1私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3権利の濫用は、これを許さない。
この条文の過去問 8問
誤り。違うのは「社会的に許容し得る範囲にとどまる場合」の部分である。三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)が民法1条・90条等の運用による調整を語るのは、侵害の態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときである。
三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)は、憲法19条・14条をはじめとする自由権的基本権の保障規定は専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないとして、私人間への直接適用も類推適用も否定した。そのうえで、私人間でも事実上の支配力の格差から一方が他方の自由や平等を侵害する事態が生じうることを踏まえ、私的支配関係において個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害又はそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、立法措置による是正のほか、民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、私的自治を尊重しつつ許容限度を超える侵害から自由や平等の利益を保護し、適切な調整を図る方途があるとした。一般条項を通じた調整が要るのは、侵害が社会的許容限度を超える場合である。許容し得る範囲にとどまる侵害なら、私的自治が尊重される場面であって是正の必要がない。本肢は、憲法を適用ないし類推適用しないという部分は判例のとおりだが、調整が働く場面の要件を裏返している。

私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、(中略)その間の適切な調整を図る方途も存する。
| 事案 | 判例 | 結論 |
|---|---|---|
| 学生運動歴を理由とする本採用拒否(三菱樹脂事件) | 最大判昭48.12.12 | 人権規定は私人間に直接適用も類推適用もされない。侵害が社会的許容限度を超えるときに民法1条・90条等の運用で調整する |
| 学外団体加入を理由とする私立大学の退学処分(昭和女子大事件) | 最判昭49.7.19 | 学生の政治的活動への広範な規律は不合理な制限ではない。退学前に補導の過程を経ることは法的義務ではない |
| 男女別定年制の就業規則(日産自動車事件) | 最判昭56.3.24 | 企業経営上の観点から合理的理由がなく、性別のみによる不合理な差別として民法90条により無効 |
| ユニオン・ショップ協定に基づく解雇(三井倉庫港運事件) | 最判平元.12.14 | 他の組合に加入した者の解雇を義務づける部分は民法90条により無効。28条を参照 |
誤り。違うのは「賃借人に重大な過失がない限り、債務不履行による損害賠償の請求をすることができない」の部分である。失火責任法は709条の不法行為責任についての法律であり、債務不履行責任には適用されない(最判昭30.3.25)。
失火責任法は、民法709条の規定は失火の場合には適用せず、ただし失火者に重大な過失があったときはこの限りでないと定める。木造家屋が密集する事情の下で、軽い過失で火を出した者に際限のない賠償を負わせるのは酷であるとして、不法行為の要件を重大な過失に引き上げたもので、その対象は文言どおり709条の不法行為責任に限られる。これに対し賃借人は、賃貸借契約に基づいて賃借物を保管し、契約が終わったときに返す義務を負う(601条・621条)。賃借人の失火で賃借物が滅失して返せなくなれば、契約上の債務の不履行であり、賃貸人は415条1項によって損害賠償を請求できる。判例も、失火責任法は債務不履行による損害賠償には適用されないとした(最判昭30.3.25)。契約の当事者の間では、責任が不特定多数に広がるおそれがなく、同法の趣旨が当てはまらないからである。したがって、賃借人に重大な過失がなくても、責めに帰すべき事由があれば損害賠償責任を負う。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
| 場面 | 求められる主観 | 条文 |
|---|---|---|
| 代理権の濫用 | 相手方が知り、又は知ることができた(過失で足りる) | 107条 |
| 預貯金債権の譲渡制限 | 譲受人等の悪意又は重大な過失。差押債権者には対抗できない | 466条の5 |
| 相殺禁止の意思表示 | 第三者の悪意又は重大な過失 | 505条2項 |
| 非債弁済 | 給付者が債務の不存在を知っていたこと(悪意だけ) | 705条 |
| 失火責任法 | 失火者の重大な過失。不法行為にだけ適用され、債務不履行には及ばない | 失火責任法・415条 |
誤り。違うのは末尾の「私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ることができるとの見解は採り得ない」の部分である。人権規定が私人相互の関係を直接規律しないという前提と、私法の一般条項による調整とは両立する(最大判昭48.12.12)。
本肢が引く説示は三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)のものである。同判決は、憲法第3章の自由権的基本権の保障規定は国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないとして、直接適用を否定する立場を出発点に置いた。しかし判決はそこで止まらず、私人間の関係は原則として私的自治に委ねられ、侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ法が介入するという建前を確認した上で、そのような侵害には、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって適切な調整を図る方途も存すると述べた。憲法が私人間を直接規律しないという前提から、私法規定の解釈を通じた調整という見解がまさに導かれているのである。間接適用説も、憲法は国家と国民の関係を規律し私人間は私法が規律するという原則自体は維持する見解であるから、この前提の上に立ちうる。本肢は両者を両立しないものとして扱う点で誤っている。

