第210条過去問 3
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
1 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
2 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合
この条文の過去問 3問
株式の発行の差止め
解説
本肢は誤り。株式の発行の差止めは、非訟事件ではなく訴訟手続による。募集株式の発行等が法令もしくは定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は株式会社に対し当該発行等をやめることを請求することができる(会社法210条)。これは、株主が会社に対して有する差止請求権という実体上の権利の存否を、既存の法規範を事実に当てはめて確定する争訟性のある裁判であって、裁判所が後見的立場から合目的的な裁量により法律関係を形成する会社法上の非訟事件(同法868条以下)とは性質を異にする。実務上は、払込期日までに本案の終局判決を得ることが困難であるため、差止めの訴えを本案として株式発行差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てる方法が通常用いられる。なお、この差止仮処分に違反してされた株式発行は無効原因となると解されている(最判平成5年12月16日)。以上より、株式の発行の差止めは訴訟手続によるものであり、非訟事件の手続によるものには当たらない。
募集に係る株式の発行が,法令又は定款に違反しない場合であっても,著しく不公正な方法により行われる場合において,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,株式会社に対し,当該株式の発行をやめることを請求することができる。
解説
本肢は正しい。募集株式の発行等の差止請求(会社法210条)の事由は、①当該発行等が法令又は定款に違反する場合(1号)と、②当該発行等が著しく不公正な方法により行われる場合(2号)の二つであり、両者は選択的な関係に立つ。したがって、手続や内容に法令・定款違反がなくとも、②に該当し、かつそれによって株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対して当該募集株式の発行(又は自己株式の処分)をやめることを請求できる。「著しく不公正な方法」の典型は、支配権の争いがある局面で、資金調達等の正当な事業目的ではなく、現経営陣が自派の持株比率を高め、あるいは反対派株主の持株比率を低下させて支配権を維持・獲得することを主要な目的として新株を発行する場合である(いわゆる主要目的ルール。東京地決平成元年7月25日〔忠実屋・いなげや事件〕等)。差止めは発行の効力が生ずる前の事前の救済手段であり、効力発生後は新株発行無効の訴え(828条1項2号)によるほかない。実務上は仮処分(民事保全法23条2項)の被保全権利として主張されることが多い。以上より、本肢は210条2号の要件をそのまま述べたものであり、正しい。
募集事項の株主に対する通知又は公告のいずれも欠いたことは,無効原因とならない。
解説
本肢は誤り。公開会社が募集株式を発行する場合、会社は払込期日(払込期間を定めたときはその初日)の2週間前までに、株主に対し募集事項を通知し、又はこれに代えて公告しなければならない(会社法201条3項・4項)。この公示は、法令・定款違反又は著しく不公正な方法による発行に対して株主が差止請求権(210条)を行使する機会を確保するために会社に課された義務であり、これを欠くことは、株主から事前の救済手段を実質的に奪う結果を招く。判例は、この趣旨から、募集事項の通知・公告を欠いたことは、株主が差止請求をしたとしても「差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合」でない限り、新株発行の無効原因となるとした(最判平成9年1月28日)。すなわち、有利発行に当たらず不公正発行にも当たらないなど、差止請求が認容される余地がなかったことを会社側が主張立証したときに限って無効原因性が否定されるにすぎず、原則としては無効原因となる。したがって、原則として無効原因にならないとする本肢は、判例の趣旨に照らして誤りである。なお、無効の主張は新株発行無効の訴えによらなければならず、公開会社では効力発生日から6か月以内に提起する必要がある(828条1項2号・2項2号)。