第1節
民法取得日 2026年9月6日この範囲 10条 ・ 過去問 60問
第1節
第342条質権の内容過去問 6
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
この条文の過去問 6問
2023年 司法試験 第23問 肢ア
質権の被担保債権に係る債務と質物の返還義務とは、同時履行の関係にある。
解説
誤り。違うのは「同時履行の関係にある」の部分である。質権者は被担保債権の弁済を受けるまで質物を留置でき(347条)、弁済が質物の返還より先になる(大判大9.3.29)。
347条本文は、質権者は、被担保債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができると定める。質物を手元にとどめて債務者に弁済を促すことが質権の中心的な働きであり、質物の所有者は、まず被担保債権を払ってはじめて質物の返還を求めることができる。判例も、質物の返還と被担保債権の弁済は同時履行の関係に立たず、弁済が先であるとした(大判大9.3.29)。両者を同時履行とすると、債務者は弁済を提供しないまま質物の返還を求める質権者に対しても抗弁を出せることになり、留置して弁済を促すという質権の働きが失われる。また、質物の価値が被担保債権を十分に担保しているとは限らないので、二つの債務を対価として結び付けて引換えにすることが公平ともいえない。そもそも同時履行の抗弁権(533条)は一つの双務契約から生じた対価関係にある債務を前提とする制度であり、質権の被担保債務と質物の返還はそのような関係にない。

民法347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
ポイント整理
同時履行の関係の成否
| 二つの債務 | 同時履行か | 根拠 |
|---|
| 質権の被担保債務の弁済と質物の返還 | 否定(弁済が先) | 347条・大判大9.3.29 |
| 敷金の返還と賃借物の返還 | 否定(明渡しが先) | 622条の2第1項1号・最判昭49.9.2 |
| 請負の報酬と修補に代わる損害賠償 | 肯定 | 533条括弧書・最判平9.2.14 |
| 詐欺による取消し後の代金返還と抹消登記 | 肯定 | 533条の類推・最判昭47.9.7 |
| 弁済と受取証書の交付 | 肯定 | 486条1項 |
| 弁済と債権証書の返還 | 否定(全部の弁済が先) | 487条 |
2018年 予備試験 第5問 肢ウ
質権は,債務者の財産についてのみ設定することができる。
解説
誤り。違うのは「債務者の財産についてのみ設定することができる」の部分である。質権は債務者又は第三者から受け取った物について設定でき、第三者が物上保証人になれる(342条)。
342条は、質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定める。条文自体が第三者から受け取った物を挙げているから、質権は債務者の財産だけでなく第三者の財産の上にも設定でき、この第三者を物上保証人という。物上保証人は債務を負うわけではなく、目的物の価値の限度で責任を負うにとどまるが、債務を弁済したり質権の実行で目的物の所有権を失ったりしたときは、保証債務の規定に従って債務者に求償できる(351条)。抵当権も、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産を目的とし(369条1項)、同じ仕組みである。肢は質権の目的を債務者の財産に限っており、誤っている。

民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
ポイント整理
債務者以外の者の財産の上に成立するか
| 担保物権 | 債務者以外の者の財産 | 根拠 |
|---|
| 留置権 | 成立する | 295条1項(他人の物) |
| 一般の先取特権 | 成立しない | 306条(債務者の総財産) |
| 質権 | 設定できる(物上保証) | 342条(債務者又は第三者) |
| 抵当権 | 設定できる(物上保証) | 369条1項(債務者又は第三者) |
2015年 予備試験 第7問 肢3
Bは,質権の被担保債権の発生原因事実を主張・立証する必要はなく,Aが,質権の被担保債権の消滅原因事実を主張・立証する必要がある。
解説
誤り。違うのは「Bは,質権の被担保債権の発生原因事実を主張・立証する必要はなく」の部分である。質権は債権の担保として存在するから、質権の成立を主張するBが被担保債権の発生原因事実を主張・立証しなければならない(342条)。
342条は、質権者はその債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定める。質権は債権を担保するための権利であり、被担保債権が存在しなければ成立しない(付従性)。そのため、質権を即時取得したと主張するBは、取引行為である質権設定契約の内容として、質権を設定する合意と引渡しに加えて、その質権が担保する債権の発生原因事実を主張・立証しなければならない。被担保債権の発生は質権の成立を基礎づける事実であり、186条1項や188条の推定も及ばない。これに対し、被担保債権が弁済などで消滅したことは、質権の消滅を基礎づける事実として、質権を争うAが主張・立証すべき事実になる。肢の後半の消滅原因事実の扱いはこの限りで正しいが、前半でBは被担保債権の発生原因事実を主張・立証しなくてよいとしている点が誤っている。

民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
ポイント整理
質権の即時取得を主張する者の主張・立証
| 要件 | 主張・立証の要否 | 根拠 |
|---|
| 被担保債権の発生原因事実 | 必要 | 質権は債権の担保として存在する(342条) |
| 質権設定の合意とそれに基づく引渡し | 必要 | 質権は引渡しで効力を生じる(344条)。取引行為に基づく占有取得 |
| 平穏・公然・善意 | 不要(推定) | 186条1項 |
| 無過失 | 不要(推定) | 188条、最判昭41.6.9 |
2015年 司法試験 第13問 肢3
Bは,質権の被担保債権の発生原因事実を主張・立証する必要はなく,Aが,質権の被担保債権の消滅原因事実を主張・立証する必要がある。
解説
誤り。違うのは「Bは,質権の被担保債権の発生原因事実を主張・立証する必要はなく」の部分である。質権は債権の担保として存在するから、質権の成立を主張するBが被担保債権の発生原因事実を主張・立証しなければならない(342条)。
342条は、質権者はその債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定める。質権は債権を担保するための権利であり、被担保債権が存在しなければ成立しない(付従性)。そのため、質権を即時取得したと主張するBは、取引行為である質権設定契約の内容として、質権を設定する合意と引渡しに加えて、その質権が担保する債権の発生原因事実を主張・立証しなければならない。被担保債権の発生は質権の成立を基礎づける事実であり、186条1項や188条の推定も及ばない。これに対し、被担保債権が弁済などで消滅したことは、質権の消滅を基礎づける事実として、質権を争うAが主張・立証すべき事実になる。肢の後半の消滅原因事実の扱いはこの限りで正しいが、前半でBは被担保債権の発生原因事実を主張・立証しなくてよいとしている点が誤っている。

民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
ポイント整理
質権の即時取得を主張する者の主張・立証
| 要件 | 主張・立証の要否 | 根拠 |
|---|
| 被担保債権の発生原因事実 | 必要 | 質権は債権の担保として存在する(342条) |
| 質権設定の合意とそれに基づく引渡し | 必要 | 質権は引渡しで効力を生じる(344条)。取引行為に基づく占有取得 |
| 平穏・公然・善意 | 不要(推定) | 186条1項 |
| 無過失 | 不要(推定) | 188条、最判昭41.6.9 |
2014年 司法試験 第13問 肢イ
留置権者は,留置物について留置権に基づき競売を申し立てることができ,換価金から優先的に弁済を受けることができる。
解説
誤り。違うのは「換価金から優先的に弁済を受けることができる」の部分である。留置権者は競売を申し立てることはできるが(民事執行法195条)、留置権に優先弁済権はない。
民事執行法195条は、留置権による競売は担保権の実行としての競売の例によると定めており、留置権者は留置物の競売を申し立てることができる。留置権者は物を保管し続けなければならず(298条1項)、その負担から解放される必要があるからである。本肢の前段は正しい。しかし、留置権は物を留め置いて債務者に心理的な圧力を加え、事実上弁済を促す効力を持つにとどまり、法律上の優先弁済権を伴わない。優先弁済権を明文で認めているのは先取特権(303条)、質権(342条)、抵当権(369条1項)であり、留置権にはこれに当たる規定がない。そのため、留置権による競売は換価のための手続にすぎず、換価金から他の債権者に先立って弁済を受けることはできない。なお、留置物から生じた果実を他の債権者に先立って弁済に充てられる(297条1項)のは、果実についての特別の規定である。

民事執行法195条
留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。
ポイント整理
担保物権の効力の比較
- 留置権(法定):物上代位性・優先弁済的効力はない。留置的効力と競売申立権(民事執行法195条)がある
- 先取特権(法定):物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
- 質権(約定):物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力がある
- 抵当権(約定):物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
2009年 司法試験 第12問 肢3
留置権者は,目的物から優先弁済を受けることはできないが,目的物から生じた果実からは優先弁済を受けることができる。
解説
正しい。留置権には目的物から優先弁済を受ける効力はないが、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充当することができる(297条1項)。
留置権は、物を留め置くことで弁済を間接的に促す権利であり、先取特権や質権のように目的物の交換価値を把握して他の債権者に優先して弁済を受ける効力(303条・342条参照)は認められていない。留置権者は目的物の競売を申し立てることはできるが(民事執行法195条)、その売却代金から優先して弁済を受けることはできない。もっとも、297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができると定める。果実は通常その額が大きくなく、留置権者が収取した果実をいちいち所有者に返還させるのは手間がかかるので、簡便な処理として、果実については優先的に弁済に充てることを認めたのである。果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当する(同条2項)。したがって、本肢は正しい。

民法297条1項
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
ポイント整理
担保物権の効力の比較
- 留置権(法定):付従性・随伴性・不可分性があり、物上代位性・優先弁済的効力はない。留置的効力と競売申立権がある。果実からは優先弁済を受けられる(297条1項)
- 先取特権(法定):物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
- 質権(約定):物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力がある
- 抵当権(約定):物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
第343条質権の目的過去問 3
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
この条文の過去問 3問
2009年 司法試験 第13問 肢ウ
質権は,譲り渡すことができない物についても設定することができる。
解説
誤り。違うのは「譲り渡すことができない物についても設定することができる」の部分である。質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない(343条)。
343条は、質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができないと定める。質権は、目的物を留置して弁済を間接的に促すとともに、弁済がないときは目的物を競売してその代金から優先して弁済を受けることを内容とする担保物権である(342条)。譲り渡すことができない物は、競売によって換価することができないので、優先弁済を受けるという質権の本質的な効力を実現することができない。そのため、そのような物は質権の目的とすることができないとされたのである。たとえば、法律で譲渡が禁止されている物や、性質上譲渡できない物には質権を設定することができない。抵当権や先取特権など、目的物の交換価値を把握する他の担保物権でも、目的物が換価できることが前提となっている。したがって、本肢は誤りである。

