第622条の2過去問 18
1賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
2 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
この条文の過去問 18問
賃貸借が終了した場合における敷金の返還義務と賃借物の返還義務とは、同時履行の関係にある。
解説
本肢は誤り。敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう(民法622条の2第1項柱書括弧書)。そして、賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときに、受け取った敷金の額から賃借人の未払債務額を控除した残額を返還しなければならない(同項1号)。すなわち、敷金返還債務は賃貸物の返還がされてはじめて発生する停止条件付ないし発生要件付の債務であり、明渡しが先履行の関係に立つ。判例も、家屋明渡義務と敷金返還義務とは同時履行の関係に立たないとしており、その理由として、敷金が賃貸借終了後明渡しまでに生ずる賃料相当損害金債権をも担保する趣旨のものであること、敷金契約は賃貸借契約に付随するが賃貸借契約そのものではなく一個の双務契約から生じた対価的債務の関係に立たないこと、両債務の間には著しい価値の差があり同時履行を認めることが必ずしも公平の原則に合致しないことを挙げている(最判昭和49年9月2日)。この帰結は平成29年改正により民法622条の2として明文化された。よって、同時履行の関係にあるとする本肢は誤りである。
Bは、Aが賃料を支払わない場合、未払賃料額が敷金額の範囲内であっても、Aが甲建物に備え付けた動産について先取特権を行使することができる。
解説
本肢は誤り。不動産の賃貸人は、賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務について、賃借人の一定の動産の上に先取特権を有する(民法311条1号、312条)。目的物の範囲は、建物の賃貸借であれば「賃借人がその建物に備え付けた動産」に及ぶ(313条2項)から、本肢のAが甲建物に持ち込んだ家具等は本来この先取特権の対象となる。
もっとも、この先取特権は敷金が交付されている場合には制限を受ける。316条は、賃貸人が622条の2第1項に規定する敷金を受け取っている場合には「その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する」と定めている。敷金は、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の金銭債務を担保する目的で賃借人が交付する金銭であり(622条の2第1項柱書)、賃借人が債務を履行しないときは賃貸人の側からこれを債務の弁済に充当することができる(同条2項前段)。つまり、未払額が敷金の額の枠内にとどまる限り、賃貸人は敷金から確実に満足を得られる地位にあるのであって、それに重ねて備付動産上の担保まで認めるべき必要性はない。316条は、この趣旨から先取特権の及ぶ範囲を敷金超過部分に限定したものである。
したがって、未払賃料額が敷金額の範囲内である本肢の場合、BはAの備え付けた動産について先取特権を行使することはできない。
Aは、賃貸借契約の存続中、Bに対して、賃料債務の弁済に敷金を充てるよう請求することができる。
解説
本肢は誤り。敷金の充当関係については、622条の2第2項が正面から規律している。同項前段は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときに賃貸人が敷金をその弁済に充てることができるとし、同項後段は、賃借人の側から「敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない」と明示している。すなわち、敷金からの充当は賃貸人に与えられた権能であって、賃借人の権利ではない。
このような区別が設けられているのは、敷金が賃貸人のための担保だからである。担保権者である賃貸人は、賃借人の資力や賃貸借の残存期間を見ながら、いつ、いくらを充当するかを自ら判断できてこそ担保としての意味がある。これに対し、賃借人が任意に充当を請求できるとすれば、賃貸借の存続中に担保がなし崩し的に減少し、賃借人は自らの意思で担保を消尽させたうえで賃料の不払を続けられることになりかねず、敷金を差し入れさせた趣旨が失われる。判例も従前から、賃貸借存続中の賃借人による充当請求を否定してきており、平成29年改正はこの結論を条文化したものである。
したがって、Aが賃貸借契約の存続中にBに対して賃料債務への敷金充当を請求することはできない。