私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する。
- ["直接適用説", "憲法の人権規定が私人間にも直接適用されるとする。私法の国家化をもたらし、私的自治と契約自由を否定しないかという批判がある"]
- ["間接適用説", "民法90条などの私法の一般条項を媒介として憲法の趣旨を及ぼす。判例の立場(最大判昭48.12.12)"]
- ["無適用説", "憲法の人権規定は私人間には適用されないとする。国家と社会を分離する自由主義的国家論を背景とする"]
- ["国家同視説", "社会的力関係で一方が他方に優越し服従を強いる場合に、国家の支配と同視して人権規定を適用ないし類推適用する。判定が困難だという難点がある"]
誤り。違うのは「私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ることができるとの見解は採り得ない」の部分である。三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)は、人権規定が私人相互の関係を直接規律しないという前提から、まさに私法規定の運用による調整を導いた。
本肢が引く説示は三菱樹脂事件判決のものである。同判決は、憲法第3章の自由権的基本権の保障規定は国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないと述べ、人権規定は私人間に直接適用されないという立場を出発点に据えた。しかし判決はそこで止まらず、私人間の法律関係は原則として私的自治に委ねられ、侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合に初めて法が介入して調整を図るという建前を確認した上で、そのようなときは立法措置による是正のほか、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定の適切な運用によって適切な調整を図る方途があるとした。すなわち、人権規定が私人相互の関係を直接規律しないという前提と、私法規定の解釈を通じた調整という見解は矛盾せず、後者は前者を出発点として導かれている。間接適用説も、憲法は国家と国民の関係を規律する法であり私人間は私法が規律するという原則を維持する見解であるから、この前提の上に立ち得る。

私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、(中略)その間の適切な調整を図る方途も存する。
- 直接適用説:憲法の人権規定が私人間にも直接適用される。私法の国家化をもたらし、私的自治と契約自由を否定しないかという批判がある。本質的な核心が侵されない限度で相対化を認める見解は、対立利益との衡量を認める点で間接適用説に類似する
- 間接適用説:民法90条などの私法の一般条項を媒介として憲法の趣旨を及ぼす。判例(三菱樹脂事件)の立場
- 無適用説:憲法の人権規定は私人間には適用されない。国家と社会を分離する自由主義的国家論を背景とする。私法規定を通じた調整とは矛盾せず、間接適用説の前提となり得る
- 国家同視説:社会的力関係で一方が他方に優越し服従を強いる場合に、国家の支配と同視して人権規定を適用ないし類推適用する。判例は、支配関係の態様・程度・規模が様々で判定が困難だとして採らない
誤り。違うのは「Bは,Cに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができない」の部分である。示談書に立会人として署名捺印した者が後にその内容を否認することは著しく信義に反し、Cは背信的悪意者として177条の第三者に当たらない(最判昭43.11.15)。
177条の第三者は、当事者とその包括承継人以外の者で、登記がないことを主張する正当な利益を有する者をいい、差押えをした債権者も原則としてこれに当たる。もっとも判例は、実体上物権変動があった事実を知る者で、その登記がないことを主張することが信義に反すると認められる事情がある背信的悪意者は、登記がないことを主張する正当な利益を有しないから177条の第三者に当たらないとしている。そして判例(最判昭43.11.15)は、和解条項を記した書面に立会人として署名捺印することは、和解の成立を確認してその法律関係が最終的に確定することを認めるとともに、後に紛争が生じれば自らその内容を証明するなどして紛争を解決すべき立場に立つことを表明したものであるとし、何らかの利益を受けるなどの特段の事情がなくても、後になって自らその内容を否認することは著しく信義に反し許されないとした。示談に立会人として関与し署名捺印したCは背信的悪意者に当たり、BはCに登記なしで所有権の取得を主張できるから、本肢は誤りである。