民法343条
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
2007年 司法試験 第12問 肢4
性質上譲渡できない債権の上に質権を設定する契約をした場合,譲渡できないことについて質権者が善意であるか悪意であるかを問わず,その質権設定契約は無効である。
解説
正しい。質権は譲り渡すことができない物を目的とすることができないので(343条・362条2項)、性質上譲渡できない債権に質権を設定する契約は、質権者の善意・悪意を問わず無効である。
362条1項は、質権は財産権をその目的とすることができると定め、同条2項はその性質に反しない限り質権の総則等の規定を準用する。343条は、質権は譲り渡すことができない物をその目的とすることができないと定める。質権は、目的物を換価して優先弁済を受けることを本質とする担保物権であるから、譲渡によって換価することのできないものを目的としても、担保としての意味を持たないからである。466条1項ただし書は、債権の性質がこれを許さないときは譲渡できないと定めており、このような債権には質権を設定できない。性質上の譲渡禁止は、当事者の意思表示による譲渡制限と異なり、第三者の善意・悪意によって結論が左右されるものではないから、質権者が善意であっても質権設定契約は無効である。これに対し、譲渡制限の意思表示がされたにとどまる債権には質権を設定でき、その効力は466条2項・3項によって処理される。本肢は正しい。

民法343条
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
2007年 司法試験 第21問 肢イ
譲渡質入禁止特約のある債権について,質権者がその特約の存在を知らないときは,質権は有効に成立する。
解説
正しい。譲渡や質入れを制限する意思表示がある債権も質権の目的とすることができ、質権者がその特約を知らなければ、債務者は質権者に履行を拒むこともできないので、質権は有効に成立し、その効力を主張できる。
343条は、質権は譲り渡すことができない物をその目的とすることができないと定めるが、譲渡制限の意思表示がされた債権は、性質上譲渡できない債権とは異なり、466条2項により譲渡そのものは有効であるから、譲り渡すことができない物には当たらない。そのため、譲渡や質入れを禁止する特約がある債権にも質権を設定することができ、質権は有効に成立する。質権者が特約の存在を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合には、債務者は質権者に対して履行を拒むことができる(466条3項)が、本肢のように質権者が特約を知らない(重大な過失もない)ときは、債務者は質権者からの取立てを拒むこともできない。出題当時は、特約に反する質入れは無効であるが、その無効は善意の質権者に対抗できないとされていたので、結論は同じである。本肢は正しい。

民法343条
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
ポイント整理
譲渡制限の意思表示(現行法)
- 譲渡の効力(466条2項):譲渡制限の意思表示があっても譲渡は有効
- 悪意・重過失の譲受人(466条3項):債権を取得するが、債務者は履行を拒め、譲渡人への弁済を対抗できる
- 差押債権者(466条の4第1項):悪意でも債務者は履行を拒めない
- 出題当時:特約に反する譲渡は悪意・重過失の譲受人との関係で無効とされ、債務者の承諾で譲渡の時にさかのぼって有効になるとされた
第344条質権の設定過去問 11
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
この条文の過去問 11問
2025年 予備試験 第4問 肢ウ
不動産質権の設定は、現実の引渡しがあっても、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
解説
正しい。引渡しは質権の効力発生要件にとどまり、不動産質権を第三者に対抗するには177条により登記が必要である。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定める。引渡しは質権の効力発生要件であり、不動産質権でも不動産の引渡しがなければ成立しない。もっとも、成立要件と第三者に対する対抗要件は別の問題である。不動産質権は不動産に関する物権なので、その得喪及び変更は登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)。不動産登記法3条も質権を登記できる権利に挙げている。したがって、現実の引渡しを受けて質権が有効に成立していても、登記がなければその不動産について権利を取得した第三者に対抗できない。動産質では占有の継続が対抗要件とされる(352条)のと対照的であり、不動産の物権については登記が公示方法として一本化されている。

民法344条・177条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
ポイント整理
質権の成立と対抗
| 成立(効力発生) | 第三者への対抗 |
|---|
| 動産質 | 目的物の引渡し(344条) | 占有の継続(352条) |
| 不動産質 | 目的物の引渡し(344条) | 登記(177条) |
2025年 司法試験 第8問 肢ウ
不動産質権の設定は、現実の引渡しがあっても、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
解説
正しい。引渡しは質権の効力発生要件にとどまり、不動産質権を第三者に対抗するには177条により登記が必要である。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定める。引渡しは質権の効力発生要件であり、不動産質権でも不動産の引渡しがなければ成立しない。もっとも、成立要件と第三者に対する対抗要件は別の問題である。不動産質権は不動産に関する物権なので、その得喪及び変更は登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)。不動産登記法3条も質権を登記できる権利に挙げている。したがって、現実の引渡しを受けて質権が有効に成立していても、登記がなければその不動産について権利を取得した第三者に対抗できない。動産質では占有の継続が対抗要件とされる(352条)のと対照的であり、不動産の物権については登記が公示方法として一本化されている。

民法344条・177条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
ポイント整理
質権の成立と対抗
| 成立(効力発生) | 第三者への対抗 |
|---|
| 動産質 | 目的物の引渡し(344条) | 占有の継続(352条) |
| 不動産質 | 目的物の引渡し(344条) | 登記(177条) |
2018年 司法試験 第12問 肢ウ
動産質権の設定は,指図による占有移転をもって目的物を債権者に引き渡すことによっても,その効力を生じる。
解説
正しい。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、動産質権設定の効力を生ずる(大判昭9.6.2)。占有改定が許されないのとは区別される。
344条は、質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、引渡しを質権設定の効力要件としている。他方、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定めるから、占有改定による引渡しでは質権の効力は生じない。設定者の手元に質物が残ったままでは、質物を留め置いて弁済を促す働きも、質権の公示も確保できないからである。これに対し、指図による占有移転は、質物を所持する第三者に以後は質権者のために占有するよう命じ、質権者が承諾する方法であり(184条)、設定者自身が質物を所持し続けるわけではないから、345条に反しない。判例(大判昭9.6.2)も、指図による占有移転は344条の引渡しに当たり、これによって動産質権設定の効力が生ずるとしている。したがって、本肢は正しい。

民法344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
2017年 司法試験 第14問 肢イ
動産を目的とする質権は占有改定の方法によるその動産の引渡しによっては効力を生じないが,動産を目的とする譲渡担保権はその設定契約によって設定され,占有改定の方法によるその動産の引渡しがあれば,譲渡担保権者は第三者に譲渡担保権を対抗することができる。
解説
正しい。動産質は占有改定では効力を生じない(344条・345条)。これに対し、動産の譲渡担保は設定契約で成立し、占有改定による引渡しで第三者に対抗できる(最判昭30.6.2)。
質権の設定は、債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生じ(344条)、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は物を設定者の手元から離して弁済を促す担保であるから、344条の引渡しには占有改定(183条)は含まれず、占有改定では動産質権は効力を生じない。これに対し、譲渡担保は法律が定める担保物権ではなく、当事者の合意によって担保のために所有権を移すものであり、設定契約によって成立する。その対抗要件は動産の物権変動一般と同じく引渡し(178条)であり、設定者が目的物を使い続けられることに譲渡担保の利点があるから、占有改定による引渡しで足りる。判例(最判昭30.6.2)も、売渡担保契約がされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有改定によって以後債権者のために占有するものであり、債権者はその引渡しを受けたことで所有権の取得を第三者に対抗できるとした。本肢は正しい。

最判昭30.6.2
売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者は・・・その引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつた
ポイント整理
動産質と動産の譲渡担保
| 事項 | 動産質 | 譲渡担保 |
|---|
| 成立 | 目的物の引渡しで効力を生ずる(344条)。占有改定では生じない(345条) | 設定契約で成立する |
| 対抗要件 | 占有の継続(352条) | 引渡し(178条)。占有改定でよい |
| 重ねての設定 | できる。順位は設定の前後(355条) | 重ねて設定すること自体は許される |
| 設定者の地位 | 目的物を占有できない | 目的物を占有し、不法占有者に返還を請求できる |
2015年 予備試験 第7問 肢2
Bは,Cとの間で質権設定の合意をし,その合意に基づいてCから甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証する必要がある。
解説
正しい。即時取得には取引行為に基づく占有の取得が必要であり、Bは、Cとの質権設定の合意と、それに基づいて甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証しなければならない(192条・344条)。
即時取得(192条)は、取引行為によって動産の占有を始めた者を守る制度であるから、Bはまず前主Cとの取引行為と、それに基づいて占有を取得したことを主張・立証する必要がある。本件の取引行為は質権設定契約であり、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずる(344条)。そのため、質権の成立を基礎づける事実として、被担保債権の発生原因事実、甲動産にその債権を担保する質権を設定する合意、CがBに甲動産を引き渡したことが必要になる。このうち合意に基づく引渡しは、即時取得の要件である取引行為に基づく占有の取得にも当たる。これらは186条1項や188条の推定の対象にならないから、Bが自ら主張・立証しなければならない。したがって、BはCとの間で質権設定の合意をし、その合意に基づいて甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証する必要があり、肢は正しい。

民法344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
ポイント整理
質権の即時取得を主張する者の主張・立証
| 要件 | 主張・立証の要否 | 根拠 |
|---|
| 被担保債権の発生原因事実 | 必要 | 質権は債権の担保として存在する(342条) |
| 質権設定の合意とそれに基づく引渡し | 必要 | 質権は引渡しで効力を生じる(344条)。取引行為に基づく占有取得 |
| 平穏・公然・善意 | 不要(推定) | 186条1項 |
| 無過失 | 不要(推定) | 188条、最判昭41.6.9 |
2015年 司法試験 第13問 肢2
Bは,Cとの間で質権設定の合意をし,その合意に基づいてCから甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証する必要がある。
解説
正しい。即時取得には取引行為に基づく占有の取得が必要であり、Bは、Cとの質権設定の合意と、それに基づいて甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証しなければならない(192条・344条)。
即時取得(192条)は、取引行為によって動産の占有を始めた者を守る制度であるから、Bはまず前主Cとの取引行為と、それに基づいて占有を取得したことを主張・立証する必要がある。本件の取引行為は質権設定契約であり、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずる(344条)。そのため、質権の成立を基礎づける事実として、被担保債権の発生原因事実、甲動産にその債権を担保する質権を設定する合意、CがBに甲動産を引き渡したことが必要になる。このうち合意に基づく引渡しは、即時取得の要件である取引行為に基づく占有の取得にも当たる。これらは186条1項や188条の推定の対象にならないから、Bが自ら主張・立証しなければならない。したがって、BはCとの間で質権設定の合意をし、その合意に基づいて甲動産の引渡しを受けたことを主張・立証する必要があり、肢は正しい。