Aは、賃貸借契約が終了したときは、敷金が返還されるまで甲建物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。敷金返還債務がいつ発生するかが出発点となる。622条の2第1項1号は、賃貸人が敷金を返還すべき時期を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と定めている。賃貸借の終了だけでは足りず、目的物の返還までされて初めて、賃貸人は受け取った敷金から未払債務額を差し引いた残額の返還義務を負う。したがって、賃借人の明渡債務が先履行の関係に立ち、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行(533条)の関係にはならない。
判例も同様である。最判昭和49年9月2日は、賃貸人は特約のない限り家屋の明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足り、明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たないとしたうえで、明渡債務が先履行の関係に立つ以上、賃借人が敷金返還請求権を被担保債権として家屋につき留置権を取得する余地はないと判示した。留置権の側から見ても、被担保債権が弁済期にないときは留置権は成立しない(295条1項ただし書)ところ、明渡し前の敷金返還請求権はそもそも発生しておらず弁済期も到来していないから、留置権の要件を満たさない。
したがって、賃貸借契約が終了したというだけで、Aが敷金の返還を受けるまで甲建物を留置することはできない。
Aが賃借権をCに適法に譲渡したときは、AはBに対して敷金の返還を請求することができる。
解説
本肢は正しい。622条の2第1項2号は、賃貸人が敷金の返還義務を負う場面として、同項1号の賃貸借終了・目的物返還時のほかに、「賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」を挙げている。したがって、AがBの承諾を得るなどして適法に賃借権をCへ譲渡した場合(612条1項参照)、その時点でBはAに対し、それまでに生じたAの未払債務額を控除した敷金の残額を返還すべき義務を負う。
この規律の趣旨は、敷金関係が原則として当初の賃借人と賃貸人との間の個別的な関係であって、賃借権の移転に当然に随伴するものではない点にある。敷金は、賃借人自身が自らの債務を担保するために差し入れたものであるから、これを新賃借人Cの将来の債務の担保としてそのまま存続させると、旧賃借人Aは、自らの関知しない他人の不払の危険を負い続けることになり、予測に反する不利益を受ける。判例も、賃借権が譲渡された場合には、敷金交付者が賃貸人との間で新賃借人の債務を担保する旨を約するなどの特段の事情がない限り、敷金に関する権利義務関係は新賃借人に承継されないとしてきた(最判昭和53年12月22日)。622条の2第1項2号はこの判例法理を明文化したものである。
よって、AはBに対して敷金(残額)の返還を請求することができる。
Bは、Aが賃料を支払わない場合、未払賃料額が敷金額の範囲内であっても、Aが甲建物に備え付けた動産について先取特権を行使することができる。
解説
本肢は誤り。不動産の賃貸人は、賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務について、賃借人の一定の動産の上に先取特権を有する(民法311条1号、312条)。目的物の範囲は、建物の賃貸借であれば「賃借人がその建物に備え付けた動産」に及ぶ(313条2項)から、本肢のAが甲建物に持ち込んだ家具等は本来この先取特権の対象となる。
もっとも、この先取特権は敷金が交付されている場合には制限を受ける。316条は、賃貸人が622条の2第1項に規定する敷金を受け取っている場合には「その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する」と定めている。敷金は、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の金銭債務を担保する目的で賃借人が交付する金銭であり(622条の2第1項柱書)、賃借人が債務を履行しないときは賃貸人の側からこれを債務の弁済に充当することができる(同条2項前段)。つまり、未払額が敷金の額の枠内にとどまる限り、賃貸人は敷金から確実に満足を得られる地位にあるのであって、それに重ねて備付動産上の担保まで認めるべき必要性はない。316条は、この趣旨から先取特権の及ぶ範囲を敷金超過部分に限定したものである。
したがって、未払賃料額が敷金額の範囲内である本肢の場合、BはAの備え付けた動産について先取特権を行使することはできない。
Aは、賃貸借契約の存続中、Bに対して、賃料債務の弁済に敷金を充てるよう請求することができる。
解説
本肢は誤り。敷金の充当関係については、622条の2第2項が正面から規律している。同項前段は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときに賃貸人が敷金をその弁済に充てることができるとし、同項後段は、賃借人の側から「敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない」と明示している。すなわち、敷金からの充当は賃貸人に与えられた権能であって、賃借人の権利ではない。
