第1条基本原則過去問 6
1私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3権利の濫用は、これを許さない。
この条文の過去問 6問
最高裁判所は、学生運動歴等を理由とする私企業による本採用拒否の効力が争われた事件において、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害の態様、程度が社会的に許容し得る範囲にとどまる場合、憲法を適用ないし類推適用せず、私的自治に対する一般的制限規定である民法第1条、第90条等の諸規定の適切な運用によって調整を図るものとした。
解説
本肢は誤り。本肢は三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)を素材とする。同判決は、憲法19条・14条をはじめとする自由権的基本権の保障規定は、「もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とし、私人間の関係については憲法規定の直接適用も類推適用も否定した。そのうえで、私人間の関係であっても事実上の支配力の格差から一方が他方の自由や平等を侵害する事態が生じ得ることを踏まえ、「私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるとき」には、立法措置による是正のほか、「場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて」、一面で私的自治の原則を尊重しつつ、他面で許容限度を超える侵害から自由や平等の利益を保護し、両者の適切な調整を図る方途があると判示した(いわゆる間接適用の考え方)。このように、民法の一般条項を通じた調整が問題となるのは、侵害の態様・程度が社会的に許容し得る限度を超える場合である。侵害が社会的に許容し得る範囲にとどまるのであれば、そもそも私的自治が尊重されるべき場面であって、一般条項による是正を図る必要はない。本肢は、この要件を裏返して「社会的に許容し得る範囲にとどまる場合」に民法1条・90条等の運用によって調整を図るとしており、判例の説示と逆になっている。よって本肢は誤りである。
賃借人が失火によって賃借物を滅失させたときは、賃貸人は、賃借人に重大な過失がない限り、債務不履行による損害賠償の請求をすることができない。
解説
本肢は誤り。失火ノ責任ニ関スル法律は「民法第709条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定める。同法は、木造家屋が密集するわが国において軽過失による失火者に無限定な賠償責任を負わせるのは酷であるとの配慮から、不法行為責任の成立要件たる過失を重過失に加重したものであり、その適用対象は文言どおり民法709条に基づく不法行為責任に限られる。
これに対し、賃借人は賃貸借契約上、賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務を負い(民法400条)、契約終了時には目的物を返還し、自らの責めに帰すべき事由による損傷を原状に復する義務を負う(民法601条、621条)。賃借人の失火により賃借物が滅失して返還義務が履行不能となった場合、これは契約上の債務の不履行であり、賃貸人は民法415条1項により損害賠償を請求できる。同項ただし書による免責は、不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるときに限られ、賃借人に軽過失があれば帰責事由は肯定される。判例も、失火責任法は債務不履行に基づく損害賠償責任には適用されず、賃借人は失火につき重大な過失がなくとも債務不履行責任を免れないとしている(最判昭和30年3月25日)。契約関係にある当事者間では責任範囲が不特定多数に拡大するおそれがなく、同法の趣旨が妥当しないからである。
「憲法の人権規定は,公権力の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とする説を前提にすると,私人間における権利・自由の対立については,その侵害の態様,程度が社会的に許容し得る一定の限界を超える場合に,私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ることができるとの見解は採り得ない。
解説
本肢は誤り。本肢が引用する説示は、三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)のものである。同事件は、採用面接に際して学生運動への参加の事実を秘していたことなどを理由に、試用期間中の者について本採用が拒否されたという事案であり、拒否された者が思想・良心の自由(憲法19条)等の侵害を主張したものである。同判決は、憲法第3章の自由権的基本権の保障規定について、「国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とし、人権規定は私人間には適用されないという立場(いわゆる無適用説)を出発点に据えた。しかし判決はそこで止まらない。私人間の法律関係は原則として私的自治に委ねられ、侵害の態様・程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合に初めて法が介入して調整を図るという建前がとられていることを確認した上で、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、立法措置による是正を図りうるほか、場合によっては「私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する」と述べているのである。すなわち、憲法の人権規定が私人相互の関係を直接規律しないという前提と、私法規定の解釈を通じた調整という見解とは矛盾しないどころか、後者はまさに前者を出発点として導かれている。間接適用説も、憲法は国家対国民の関係を規律する法であり、私人間は私法によって規律されるという原則自体は維持する見解であるから、無適用説の前提の上に立ちうるものである。したがって、当該見解は採り得ないとする本肢は妥当でない。よって本肢は誤りである。