民法344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
ポイント整理
質権の即時取得を主張する者の主張・立証
| 要件 | 主張・立証の要否 | 根拠 |
|---|
| 被担保債権の発生原因事実 | 必要 | 質権は債権の担保として存在する(342条) |
| 質権設定の合意とそれに基づく引渡し | 必要 | 質権は引渡しで効力を生じる(344条)。取引行為に基づく占有取得 |
| 平穏・公然・善意 | 不要(推定) | 186条1項 |
| 無過失 | 不要(推定) | 188条、最判昭41.6.9 |
2012年 予備試験 第3問 肢4
Aは,Bに対する債権を担保するため,Bとの間で,B所有の動産甲に質権の設定を受けた。この場合,指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは,質権の効力は生じない。
解説
誤り。違うのは「指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは、質権の効力は生じない」の部分である。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、質権の効力が生じる。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は目的物を設定者の手元から離して留置することで弁済を促す担保であるから、設定者が引き続き所持する占有改定は344条の引渡しに当たらない。これに対し、指図による占有移転(184条)では、第三者が占有代理人として物を所持し、設定者の指図によって以後は質権者のために占有することになるから、設定者の手元から物が離れており、留置的効力を損なわない。したがって、指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、これによって質権の効力が生じる。判例も指図による占有移転による質権設定を認めている。効力が生じないとする肢は誤りである。

民法344条・345条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
引渡しの4方法
| 方法 | 場面 | 178条の引渡し | 質権設定(344条) |
|---|
| 現実の引渡し(182条1項) | 物を相手に渡す | 当たる | 当たる |
| 簡易の引渡し(182条2項) | 譲受人が既に所持している | 当たる | 当たる |
| 占有改定(183条) | 譲渡人が以後譲受人のために所持する | 当たる | 当たらない(345条) |
| 指図による占有移転(184条) | 占有代理人が所持し、本人が以後第三者のために占有するよう命じ、第三者が承諾する | 当たる | 当たる |
2012年 司法試験 第10問 肢4
Aは,Bに対する債権を担保するため,Bとの間で,B所有の動産甲に質権の設定を受けた。
この場合,指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは,質権の効力は生じない。
解説
誤り。違うのは「指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは、質権の効力は生じない」の部分である。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、質権の効力が生じる。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は目的物を設定者の手元から離して留置することで弁済を促す担保であるから、設定者が引き続き所持する占有改定は344条の引渡しに当たらない。これに対し、指図による占有移転(184条)では、第三者が占有代理人として物を所持し、設定者の指図によって以後は質権者のために占有することになるから、設定者の手元から物が離れており、留置的効力を損なわない。したがって、指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、これによって質権の効力が生じる。判例も指図による占有移転による質権設定を認めている。効力が生じないとする肢は誤りである。

民法344条・345条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
引渡しの4方法
| 方法 | 場面 | 178条の引渡し | 質権設定(344条) |
|---|
| 現実の引渡し(182条1項) | 物を相手に渡す | 当たる | 当たる |
| 簡易の引渡し(182条2項) | 譲受人が既に所持している | 当たる | 当たる |
| 占有改定(183条) | 譲渡人が以後譲受人のために所持する | 当たる | 当たらない(345条) |
| 指図による占有移転(184条) | 占有代理人が所持し、本人が以後第三者のために占有するよう命じ、第三者が承諾する | 当たる | 当たる |
2010年 司法試験 第11問 肢2
動産質は,引渡しがなければ効力を生じないことから,同一の動産について,複数の質権が設定されることはない。
解説
誤り。違うのは「同一の動産について、複数の質権が設定されることはない」の部分である。質権設定の引渡しには指図による占有移転も含まれ、同一の動産に複数の質権を設定でき、その順位は設定の前後による(355条)。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないとする。そのため、占有改定(183条)による引渡しでは質権は効力を生じないが、指図による占有移転(184条)は、質物を第三者に占有させたまま質権者が間接占有を取得するもので、設定者の手元に物が残るわけではないから、344条の引渡しに当たる。たとえば倉庫業者に寄託した動産について、指図による占有移転で順に質権を設定すれば、同一の動産に複数の質権が成立する。355条も、同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その順位は設定の前後によると定め、複数の質権を予定している。したがって、本肢は誤りである。

民法344条・345条・355条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。/同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。
2009年 司法試験 第13問 肢エ
不動産及び動産を目的とする質権設定契約は,目的物の引渡しによって効力を生ずるが,この引渡しは,簡易の引渡し又は指図による占有移転でもよい。
解説
正しい。質権の設定は目的物の引渡しによって効力を生じ(344条)、この引渡しには現実の引渡しのほか簡易の引渡しや指図による占有移転も含まれるが、占有改定は含まれない(345条)。
344条は、質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずると定める。ここにいう引渡しには、現実の引渡し(182条1項)のほか、質権者がすでに目的物を所持している場合の簡易の引渡し(同条2項)や、第三者が占有している目的物について質権者のために占有するよう命じる指図による占有移転(184条)も含まれる。これらはいずれも、設定者の手元から目的物が離れ、質権者が直接又は間接に占有を取得するからである。これに対し、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定めており、設定者が引き続き目的物を所持する占有改定(183条)は、質権設定の引渡しに当たらない。質権の留置的効力によって弁済を促すには、設定者から目的物を取り上げる必要があるからである。したがって、本肢は正しい。

民法344条・345条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
2008年 司法試験 第12問 肢2
質権は,留置権とは異なり,約定担保物権であるから,約定があれば,質権設定者を代理人としてその者に占有させることにより,これを設定することができる。
解説
誤り。違うのは「質権設定者を代理人としてその者に占有させることにより、これを設定することができる」の部分である。質権者は質権設定者に自己に代わって質物を占有させることができない(345条)。
344条は、質権の設定は債権者にその目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は約定担保物権であるが、その本質的な効力の一つは、目的物を設定者の手元から取り上げて留め置くことで弁済を強制する留置的効力にある。設定者を質権者の代理人として目的物を占有させる占有改定を認めると、設定者は従来どおり目的物を使い続けることができ、留置的効力が失われてしまう。そのため、当事者が約定しても、占有改定によって質権を設定することはできないとされている。約定担保物権であることは、当事者の合意で質権の要物性を外せることを意味しない。本肢は約定があれば設定者に占有させて設定できるとしている点で誤りである。

民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
第345条質権設定者による代理占有の禁止過去問 8
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
この条文の過去問 8問
2021年 司法試験 第12問 肢イ
動産質権者は,質権設定者に,自己に代わって質物を占有させることができない。
解説
正しい。質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物を占有させることができない(345条)。
345条は、質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。そのため、質権設定の効力要件である引渡し(344条)として占有改定は認められず、設定後に質物を設定者に戻して代わりに占有させることも許されない。質権は、質物を設定者の手元から取り上げて留置し、使えなくすることで弁済を促す留置的効力(347条)を持つが、設定者が質物を持ち続けたのではこの効力が働かず、外から質権の存在も分からないからである。肢は345条のとおりであり、正しい。設定者以外の第三者に質物を占有させることは同条の禁止に当たらない。なお、質権者が質物を設定者に返しても、判例は質権そのものは消滅せず、継続占有という対抗要件(352条)を失うにとどまるとしている(大判大5.12.25)。

民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
動産質と抵当権
| 動産質 | 抵当権 |
|---|
| 目的物の占有 | 質権者が占有する(344条・345条) | 設定者のもとにとどまる |
| 対抗要件 | 質物の継続占有(352条) | 登記(177条) |
| 利息の範囲 | 制限なし(346条) | 満期となった最後の2年分(375条) |
| 順位 | 設定の前後(355条) | 登記の前後(373条) |
2019年 司法試験 第11問 肢ウ
不動産質権の設定後に質権者が質権設定者に目的不動産を占有させたとしても,質権の効力は影響を受けない。
解説
正しい。質権の設定後に質権者が設定者に質物を占有させても、質権は消滅せず、その効力に影響はない(大判大5.12.25)。
345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は目的物を引き渡すことで効力を生じ(344条)、質物を設定者の手元に置いたままでは弁済を促す留置の効力が働かず、担保の存在も外から分からないから、設定者に代わりに占有させる方法での設定を禁じたのである。もっとも判例は、いったん有効に質権を設定した後に、345条に反して質権者が設定者に質物を占有させたとしても、質権が消滅するものではなく、その効力に何ら影響はないとしている(大判大5.12.25)。345条は質権を成立させる場面の規定であり、成立した後に設定者に占有を戻すことは質権の消滅の原因として定められていないからである。とくに不動産質権は、登記が第三者に対する対抗要件であり(177条)、動産質のように占有の継続が対抗要件とされているわけではない(352条参照)。したがって、登記を備えた不動産質権者が設定者に不動産を占有させても、対抗力は失われない。

民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
不動産質
- 使用収益(356条):承諾なしにできる。果実も取得する
- 管理の費用(357条):不動産質権者が負担する
- 利息(358条):請求できない
- 別段の定め(359条):356条〜358条は設定行為の別段の定めや担保不動産収益執行の開始で適用されない
- 存続期間(360条):10年以内で、更新後も10年以内。抵当権に制限はない
- 対抗要件:登記。設定後に設定者に占有させても効力は変わらない(大判大正5年12月25日)
2018年 司法試験 第12問 肢ウ
動産質権の設定は,指図による占有移転をもって目的物を債権者に引き渡すことによっても,その効力を生じる。
解説
正しい。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、動産質権設定の効力を生ずる(大判昭9.6.2)。占有改定が許されないのとは区別される。
344条は、質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、引渡しを質権設定の効力要件としている。他方、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定めるから、占有改定による引渡しでは質権の効力は生じない。設定者の手元に質物が残ったままでは、質物を留め置いて弁済を促す働きも、質権の公示も確保できないからである。これに対し、指図による占有移転は、質物を所持する第三者に以後は質権者のために占有するよう命じ、質権者が承諾する方法であり(184条)、設定者自身が質物を所持し続けるわけではないから、345条に反しない。判例(大判昭9.6.2)も、指図による占有移転は344条の引渡しに当たり、これによって動産質権設定の効力が生ずるとしている。したがって、本肢は正しい。