このような区別が設けられているのは、敷金が賃貸人のための担保だからである。担保権者である賃貸人は、賃借人の資力や賃貸借の残存期間を見ながら、いつ、いくらを充当するかを自ら判断できてこそ担保としての意味がある。これに対し、賃借人が任意に充当を請求できるとすれば、賃貸借の存続中に担保がなし崩し的に減少し、賃借人は自らの意思で担保を消尽させたうえで賃料の不払を続けられることになりかねず、敷金を差し入れさせた趣旨が失われる。判例も従前から、賃貸借存続中の賃借人による充当請求を否定してきており、平成29年改正はこの結論を条文化したものである。
したがって、Aが賃貸借契約の存続中にBに対して賃料債務への敷金充当を請求することはできない。
Aは、賃貸借契約が終了したときは、敷金が返還されるまで甲建物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。敷金返還債務がいつ発生するかが出発点となる。622条の2第1項1号は、賃貸人が敷金を返還すべき時期を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と定めている。賃貸借の終了だけでは足りず、目的物の返還までされて初めて、賃貸人は受け取った敷金から未払債務額を差し引いた残額の返還義務を負う。したがって、賃借人の明渡債務が先履行の関係に立ち、明渡債務と敷金返還債務とは同時履行(533条)の関係にはならない。
判例も同様である。最判昭和49年9月2日は、賃貸人は特約のない限り家屋の明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足り、明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たないとしたうえで、明渡債務が先履行の関係に立つ以上、賃借人が敷金返還請求権を被担保債権として家屋につき留置権を取得する余地はないと判示した。留置権の側から見ても、被担保債権が弁済期にないときは留置権は成立しない(295条1項ただし書)ところ、明渡し前の敷金返還請求権はそもそも発生しておらず弁済期も到来していないから、留置権の要件を満たさない。
したがって、賃貸借契約が終了したというだけで、Aが敷金の返還を受けるまで甲建物を留置することはできない。
Aが賃借権をCに適法に譲渡したときは、AはBに対して敷金の返還を請求することができる。
解説
本肢は正しい。622条の2第1項2号は、賃貸人が敷金の返還義務を負う場面として、同項1号の賃貸借終了・目的物返還時のほかに、「賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」を挙げている。したがって、AがBの承諾を得るなどして適法に賃借権をCへ譲渡した場合(612条1項参照)、その時点でBはAに対し、それまでに生じたAの未払債務額を控除した敷金の残額を返還すべき義務を負う。
この規律の趣旨は、敷金関係が原則として当初の賃借人と賃貸人との間の個別的な関係であって、賃借権の移転に当然に随伴するものではない点にある。敷金は、賃借人自身が自らの債務を担保するために差し入れたものであるから、これを新賃借人Cの将来の債務の担保としてそのまま存続させると、旧賃借人Aは、自らの関知しない他人の不払の危険を負い続けることになり、予測に反する不利益を受ける。判例も、賃借権が譲渡された場合には、敷金交付者が賃貸人との間で新賃借人の債務を担保する旨を約するなどの特段の事情がない限り、敷金に関する権利義務関係は新賃借人に承継されないとしてきた(最判昭和53年12月22日)。622条の2第1項2号はこの判例法理を明文化したものである。
よって、AはBに対して敷金(残額)の返還を請求することができる。
BがCに甲建物を譲渡し、Cが賃貸人たる地位を承継した場合において、AがBに対して賃貸借契約上の未履行の債務を負担していたときは、敷金はその債務の弁済に充当され、残額があれば、その返還に係る債務がCに承継される。
解説
本肢は正しい。賃借人の側の交替(前肢エ)とは異なり、賃貸人たる地位が移転した場合には、敷金関係は新賃貸人に引き継がれる。賃借物である建物が譲渡され、賃借人が対抗要件(借地借家法31条の引渡し等)を備えているときは、賃貸人たる地位は譲受人に当然に移転し(605条の2第1項)、また合意による移転も認められる(605条の3)。そして605条の2第4項は、賃貸人たる地位が移転したときは、608条の費用償還債務とともに、622条の2第1項による敷金返還債務を譲受人が承継すると定めている。賃借人にとって敷金は目的物の利用関係と結びついた担保であり、返還義務者を現に賃料を収受する新賃貸人とすることが当事者の合理的意思にも適うからである。