和解条項を記した書面に立会人として署名捺印することは、そのような和解の成立したことを確認することによつて、その内容となつている法律関係が終局的に確定することを是認するとともに、仮りに後に至つて右和解について紛争が生じるような事態に立ち至つた場合には、自らその内容を証明すること等によつて、紛争を解決すべき立場に立つことを表明したに外ならず、これによつて何らかの利益を受ける等の特段の事情が存在しなくとも、その後に至つて、自らその内容を否認するが如きは、著しく信義に反し、許されない
誤り。違うのは「Bは,Dに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができる」の部分である。背信的悪意者からの転得者は、自身が背信的悪意者と評価されない限り所有権取得を第1譲受人に対抗できるから(最判平8.10.29)、登記を備えた善意のDにBは対抗できない。
Bを害する目的で甲土地を買ったCは背信的悪意者に当たり、Bとの関係では177条の第三者に当たらないから、BはCに対しては登記なしで所有権の取得を主張できる。問題はCから買ったDとの関係である。判例(最判平8.10.29)は、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が甲から二重に買い受け、さらに丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、所有権取得を乙に対抗できるとした。背信的悪意者が177条の第三者から除かれるのは、その者が登記がないことを主張することが信義則上許されないからであり、その評価は人ごとにするものである。丙と乙の間の売買が無効になるわけではないから、丁は有効に所有権を取得できる。事情を知らないDは背信的悪意者と評価されず、登記を備えているから、BはDに所有権の取得を主張できない。本肢は誤りである。

所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる
誤り。違うのは「C市に株式会社Aに対する監督義務違反がない場合は,Dは,国家賠償法第1条第1項に基づく賠償を受けられない」の部分であり、国家賠償法1条1項には民法715条1項ただし書のような監督上の免責規定がなく、Bの故意又は過失があれば監督義務違反の有無にかかわらず責任が生じる。
国家賠償法1条1項の責任は、判例・通説の代位責任説によれば、公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて故意又は過失により違法に他人に損害を加えた場合に、本来その公務員が負うべき責任を国又は公共団体が代わって負うものである。責任の成立要件は、公務員の職務行為であること、故意又は過失、違法性、損害と因果関係であり、国や公共団体自身の過失や監督上の落ち度は要件になっていない。民法715条1項ただし書は、使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたときは使用者責任を免れると定めるが、国家賠償法1条にはこのような免責規定が置かれていない。公務員個人への直接の請求を認めない代わりに、国や公共団体が監督の程度にかかわらず責任を引き受けて被害者を確実に救済する構造だからである。したがって、確認検査員Bの本件確認に故意又は過失があれば、確認事務が帰属するC市は、株式会社Aに対する監督義務を尽くしていたかどうかにかかわらず、Dに対して賠償責任を負う。

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。/前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
| 国家賠償法1条 | 民法715条(使用者責任) | |
|---|---|---|
| 責任の性質 | 代位責任(判例・通説) | 代位責任 |
| 免責 | 免責規定なし。監督義務を尽くしても免責されない | 選任・監督に相当の注意をしたときは免責(1項ただし書) |
| 加害者個人の責任 | 被害者に対して直接責任を負わない(最判昭30.4.19) | 被用者も709条で責任を負う |
| 求償 | 故意又は重大な過失があるときに限る(2項) | 信義則上相当な限度で可(3項) |
誤り。違うのは「所有権に基づき甲動産の返還を請求することができる」の部分である。転売に協力しておきながら、代金を完済したCに所有権留保に基づいて返還を求めることは、権利の濫用として許されない(最判昭50.2.28)。
判例(最判昭50.2.28)は、ディーラーがサブディーラーに自動車を売って所有権を留保し、サブディーラーがユーザーに転売した事案で、ディーラーが車検や登録などの手続を代行してサブディーラーの転売に協力しておきながら、サブディーラーが代金を支払わないことを理由に、既に代金を完済したユーザーに所有権留保特約に基づいて自動車の引渡しを求めることは、権利の濫用として許されないとした。ディーラーが本来サブディーラーとの間で自ら負担すべき代金回収不能の危険を、何の落ち度もないユーザーに転嫁し、不測の損害を与えることになるからである(1条3項)。本肢のAも、所有権を留保しながらBのCへの転売に協力しており、Bに代金を支払って引渡しを受けたCに所有権に基づいて返還を求めることは、権利の濫用に当たり得る。したがって、何の限定もなく返還を請求できるとする本肢は誤りである。

権利の濫用は、これを許さない。