民法344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
2017年 司法試験 第14問 肢イ
動産を目的とする質権は占有改定の方法によるその動産の引渡しによっては効力を生じないが,動産を目的とする譲渡担保権はその設定契約によって設定され,占有改定の方法によるその動産の引渡しがあれば,譲渡担保権者は第三者に譲渡担保権を対抗することができる。
解説
正しい。動産質は占有改定では効力を生じない(344条・345条)。これに対し、動産の譲渡担保は設定契約で成立し、占有改定による引渡しで第三者に対抗できる(最判昭30.6.2)。
質権の設定は、債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生じ(344条)、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は物を設定者の手元から離して弁済を促す担保であるから、344条の引渡しには占有改定(183条)は含まれず、占有改定では動産質権は効力を生じない。これに対し、譲渡担保は法律が定める担保物権ではなく、当事者の合意によって担保のために所有権を移すものであり、設定契約によって成立する。その対抗要件は動産の物権変動一般と同じく引渡し(178条)であり、設定者が目的物を使い続けられることに譲渡担保の利点があるから、占有改定による引渡しで足りる。判例(最判昭30.6.2)も、売渡担保契約がされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有改定によって以後債権者のために占有するものであり、債権者はその引渡しを受けたことで所有権の取得を第三者に対抗できるとした。本肢は正しい。

最判昭30.6.2
売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者は・・・その引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつた
ポイント整理
動産質と動産の譲渡担保
| 事項 | 動産質 | 譲渡担保 |
|---|
| 成立 | 目的物の引渡しで効力を生ずる(344条)。占有改定では生じない(345条) | 設定契約で成立する |
| 対抗要件 | 占有の継続(352条) | 引渡し(178条)。占有改定でよい |
| 重ねての設定 | できる。順位は設定の前後(355条) | 重ねて設定すること自体は許される |
| 設定者の地位 | 目的物を占有できない | 目的物を占有し、不法占有者に返還を請求できる |
2012年 予備試験 第3問 肢4
Aは,Bに対する債権を担保するため,Bとの間で,B所有の動産甲に質権の設定を受けた。この場合,指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは,質権の効力は生じない。
解説
誤り。違うのは「指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは、質権の効力は生じない」の部分である。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、質権の効力が生じる。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は目的物を設定者の手元から離して留置することで弁済を促す担保であるから、設定者が引き続き所持する占有改定は344条の引渡しに当たらない。これに対し、指図による占有移転(184条)では、第三者が占有代理人として物を所持し、設定者の指図によって以後は質権者のために占有することになるから、設定者の手元から物が離れており、留置的効力を損なわない。したがって、指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、これによって質権の効力が生じる。判例も指図による占有移転による質権設定を認めている。効力が生じないとする肢は誤りである。

民法344条・345条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
引渡しの4方法
| 方法 | 場面 | 178条の引渡し | 質権設定(344条) |
|---|
| 現実の引渡し(182条1項) | 物を相手に渡す | 当たる | 当たる |
| 簡易の引渡し(182条2項) | 譲受人が既に所持している | 当たる | 当たる |
| 占有改定(183条) | 譲渡人が以後譲受人のために所持する | 当たる | 当たらない(345条) |
| 指図による占有移転(184条) | 占有代理人が所持し、本人が以後第三者のために占有するよう命じ、第三者が承諾する | 当たる | 当たる |
2012年 司法試験 第10問 肢4
Aは,Bに対する債権を担保するため,Bとの間で,B所有の動産甲に質権の設定を受けた。
この場合,指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは,質権の効力は生じない。
解説
誤り。違うのは「指図による占有移転により動産甲の引渡しを受けたのみでは、質権の効力は生じない」の部分である。指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、質権の効力が生じる。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は目的物を設定者の手元から離して留置することで弁済を促す担保であるから、設定者が引き続き所持する占有改定は344条の引渡しに当たらない。これに対し、指図による占有移転(184条)では、第三者が占有代理人として物を所持し、設定者の指図によって以後は質権者のために占有することになるから、設定者の手元から物が離れており、留置的効力を損なわない。したがって、指図による占有移転も344条の引渡しに当たり、これによって質権の効力が生じる。判例も指図による占有移転による質権設定を認めている。効力が生じないとする肢は誤りである。

民法344条・345条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
ポイント整理
引渡しの4方法
| 方法 | 場面 | 178条の引渡し | 質権設定(344条) |
|---|
| 現実の引渡し(182条1項) | 物を相手に渡す | 当たる | 当たる |
| 簡易の引渡し(182条2項) | 譲受人が既に所持している | 当たる | 当たる |
| 占有改定(183条) | 譲渡人が以後譲受人のために所持する | 当たる | 当たらない(345条) |
| 指図による占有移転(184条) | 占有代理人が所持し、本人が以後第三者のために占有するよう命じ、第三者が承諾する | 当たる | 当たる |
2010年 司法試験 第11問 肢2
動産質は,引渡しがなければ効力を生じないことから,同一の動産について,複数の質権が設定されることはない。
解説
誤り。違うのは「同一の動産について、複数の質権が設定されることはない」の部分である。質権設定の引渡しには指図による占有移転も含まれ、同一の動産に複数の質権を設定でき、その順位は設定の前後による(355条)。
344条は、質権の設定は債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないとする。そのため、占有改定(183条)による引渡しでは質権は効力を生じないが、指図による占有移転(184条)は、質物を第三者に占有させたまま質権者が間接占有を取得するもので、設定者の手元に物が残るわけではないから、344条の引渡しに当たる。たとえば倉庫業者に寄託した動産について、指図による占有移転で順に質権を設定すれば、同一の動産に複数の質権が成立する。355条も、同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その順位は設定の前後によると定め、複数の質権を予定している。したがって、本肢は誤りである。

民法344条・345条・355条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。/質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。/同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。
2008年 司法試験 第12問 肢2
質権は,留置権とは異なり,約定担保物権であるから,約定があれば,質権設定者を代理人としてその者に占有させることにより,これを設定することができる。
解説
誤り。違うのは「質権設定者を代理人としてその者に占有させることにより、これを設定することができる」の部分である。質権者は質権設定者に自己に代わって質物を占有させることができない(345条)。
344条は、質権の設定は債権者にその目的物を引き渡すことによって効力を生ずると定め、345条は、質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定める。質権は約定担保物権であるが、その本質的な効力の一つは、目的物を設定者の手元から取り上げて留め置くことで弁済を強制する留置的効力にある。設定者を質権者の代理人として目的物を占有させる占有改定を認めると、設定者は従来どおり目的物を使い続けることができ、留置的効力が失われてしまう。そのため、当事者が約定しても、占有改定によって質権を設定することはできないとされている。約定担保物権であることは、当事者の合意で質権の要物性を外せることを意味しない。本肢は約定があれば設定者に占有させて設定できるとしている点で誤りである。

民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
第346条質権の被担保債権の範囲過去問 6
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
この条文の過去問 6問
2024年 予備試験 第7問 肢オ
質権は、設定行為に別段の定めがないときは、質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない。
解説
誤り。違うのは「質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない」の部分である。
346条本文は、質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定める。質物の隠れた瑕疵による損害の賠償も、原則として被担保債権の範囲に入る。質物に内在する欠陥のために、それを占有する質権者が損害を受けた場合の賠償請求権がその例である。同条ただし書は、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないとするので、担保されないのは別段の定めがある場合に限られる。本肢は原則と例外を逆にしている。抵当権では、利息その他の定期金は満期となった最後の2年分に限って優先弁済を受けられる(375条1項)が、これは登記で公示される抵当不動産について後順位の権利者を保護するためである。質権は質権者の占有で公示され、後に利害関係を持つ者が現れにくいので、担保の範囲を広くしても弊害が小さい。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2024年 司法試験 第14問 肢オ
質権は、設定行為に別段の定めがないときは、質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない。
解説
誤り。違うのは「質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない」の部分である。
346条本文は、質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定める。質物の隠れた瑕疵による損害の賠償も、原則として被担保債権の範囲に入る。質物に内在する欠陥のために、それを占有する質権者が損害を受けた場合の賠償請求権がその例である。同条ただし書は、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないとするので、担保されないのは別段の定めがある場合に限られる。本肢は原則と例外を逆にしている。抵当権では、利息その他の定期金は満期となった最後の2年分に限って優先弁済を受けられる(375条1項)が、これは登記で公示される抵当不動産について後順位の権利者を保護するためである。質権は質権者の占有で公示され、後に利害関係を持つ者が現れにくいので、担保の範囲を広くしても弊害が小さい。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2021年 司法試験 第12問 肢オ
動産質権者は,被担保債権について利息を請求する権利を有するときは,その満期となった最後の2年分についてのみ,その質権を行使することができる。
解説
誤り。違うのは「満期となった最後の2年分についてのみ」の部分である。最後の2年分の制限は抵当権の規定(375条)であり、質権は利息を制限なく担保する(346条)。
346条は、質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定め、設定行為に別段の定めがない限り、利息の範囲を限っていない。利息を満期となった最後の2年分に限るのは抵当権についての375条1項である。抵当権は目的物を設定者の手元に置いたまま登記で公示する担保であり、後順位の抵当権者や差押債権者が現れることが多いので、それらの者がどこまで優先されるかを予測できるよう、利息の範囲を限っている。これに対し、動産質権は質権者が質物を占有し続けるので、同じ物について後から利害関係に入る者が現れることはまれであり、利息を限る必要が乏しい。したがって、動産質権者は利息の全部について質権を行使でき、肢は抵当権の規定を質権に当てはめている点で誤っている。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
ポイント整理
動産質と抵当権
| 動産質 | 抵当権 |
|---|
| 目的物の占有 | 質権者が占有する(344条・345条) | 設定者のもとにとどまる |
| 対抗要件 | 質物の継続占有(352条) | 登記(177条) |
| 利息の範囲 | 制限なし(346条) | 満期となった最後の2年分(375条) |
| 順位 | 設定の前後(355条) | 登記の前後(373条) |
2019年 司法試験 第13問 肢エ
質権は,設定行為に定めがないときは,質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない。
解説
誤り。違うのは「設定行為に定めがないときは,…担保しない」の部分である。質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償は、設定行為に別段の定めがない限り質権で担保される(346条)。
346条本文は、質権は元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定め、ただし書は、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないとする。質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償は、本文で担保される債権に明記されているから、設定行為に定めがなくても担保される。設定行為で定めるのは、担保の範囲を狭める場合である。質物の隠れた瑕疵による損害とは、質権者が占有している質物そのものの欠陥によって質権者が受けた損害である。質権者は質物を預かって保管する負担と危険を引き受けるから、その占有に伴って生じた損害の賠償も質物から回収させるのが公平なのである。抵当権では、利息などについて優先弁済を受けられるのは最後の2年分に限られるが(375条)、目的物を占有する質権にはそのような制限はない。本肢は、本文とただし書の関係を逆にしている点が誤りである。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
ポイント整理
質権の効力
- 被担保債権の範囲(346条):元本・利息・違約金・実行費用・保存費用・債務不履行や質物の隠れた瑕疵による損害賠償。設定行為で別に定められる
- 果実(350条・297条):質物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充てられる
- 転質(348条):設定者の承諾なしに自己の責任でできる。不可抗力による損失も負う
- 債権質の取立て(366条):目的債権を直接取り立てられる。金銭なら被担保債権額の範囲、金銭以外なら受けた物の上に質権が存続する
2012年 予備試験 第6問 肢2
動産質権において,質権者と質権設定者との間で,被担保債権の利息はその質権によって担保されないとの特約がされた場合においても,利息は,質権の被担保債権に含まれる。
解説
誤り。違うのは「利息は、質権の被担保債権に含まれる」の部分である。346条ただし書により設定行為で別段の定めができるから、利息を担保しない特約は有効である。
346条本文は、質権は元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定め、同条ただし書は、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないとする。質権は当事者の合意によって設定される約定担保物権であるから、どの範囲の債権を担保させるかも当事者が決めることができ、本文はその定めがない場合の範囲を示すにすぎない。利息を担保の範囲から外す特約は、質権者が自ら担保の範囲を狭めるものであり、設定者や他の債権者を害することもないから有効である。したがって、利息は質権の被担保債権に含まれず、特約があっても利息が含まれるとする肢は誤りである。抵当権では、利息その他の定期金は満期となった最後の2年分に限って担保される(375条1項)点で、質権とは扱いが違う。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2012年 司法試験 第17問 肢2
動産質権において,質権者と質権設定者との間で,被担保債権の利息はその質権によって担保されないとの特約がされた場合においても,利息は,質権の被担保債権に含まれる。
解説
誤り。違うのは「利息は、質権の被担保債権に含まれる」の部分である。346条ただし書により設定行為で別段の定めができるから、利息を担保しない特約は有効である。
346条本文は、質権は元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定め、同条ただし書は、設定行為に別段の定めがあるときはこの限りでないとする。質権は当事者の合意によって設定される約定担保物権であるから、どの範囲の債権を担保させるかも当事者が決めることができ、本文はその定めがない場合の範囲を示すにすぎない。利息を担保の範囲から外す特約は、質権者が自ら担保の範囲を狭めるものであり、設定者や他の債権者を害することもないから有効である。したがって、利息は質権の被担保債権に含まれず、特約があっても利息が含まれるとする肢は誤りである。抵当権では、利息その他の定期金は満期となった最後の2年分に限って担保される(375条1項)点で、質権とは扱いが違う。