もっとも、承継されるのは全額ではない。最判昭和44年7月17日は、敷金は賃借人の債務不履行があるときはその弁済として当然に充当される性質のものであるとして、建物所有権の移転に伴い賃貸人の地位が承継された場合、旧賃貸人に対する未払賃料債務があれば敷金はその弁済に当然充当され、その限度で敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみ権利義務関係が新賃貸人に承継されるとした。
したがって、AのBに対する未履行債務に敷金が充当され、残額の返還債務がCに承継されるとする本肢は正しい。
期間満了による建物の賃貸借契約終了に伴う賃借人の建物明渡義務と賃貸人の敷金返還義務とは,同時履行の関係にある。
解説
本肢は誤り。敷金とは、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう(622条の2第1項柱書)。そして同項1号は、賃貸人は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に、受領した敷金からその債務額を控除した残額を返還しなければならないと定める。すなわち敷金返還債務は、目的物の明渡しが完了して初めて発生する(明渡時説)のであり、賃借人の建物明渡義務が先履行となる。判例(最判昭和49年9月2日)も、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係に立つものではなく、賃借人は敷金の返還を受けるまで明渡しを拒むことはできないとしており、現行法はこの判例法理を明文化したものである。理由は、敷金が明渡しに至るまでに生ずる延滞賃料・損害金・原状回復費用等の一切の債権を担保するものであり、明渡しが完了して初めて控除すべき債務額が確定し、返還すべき残額が定まるという敷金の担保的性格にある。同じ理由から、敷金返還請求権を被担保債権とする建物の留置権も否定される。したがって、期間満了による建物賃貸借の終了に伴う賃借人の建物明渡義務と賃貸人の敷金返還義務とが同時履行の関係にあるとする本肢は誤りである。
AがBから甲建物を賃借し,Bに敷金を交付していた場合において,その賃貸借契約が終了したときは,Aは,敷金が返還されるまで甲建物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権が成立するには、他人の物を占有する者が「その物に関して生じた債権」を有し、かつその債権が弁済期にあることが必要である(民法295条1項)。敷金返還請求権がこの二つの要件を満たすかが問題となる。
敷金は、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で交付される金銭であり、現行法上、賃貸人が敷金を返還すべき時期は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」とされている(622条の2第1項1号)。すなわち、目的物の明渡しが先履行であり、明渡し完了によって初めて敷金返還債務が具体化する。判例も、賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対して先履行の関係に立つとし、賃借人が敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はないと判示した(最判昭和49年9月2日)。
先履行である以上、明渡し前の時点では敷金返還請求権はいまだ発生しておらず、弁済期にある債権とはいえないから、295条1項の要件を欠く。同様の理由で同時履行の抗弁権(533条)も認められない。したがって、Aが敷金の返還を受けるまで甲建物を留置することができるとする本肢は誤りである。
AがBから甲建物を賃借し,Bに敷金を交付していた場合において,その賃貸借契約が終了したときは,Aは,敷金が返還されるまで甲建物を留置することができる。
解説
本肢は誤り。留置権が成立するには、他人の物を占有する者が「その物に関して生じた債権」を有し、かつその債権が弁済期にあることが必要である(民法295条1項)。敷金返還請求権がこの二つの要件を満たすかが問題となる。
敷金は、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で交付される金銭であり、現行法上、賃貸人が敷金を返還すべき時期は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」とされている(622条の2第1項1号)。すなわち、目的物の明渡しが先履行であり、明渡し完了によって初めて敷金返還債務が具体化する。判例も、賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対して先履行の関係に立つとし、賃借人が敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はないと判示した(最判昭和49年9月2日)。
