第533条同時履行の抗弁過去問 31
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
この条文の過去問 31問
Bが建築を完成しAに引き渡した甲建物の品質が請負契約の内容に適合しない場合において、Aがその不適合を理由として修補に代わる損害賠償を請求したときは、Aは、特段の事情のない限り、その提供を受けるまで、損害相当額を限度として報酬の支払を拒むことができる。
解説
本肢は誤り。引き渡された仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合、注文者は請負人に対し、履行の追完に代わる損害賠償(民法559条・564条、415条2項)を請求できる。この損害賠償債務と請負人の報酬債権との関係につき、判例は、いずれからも相殺の意思表示がされていない場合には両債権は同時履行の関係に立ち、注文者は相手方から履行を受けるまで自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞の責任も負わないとした(最判平成9年2月14日)。この考え方は、平成29年改正で533条括弧書きに「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む」との文言が加えられたことにより、現行法上も明文の裏付けを得ている。
重要なのは、この場合に拒み得る範囲である。同時履行の抗弁は、原則として自己の債務の全部について履行を拒絶することを認めるものであり、判例も注文者は報酬残債権の全額について支払を拒むことができるとする。もっとも、不適合の程度や当事者の交渉態度等に照らし、損害賠償債権をもって報酬残額全部の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、その限りで拒絶が制限される。
本肢は、拒絶できる範囲を「損害相当額を限度として」と限定する点で判例の趣旨に反する。よって誤りである。
注文者に引き渡された仕事の目的物の品質が請負契約の内容に適合しないものである場合、注文者の報酬支払義務と、請負人の修補に代わる損害賠償義務とは、同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。同時履行の抗弁権を定める民法533条本文は、「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる」と規定し、括弧書によって、本来の債務が損害賠償債務に転化した場合にも牽連関係が維持されることを明らかにしている。請負契約において引き渡された仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は請負人に対して追完(修補)請求権を有し(民法559条・562条)、追完に代えて債務不履行に基づく損害賠償を請求することもできる(民法559条・564条、415条)。この修補に代わる損害賠償債務は、請負人の仕事完成・目的物引渡債務が転化したものであるから、その対価的債務である注文者の報酬支払債務との間に牽連関係が認められ、両者は同時履行の関係に立つ(民法533条本文括弧書)。判例も、注文者は修補に代わる損害賠償債権を有する場合、これと同時履行の関係にある報酬債務の履行を拒むことができるとしている(最判平成9年2月14日)。もっとも、注文者が信義則に反して過大な拒絶をすることは許されず、瑕疵の程度や損害賠償額と報酬額との相殺的均衡等に照らして報酬全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、その限度で同時履行の抗弁は否定される。なお、平成29年改正前は旧634条2項後段が旧533条を準用する形でこの関係を規定していたが、改正後は533条本文括弧書により同様の帰結が導かれる。
不動産の売買契約の履行として売主への代金の支払と買主への所有権移転登記がされた後、売主が第三者の詐欺を理由として売買契約を取り消した場合、代金返還義務と所有権移転登記の抹消登記手続義務とは、同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、表意者は意思表示を取り消すことができる(民法96条2項)。取り消された行為は初めから無効であったものとみなされ(民法121条)、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(民法121条の2第1項)。本肢では、売買契約の履行として代金の支払と買主への所有権移転登記が既にされているから、取消しによって、売主は受領した代金の返還義務を、買主は所有権移転登記の抹消登記手続義務をそれぞれ負い、両者は互いに原状回復義務を負う関係に立つ。判例は、売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務について、民法533条の類推適用により同時履行の関係に立つとしている(最判昭和47年9月7日)。その趣旨は、契約解除の場合に原状回復義務相互の同時履行を定める民法546条と同様、双方が互いに原状回復義務を負う場面では、公平の見地から、一方のみに先履行の危険を負わせるべきではないという点にある。したがって、代金返還義務と抹消登記手続義務とが同時履行の関係にあるとする本肢は正しい。なお、原状回復義務の内容については、無効な無償行為に基づく給付や意思無能力・制限行為能力を理由とする場合に現存利益への縮減が認められる(民法121条の2第2項・第3項)が、本肢のような詐欺取消しの場面では原則どおり全部の返還義務が生ずる。