民法346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第347条質物の留置過去問 1
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
この条文の過去問 1問
2023年 司法試験 第23問 肢ア
質権の被担保債権に係る債務と質物の返還義務とは、同時履行の関係にある。
解説
誤り。違うのは「同時履行の関係にある」の部分である。質権者は被担保債権の弁済を受けるまで質物を留置でき(347条)、弁済が質物の返還より先になる(大判大9.3.29)。
347条本文は、質権者は、被担保債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができると定める。質物を手元にとどめて債務者に弁済を促すことが質権の中心的な働きであり、質物の所有者は、まず被担保債権を払ってはじめて質物の返還を求めることができる。判例も、質物の返還と被担保債権の弁済は同時履行の関係に立たず、弁済が先であるとした(大判大9.3.29)。両者を同時履行とすると、債務者は弁済を提供しないまま質物の返還を求める質権者に対しても抗弁を出せることになり、留置して弁済を促すという質権の働きが失われる。また、質物の価値が被担保債権を十分に担保しているとは限らないので、二つの債務を対価として結び付けて引換えにすることが公平ともいえない。そもそも同時履行の抗弁権(533条)は一つの双務契約から生じた対価関係にある債務を前提とする制度であり、質権の被担保債務と質物の返還はそのような関係にない。

民法347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
ポイント整理
同時履行の関係の成否
| 二つの債務 | 同時履行か | 根拠 |
|---|
| 質権の被担保債務の弁済と質物の返還 | 否定(弁済が先) | 347条・大判大9.3.29 |
| 敷金の返還と賃借物の返還 | 否定(明渡しが先) | 622条の2第1項1号・最判昭49.9.2 |
| 請負の報酬と修補に代わる損害賠償 | 肯定 | 533条括弧書・最判平9.2.14 |
| 詐欺による取消し後の代金返還と抹消登記 | 肯定 | 533条の類推・最判昭47.9.7 |
| 弁済と受取証書の交付 | 肯定 | 486条1項 |
| 弁済と債権証書の返還 | 否定(全部の弁済が先) | 487条 |
第348条転質過去問 5
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
この条文の過去問 5問
2024年 予備試験 第7問 肢ア
質権者は、質権設定者の承諾を得なければ、質物について、自己の債務を被担保債権として質権を設定することができない。
解説
誤り。違うのは「質権設定者の承諾を得なければ」の部分である。
348条は、質権者はその権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について転質をすることができると定める。転質とは、質権者が自分の債務を担保するために質物の上にさらに質権を設定することであり、条文は質権設定者の承諾を要件としていない。留置権者は債務者の承諾がなければ留置物を担保に供することができず(298条2項)、この規定は質権にも準用される(350条)が、348条が質権について特則を置いて承諾を不要とした。もっとも、設定者の承諾なしに質物を第三者の支配下に置く以上、質権者の責任は重くなり、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても質権者が責任を負う(348条後段)。承諾を不要とすることの代わりに、重い責任を負わせているのである。設定者の承諾を得てする転質ももちろんできる。

民法348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
2024年 司法試験 第14問 肢ア
質権者は、質権設定者の承諾を得なければ、質物について、自己の債務を被担保債権として質権を設定することができない。
解説
誤り。違うのは「質権設定者の承諾を得なければ」の部分である。
348条は、質権者はその権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について転質をすることができると定める。転質とは、質権者が自分の債務を担保するために質物の上にさらに質権を設定することであり、条文は質権設定者の承諾を要件としていない。留置権者は債務者の承諾がなければ留置物を担保に供することができず(298条2項)、この規定は質権にも準用される(350条)が、348条が質権について特則を置いて承諾を不要とした。もっとも、設定者の承諾なしに質物を第三者の支配下に置く以上、質権者の責任は重くなり、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても質権者が責任を負う(348条後段)。承諾を不要とすることの代わりに、重い責任を負わせているのである。設定者の承諾を得てする転質ももちろんできる。

民法348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
2019年 司法試験 第13問 肢ウ
質権者は,質権設定者の承諾を得なければ,自己の債務の担保として質物をさらに質入れすることはできない。
解説
誤り。違うのは「質権設定者の承諾を得なければ」の部分である。質権者は、自己の責任で質物について転質をすることができ(348条)、設定者の承諾は要らない。
348条は、質権者はその権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について転質をすることができ、この場合において、転質をしたことによって生じた損失については不可抗力によるものであっても責任を負うと定める。転質に質権設定者の承諾を要するという要件は置かれておらず、質権者は承諾なしに、自分の債務の担保として質物をさらに質入れすることができる。質権者が把握している担保の価値を、自分の資金を得るためにも使えるようにしたのである。その代わりに、質権者は重い責任を負い、転質をしたことで生じた損失については、不可抗力によるものであっても責任を負う。本来であれば不可抗力による損失は所有者である設定者が負うところ、転質という質権者側の事情で目的物の危険が増した以上、その不利益は質権者が負うべきだからである。設定者の承諾を得てする転質も別に認められるが、承諾は転質の要件ではない。したがって本肢は誤りである。

民法348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
ポイント整理
質権の効力
- 被担保債権の範囲(346条):元本・利息・違約金・実行費用・保存費用・債務不履行や質物の隠れた瑕疵による損害賠償。設定行為で別に定められる
- 果実(350条・297条):質物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充てられる
- 転質(348条):設定者の承諾なしに自己の責任でできる。不可抗力による損失も負う
- 債権質の取立て(366条):目的債権を直接取り立てられる。金銭なら被担保債権額の範囲、金銭以外なら受けた物の上に質権が存続する
2010年 司法試験 第11問 肢1
質権者は,質物の所有者の承諾がなくても,質物をさらに質入れすることができる。
解説
正しい。質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で質物について転質をすることができ(348条前段)、質物の所有者の承諾は要らない。
348条は、質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について転質をすることができると定め、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても責任を負うとする。質権者は質物の交換価値を把握しているので、その価値を利用して自らも資金を得られるようにすることが担保の効用を高めるからである。このように質物の所有者の承諾を得ないでする転質を責任転質といい、判例も、質物の所有者の承諾がなくても転質をすることができるとしている(大連決大14.7.14)。その代わりに、質権者は、転質をしなければ生じなかった損失について、不可抗力によるものでも責任を負うという重い責任を負担する。なお、質物の所有者の承諾を得てする承諾転質は、298条2項・350条によって認められ、348条の重い責任は負わない。したがって、本肢は正しい。

民法348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
2007年 司法試験 第36問 肢2
「会社等の常務は,その完了前に他の構成員が異議を述べない限り,各構成員が単独で行うことができる。」という説明は,株式会社,合同会社及び民法上の組合のいずれにも当てはまらない。
解説
誤り。違うのは「株式会社,合同会社及び民法上の組合のいずれにも当てはまらない」の部分である。常務を各構成員が単独で行い完了前の異議で止まるという規律は、合同会社(会社法590条3項)と民法上の組合(民法670条5項)には当てはまる。
会社法590条3項は、持分会社の常務は各社員が単独で行うことができ、ただしその完了前に他の社員が異議を述べた場合はこの限りでないと定める。合同会社は持分会社であるから、定款に別段の定めがなければ各社員が業務を執行し(同条1項)、日常的に反復される常務については社員の過半数による決定(同条2項)を待たずに各社員が単独で処理できる。民法670条5項も、組合の常務は各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができ、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときはこの限りでないと定めており、同じ規律である。いずれも構成員が自ら事業を運営する人的な団体であることから、機動的な処理を認めつつ、他の構成員の異議で止められるようにしたものである。これに対して株式会社では所有と経営が分離しており、株主は株主の地位において会社の業務を執行せず、業務執行は取締役(取締役会設置会社では代表取締役・業務執行取締役)が行う。したがって肢の説明は株式会社には当てはまらないが、合同会社と民法上の組合には当てはまり、いずれにも当てはまらないとする肢は誤りである。

