夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
この条文の過去問 11問
正しい。最大判平27.12.16は、婚姻前に築いた信用、評価、名誉感情等を維持する利益等を、憲法上の人格権とまではいえないが、婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとした。
夫婦同氏を定める民法750条の憲法適合性が争われた最大判平27.12.16は、氏名が人格権の一内容を構成するとしても、氏は名と異なり家族という社会的な単位を示す性質を持ち、身分関係の変動に伴って改められることが法制度上予定されているとして、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由が憲法上の権利として保障される人格権の一内容とはいえないとした。同時に、改氏によるアイデンティティの喪失感や、婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等についても、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないが、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとし、憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるか否かの検討で考慮すべき事項と位置付けた。13条の人格権としては保障が及ばない利益を、24条の立法裁量審査の考慮要素として汲み上げる構成である。肢はこの判示をそのまま述べている。結論として同判決は、夫婦同氏制が合理性を欠くとはいえないとして24条違反を否定した。

婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、……氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり、憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる。
正しい。最大判平27.12.16(夫婦同氏制合憲判決)は、氏を改める者が受けるアイデンティティの喪失感などの不利益は、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより一定程度緩和され得るとして、これを民法750条が24条に違反しない論拠の一つにした。
最大判平27.12.16(夫婦同氏制合憲判決)は、夫婦同氏制の下では夫婦となろうとする者の一方が必ず氏を改めることになり、氏を改める者にとって、いわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できないとして、肢が挙げる不利益の存在を正面から認めた。その上で同判決は、夫婦同氏制は婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないものではなく、近時、通称使用が社会的に広まっているところ、上記の不利益はこのような通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものであると判示し、この点も考慮して民法750条は24条に違反しないと結論づけた。通称使用の拡大は、夫婦同氏制が個人に課す不利益の程度を減らす事情として、同条が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した合理的な制度であるという評価を支える方向に働くから、合憲説の論拠になる。肢の結論は判例の理由づけと同じである。

夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。
- 氏の変更を強制されない自由は、13条が保障する人格権の一内容とはいえない
- 民法750条は夫婦がいずれの氏を称するかを協議に委ねており、性別に基づく法的な差別的取扱いを定めたものではないから14条1項に違反しない。氏を改める者が妻に偏るという事実上の不利益は24条2項の検討で考慮する
- 氏を改める者のアイデンティティの喪失感などの不利益は否定できないが、通称使用の広まりで一定程度緩和され得る
- 夫婦同氏制は家族の呼称を一つに定める合理性があり、24条2項の個人の尊厳と両性の本質的平等に照らして直ちに不合理とはいえず、24条に違反しない。制度の在り方は国会で論ぜられ判断されるべき事柄である
正しい。「両性の合意のみ」という文言を重視すれば24条1項が同性婚の権利を保障していると解するのは難しく、他方で同項の主たる趣旨を家制度の下の戸主権の否定に求めて文言を過度に重視すべきでないとする見解もある。
24条1項は婚姻は両性の合意のみに基いて成立すると規定し、同項の「両性」や「夫婦が同等の権利を有する」という文言は男女を指すと読むのが文理上素直であるから、文言を重視する立場からは、同項が同性間で婚姻をする権利まで保障していると解するのは困難である。本問の後のものではあるが、同性婚訴訟に関する札幌地判令3.3.17も、24条は異性間の婚姻を想定した規定であり同性婚を定めたものではないという理解を前提にしている。他方、同項の制定趣旨は、明治民法の家制度の下で家族が婚姻をするには戸主の同意を要するとされていたように、当事者以外の者の意思が婚姻の成否を左右していた仕組みを否定し、婚姻が当事者双方の自由かつ平等な意思決定のみに基づいて成立することを宣言する点にあった。この趣旨を重視すれば、「両性」等の文言は制定当時に異性婚のみが想定されていたことの反映にすぎず、同性婚の保障を排除する趣旨まで含むものではないから、文言を過度に重視すべきではないという見解も成り立ちうる。本肢は、この二つの立場をいずれも正確に述べている。