CがBに対して受益の意思を表示した後は、AがBに甲を引き渡していない場合であっても、Bは、Cからの50万円の支払請求を拒むことができない。
解説
本肢は誤り。539条は、債務者は537条1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができると定める。第三者の権利は要約者・諾約者間の契約から生じる以上、その内容も契約自体が帯びている制約に服するのが当然であり、受益者は契約上の権利をそのままの姿で取得するにすぎないからである。したがって、諾約者は、契約の無効・取消し・解除といった事由のほか、同時履行の抗弁権(533条)も受益者に対して主張できる。
本問のAB間の契約は絵画甲の売買であり、Aの甲引渡債務とBの代金支払債務は対価的牽連関係に立つから、両者は同時履行の関係にある(533条)。代金の支払先がCとされていても、この牽連性は失われない。そうすると、AがBに甲を引き渡していない以上、Bは、Aに対して有する同時履行の抗弁を539条によりCに対しても主張し、Cからの50万円の支払請求を拒むことができる。
よって、支払請求を拒むことができないとする本肢は誤りである。
Aが引渡期日に甲の引渡しの提供をしたところ,Bが正当な理由なく受領を拒絶したため,Aの下で甲を保管中に,Aの重過失により甲が滅失したときは,Bは,代金の支払を拒むことができない。
解説
本肢は誤り。債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる(413条1項)。受領遅滞により債務者の保存義務が善管注意義務(400条)から軽減されるのである。また、受領遅滞中に当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行不能となったときは、その履行不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなされ(413条の2第2項)、債権者は反対給付の履行を拒むことができない(536条2項前段)。しかし、本肢ではAの重過失により甲が滅失しているから、自己の財産に対するのと同一の注意を尽くしたとはいえず、履行不能はAの責めに帰すべき事由によるものである。したがって413条の2第2項の適用はなく、536条2項によりBの拒絶権が否定されることもない。むしろBは、Aに対して債務の履行に代わる損害賠償を請求することができ(415条1項・2項1号)、この填補賠償債務は本来の引渡債務が変形したものとして代金支払債務と同時履行の関係に立つ(533条括弧書参照)から、Bは同時履行の抗弁により代金の支払を拒むことができる。無催告解除(542条1項1号)により代金債務を免れることもできる。よって、「支払を拒むことができない」とする本肢は誤りである。
売買契約において,Aが甲を引き渡した日から1か月後にBが代金を支払うことが定められていた場合であっても,A及びBの債務の履行後に第三者Cの詐欺を理由として契約が取り消されたときの双方の原状回復義務は,同時履行の関係に立つ。
解説
本肢は正しい。第三者Cの詐欺を理由とする取消し(96条2項)がされると、契約は初めから無効であったものとみなされ(121条)、既に給付を受けた当事者は相互に原状回復義務を負う(121条の2第1項)。すなわちAは受領した代金の返還義務を、Bは受領した時計甲の返還義務を負う。問題は、この両債務が同時履行の関係(533条)に立つかである。533条は本来「双務契約」から生じた対価的債務についての規定であるが、判例は、取消しによる巻戻しとしての原状回復義務についても、同一の契約から生じた相互に牽連する債務であり、一方のみに先履行を強いるのは公平を欠くとして、533条の類推適用により同時履行の関係を認めている(最判昭和47年9月7日民集26巻7号1327頁。売買契約が第三者の詐欺により取り消された事案で、買主の移転登記抹消義務と売主の代金返還義務が同時履行の関係に立つとした)。
次に、本肢では引渡日から1か月後に代金を支払うという後払特約があった。しかし、この特約は契約が有効に存続することを前提として本来の履行の順序を定めたものにすぎず、契約が遡及的に効力を失った後に新たに発生する原状回復義務相互の履行関係まで規律するものではない。したがって、先履行の合意があった場合でも、取消し後の双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ。よって本肢は正しい。
売買の目的物である未登記建物に隠れた瑕疵があることを理由に売買契約が解除された場合,売主の代金返還義務と買主の建物返還義務とは,同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。売買契約が解除されると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負う(545条1項本文)。そして546条は、この場合について533条を準用すると定めており、当事者双方が負う原状回復義務は互いに同時履行の関係に立つ。解除は契約から生じた法律関係の巻戻しであり、双務契約の対価的牽連性が清算段階でも維持されるべきだからである。本肢では、売主の負う代金返還義務(受領の時からの利息を付す必要がある。545条2項)と、買主の負う目的建物の返還義務(使用利益・果実の返還を含む。545条3項参照)とが対立しており、両者は同時履行の関係にある。目的建物が未登記であることは結論を左右しない。未登記であれば売主に移転登記義務が観念されず、買主の原状回復義務は現実の建物の返還に尽きるにすぎないからである。なお、本肢は「隠れた瑕疵」を解除原因として掲げるが、平成29年改正により瑕疵担保責任の規定(旧570条・旧566条)は削除され、現行法では引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき(契約不適合)に、買主は追完請求(562条)・代金減額請求(563条)のほか、564条により541条・542条の一般規定に基づく解除をなしうる。いずれにせよ解除の効果として546条・533条が適用される点に変わりはなく、同時履行の関係が認められるという結論は現行法でも同じである。