会社法590条3項
前項の規定にかかわらず、持分会社の常務は、各社員が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の社員が異議を述べた場合は、この限りでない。
ポイント整理
持分会社の業務執行の規律
- 業務執行権: 定款に別段の定めが無ければ各社員(590条1項)。定款で業務執行社員を定められる(591条)
- 意思決定: 社員(業務執行社員)の過半数(590条2項・591条1項)。常務は単独、完了前の異議で止まる(590条3項)
- 調査権: 業務を執行しない社員も業務・財産の状況を調査できる。裁判所の許可は不要(592条)
- 競業: 他の社員全員の承認(594条1項)。利益相反取引: 他の社員の過半数の承認(595条1項)
第349条契約による質物の処分の禁止過去問 2
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
この条文の過去問 2問
2016年 予備試験 第28問 肢オ
商行為によって生じた債権を担保するために設定された質権の質権設定者は,債務の弁済期前の契約において,質権者に弁済として質物の所有権を取得させることを約することができる。
解説
正しい。流質契約を禁じる民法349条は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権には適用されない(商法515条)。
民法349条は、質権設定者は設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができないと定める。資金に窮した債務者が、被担保債権額を大きく上回る価値の質物を失うことを承諾させられる暴利行為を防ぎ、経済的に弱い設定者を保護する趣旨である。これに対し商法515条は、民法349条の規定は商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については適用しないと定め、この場合の流質契約を有効とする。商行為の当事者は取引について合理的な利害計算ができる立場にあって暴利行為に対する自衛能力を備えており、担保の実行について簡易迅速な換価を認めることが企業金融の要請に合うからである。適用の基準は被担保債権が商行為によって生じたことであり、質権設定者が商人であることや質権設定行為自体が商行為であることは要らない。商法3条1項により一方的商行為によって生じた債権でも適用がある。弁済期前の契約で質権者に弁済として質物の所有権を取得させることを約せるとする本肢は正しい。

商法515条
民法第三百四十九条の規定は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、適用しない。
2009年 司法試験 第13問 肢オ
質権により担保される債権の弁済期後であっても,質権者と質権設定者は,債務の弁済として質物を質権者に取得させることを合意することができない。
解説
誤り。違うのは「合意することができない」の部分である。流質契約が禁止されるのは設定行為又は債務の弁済期前の契約に限られ(349条)、弁済期後であれば、弁済として質物を質権者に取得させる合意をすることができる。
349条は、質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができないと定める。弁済期前の債務者は、資金を得るために不利な条件でも受け入れざるを得ない立場にあり、債権額をはるかに上回る価値の物を質に入れて、弁済できなければその物を取られるという約束をさせられるおそれがあるので、そのような流質契約を禁止して債務者を保護したのである。しかし、弁済期が到来した後は、債務者はもはや資金の融通を受けるために窮迫した立場に置かれているわけではなく、質物を弁済に充てるかどうかを冷静に判断できるので、そのような合意を禁じる理由はない。そのため、同条の反対解釈として、弁済期後の流質の合意は有効とされる。したがって、本肢は誤りである。

民法349条
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
第350条留置権及び先取特権の規定の準用過去問 18
第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
この条文の過去問 18問
2024年 予備試験 第7問 肢イ
動産質権者は、質物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
解説
正しい。350条が準用する297条1項により、動産質権者は質物の果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充当できる。
350条は、留置権に関する296条から300条まで及び304条を質権に準用する。297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができると定めるので、動産質権者も質物の果実を収取して優先弁済に充てることができる。動産質権者は質物を占有し続けており(352条)、占有に伴って生じる果実を収取させて被担保債権の満足に充てるのが合理的だからである。充当には順序があり、果実はまず債権の利息に充て、残りがあれば元本に充てなければならない(297条2項)。果実には天然果実のほか、適法に質物を賃貸した場合の賃料も含まれるが、賃貸には設定者の承諾が要る(350条・298条2項)。不動産質権では、356条が使用及び収益の権利を正面から認めている。

民法297条
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
ポイント整理
動産質と不動産質
| 動産質 | 不動産質 |
|---|
| 使用・収益 | 承諾がなければ使用・賃貸できない。保存に必要な使用は可(350条・298条2項) | 用法に従って使用・収益できる(356条) |
| 果実 | 収取して弁済に充当できる(350条・297条) | 使用・収益の権利に含まれる |
| 管理費用 | — | 質権者が負担(357条) |
| 利息 | 請求できる | 原則として請求できない(358条) |
| 存続期間 | 制限なし | 10年まで(360条) |
2024年 予備試験 第7問 肢ウ
動産質権者は、質権設定者の承諾を得なくても、質物の保存に必要な使用をすることができる。
解説
正しい。350条が準用する298条2項ただし書により、動産質権者は承諾がなくても質物の保存に必要な使用をすることができる。
350条により準用される298条2項は、本文で、債務者の承諾を得なければ留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができないと定め、ただし書で、その物の保存に必要な使用をすることはこの限りでないとする。したがって、動産質権者は、質物の保存に必要な範囲の使用であれば、設定者の承諾なしにすることができる。質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有する義務を負い(350条・298条1項)、物によってはまったく使わないでおくとかえって劣化することがあるので、保存に必要な限度の使用はむしろ注意義務を果たす行為になるからである。これに対し、保存に必要な限度を超える使用・賃貸・担保の提供を承諾なくしたときは、設定者は質権の消滅を請求できる(350条・298条3項)。本肢は保存に必要な使用を述べるものである。

民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
ポイント整理
動産質と不動産質
| 動産質 | 不動産質 |
|---|
| 使用・収益 | 承諾がなければ使用・賃貸できない。保存に必要な使用は可(350条・298条2項) | 用法に従って使用・収益できる(356条) |
| 果実 | 収取して弁済に充当できる(350条・297条) | 使用・収益の権利に含まれる |
| 管理費用 | — | 質権者が負担(357条) |
| 利息 | 請求できる | 原則として請求できない(358条) |
| 存続期間 | 制限なし | 10年まで(360条) |
2024年 司法試験 第14問 肢イ
動産質権者は、質物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
解説
正しい。350条が準用する297条1項により、動産質権者は質物の果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充当できる。
350条は、留置権に関する296条から300条まで及び304条を質権に準用する。297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができると定めるので、動産質権者も質物の果実を収取して優先弁済に充てることができる。動産質権者は質物を占有し続けており(352条)、占有に伴って生じる果実を収取させて被担保債権の満足に充てるのが合理的だからである。充当には順序があり、果実はまず債権の利息に充て、残りがあれば元本に充てなければならない(297条2項)。果実には天然果実のほか、適法に質物を賃貸した場合の賃料も含まれるが、賃貸には設定者の承諾が要る(350条・298条2項)。不動産質権では、356条が使用及び収益の権利を正面から認めている。

民法297条
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
ポイント整理
動産質と不動産質
| 動産質 | 不動産質 |
|---|
| 使用・収益 | 承諾がなければ使用・賃貸できない。保存に必要な使用は可(350条・298条2項) | 用法に従って使用・収益できる(356条) |
| 果実 | 収取して弁済に充当できる(350条・297条) | 使用・収益の権利に含まれる |
| 管理費用 | — | 質権者が負担(357条) |
| 利息 | 請求できる | 原則として請求できない(358条) |
| 存続期間 | 制限なし | 10年まで(360条) |
2024年 司法試験 第14問 肢ウ
動産質権者は、質権設定者の承諾を得なくても、質物の保存に必要な使用をすることができる。
解説
正しい。350条が準用する298条2項ただし書により、動産質権者は承諾がなくても質物の保存に必要な使用をすることができる。
350条により準用される298条2項は、本文で、債務者の承諾を得なければ留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができないと定め、ただし書で、その物の保存に必要な使用をすることはこの限りでないとする。したがって、動産質権者は、質物の保存に必要な範囲の使用であれば、設定者の承諾なしにすることができる。質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有する義務を負い(350条・298条1項)、物によってはまったく使わないでおくとかえって劣化することがあるので、保存に必要な限度の使用はむしろ注意義務を果たす行為になるからである。これに対し、保存に必要な限度を超える使用・賃貸・担保の提供を承諾なくしたときは、設定者は質権の消滅を請求できる(350条・298条3項)。本肢は保存に必要な使用を述べるものである。

民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
ポイント整理
動産質と不動産質
| 動産質 | 不動産質 |
|---|
| 使用・収益 | 承諾がなければ使用・賃貸できない。保存に必要な使用は可(350条・298条2項) | 用法に従って使用・収益できる(356条) |
| 果実 | 収取して弁済に充当できる(350条・297条) | 使用・収益の権利に含まれる |
| 管理費用 | — | 質権者が負担(357条) |
| 利息 | 請求できる | 原則として請求できない(358条) |
| 存続期間 | 制限なし | 10年まで(360条) |
2022年 予備試験 第7問 肢オ
Aの債権質の効力は、債権乙に係る利息には及ばない。
解説
誤り。違うのは「利息には及ばない」の部分である。債権質の効力は目的債権の利息にも及ぶ。
362条2項は、権利質については、その性質に反しない限り質権の総則・動産質・不動産質の規定を準用すると定め、質権の総則にある350条は、留置権者による果実の収取を定めた297条を質権に準用している。297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができると定める。目的債権乙から生じる利息は元本の使用の対価として受ける法定果実(88条2項)であるから、これらの規定を通じて債権質の効力は利息にも及び、Aは乙の元本だけでなく利息からも優先弁済を受けることができる。利息に効力が及ぶ根拠としては、ほかに、利息債権は元本債権から生じる付随的な債権であるからとする理解や、87条2項を類推する理解もあるが、利息に効力が及ぶという結論に違いはない。元本だけを担保として把握するのでは、目的債権の価値を十分に生かせないからである。したがって、利息には及ばないとする本肢は誤りである。