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
正しい。24条1項の「両性の合意」という文言を重視すれば同性婚の権利の保障を読み込むのは難しく、他方で同項の主たる趣旨を家制度の下での戸主権の否定に求めて文言を過度に重視すべきでないとする見解も成り立つ。
憲法24条1項は婚姻が両性の合意のみに基いて成立すると定め、夫婦が同等の権利を有することを基本とすると続けているから、両性や夫婦という文言を素直に読めば男女の婚姻を指しており、この文言を重視する立場からは、同項が同性間で婚姻をする権利まで保障していると解することは難しい。本肢の前段はこの見解を述べている。他方、同項が制定された趣旨は、明治民法の家制度の下で家族が婚姻をするには戸主の同意を要するとされていたように、当事者以外の者の意思が婚姻の成否を左右した仕組みを否定し、婚姻が当事者双方の自由かつ平等な意思決定のみによって成立することを宣言する点にあった。この趣旨を重視すれば、両性という文言は制定当時に異性婚のみが想定されていたことの反映にすぎず、同性婚を禁じたり保障から排除したりする趣旨まで含むものではないから、文言を過度に重視すべきではないという見解も成り立つ。本肢の後段はこの見解を述べている。本肢は、この二つの見解の対立を主張されている内容どおりに述べており正しい。

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
誤り。違うのは「憲法第24条第1項の趣旨に沿わない制約を課しているものとの評価を免れない」の部分である。法制度の内容が意に沿わないことを理由に婚姻しない者がいても、直ちに同項の趣旨に沿わない制約とは評価できない。
最大判平27.12.16(夫婦同氏制訴訟)は、憲法24条1項が婚姻は両性の合意のみに基いて成立すると定めるのは、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかを当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解し、婚姻をするについての自由は同項の趣旨に照らし十分尊重に値するとした。ここまでは本肢のとおりである。しかし同判決は、民法750条は婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたにすぎず、婚姻をすること自体に直接の制約を課したものではないと位置づけたうえで、仮に婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって直ちにその法律が婚姻について同項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできないとした。法制度の内容が意に沿わないために事実上婚姻を控える者が生じるという効果と、婚姻の自由に対する法的な制約とは区別されるからである。意に沿わず婚姻しない者が生じれば当然に制約と評価されるとする本肢は、この区別を無視している。

仮に、婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって、直ちに上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法二四条一項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。
| 条文 | 判断 |
|---|---|
| 13条 | 氏名は人格権の一内容だが、具体的な法制度を離れて氏の変更自体を捉えて違憲を論じるのは相当でなく、氏の変更を強制されない自由は憲法上の権利とはいえない |
| 14条1項 | 民法750条は夫婦の協議に委ねており、文言上性別に基づく差別的取扱いを定めていないので違反しない |
| 24条1項 | 民法750条は婚姻をすること自体に直接の制約を課していない。意に沿わず婚姻しない者がいても、直ちに制約とは評価できない |
| 24条2項 | 立法裁量の限界を画する。権利とまではいえない人格的利益や実質的平等への配慮も求めるが、通称使用の広がりなども考慮し、裁量の範囲内で合憲 |
誤り。違うのは「婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるといえるとしつつも」の部分である。判決はそのような自由が憲法上の権利として保障されること自体を否定した。
最大判平27.12.16は、氏に家族の呼称としての意義があり、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って氏が改められ得ることはその性質上予定されていることなどを踏まえ、現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないと述べ、その上で民法750条は憲法13条に違反するものではないと結論づけた。つまり判決は、保護されるべき憲法上の権利が存在しないという入口の段階で13条違反の主張を退けたのであり、本肢のように憲法上の権利としての保障をいったん認めた上で制約の正当化を論じ、違憲とまではいえないとした構成は採っていない。750条が13条に違反するとまではいえないという結論部分だけを見れば判旨と一致するが、そこに至る理由づけが判決と食い違う。なお判決は、改氏によるアイデンティティの喪失感や社会的信用の維持の困難といった不利益は通称使用の広まりで一定程度緩和され得るとし、これらは24条2項の下での立法裁量の逸脱を判断する総合考慮の中に位置づけている。

