保債権の弁済期の到来(同項ただし書)、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(同条2項)であり、目的物の所有者と債務者が同一人であることは要件とされていないのである。判例も、留置権の成立後に債務者から目的物を譲り受けた第三取得者に対して留置権者が留置権を主張できることは、留置権が物権であることから当然であるとしている(最判昭和47年11月16日)。この場面では目的物の所有者は債務者ではない第三取得者であり、まさに債務者以外の者の物の上に留置権が存続していることになる。したがって、債務者以外の者の物についても留置権が成立し得るとする本肢は正しい。
AがBから甲建物を賃借していたが,Aの賃料不払によりその賃貸借契約が解除された後,明渡しの準備をしている間にAが甲建物について有益費を支出した場合,Aは,Bに対し,その費用の償還請求権を被担保債権とする留置権を行使して甲建物の明渡しを拒むことはできない。
解説
本肢は正しい。賃借人が賃借物について支出した有益費の償還請求権(608条2項)は、目的物自体から生じた債権であるから「その物に関して生じた債権」に当たり、本来は留置権の被担保債権となり得る。しかし、民法295条2項は「占有が不法行為によって始まった場合」には留置権が成立しない旨を定める。これは、自ら違法に占有を開始した者に留置による優先的満足を与えるのは公平に反するという留置権の趣旨(当事者間の公平の確保)に基づく政策的規定である。
本肢では、Aの占有は賃貸借契約に基づき適法に開始されており、条文の文言をそのまま当てはめれば295条2項は適用されない。しかし、賃料不払を理由に賃貸借契約が解除された後は、Aは占有権原を失っており、その状態で支出した費用について留置権を認めることは、占有開始時から不法占有であった場合と実質的に異ならない。そこで判例は、賃貸借契約解除後、占有権原のないことを知りながら不法に占有を継続する間に支出した有益費の償還請求権については、295条2項の類推適用により留置権を主張することができないとした(最判昭和46年7月16日)。
したがって、Aが留置権を行使して甲建物の明渡しを拒むことはできず、本肢は正しい。
AがBから甲建物を賃借していたが,Aの賃料不払によりその賃貸借契約が解除された後,明渡しの準備をしている間にAが甲建物について有益費を支出した場合,Aは,Bに対し,その費用の償還請求権を被担保債権とする留置権を行使して甲建物の明渡しを拒むことはできない。
解説
本肢は正しい。賃借人が賃借物について支出した有益費の償還請求権(608条2項)は、目的物自体から生じた債権であるから「その物に関して生じた債権」に当たり、本来は留置権の被担保債権となり得る。しかし、民法295条2項は「占有が不法行為によって始まった場合」には留置権が成立しない旨を定める。これは、自ら違法に占有を開始した者に留置による優先的満足を与えるのは公平に反するという留置権の趣旨(当事者間の公平の確保)に基づく政策的規定である。
本肢では、Aの占有は賃貸借契約に基づき適法に開始されており、条文の文言をそのまま当てはめれば295条2項は適用されない。しかし、賃料不払を理由に賃貸借契約が解除された後は、Aは占有権原を失っており、その状態で支出した費用について留置権を認めることは、占有開始時から不法占有であった場合と実質的に異ならない。そこで判例は、賃貸借契約解除後、占有権原のないことを知りながら不法に占有を継続する間に支出した有益費の償還請求権については、295条2項の類推適用により留置権を主張することができないとした(最判昭和46年7月16日)。
したがって、Aが留置権を行使して甲建物の明渡しを拒むことはできず、本肢は正しい。
留置権,先取特権,質権及び抵当権には,いずれも物上代位性が認められる。
解説
解説は準備中です。
留置権,先取特権,質権及び抵当権には,いずれも物上代位性が認められる。
解説
解説は準備中です。
民法上の留置権の成立には,目的物と牽連性のある債権の存在及び債権者による目的物の占有が必要であるが,その債権の成立時に債権者が目的物を占有している必要はない。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するとき、その債権の弁済を受けるまでその物を留置することができる法定担保物権である(295条1項本文)。その成立要件は、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権(牽連性のある債権)が存在すること、③債権が弁済期にあること(同項ただし書)、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(同条2項)である。したがって、目的物と牽連性のある債権の存在および債権者による目的物の占有が必要であるという前段は、条文の要件そのものであり正しい。
問題は、その占有が債権の成立時点から存在していなければならないかである。条文は占有取得と債権成立の先後関係について何ら要件を置いていない。留置権は、物に関して生じた債権を有する者にその物の留置を認めることが公平に適うという趣旨から認められる法定担保物権であり、その趣旨からすれば、物と債権との間に牽連性が認められる以上、占有の取得が債権の成立より後であっても留置権を認めて差し支えない。よって、債権成立後に目的物の占有を取得した場合には、占有取得の時点で留置権が成立すると解される。
もっとも、占有が不法行為によって始まった場合には留置権は成立せず(295条2項)、判例は、占有すべき権原のないことを知りながら、または過失によって知らずに占有を継続した者が費用を支出した場合にも同項を類推適用して留置権を否定しており、後発的な占有取得が常に留置権を基礎づけるわけではない点には注意を要する。
債権者は,債務者との合意によって先取特権の設定を受けることはできないが,債務者との合意により留置権の設定を受けることはできる。
解説
本肢は誤り。先取特権も留置権も、いずれも法律の定める要件が備わったときに当然に成立する法定担保物権であり、当事者の合意によって設定することはできない。前段は正しいが、後段が誤っている。
すなわち、先取特権は、民法303条が「債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と定めるとおり、306条以下・311条以下・325条以下に列挙された特定の債権について法律上当然に発生する権利であって、約定によって新たに創設することは認められない。これに対し合意によって設定する担保物権は、質権(342条以下)および抵当権(369条以下)という約定担保物権に限られる。