先履行である以上、明渡し前の時点では敷金返還請求権はいまだ発生しておらず、弁済期にある債権とはいえないから、295条1項の要件を欠く。同様の理由で同時履行の抗弁権(533条)も認められない。したがって、Aが敷金の返還を受けるまで甲建物を留置することができるとする本肢は誤りである。
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした場合には,その後に賃貸借契約が終了し,抵当不動産が明け渡されたとしても,抵当不動産の賃借人は,抵当権者に対し,敷金の充当によって当該賃料債権が消滅したことを主張することはできない。
解説
本肢は誤り。敷金は、賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で交付される金銭であり、賃貸借が終了し目的物が返還された時に、それまでに生じた未払賃料等の債務に当然に充当され、残額の返還債務が発生する(622条の2第1項1号参照)。判例は、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金の存在する限度で敷金の充当により当然に消滅し、この充当は敷金契約から生ずる効果であって、相殺と異なり当事者の意思表示を要しないとしたうえで、敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権について抵当権者が物上代位権を行使して差押えをした場合であっても、その後に賃貸借契約が終了し目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によりその限度で消滅すると判示した(最判平成14年3月28日民集56巻3号689頁)。前記エの相殺の事案と結論が分かれるのは、敷金充当が賃借人の意思による債権消滅ではなく、敷金契約に基づき当然に生ずる効果である点による。したがって、賃借人は抵当権者に対し敷金充当による賃料債権の消滅を主張することができるから、これを否定する本肢は誤りである。なお、平成29年改正により敷金に関する規律が622条の2として明文化されたが、上記判例法理は現行法下でも維持されると解されている。
建物賃貸借契約において,当該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位の承継があった場合は,承継の時点で旧賃貸人に対する未払の賃料債務があっても,旧賃貸人に差し入れられた敷金全額についての権利義務関係が新賃貸人に承継される。
解説
本肢は誤り。敷金は、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で交付される金銭であり(622条の2第1項)、賃貸人はこれを未払賃料等の弁済に充てることができる。そして、賃貸不動産の譲渡により賃貸人たる地位が移転した場合、敷金返還債務は譲受人が承継するが(605条の2第4項、605条の3後段)、承継されるのは敷金全額に関する権利義務ではない。最判昭和44年7月17日は、敷金は賃借人の債務不履行があるときはその弁済として当然に充当される性質のものであることを理由に、所有権移転に伴い賃貸人たる地位の承継があった場合、旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済に敷金が当然充当され、「その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継される」としている。平成29年改正はこの充当関係を明文化しなかったが、上記判例の趣旨は現行法下でも維持されると解されている。したがって、未払賃料債務があるときは充当後の残額についてのみ承継されるのであって、敷金全額についての権利義務関係が新賃貸人に承継されるとする本肢は誤りである。
土地の賃貸借契約において,目的土地上の建物の所有権が土地賃借権とともに譲渡され,その土地賃借権の譲渡について賃貸人の承諾がある場合,敷金についての権利関係も土地賃借権とともに移転するため,土地賃借権の譲受人は,契約が終了し目的土地を明け渡したときは,賃貸人に対し,譲渡人が差し入れていた敷金の返還を請求することができる。
解説
解説は準備中です。
敷金は賃借人が賃貸借期間中に負担する債務を担保するものであるから,賃借人は,賃料の未払がある場合であっても,差し入れてある敷金をもって賃料債務に充当する旨を主張することにより,敷金の額に満つるまでは,未払賃料の支払を拒むことができる。
解説
解説は準備中です。
建物の賃貸借契約において,敷金返還請求権は,賃貸借契約が終了し目的建物が明け渡された時点において,それまでに生じた被担保債権を控除した残額につき具体的に発生するものであるから,賃貸借契約が終了した後であっても,目的建物が明け渡される前においては,転付命令の対象とはならない。
解説
解説は準備中です。