未成年者が行為能力の制限を理由に動産売買契約を取り消した場合,両当事者が互いに負う返還義務は,同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は取り消すことができ(5条2項)、取り消された行為は初めから無効であったものとみなされる(121条)。その結果、給付を受けた当事者は互いに原状回復義務を負う(121条の2第1項)。この双方の返還義務について、判例(最判昭和28年6月16日)は、未成年者の行為能力の制限を理由とする取消しの場合につき、契約解除による原状回復義務に関する546条に準じて533条の準用があると解するのが相当であるとし、公平の観念上、解除の場合と区別すべき理由がないことを理由として、両者は同時履行の関係に立つとした。取消しによる巻戻しの場面でも、双務契約の対価的牽連性を清算段階まで及ぼすのが当事者間の公平にかなうからである。したがって、動産売買契約が取り消された場合、売主の代金返還義務と買主の動産返還義務は同時履行の関係にあり、いずれの当事者も相手方の履行の提供があるまで自己の履行を拒むことができる。なお、現行法上、行為時に制限行為能力者であった者の返還義務は「現に利益を受けている限度」に縮減される(121条の2第3項後段)ため、未成年者側が返還すべき範囲は現存利益にとどまるが、この点は返還義務の範囲の問題であり、双方の返還義務が同時履行の関係に立つという結論を左右しない。また、成年年齢は令和4年4月1日から18歳に引き下げられている(4条)。
AがBに約定どおり甲を引き渡さなかったことから,Bは,Aに対し,平成31年4月21日,代金につき弁済の提供をしないまま,甲の引渡しを求めた。この場合,Aは,Bに対し,同時履行の抗弁権を主張して,Bからの引渡請求を拒むことができる。
解説
本肢は正しい。双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(533条本文)。ただし、相手方の債務が弁済期にないときはこの限りでない(同条ただし書)から、自己の債務が先履行とされている当事者は、原則として同時履行の抗弁権を主張できない。
もっとも、先履行義務者が履行をしないまま相手方の債務の弁済期も到来した場合には、もはや相手方に先に履行させるべき利益は失われており、両債務は同時履行の関係に立つと解されている。先履行義務者に一方的な履行を強いる理由がなく、公平の観点から双務契約における牽連性を回復させるべきだからである。
本肢では、Aの甲の引渡債務の履行期は4月10日、Bの代金支払債務の履行期は4月20日であり、Aの債務が先履行とされているが、Bが引渡しを請求した4月21日の時点ではBの代金支払債務の弁済期も既に到来している。したがって、両債務は同時履行の関係に立ち、Aは、代金の弁済の提供をしないまま引渡しを求めるBに対し、同時履行の抗弁権を主張して引渡請求を拒むことができる。よって本肢は正しい。なお、Aは同時履行の抗弁権を有する結果、履行期を徒過していても履行遅滞の違法性が阻却され、遅滞の責任を負わない。
売買契約に基づく動産の引渡しを求める訴えの請求原因に対する「原告が被告に対して代金の支払をするまで当該動産の引渡しを拒絶する。」との主張は,抗弁である。
解説
本肢は正しい。売買契約に基づく動産引渡請求の請求原因は、当該動産について売買契約を締結したこと(民法555条)に尽き、代金の支払や提供は請求原因とならない。これに対し、双務契約である売買においては、特約がない限り、目的物引渡債務と代金支払債務とは同時履行の関係に立つから(同法533条)、被告は、原告が代金を支払うまで引渡しを拒むことができる。同時履行の抗弁権が付着している事実は、売買契約の締結という請求原因事実と両立し、しかも請求権の存在自体は否定せずその行使を阻止する(引換給付判決を導く)ものであるから、権利消滅の抗弁ではなく権利行使阻止の抗弁として位置づけられる。もっとも、同時履行の抗弁権は権利抗弁であり、その存在を基礎づける事実が訴訟に顕れているだけでは足りず、被告が権利を行使する旨の意思表示(援用)をして初めて裁判所はこれを斟酌できる。本肢の「原告が被告に対して代金の支払をするまで当該動産の引渡しを拒絶する」との主張は、まさにこの援用に当たるから、抗弁として機能する。よって本肢は正しい。
売買代金の履行遅滞に基づく損害賠償請求において,同時履行の抗弁権が存在する場合には履行遅滞に陥らないとの見解に立つ場合,損害賠償を求める原告は,請求原因事実として自己の債務の履行又は履行の提供を主張立証しなければならない。
解説
