第601条賃貸借過去問 5
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
この条文の過去問 5問
賃貸借が書面によらないでされた場合、Aは、Bが甲の引渡しを受けるまで、契約の解除をすることができる。
解説
本肢は誤り。書面によらない契約について、目的物の引渡し(受取り)前に貸主が任意に解除できる旨を定めるのは、使用貸借に関する593条の2である。同条は「貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。」と規定する。これは、使用貸借が無償契約であり(593条)、軽率に貸す旨を約した貸主を保護すべき要請が働く一方、書面による場合には貸主の意思が明確であるから解除権を否定する、という趣旨に基づくものである。
これに対し、賃貸借は賃料の支払を対価とする有償・双務契約であり(601条)、貸主が無償で負担を負うという場面ではないから、上記のような保護の必要がない。そのため、賃貸借には593条の2に相当する規定は置かれておらず、賃貸借に使用貸借の規定を準用する622条も、準用の対象を597条1項、599条1項・2項および600条に限っており、593条の2を準用していない。
したがって、AB間の動産甲の賃貸借が書面によらないでされたとしても、Aは、Bが甲の引渡しを受けていないことを理由に契約を解除することはできない。本肢は、使用貸借の規律を賃貸借に及ぼす点で誤っている。なお、賃貸借の成立には書面も引渡しも要せず、諾成契約として当事者の合意のみで成立する(601条)。
賃借人が失火によって賃借物を滅失させたときは、賃貸人は、賃借人に重大な過失がない限り、債務不履行による損害賠償の請求をすることができない。
解説
本肢は誤り。失火ノ責任ニ関スル法律は「民法第709条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定める。同法は、木造家屋が密集するわが国において軽過失による失火者に無限定な賠償責任を負わせるのは酷であるとの配慮から、不法行為責任の成立要件たる過失を重過失に加重したものであり、その適用対象は文言どおり民法709条に基づく不法行為責任に限られる。
これに対し、賃借人は賃貸借契約上、賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務を負い(民法400条)、契約終了時には目的物を返還し、自らの責めに帰すべき事由による損傷を原状に復する義務を負う(民法601条、621条)。賃借人の失火により賃借物が滅失して返還義務が履行不能となった場合、これは契約上の債務の不履行であり、賃貸人は民法415条1項により損害賠償を請求できる。同項ただし書による免責は、不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるときに限られ、賃借人に軽過失があれば帰責事由は肯定される。判例も、失火責任法は債務不履行に基づく損害賠償責任には適用されず、賃借人は失火につき重大な過失がなくとも債務不履行責任を免れないとしている(最判昭和30年3月25日)。契約関係にある当事者間では責任範囲が不特定多数に拡大するおそれがなく、同法の趣旨が妥当しないからである。
賃貸借は,書面でしなければ,その効力を生じない。
解説
本肢は誤り。民法601条は、賃貸借は当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずると定める。すなわち賃貸借は当事者の意思表示の合致のみによって成立する諾成契約であり、かつ書面の作成その他の方式を要しない不要式契約である。書面が契約の効力要件とされているのは、民法上は保証契約(446条2項。書面でしなければ効力を生じない)のように軽率な債務負担を防ぐ必要のある例外的場面に限られており、賃貸借についてこれに相当する規定は存在しない。したがって、口頭の合意のみでも賃貸借は有効に成立し効力を生ずる。
なお、賃貸借に書面(又は電磁的記録)を要求する規定として借地借家法22条の定期借地権や同法38条1項の定期建物賃貸借があるが、借地借家法は「建物の所有を目的とする」地上権及び土地の賃借権に適用されるところ(同法1条、2条1号)、本問は資材置場とするための建物所有を目的としない土地の賃貸借であるから同法の適用はなく、民法の規定のみが適用される。この点からも書面は不要である。
賃貸借契約において賃貸人が目的物の所有者である場合,その目的物の所有権は賃借人に移転しないが,消費貸借契約において貸主が目的物の所有者である場合,その目的物の所有権は借主に移転する。
解説
本肢は正しい。賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって効力を生ずる契約である(601条)。賃借人が取得するのは目的物を使用収益する権利(債権)にとどまり、所有権は賃貸人のもとに留保される。賃借人は契約終了時に借りた物それ自体を返還しなければならず(601条、616条の準用する594条1項参照)、目的物の同一性が維持されることが前提となっている。したがって、賃貸人が目的物の所有者である場合でも、賃貸借によって所有権が賃借人に移転することはない。
これに対し、消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって効力を生ずる契約である(587条)。借主が返還すべきは受け取った物そのものではなく、同種・同等・同量の別個の物であり、借主が目的物を消費することが契約の内容として当然に予定されている。処分権限がなければ消費はできないから、目的物の所有権は引渡しによって借主に移転すると解される。金銭消費貸借において借主が受領した金銭を自由に費消できるのも、この所有権移転の帰結である。所有権移転の有無という点で両契約を対比した本肢の記述は、いずれも条文の定める契約類型の性質に合致する。
賃貸借契約は,諾成契約であるから,当事者間の合意によって成立するが,消費貸借契約は,要物契約であるから,当事者間で,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還することを約したとしても,その合意は無効である。
解説
本肢は誤り。前段は正しい。賃貸借は601条が「約することによって、その効力を生ずる」と定めるとおり、目的物の引渡しを要せず当事者の合意のみで成立する諾成契約である。
問題は後段である。確かに587条の消費貸借は「相手方から金銭その他の物を受け取ることによって」効力を生ずる要物契約である。しかし、平成29年改正により諾成的消費貸借が明文化され、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって効力を生ずるとされた(587条の2第1項)。電磁的記録によってされたときも書面によるものとみなされる(同条4項)。本肢が掲げる合意の内容は、まさに587条の2第1項が定める諾成的消費貸借の要件そのものであり、これが書面でされれば有効に成立する。
さらに、そもそも要物契約とされていることは、それと異なる無名契約の成立まで否定する趣旨ではない。改正前においても、契約自由の原則から諾成的消費貸借の有効性は判例・通説上肯定されていた(最判昭和48年3月16日参照)。したがって、要物契約であることを理由に当該合意が一律に無効となるとする本肢は誤りである。