現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
- 13条:氏名は人格権の一内容を構成するが、氏は法制度をまって初めて具体的に捉えられる。氏の変更を強制されない自由は憲法上の権利として保障される人格権の一内容とはいえず、13条に違反しない
- 14条1項:750条は夫婦がいずれの氏を称するかを協議に委ねており、文言上性別による差別はなく、形式的不平等は存在しない
- 24条:750条は婚姻の効力の一つを定めるにすぎず婚姻への直接の制約ではない。2項は家族に関する立法を国会の合理的裁量に委ね、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請がその限界を画する。家族の呼称としての氏の意義、通称使用による不利益の緩和等を考慮して合憲
- 本件で問題となるのは、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴う改氏であって、意思に関わりなく氏の変更が強制される場面ではない
誤り。違うのは「吸収分割承継会社が吸収分割の登記をした時の先後で決する」の部分である。承継会社が承継した不動産を第三者に対抗するには所有権移転の登記が要り、優劣は差押えの登記と所有権移転の登記の先後で決まる(民法177条)。
吸収分割承継会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い吸収分割会社の権利義務を承継する(会社法759条1項)。しかしこれは当事会社の間で承継の効力が生じるという話であり、承継した個々の財産を第三者に対抗できるかは別の問題である。吸収分割は登記事項であるが(923条)、その登記からは分割がされた事実が分かるだけで、どの財産が承継の対象になったかは公示されない。承継する権利義務は分割契約で当事会社が選ぶものであり、登記を見ただけでは第三者に権利変動の内容が分からないからである。合併について解散の対抗要件を定めた750条2項のような規定も、分割で承継される財産一般には置かれていない。そのため承継会社は、不動産なら所有権移転の登記(民法177条)、債権なら債務者への通知か承諾(民法467条)という財産の種類に応じた対抗要件を別に備えなければならない。したがって、同一の不動産についての差押えと吸収分割による承継の優劣は、差押えの登記と承継会社の所有権移転の登記の先後で決まり、吸収分割の登記の時を基準とする肢は誤っている。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
正しい。婚姻によって氏を改めた者は、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、養子となっても養親の氏を称しない(810条ただし書)。
810条は、養子は養親の氏を称すると定め、ただし書で、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間はこの限りでないとする。夫婦は婚姻の際に定めたところに従い夫又は妻の氏を称するので(750条)、婚姻によって氏を改めた者が養子になるたびに養親の氏に変わると、夫婦が同じ氏を称するという原則が崩れてしまうからである。本肢のCは、Eと婚姻してEの氏を称することとしているので、婚姻によって氏を改めた者に当たる。したがって、その後Fの養子となっても、Eとの婚姻が続いている間は、Fの氏を称することはできず、婚姻の際に定めたEの氏を称し続ける。これに対し、婚姻の際に自分の氏を夫婦の氏とした者が養子になれば、養親の氏を称することになり、配偶者もそれに従う。

養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。
- 791条1項:父又は母と氏が違う子は、家庭裁判所の許可を得て届け出れば、父又は母の氏を称することができる
- 791条2項:父又は母の改氏で父母と氏が違う子は、父母の婚姻中なら許可なしに届け出ることができる
- 791条3項:子が15歳未満なら法定代理人が代わってする
- 791条4項:氏を改めた未成年の子は、成年に達してから1年以内の届出で従前の氏に復することができる(許可不要)
- 810条:養子は養親の氏を称する。婚姻で氏を改めた者は婚姻の際に定めた氏を称すべき間は除く
誤り。違うのは「吸収分割承継会社が吸収分割の登記をした時の先後で決する」の部分である。承継会社が承継した不動産を第三者に対抗するには所有権移転の登記が要り、優劣は差押えの登記と所有権移転の登記の先後で決まる(民法177条)。
吸収分割承継会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い吸収分割会社の権利義務を承継する(会社法759条1項)。しかしこれは当事会社の間で承継の効力が生じるという話であり、承継した個々の財産を第三者に対抗できるかは別の問題である。吸収分割は登記事項であるが(923条)、その登記からは分割がされた事実が分かるだけで、どの財産が承継の対象になったかは公示されない。承継する権利義務は分割契約で当事会社が選ぶものであり、登記を見ただけでは第三者に権利変動の内容が分からないからである。合併について解散の対抗要件を定めた750条2項のような規定も、分割で承継される財産一般には置かれていない。そのため承継会社は、不動産なら所有権移転の登記(民法177条)、債権なら債務者への通知か承諾(民法467条)という財産の種類に応じた対抗要件を別に備えなければならない。したがって、同一の不動産についての差押えと吸収分割による承継の優劣は、差押えの登記と承継会社の所有権移転の登記の先後で決まり、吸収分割の登記の時を基準とする肢は誤っている。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
正しい。吸収合併では存続会社が効力発生日に消滅会社の権利義務を包括承継する(会社法750条1項)のに対し、事業譲渡で譲受人が債務を免責的に引き受けるには債権者の同意が要る(民法472条)。
吸収合併の効力発生日に、存続会社は消滅会社の権利義務を承継する(会社法750条1項)。これは包括承継であり、個々の権利義務ごとの移転行為を要しないので、消滅会社の債務も個々の債権者の同意なしに当然に存続会社へ移り、消滅会社は法人格を失う。債権者の利益は事前の債権者異議手続(789条・799条)で守る仕組みである。これに対し事業譲渡は取引法上の契約にすぎず包括承継の効果が無いので、権利義務の移転には債権譲渡や債務引受などの個別の行為が要る。債務について譲受人が引き受けても、譲渡会社が当然に債務を免れるわけではない。免責的債務引受は、債権者と引受人の契約により債権者が債務者に通知する方法か、債務者と引受人の契約に債権者が承諾する方法で行う(民法472条2項・3項)。いずれにせよ債権者の関与が不可欠であり、債権者の意思を無視して債務者を交替させることはできない。本肢は正しい。免責的債務引受の規律は平成29年民法改正で472条に明文化されたが、債権者の承諾を要する結論は出題当時から同じである。

吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。
| 項目 | 吸収合併 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 相手方 | 会社に限る(2条27号) | 会社でなくてよい。個人商人でもよい(24条参照) |
| 承継の仕方 | 効力発生日に権利義務の全部を包括承継(750条1項) | 取引法上の契約。登記・通知・承諾など個別の移転行為が要る |
| 債務 | 債権者の個別の同意なしに移る。債権者異議手続で保護(789条・799条) | 免責的に引き受けるには債権者の同意が要る(民法472条) |
| 対価 | 株式・社債・金銭など何でもよい(749条1項2号) | 制限なし。金銭に限られない |
| 消滅会社・譲渡会社 | 消滅会社は当然に解散し、清算なしに消滅(471条4号・475条1号括弧書) | 全部を譲渡しても当然には解散しない |
| 無効の主張 | 効力発生日から6か月以内に訴えのみ(828条1項7号) | 訴えによらず誰でもいつでも主張できる(最大判昭61.9.11) |
正しい。吸収合併では存続会社が効力発生日に消滅会社の権利義務を包括承継する(会社法750条1項)のに対し、事業譲渡で譲受人が債務を免責的に引き受けるには債権者の同意が要る(民法472条)。
吸収合併の効力発生日に、存続会社は消滅会社の権利義務を承継する(会社法750条1項)。これは包括承継であり、個々の権利義務ごとの移転行為を要しないので、消滅会社の債務も個々の債権者の同意なしに当然に存続会社へ移り、消滅会社は法人格を失う。債権者の利益は事前の債権者異議手続(789条・799条)で守る仕組みである。これに対し事業譲渡は取引法上の契約にすぎず包括承継の効果が無いので、権利義務の移転には債権譲渡や債務引受などの個別の行為が要る。債務について譲受人が引き受けても、譲渡会社が当然に債務を免れるわけではない。免責的債務引受は、債権者と引受人の契約により債権者が債務者に通知する方法か、債務者と引受人の契約に債権者が承諾する方法で行う(民法472条2項・3項)。いずれにせよ債権者の関与が不可欠であり、債権者の意思を無視して債務者を交替させることはできない。本肢は正しい。免責的債務引受の規律は平成29年民法改正で472条に明文化されたが、債権者の承諾を要する結論は出題当時から同じである。

吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。
| 項目 | 吸収合併 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 相手方 | 会社に限る(2条27号) | 会社でなくてよい。個人商人でもよい(24条参照) |
| 承継の仕方 | 効力発生日に権利義務の全部を包括承継(750条1項) | 取引法上の契約。登記・通知・承諾など個別の移転行為が要る |
| 債務 | 債権者の個別の同意なしに移る。債権者異議手続で保護(789条・799条) | 免責的に引き受けるには債権者の同意が要る(民法472条) |
| 対価 | 株式・社債・金銭など何でもよい(749条1項2号) | 制限なし。金銭に限られない |
| 消滅会社・譲渡会社 | 消滅会社は当然に解散し、清算なしに消滅(471条4号・475条1号括弧書) | 全部を譲渡しても当然には解散しない |
| 無効の主張 | 効力発生日から6か月以内に訴えのみ(828条1項7号) | 訴えによらず誰でもいつでも主張できる(最大判昭61.9.11) |