「憲法の人権規定は,公権力の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とする説を前提にすると,私人間における権利・自由の対立については,その侵害の態様,程度が社会的に許容し得る一定の限界を超える場合に,私法規定の解釈を通じてその間の適切な調整を図ることができるとの見解は採り得ない。
解説
本肢は誤り。本肢が引用する説示は、三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)のものである。同事件は、採用面接に際して学生運動への参加の事実を秘していたことなどを理由に、試用期間中の者について本採用が拒否されたという事案であり、拒否された者が思想・良心の自由(憲法19条)等の侵害を主張したものである。同判決は、憲法第3章の自由権的基本権の保障規定について、「国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」とし、人権規定は私人間には適用されないという立場(いわゆる無適用説)を出発点に据えた。しかし判決はそこで止まらない。私人間の法律関係は原則として私的自治に委ねられ、侵害の態様・程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合に初めて法が介入して調整を図るという建前がとられていることを確認した上で、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、立法措置による是正を図りうるほか、場合によっては「私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する」と述べているのである。すなわち、憲法の人権規定が私人相互の関係を直接規律しないという前提と、私法規定の解釈を通じた調整という見解とは矛盾しないどころか、後者はまさに前者を出発点として導かれている。間接適用説も、憲法は国家対国民の関係を規律する法であり、私人間は私法によって規律されるという原則自体は維持する見解であるから、無適用説の前提の上に立ちうるものである。したがって、当該見解は採り得ないとする本肢は妥当でない。よって本肢は誤りである。
AがA所有の甲土地をBに売却したが,代金の支払をめぐってAB間で争いを生じ,その後,Bが甲土地の所有権を有することを確認する旨の示談が成立した場合において,当該示談に立会人として関与し,示談書に立会人として署名捺印していたCが,AからBに所有権移転登記がされる前に,Aに対する債権に基づいて,A名義の甲土地を差し押さえ,その旨の差押えの登記がされたときは,Bは,Cに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができない。
解説
本肢は誤り。177条の「第三者」とは、当事者およびその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう(大連判明41.12.15)。不動産を差し押さえた債権者は原則としてこれに当たり、未登記の譲受人は差押債権者に所有権取得を対抗できないのが通常である。
もっとも判例は、実体上の物権変動があった事実を知る者において、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、そのような背信的悪意者は登記の欠缺を主張する正当な利益を有せず、177条の「第三者」に当たらないとする(信義則、1条2項。最判昭43.8.2)。
さらに判例は、和解条項を記した書面に立会人として署名捺印する行為について、そのような和解が成立したことを確認することにより、その内容となっている法律関係が終局的に確定することを是認するとともに、後に紛争が生じた場合には自らその内容を証明するなどして紛争を解決すべき立場に立つことを表明したものにほかならないとし、これによって何らかの利益を受けるなどの特段の事情がなくても、後になって自らその内容を否認するのは著しく信義に反し許されないとして、当該立会人を背信的悪意者に当たると判断した(最判昭43.11.15)。
この趣旨に照らせば、AB間の示談に立会人として関与し示談書に署名捺印したCは、Bの所有権取得を確認しておきながら自らその登記の欠缺を主張するものであって背信的悪意者に当たり、177条の「第三者」に当たらない。したがって、Bは登記なくしてCに対し甲土地の所有権の取得を主張することができるから、本肢は誤りである。
AがA所有の甲土地をBに売却した後,CがBを害する目的で甲土地をAから買い受け,その旨の所有権移転登記がされた場合において,Cが事情を知らないDに対して甲土地を売却し,その旨の所有権移転登記がされたときは,Bは,Dに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができる。
解説
本肢は誤り。AからB、AからCへの二重譲渡であり、Cが先に登記を備えている。もっとも、CはBを害する目的で買い受けており背信的悪意者に当たりうるから、Cとの関係ではCは177条の「第三者」に当たらず、Bは登記なくしてCに所有権取得を対抗できる(最判昭43.8.2)。問題は、その背信的悪意者Cからの転得者Dに対する関係である。
判例は、所有者から第1譲受人が不動産を買い受け登記未了の間に第2譲受人が二重に買い受け、さらにその転得者が買い受けて登記を完了した場合において、たとえ第2譲受人が背信的悪意者に当たるとしても、転得者は第1譲受人との関係で転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって第1譲受人に対抗することができるとした(最判平8.10.29)。いわゆる相対的構成である。その根拠は、背信的悪意者からの排除は登記の欠缺を主張することが信義則上許されないという当該第三者個人についての相対的・一身専属的な評価にとどまり、当該第三者の物権取得自体が無効になるわけではない点にある。すなわちCも所有権自体は有効に取得しており、Dは無権利者からの譲受人ではない。
本肢のDはBとCの事情を知らないのであるから、D自身が背信的悪意者と評価される余地はなく、177条の「第三者」として保護される。そして登記を備えたのはDであるから、Bは登記を欠く以上、Dに対し甲土地の所有権の取得を主張することができない。したがって、これを肯定する本肢は誤りである。