本肢は正しい。双務契約の当事者は、相手方がその債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことができる(533条本文)。この同時履行の抗弁権が履行遅滞の成否に及ぼす効果については、抗弁権が存在すること自体によって履行しないことの違法性が阻却され、債務者は遅滞に陥らないとする存在効果説と、抗弁権を現実に行使して初めて履行拒絶が正当化されるとする行使効果説とが対立する。判例は前者に立ち、同時履行の抗弁権を有する者は履行期を徒過しても遅滞の責任を負わないとしている(大判大正14年10月29日)。本肢が前提とする見解はこの立場である。この立場によれば、相手方を履行遅滞に陥らせるためには、抗弁権の存在自体を失わせなければならず、そのためには自己の債務の履行または現実の提供(493条本文)をする必要がある。そして、履行遅滞に基づく損害賠償請求(415条1項)の要件として遅滞の違法性が請求原因レベルで問題となる以上、抗弁権の存在は被告が主張して初めて意味を持つ抗弁事由にとどまらず、原告の側が自己の債務の履行または履行の提供を請求原因事実として主張立証すべきこととなる。これに対し行使効果説によれば、同時履行の抗弁は被告が援用して初めて機能する抗弁として位置づけられ、主張立証責任の分配が異なる。よって、本肢の記述は正しい。
請負契約の注文者は,瑕疵修補に代わる損害賠償債権と請負代金債権が同時履行の関係にある場合には,前者を自働債権,後者を受働債権として相殺することはできない。
解説
本肢は誤り。自働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付着している場合、相殺を認めると相手方の抗弁権を一方的に奪うことになるため、原則として相殺は許されない(大判昭和13年3月1日)。しかし、判例はこの原則に例外を認めている。
最判昭和53年9月21日は、注文者の請負人に対する修補に代わる損害賠償債権を自働債権とし、請負人の請負代金債権を受働債権とする相殺を認めた。その理由は、後の最判令和2年9月11日も述べるとおり、両債権はいずれも同一の原因関係から生じた金銭債権であり、修補に代わる損害賠償は実質的・経済的には請負代金の減額として当事者間の等価関係を回復する機能を営むものであるから、両者が同時履行の関係に立つとしても相互に現実の履行をさせるべき特別の利益はなく、むしろ相殺による清算的調整を認めることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にする点にある(同判決は、この理解を前提に、相殺後に残存する請負代金債務の遅延損害金の起算点を代金支払期日の翌日と改めた)。
なお、平成29年改正により請負固有の瑕疵担保責任の規定は削除され、契約不適合については売買の規定が準用される(559条)とともに、修補に代わる損害賠償は債務不履行の一般規定(415条2項)による。履行に代わる損害賠償債務も533条本文括弧書きにより代金債務と同時履行の関係に立つが、上記判例の趣旨は現行法下でも妥当し、注文者は相殺をすることができる。よって、相殺できないとする本肢は誤りである。
売買代金の履行遅滞に基づく損害賠償請求において,同時履行の抗弁権が存在する場合には履行遅滞に陥らないとの見解に立つ場合,損害賠償を求める原告は,請求原因事実として自己の債務の履行又は履行の提供を主張立証しなければならない。
解説
本肢は正しい。双務契約の当事者は、相手方がその債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことができる(533条本文)。この同時履行の抗弁権が履行遅滞の成否に及ぼす効果については、抗弁権が存在すること自体によって履行しないことの違法性が阻却され、債務者は遅滞に陥らないとする存在効果説と、抗弁権を現実に行使して初めて履行拒絶が正当化されるとする行使効果説とが対立する。判例は前者に立ち、同時履行の抗弁権を有する者は履行期を徒過しても遅滞の責任を負わないとしている(大判大正14年10月29日)。本肢が前提とする見解はこの立場である。この立場によれば、相手方を履行遅滞に陥らせるためには、抗弁権の存在自体を失わせなければならず、そのためには自己の債務の履行または現実の提供(493条本文)をする必要がある。そして、履行遅滞に基づく損害賠償請求(415条1項)の要件として遅滞の違法性が請求原因レベルで問題となる以上、抗弁権の存在は被告が主張して初めて意味を持つ抗弁事由にとどまらず、原告の側が自己の債務の履行または履行の提供を請求原因事実として主張立証すべきこととなる。これに対し行使効果説によれば、同時履行の抗弁は被告が援用して初めて機能する抗弁として位置づけられ、主張立証責任の分配が異なる。よって、本肢の記述は正しい。
売主が目的物を引き渡し,買主が代金の一部を支払った場合において,債務不履行を理由に売買契約が解除されたときは,売主の目的物返還請求権と買主の代金返還請求権とは,同時履行の関係にない。
解説
本肢は誤り。契約が解除されると各当事者は相手方を原状に復させる義務を負うが(545条1項本文)、この原状回復義務については546条が533条を準用しており、双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ。売主が既に引き渡した目的物の返還請求権と、買主が既に支払った代金の返還請求権も、まさにこの関係にある。契約が巻き戻される局面で一方だけが先に返還を強いられるのは当事者間の公平に反するから、双務契約における牽連関係を解除後にも及ぼす趣旨である。本肢のように代金の一部しか支払われていない場合であっても結論は変わらない。判例は、解除に伴う一方の給付が可分であるときでも、その価額に比べて相手方の給付の価額が著しく少なく、相手方の履行提供まで自己の債務全部の履行を拒むことが信義則に反するといえる特段の事情がない限り、同時履行の抗弁により履行を拒める債務の範囲が一部に限定されることはないとしている(最判昭和63年12月22日)。したがって、同時履行の関係にないとする本肢は誤りである。