留置権もまた同様であり、295条1項本文は「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」と定める。したがって、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権(牽連性のある債権)を有すること、③債権が弁済期にあること(同条1項ただし書)、④占有が不法行為によって始まったものでないこと(同条2項)という法定の要件が満たされれば、当事者の意思にかかわらず留置権が成立する。逆に、これらの要件を欠く場合に、当事者間の合意によって「留置権を設定する」ことはできない。
もっとも、当事者が契約により債務の履行があるまで目的物を引き渡さない旨を合意することは契約自由の範囲で可能であるが、それは債権的な引渡拒絶の合意にすぎず、第三者にも対抗できる物権としての留置権が発生するわけではない点に注意を要する。
抵当権者は,目的物が第三者の行為により滅失した場合,物上代位により,その第三者に対して所有者が有する損害賠償請求権から優先弁済を受けることができるのに対し,留置権者は,目的物が第三者の行為により滅失した場合には,損害賠償請求権に物上代位権を行使することができない。
解説
本肢は正しい。物上代位は、担保目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対して担保権の効力を及ぼす制度であり、先取特権について定められた304条が、質権(350条)および抵当権(372条)に準用されている。したがって、抵当目的物が第三者の不法行為により滅失した場合、抵当権者は所有者が加害者に対して取得する損害賠償請求権(709条)に物上代位し、優先弁済を受けることができる。ただし、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(304条1項ただし書)。これに対し留置権は、他人の物を占有する者が被担保債権の弁済を受けるまでその物を留置できるという留置的効力(295条1項)を有するにとどまり、目的物を換価して優先弁済を受ける権利ではない。優先弁済的効力を欠く以上、価値代替物に効力を及ぼすべき基礎もないから、304条は留置権に準用されておらず、物上代位性は認められない。よって両者を対比した本肢は正しい。なお、留置権にも果実からの弁済充当が認められている(297条)が、これは留置中の果実に関する例外的規律であり、物上代位とは性質を異にする。
抵当権者は,目的物が第三者の行為により滅失した場合,物上代位により,その第三者に対して所有者が有する損害賠償請求権から優先弁済を受けることができるのに対し,留置権者は,目的物が第三者の行為により滅失した場合には,損害賠償請求権に物上代位権を行使することができない。
解説
本肢は正しい。物上代位は、担保目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対して担保権の効力を及ぼす制度であり、先取特権について定められた304条が、質権(350条)および抵当権(372条)に準用されている。したがって、抵当目的物が第三者の不法行為により滅失した場合、抵当権者は所有者が加害者に対して取得する損害賠償請求権(709条)に物上代位し、優先弁済を受けることができる。ただし、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(304条1項ただし書)。これに対し留置権は、他人の物を占有する者が被担保債権の弁済を受けるまでその物を留置できるという留置的効力(295条1項)を有するにとどまり、目的物を換価して優先弁済を受ける権利ではない。優先弁済的効力を欠く以上、価値代替物に効力を及ぼすべき基礎もないから、304条は留置権に準用されておらず、物上代位性は認められない。よって両者を対比した本肢は正しい。なお、留置権にも果実からの弁済充当が認められている(297条)が、これは留置中の果実に関する例外的規律であり、物上代位とは性質を異にする。
留置権によって拒絶できる給付の内容は,物の引渡しであるが,同時履行の抗弁権によって拒絶することができる給付の内容は,物の引渡しに限られない。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで「その物を留置することができる」権利である(295条1項本文)。すなわち、留置権の効力は留置の対象となっている物そのものの引渡し(明渡し)を拒むという形でしか現れず、これによって拒絶できる給付の内容は物の引渡しに限られる。これに対し、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者の一方が、相手方がその債務の履行を提供するまでは「自己の債務の履行を拒むことができる」とするものであり(533条本文)、拒絶の対象は自己が負担する債務一般である。したがって、金銭の支払、労務の提供、作為・不作為債務など、物の引渡し以外の給付についても履行を拒むことができる。両者は相手方の請求を一時的に阻む延期的抗弁として機能する点で共通するが、留置権が物権であり物の留置という形態に効力が限定されるのに対し、同時履行の抗弁権は双務契約上の牽連関係に基づく債権的な抗弁であって、対象となる債務の種類を問わない点で異なる。よって、本肢の記述は正しい。
留置権によって拒絶できる給付の内容は,物の引渡しであるが,同時履行の抗弁権によって拒絶することができる給付の内容は,物の引渡しに限られない。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで「その物を留置することができる」権利である(295条1項本文)。すなわち、留置権の効力は留置の対象となっている物そのものの引渡し(明渡し)を拒むという形でしか現れず、これによって拒絶できる給付の内容は物の引渡しに限られる。これに対し、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者の一方が、相手方がその債務の履行を提供するまでは「自己の債務の履行を拒むことができる」とするものであり(533条本文)、拒絶の対象は自己が負担する債務一般である。したがって、金銭の支払、労務の提供、作為・不作為債務など、物の引渡し以外の給付についても履行を拒むことができる。両者は相手方の請求を一時的に阻む延期的抗弁として機能する点で共通するが、留置権が物権であり物の留置という形態に効力が限定されるのに対し、同時履行の抗弁権は双務契約上の牽連関係に基づく債権的な抗弁であって、対象となる債務の種類を問わない点で異なる。よって、本肢の記述は正しい。