民法297条1項
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
ポイント整理
債権質の要点
- 対抗要件(364条):債権譲渡と同じく第三債務者への通知又はその承諾。第三債務者以外の第三者には確定日付のある証書。法人なら債権譲渡登記でもよい
- 第三債務者の抗弁:対抗要件具備時までに質権設定者に対して生じた事由を質権者に対抗できる(468条1項の適用又は準用)
- 直接取立て(366条1項・2項):質権者が自分の名で取り立てる。金銭債権は被担保債権額に対応する部分に限る
- 目的債権が先に弁済期(366条3項):第三債務者に供託させ、質権は供託金の上に存続する
- 利息:質権の効力は目的債権の利息にも及ぶ(362条2項・350条・297条1項)
2022年 司法試験 第13問 肢オ
Aの債権質の効力は、債権乙に係る利息には及ばない。
解説
誤り。違うのは「利息には及ばない」の部分である。債権質の効力は目的債権の利息にも及ぶ。
362条2項は、権利質については、その性質に反しない限り質権の総則・動産質・不動産質の規定を準用すると定め、質権の総則にある350条は、留置権者による果実の収取を定めた297条を質権に準用している。297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができると定める。目的債権乙から生じる利息は元本の使用の対価として受ける法定果実(88条2項)であるから、これらの規定を通じて債権質の効力は利息にも及び、Aは乙の元本だけでなく利息からも優先弁済を受けることができる。利息に効力が及ぶ根拠としては、ほかに、利息債権は元本債権から生じる付随的な債権であるからとする理解や、87条2項を類推する理解もあるが、利息に効力が及ぶという結論に違いはない。元本だけを担保として把握するのでは、目的債権の価値を十分に生かせないからである。したがって、利息には及ばないとする本肢は誤りである。

民法297条1項
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
ポイント整理
債権質の要点
- 対抗要件(364条):債権譲渡と同じく第三債務者への通知又はその承諾。第三債務者以外の第三者には確定日付のある証書。法人なら債権譲渡登記でもよい
- 第三債務者の抗弁:対抗要件具備時までに質権設定者に対して生じた事由を質権者に対抗できる(468条1項の適用又は準用)
- 直接取立て(366条1項・2項):質権者が自分の名で取り立てる。金銭債権は被担保債権額に対応する部分に限る
- 目的債権が先に弁済期(366条3項):第三債務者に供託させ、質権は供託金の上に存続する
- 利息:質権の効力は目的債権の利息にも及ぶ(362条2項・350条・297条1項)
2021年 司法試験 第12問 肢ウ
動産質権者は,占有している質物について必要費を支出しても,所有者にその償還を請求することはできない。
解説
誤り。違うのは「所有者にその償還を請求することはできない」の部分である。質権者は、質物に必要費を支出したときは所有者にその償還をさせることができる(350条・299条1項)。
350条は留置権に関する296条から300条までの規定を質権に準用しており、299条1項は、留置権者は留置物について必要費を支出したときは所有者にその償還をさせることができると定める。したがって、動産質権者が占有する質物に必要費を支出したときは、所有者にその償還を請求できる。質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有する義務を負い(350条・298条1項)、質物を保存するための費用は質物の価値を保つことで所有者の利益にもなるので、質権者に負担させるのは公平でない。有益費については、価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択で支出額か増価額を償還させることができ、裁判所は期限を許与できる(299条2項)。また、質物の保存の費用は質権の被担保債権にも含まれる(346条)。肢は償還を請求できないとしており、誤っている。

民法299条1項(350条で質権に準用)
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
ポイント整理
費用償還の一覧
- 占有者(196条):必要費は償還。果実を取得すれば通常の必要費は自己負担。有益費は回復者の選択。期限の許与は悪意の占有者のみ
- 賃借人(608条):必要費は直ちに。有益費は終了の時に、賃貸人の選択で
- 留置権者・質権者(299条・350条):必要費は償還。有益費は所有者の選択で、期限の許与あり
- 抵当不動産の第三取得者(391条):196条の区別に従い代価から優先償還
- 受任者・受寄者(650条・665条):費用と利息の償還
- 事務管理者(702条):有益な費用の償還。本人の意思に反すれば現に利益を受けている限度
2019年 司法試験 第13問 肢イ
動産質権者は,質物から生ずる果実を収取し,他の債権者に優先して被担保債権の弁済に充当することができる。
解説
正しい。質権には留置権の297条が準用され(350条)、動産質権者は質物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って被担保債権の弁済に充てることができる。
350条は、留置権の規定である297条を質権に準用する。297条1項は、留置権者は留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができると定めているから、動産質権者も、質物から生じた果実を収取し、他の債権者に優先して被担保債権の弁済に充てることができる。質権者は質物を正当に占有しており、その占有の下で生じた果実を担保の一部として取り込ませるのが合理的だからである。もっとも、これは質物を使って利益を得る権限を認めるものではない。動産質権者が質物を使用したり賃貸したりするには、債務者の承諾が必要である(350条・298条2項)。充当の順序は、まず被担保債権の利息に充て、なお残りがあれば元本に充てる(350条・297条2項)。果実を他の債権者より先に弁済に充てられる点に、質権の優先弁済の効力が表れている。したがって本肢は正しい。

民法297条1項
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
ポイント整理
質権の効力
- 被担保債権の範囲(346条):元本・利息・違約金・実行費用・保存費用・債務不履行や質物の隠れた瑕疵による損害賠償。設定行為で別に定められる
- 果実(350条・297条):質物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って弁済に充てられる
- 転質(348条):設定者の承諾なしに自己の責任でできる。不可抗力による損失も負う
- 債権質の取立て(366条):目的債権を直接取り立てられる。金銭なら被担保債権額の範囲、金銭以外なら受けた物の上に質権が存続する
2016年 予備試験 第6問 肢2
留置権,先取特権,質権及び抵当権には,いずれも物上代位性が認められる。
解説
誤り。違うのは「留置権」にも物上代位性が認められるとする部分である。物上代位性は先取特権・質権・抵当権にあり(304条・350条・372条)、優先弁済的効力のない留置権にはない。
物上代位とは、担保の目的物が売却・賃貸・滅失・損傷によって金銭その他の物に変わったときに、その代わりの物にも担保権を行使できることをいう。304条1項は先取特権についてこれを定め、350条が質権に、372条が抵当権に準用している。物上代位は、担保物権が目的物の交換価値を支配し、そこから優先して弁済を受ける権利であることに根拠がある。これに対し、留置権は物を留め置いて債務者に弁済を間接的に強制する権利であり(295条1項)、目的物を換価してその代金から優先弁済を受ける効力を持たない。目的物が滅失して保険金請求権に変わっても、留め置く物がなくなる以上、留置権がその上に及ぶ理由はない。そのため留置権について304条を準用する規定はない。したがって、4つの担保物権のいずれにも物上代位性が認められるとする肢は誤っている。

民法304条1項
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
ポイント整理
担保物権の性質と効力の比較
- 留置権(法定):付従性・随伴性・不可分性あり。物上代位性・優先弁済的効力なし。留置的効力と競売申立権あり
- 先取特権(法定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力あり。留置的効力なし
- 質権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力あり
- 抵当権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力あり。留置的効力なし
- 同一不動産上の順位:原則は登記の前後。登記した不動産保存・工事の先取特権は抵当権に優先(339条)
2016年 司法試験 第11問 肢2
留置権,先取特権,質権及び抵当権には,いずれも物上代位性が認められる。
解説
誤り。違うのは「留置権」にも物上代位性が認められるとする部分である。物上代位性は先取特権・質権・抵当権にあり(304条・350条・372条)、優先弁済的効力のない留置権にはない。
物上代位とは、担保の目的物が売却・賃貸・滅失・損傷によって金銭その他の物に変わったときに、その代わりの物にも担保権を行使できることをいう。304条1項は先取特権についてこれを定め、350条が質権に、372条が抵当権に準用している。物上代位は、担保物権が目的物の交換価値を支配し、そこから優先して弁済を受ける権利であることに根拠がある。これに対し、留置権は物を留め置いて債務者に弁済を間接的に強制する権利であり(295条1項)、目的物を換価してその代金から優先弁済を受ける効力を持たない。目的物が滅失して保険金請求権に変わっても、留め置く物がなくなる以上、留置権がその上に及ぶ理由はない。そのため留置権について304条を準用する規定はない。したがって、4つの担保物権のいずれにも物上代位性が認められるとする肢は誤っている。

民法304条1項
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
ポイント整理
担保物権の性質と効力の比較
- 留置権(法定):付従性・随伴性・不可分性あり。物上代位性・優先弁済的効力なし。留置的効力と競売申立権あり
- 先取特権(法定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力あり。留置的効力なし
- 質権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力あり
- 抵当権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力あり。留置的効力なし
- 同一不動産上の順位:原則は登記の前後。登記した不動産保存・工事の先取特権は抵当権に優先(339条)
2014年 予備試験 第15問 肢ウ
動産質権者は,継続して占有している質物について通常の必要費を支出した場合であっても,所有者にその償還をさせることはできない。
解説
誤り。違うのは「所有者にその償還をさせることはできない」の部分である。質権には留置権の299条が準用され、質権者は通常の必要費も所有者に償還させることができる(350条・299条1項)。
350条は留置権の規定である296条から300条までを質権に準用しており、299条1項の準用により、質権者は質物について必要費を支出したときは所有者にその償還をさせることができる。299条1項は必要費の種類を限定しておらず、占有者についての196条1項ただし書のように、果実を取得したときは通常の必要費を自分で負担するという例外も置いていない。質権者は質物から生じる果実を収取できるが、その果実は他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てるものであり(350条・297条)、質権者の純粋な収益になるわけではない。また、質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有する義務を負い(350条・298条1項)、その保管は他人の物の価値を保つための行為であるから、支出した必要費は所有者の負担とするのが筋である。したがって、動産質権者は通常の必要費も所有者に償還させることができ、これを否定する肢は誤っている。

民法299条1項(350条で質権に準用)
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
ポイント整理
費用償還の比較
- 占有者(196条):必要費は償還。果実を取得したときは通常の必要費は自己負担。有益費は回復者の選択
- 留置権者・質権者(299条・350条):必要費は通常のものも償還。有益費は所有者の選択で、期限の許与あり
- 抵当不動産の第三取得者(391条):196条の区別に従い代価から優先して償還
- 事務管理者(702条):有益な費用の償還と代弁済。本人の意思に反すれば現に利益を受けている限度
2014年 司法試験 第36問 肢ウ
動産質権者は,継続して占有している質物について通常の必要費を支出した場合であっても,所有者にその償還をさせることはできない。
解説
誤り。違うのは「所有者にその償還をさせることはできない」の部分である。質権には留置権の299条が準用され、質権者は通常の必要費も所有者に償還させることができる(350条・299条1項)。
350条は留置権の規定である296条から300条までを質権に準用しており、299条1項の準用により、質権者は質物について必要費を支出したときは所有者にその償還をさせることができる。299条1項は必要費の種類を限定しておらず、占有者についての196条1項ただし書のように、果実を取得したときは通常の必要費を自分で負担するという例外も置いていない。質権者は質物から生じる果実を収取できるが、その果実は他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てるものであり(350条・297条)、質権者の純粋な収益になるわけではない。また、質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有する義務を負い(350条・298条1項)、その保管は他人の物の価値を保つための行為であるから、支出した必要費は所有者の負担とするのが筋である。したがって、動産質権者は通常の必要費も所有者に償還させることができ、これを否定する肢は誤っている。