買主が抗弁として同時履行の抗弁を主張した場合には,売主は,代金の支払を目的物の引渡し及び所有権移転登記手続よりも先に履行する旨の合意があったことを再抗弁として主張することができる。
解説
解説は準備中です。
売買契約の目的不動産について隠れた瑕疵があり,買主が損害賠償請求権を有する場合には,売主の代金請求権と買主の損害賠償請求権は同時履行の関係にある。
解説
解説は準備中です。
請負人が仕事の目的物を引き渡した場合において,その目的物に瑕疵があり,注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償を請求したときは,注文者は,その賠償を受けるまでは報酬全額の支払を拒むことができる。
解説
本肢は正しい。引き渡された仕事の目的物が種類・品質に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は559条により準用される562条に基づき修補等の追完を請求できるほか、415条2項所定の要件の下で追完に代わる損害賠償(旧法にいう瑕疵修補に代わる損害賠償)を請求することができる。判例は、注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と請負人の報酬債権とは同時履行の関係に立ち、注文者は損害賠償の支払を受けるまで、損害賠償額が報酬額を下回る場合であっても報酬全額の支払を拒むことができ、その間は報酬債務につき履行遅滞の責任を負わないとした(最判平成9年2月14日)。平成29年改正民法は533条括弧書において同時履行の抗弁の対象に「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行」を含める旨を明記し、この帰結を条文上明らかにしている。よって、原則として報酬全額の支払を拒み得るとする本肢は正しい。もっとも、判例は、瑕疵の程度や当事者の交渉態度等に照らし、報酬残額に比して瑕疵が軽微であるなど同時履行の抗弁権を主張することが信義則に反すると認められる場合には、この限りでないとしている(最判平成9年7月15日)。
注文者は,請負人に対する目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権として,請負人の注文者に対する報酬債権と相殺することはできない。
解説
本肢は誤り。請負人は仕事の完成に対して報酬を請求できる(民法632条)一方、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときは、注文者は追完請求(559条・562条)のほか、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)をすることができる。そして、この損害賠償債務と報酬債務とは同一の双務契約から生じた対価的関係に立つ債務として同時履行の関係に立つ(533条括弧書は「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む」と定める。改正前につき最判平成9年2月14日)。
そこで、自働債権に同時履行の抗弁権が付着している場合には相殺は許されないのが原則である(大判昭和13年3月1日)から、注文者からの相殺も否定されるのではないかが問題となる。しかし、抗弁権が付着する自働債権による相殺を禁ずる趣旨は、相殺によって相手方の抗弁権を一方的に奪うことを防ぐ点にある。同一の双務契約から生じた両債権がともに金銭債権であり、対当額で決済されるにすぎない場合には、相手方の抗弁権を害することにはならず、むしろ簡易決済という相殺制度の趣旨に適う。最判昭和53年9月21日は、請負における修補に代わる損害賠償債権を自働債権とし、報酬債権を受働債権とする相殺を認めている。
したがって、注文者はこの相殺をすることができ、できないとする本肢は誤りである。なお、本肢の「瑕疵」は平成29年改正前の用語であり、現行法では契約不適合として整理されるが、結論に変わりはない。
A及びBが各自の債務を履行した後に,第三者Cの詐欺を理由としてBがAB間の売買契約を取り消した場合,AのBに対する宝石代金の返還債務とBのAに対する宝石の返還債務とは,同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。取り消された行為は初めから無効であったものとみなされ(121条)、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(121条の2第1項)。本問では、AB双方が既に代金支払・宝石引渡しを終えた後にBが第三者Cの詐欺を理由として取消しをしているから(第三者による詐欺の場合、相手方Aがその事実を知り又は知ることができたときに取消しが認められる。96条2項)、AはBに対し受領した代金100万円の返還債務を、BはAに対し受領した宝石の返還債務を、それぞれ負うことになる。この二つの返還債務は、一個の売買契約が巻き戻された結果として生じたものであり、相互に対価的な牽連関係に立つ。そこで、契約が有効に存続する場合の双務契約上の債務と同様、当事者間の公平を図るために牽連性を認めるのが相当であり、判例も、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された事案について、当事者双方の返還義務は533条の類推適用により同時履行の関係に立つと判示している(最判昭47・9・7)。したがって、Aの代金返還債務とBの宝石返還債務とが同時履行の関係にあるとする本肢は正しい。
注文者は,請負人に対する目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権として,請負人の注文者に対する報酬債権と相殺することはできない。
解説
本肢は誤り。請負人は仕事の完成に対して報酬を請求できる(民法632条)一方、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときは、注文者は追完請求(559条・562条)のほか、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)をすることができる。そして、この損害賠償債務と報酬債務とは同一の双務契約から生じた対価的関係に立つ債務として同時履行の関係に立つ(533条括弧書は「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む」と定める。改正前につき最判平成9年2月14日)。
そこで、自働債権に同時履行の抗弁権が付着している場合には相殺は許されないのが原則である(大判昭和13年3月1日)から、注文者からの相殺も否定されるのではないかが問題となる。しかし、抗弁権が付着する自働債権による相殺を禁ずる趣旨は、相殺によって相手方の抗弁権を一方的に奪うことを防ぐ点にある。同一の双務契約から生じた両債権がともに金銭債権であり、対当額で決済されるにすぎない場合には、相手方の抗弁権を害することにはならず、むしろ簡易決済という相殺制度の趣旨に適う。最判昭和53年9月21日は、請負における修補に代わる損害賠償債権を自働債権とし、報酬債権を受働債権とする相殺を認めている。
したがって、注文者はこの相殺をすることができ、できないとする本肢は誤りである。なお、本肢の「瑕疵」は平成29年改正前の用語であり、現行法では契約不適合として整理されるが、結論に変わりはない。
双務契約における一方の債権が第三者に譲渡され,譲渡人が債務者に譲渡の通知をした後その債務者が遅滞なく異議を述べなかった場合,その債務者は,その債権の譲受人からの債務の履行の請求に対し,同時履行の抗弁を主張することができない。
解説
本肢は誤り。債権が譲渡された場合、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる(468条1項)。双務契約から生じた債権には、契約の成立と同時に相手方の同時履行の抗弁権(533条)が付着しており、これは対抗要件具備時(本肢では譲渡通知の到達時。467条1項)までに譲渡人との関係で既に生じていた事由にほかならない。債権譲渡は債権の同一性を保ったまま債権が移転する制度であるから、債権に付着した抗弁もそのまま譲受人に承継され、債務者は譲受人からの履行請求に対しても同時履行の抗弁を主張できる。譲渡通知を受けた債務者が遅滞なく異議を述べなかったとしても、単なる沈黙に抗弁喪失という不利益な効果を結び付ける規定はなく、結論は変わらない。なお、出題当時の改正前468条1項は、債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは譲渡人に対抗できた事由を譲受人に対抗できないと定めていたが、これは債務者の積極的な承諾を要件とするものであり、譲渡通知に対して異議を述べなかったにとどまる本肢の事案では抗弁は切断されず(同条2項)、旧法下でも本肢は誤りであった。平成29年改正により、異議をとどめない承諾による抗弁切断の制度自体が廃止されている。
売買契約の解除により両当事者が互いに原状回復義務を負う場合,両当事者の原状回復義務は同時履行の関係にない。
解説
本肢は誤り。契約が解除されると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負い、既に給付を受けた物や金銭(金銭には受領の時からの利息を付す)を返還しなければならない(545条1項本文、2項)。売買契約が解除された場合、売主は代金を、買主は目的物を返還する義務を負うところ、これら双方の原状回復義務は、同一の契約の巻戻しとして生じた対価的な関係にある債務であるから、公平の見地から履行上の牽連関係を認めるべきである。民法もこの趣旨から、546条において「第533条の規定は、前条の場合について準用する」と定め、双務契約の同時履行の抗弁権の規定を原状回復義務に準用している。したがって、両当事者の原状回復義務は同時履行の関係に立ち、一方は相手方が原状回復義務の履行の提供をするまで自己の義務の履行を拒むことができる。同時履行の関係にないとする本肢は誤りである。
売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したが,買主がその受領を拒んだ場合には,その1週間後に売主が買主に対してワインの代金の支払を求めてきたときであっても,買主は,ワインの引渡しとの同時履行の抗弁を主張することができない。
解説