民法299条1項(350条で質権に準用)
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
ポイント整理
費用償還の比較
- 占有者(196条):必要費は償還。果実を取得したときは通常の必要費は自己負担。有益費は回復者の選択
- 留置権者・質権者(299条・350条):必要費は通常のものも償還。有益費は所有者の選択で、期限の許与あり
- 抵当不動産の第三取得者(391条):196条の区別に従い代価から優先して償還
- 事務管理者(702条):有益な費用の償還と代弁済。本人の意思に反すれば現に利益を受けている限度
2008年 司法試験 第12問 肢1
留置権者が留置物の占有を継続していても,その被担保債権の消滅時効は進行するが,質権者が質物の占有を継続していれば,その被担保債権の消滅時効は中断する。
解説
誤り。違うのは「質権者が質物の占有を継続していれば、その被担保債権の消滅時効は中断する」の部分である。300条は質権に準用され(350条)、質物の占有を続けても消滅時効は進行する。
300条は、留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げないと定め、350条はこの規定を質権に準用する。留置権者や質権者が目的物を占有し続けるのは、担保物権を行使しているにすぎず、被担保債権そのものを裁判上請求したり、債務者がその債務を承認したりするのとは異なるから、時効の完成猶予や更新の事由に当たらない。目的物を手元に置いて弁済を間接的に促しているだけの債権者を、権利の上に眠る者でないと扱う理由はないからである。被担保債権が時効で消滅すれば、付従性により担保物権も消滅する。したがって、本肢の前段は正しいが、質権者が質物の占有を継続すれば消滅時効が中断するとする後段は誤りである。出題当時の時効の中断は、平成29年改正で完成猶予と更新に改められたが、占有の継続がそのいずれにも当たらない点は変わらない。

民法300条・350条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。/第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
ポイント整理
動産の留置権と質権の比較
| 項目 | 留置権 | 質権 |
|---|
| 成立 | 法定担保物権 | 約定担保物権(引渡しで効力、占有改定は不可) |
| 優先弁済的効力・物上代位 | なし | あり(350条・304条) |
| 不可分性 | あり(296条) | あり(350条で準用) |
| 代担保による消滅請求 | できる(301条) | 準用なし |
| 承諾を得た賃貸 | できる(298条2項) | できる(350条で準用) |
| 占有の継続と消滅時効 | 進行する(300条) | 進行する(350条で準用) |
2008年 司法試験 第12問 肢3
留置権は,質権と異なり,目的物が滅失した場合,これに代わって債務者が取得する物には効力が及ばず,消滅する。
解説
正しい。留置権には物上代位性がなく、目的物が滅失すれば消滅するが、質権には物上代位が認められる(350条・304条)。
350条は304条の物上代位の規定を質権に準用するが、留置権には物上代位の規定がない。物上代位は、目的物の交換価値から優先弁済を受ける担保物権について、目的物が滅失・損傷して価値が保険金や損害賠償請求権などに変わったときに、その代わりの物にも担保の効力を及ぼすものである。質権は優先弁済的効力を持つから、目的物に代わる物にも効力を及ぼす意味がある。これに対し、留置権は、目的物を留め置いて弁済を間接的に強制する権利にすぎず、優先弁済的効力を持たないから、目的物が滅失すればもはや留め置く対象がなく、代わりの物に効力を及ぼす根拠もない。したがって、留置物が滅失すれば留置権は消滅し、債務者が取得した損害賠償請求権などには及ばない。本肢は正しい。

民法304条1項
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
ポイント整理
動産の留置権と質権の比較
| 項目 | 留置権 | 質権 |
|---|
| 成立 | 法定担保物権 | 約定担保物権(引渡しで効力、占有改定は不可) |
| 優先弁済的効力・物上代位 | なし | あり(350条・304条) |
| 不可分性 | あり(296条) | あり(350条で準用) |
| 代担保による消滅請求 | できる(301条) | 準用なし |
| 承諾を得た賃貸 | できる(298条2項) | できる(350条で準用) |
| 占有の継続と消滅時効 | 進行する(300条) | 進行する(350条で準用) |
2008年 司法試験 第12問 肢4
留置権と質権は,不可分性により,いずれも被担保債権の一部の弁済を受けただけでは消滅しないが,留置権については,債務者が相当の担保を提供して留置権の消滅を請求することができる。
解説
正しい。留置権・質権とも債権の全部の弁済を受けるまで目的物の全部に権利を行使でき(296条・350条)、留置権については債務者が相当の担保を供して消滅を請求できる(301条)。
296条は、留置権者は債権の全部の弁済を受けるまでは留置物の全部についてその権利を行使することができると定め、350条はこの規定を質権に準用する。担保物権は被担保債権が全部満足されるまで担保の目的を果たすべきものであるから、一部の弁済によって担保の範囲を縮めることはしない(不可分性)。他方、301条は、債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができると定める。留置権は法律上当然に成立するため、被担保債権に比べて著しく価値の高い物が留め置かれることがあり、債務者に別の担保を提供させて目的物を取り戻す途を開いたのである。これに対し、質権は当事者の合意で目的物を選んで設定する約定担保物権であるから、301条は350条で準用されていない。本肢は正しい。

民法301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。
ポイント整理
動産の留置権と質権の比較
| 項目 | 留置権 | 質権 |
|---|
| 成立 | 法定担保物権 | 約定担保物権(引渡しで効力、占有改定は不可) |
| 優先弁済的効力・物上代位 | なし | あり(350条・304条) |
| 不可分性 | あり(296条) | あり(350条で準用) |
| 代担保による消滅請求 | できる(301条) | 準用なし |
| 承諾を得た賃貸 | できる(298条2項) | できる(350条で準用) |
| 占有の継続と消滅時効 | 進行する(300条) | 進行する(350条で準用) |
2008年 司法試験 第12問 肢5
留置権者は債務者の同意があれば,また,質権者は質権設定者の同意があれば,いずれもそれぞれ担保物を賃貸することができる。
解説
正しい。留置権者は債務者の承諾を得れば留置物を賃貸でき(298条2項)、この規定は質権に準用されるので、質権者も質権設定者の承諾があれば質物を賃貸できる(350条)。
298条2項は、留置権者は債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができないと定め、350条はこの規定を質権に準用する。留置権者や質権者は担保として目的物を占有しているにすぎず、目的物を自由に使用収益する権限はないから、所有者の利益を害さないよう、承諾のない使用・賃貸を禁じている。反対に、債務者(質権では質権設定者)の承諾があれば、所有者自身がそれを認めている以上、賃貸を禁じる理由はない。承諾を得てした賃貸は適法であり、承諾なくした賃貸は消滅請求の原因となる(298条3項)。不動産質権者は承諾がなくても目的不動産を使用収益できる(356条)が、本肢の動産質ではこの規定の適用はない。本肢は正しい。

民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
ポイント整理
動産の留置権と質権の比較
| 項目 | 留置権 | 質権 |
|---|
| 成立 | 法定担保物権 | 約定担保物権(引渡しで効力、占有改定は不可) |
| 優先弁済的効力・物上代位 | なし | あり(350条・304条) |
| 不可分性 | あり(296条) | あり(350条で準用) |
| 代担保による消滅請求 | できる(301条) | 準用なし |
| 承諾を得た賃貸 | できる(298条2項) | できる(350条で準用) |
| 占有の継続と消滅時効 | 進行する(300条) | 進行する(350条で準用) |
2008年 司法試験 第15問 肢ア
質権者は,善良な管理者の注意をもって質物を占有しなければならない。
解説
正しい。留置権者の善管注意義務を定める298条1項は質権に準用され(350条)、質権者は善良な管理者の注意をもって質物を占有しなければならない。
298条1項は、留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有しなければならないと定め、350条はこの規定を質権に準用する。質権者は、債権の担保として他人の物を預かり、自己の占有下に置いている者である。質物は質権設定者の所有物であり、被担保債権が弁済されれば返還しなければならないから、その間は他人の財産を預かる者として、自分の物を扱うときより高い程度の注意、すなわち取引上一般に求められる善良な管理者の注意で保管すべきとされる。質権者がこの義務に違反したときは、質権設定者は留置権の場合と同じく質権の消滅を請求できる(298条3項・350条)。注意義務の程度が軽減されるのは、無報酬で他人の物を預かる場合や、自己の財産を管理する場合など、特に理由がある場合に限られる。本肢は正しい。

民法298条1項・350条
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。/第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
ポイント整理
注意義務の程度
| 注意の程度 | 負う者 |
|---|
| 善良な管理者の注意 | 特定物の引渡債務者(400条)、受任者(無償でも、644条)、取締役(会社法330条)、後見人(869条)、留置権者・質権者(298条1項・350条)、有償の受寄者 |
| 自己の財産に対するのと同一の注意 | 無報酬の受寄者(659条)、受領遅滞の後の特定物の債務者(413条1項) |
| 固有財産におけるのと同一の注意 | 熟慮期間中の相続人(918条)、限定承認者(926条1項) |
| 自己のためにするのと同一の注意 | 親権者(827条) |
2007年 司法試験 第12問 肢1
留置権,質権及び抵当権には,いずれも物上代位性が認められている。
解説
誤り。違うのは「留置権」にも物上代位性が認められているとする部分である。質権と抵当権には304条が準用されるが(350条・372条)、留置権には物上代位性がない。
304条は先取特権について物上代位を定め、350条は質権に、372条は抵当権にこれを準用する。物上代位は、目的物の交換価値から優先弁済を受ける担保物権について、目的物が売却・滅失などにより金銭その他の物に姿を変えたときに、その代わりの物にも効力を及ぼすものである。質権と抵当権は優先弁済的効力を持つから、目的物の価値変形物にも効力を及ぼす意味がある。これに対し、留置権は目的物を留め置いて弁済を間接的に強制する権利にすぎず、優先弁済的効力を持たないから、304条は準用されておらず、物上代位性は認められない。留置物が滅失すれば留置権は消滅し、債務者が取得した損害賠償請求権や保険金請求権には及ばない。本肢は留置権にも物上代位性を認めている点で誤りである。

民法304条1項
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
ポイント整理
担保物権の通有性と効力
- 留置権(法定):付従性・随伴性・不可分性があり、物上代位性・優先弁済的効力はない。留置的効力と競売申立権がある
- 先取特権(法定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
- 質権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力がある
- 抵当権(約定):付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力がある。留置的効力はない
第351条物上保証人の求償権
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。