本肢は誤り。売買契約における売主の目的物引渡債務と買主の代金支払債務とは、原則として同時履行の関係に立つ(533条)。そこで、売主が一度現実の提供をしたことにより買主の同時履行の抗弁権が確定的に消滅するかが問題となる。判例は、双務契約の当事者の一方は、相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失わないとしており(最判昭和34年5月14日、同旨大判明治44年12月11日)、一度の提供によって抗弁権が消滅することはないと解している。その理由は、同時履行の抗弁権が当事者間の公平を図り、自らの給付を確保しつつ反対給付を受けるための制度である以上、提供がやんだ後になお相手方に先履行を強いる結果を認めるのは不当だからである。もっとも、一度の現実の提供によっても492条の効果は生じるから、買主は提供時以降の受領遅滞・履行遅滞の責任を免れないという点は別問題であり、両者を混同してはならない。本肢では、提供の1週間後に売主が代金の支払を求めているが、その時点で提供が継続されていない以上、買主はワインの引渡しとの同時履行の抗弁を主張することができる。したがって、これを否定する本肢は誤りである。
売買契約が詐欺を理由として取り消された場合において,相互に返還されるべき給付は,同時履行の関係にある。
解説
本肢は正しい。売買契約が詐欺を理由に取り消されると、その契約は初めから無効であったものとみなされ(121条)、給付を受けた各当事者は相手方を原状に復させる義務を負う(121条の2第1項)。すなわち売主は受領した代金の返還義務を、買主は目的物の返還義務および所有権移転登記の抹消登記手続義務を負い、両者は取消しという同一の原因から生じた対価的性質を有する債務である。533条は双務契約から生じた対立債務についての規定であるが、判例は、詐欺取消しによる双方の原状回復義務についても、当事者間の公平を図る必要があるとして同条の類推適用を認め、これらが同時履行の関係に立つとしている(最判昭和47年9月7日)。同判例は、詐欺により締結された土地売買契約が取り消された事案において、買主側の仮登記抹消登記手続義務・所有権移転登記手続義務と、売主側の受領金返還義務とが「民法五三三条の類推適用により同時履行の関係にある」と判示した。したがって、相互に返還されるべき給付が同時履行の関係に立つとする本肢は判例の趣旨に合致する。なお、平成29年改正前は原状回復義務の根拠を不当利得(703条以下)に求める説明がされていたが、現行法では121条の2が明文で原状回復義務を定めており、同時履行の結論に変わりはない。
AがBに対し動産の売買代金を請求する訴訟において,Aは,目的動産の引渡しを提供したことを請求原因として主張立証しなければならない。
解説
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その絵画は,Xから買ったものですが,まだ,引渡しを受けていません。
解説
本肢は正しい。イの陳述は、まず「Xから買った」としてXY間の売買契約の締結という請求原因事実を認めた上で、目的物である絵画の引渡しを受けていないと述べるものであり、請求原因と両立する。売買は双務契約であり、買主の代金支払債務と売主の目的物引渡債務とは対価的牽連関係に立つから、当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまで自己の債務の履行を拒むことができる(民法533条)。したがってYは同時履行の抗弁権を有し、これを行使することによってXの代金支払請求権の行使を一時的に阻止することができる。権利消滅事由ではなく、請求権の行使を遮る延期的抗弁(権利阻止の抗弁)に位置付けられ、これが認められるときは請求棄却ではなく、絵画の引渡しと引換えに代金の支払を命ずる引換給付判決がされるのが実務の扱いである。なお同時履行の抗弁権は権利抗弁であるから、その存在を基礎付ける事実が訴訟上現れているだけでは足りず、被告がこれを援用する旨の権利主張をして初めて裁判所は考慮できる。イはこの援用の意思を含む陳述と評価でき、抗弁となり得る。
その絵画は,Xから買ったものですが,まだ,引渡しを受けていません。
解説
本肢は正しい。Yは、Xから買ったこと自体は認めた上で、目的物である絵画の引渡しをまだ受けていないと述べている。これは請求原因事実(XY間の売買契約の締結)と完全に両立し、かつ代金支払を拒み得る事由の主張であるから、同時履行の抗弁権(民法533条本文)の主張として抗弁となり得る。売買は双務契約であり、売主の目的物引渡義務と買主の代金支払義務とは対価的牽連関係に立つから、買主は「相手方がその債務の履行……を提供するまで、自己の債務の履行を拒むことができる」。同時履行の抗弁権は、その発生要件たる双務契約の成立が既に請求原因に現れているため、被告が権利を行使する旨の主張(援用)をして初めて裁判所が斟酌できる権利抗弁と解されている。その効果は請求権を消滅させるものではなく履行を延期させるにとどまるため(延期的抗弁)、これが認められると請求棄却ではなく引換給付判決がされる。なお、Xの側からは、先履行の合意や自己の履行の提供(民法492条)を再抗弁として主張することが考えられる。
留置権によって拒絶できる給付の内容は,物の引渡しであるが,同時履行の抗弁権によって拒絶することができる給付の内容は,物の引渡しに限られない。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで「その物を留置することができる」権利である(295条1項本文)。すなわち、留置権の効力は留置の対象となっている物そのものの引渡し(明渡し)を拒むという形でしか現れず、これによって拒絶できる給付の内容は物の引渡しに限られる。これに対し、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者の一方が、相手方がその債務の履行を提供するまでは「自己の債務の履行を拒むことができる」とするものであり(533条本文)、拒絶の対象は自己が負担する債務一般である。したがって、金銭の支払、労務の提供、作為・不作為債務など、物の引渡し以外の給付についても履行を拒むことができる。両者は相手方の請求を一時的に阻む延期的抗弁として機能する点で共通するが、留置権が物権であり物の留置という形態に効力が限定されるのに対し、同時履行の抗弁権は双務契約上の牽連関係に基づく債権的な抗弁であって、対象となる債務の種類を問わない点で異なる。よって、本肢の記述は正しい。
請負人の注文者に対する請負代金債権と,注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は,同時履行の関係にあるため,注文者及び請負人は,原則として共に相殺することができないが,双方の債権額が等しい場合には例外として相殺をすることができる。
解説
本肢は誤り。同時履行の抗弁権が付着する債権を自働債権とする相殺は、相手方から抗弁権を一方的に奪うことになるため原則として許されない。しかし、両債権が同一の双務契約から生じ、相互に現実の履行をさせるべき特別の利益が認められない場合には、相殺を認めても相手方に抗弁権喪失による不利益を与えず、むしろ対当額での清算によって当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係も簡明になる。最判昭和53年9月21日は、請負代金債権と、目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との間についてまさにこの理を述べ、両債権の対当額による相殺を認めた。そして同判決は、この結論は自働債権と受働債権の金額に差があることによって左右されるものではないと明示している。相殺は対当額で効力を生ずる(505条1項本文)以上、額が一致することを要件とすべき理由はない。したがって、額が等しい場合に限って例外的に相殺できるとする本肢は誤りである。なお、現行法では請負人の担保責任は契約不適合責任に一元化され(559条・562条以下)、旧634条2項は削除されたが、履行の追完に代わる損害賠償債務と報酬債権とは533条括弧書(「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む」)により同時履行の関係に立つから、上記判例の趣旨は現行法下でも妥当する(最判令和2年9月11日参照)。
留置権によって拒絶できる給付の内容は,物の引渡しであるが,同時履行の抗弁権によって拒絶することができる給付の内容は,物の引渡しに限られない。
解説
本肢は正しい。留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに、その債権の弁済を受けるまで「その物を留置することができる」権利である(295条1項本文)。すなわち、留置権の効力は留置の対象となっている物そのものの引渡し(明渡し)を拒むという形でしか現れず、これによって拒絶できる給付の内容は物の引渡しに限られる。これに対し、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者の一方が、相手方がその債務の履行を提供するまでは「自己の債務の履行を拒むことができる」とするものであり(533条本文)、拒絶の対象は自己が負担する債務一般である。したがって、金銭の支払、労務の提供、作為・不作為債務など、物の引渡し以外の給付についても履行を拒むことができる。両者は相手方の請求を一時的に阻む延期的抗弁として機能する点で共通するが、留置権が物権であり物の留置という形態に効力が限定されるのに対し、同時履行の抗弁権は双務契約上の牽連関係に基づく債権的な抗弁であって、対象となる債務の種類を問わない点で異なる。よって、本肢の記述は正しい。
請負人の注文者に対する請負代金債権と,注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は,同時履行の関係にあるため,注文者及び請負人は,原則として共に相殺することができないが,双方の債権額が等しい場合には例外として相殺をすることができる。
解説
本肢は誤り。同時履行の抗弁権が付着する債権を自働債権とする相殺は、相手方から抗弁権を一方的に奪うことになるため原則として許されない。しかし、両債権が同一の双務契約から生じ、相互に現実の履行をさせるべき特別の利益が認められない場合には、相殺を認めても相手方に抗弁権喪失による不利益を与えず、むしろ対当額での清算によって当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係も簡明になる。最判昭和53年9月21日は、請負代金債権と、目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との間についてまさにこの理を述べ、両債権の対当額による相殺を認めた。そして同判決は、この結論は自働債権と受働債権の金額に差があることによって左右されるものではないと明示している。相殺は対当額で効力を生ずる(505条1項本文)以上、額が一致することを要件とすべき理由はない。したがって、額が等しい場合に限って例外的に相殺できるとする本肢は誤りである。なお、現行法では請負人の担保責任は契約不適合責任に一元化され(559条・562条以下)、旧634条2項は削除されたが、履行の追完に代わる損害賠償債務と報酬債権とは533条括弧書(「債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む」)により同時履行の関係に立つから、上記判例の趣旨は現行法下でも妥当する(最判令和2年9月11日参照)。