人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
この条文の過去問 21問
誤り。違うのは「甲に傷害罪が成立することはない」の部分である。承諾があっても、手段・方法などに照らして社会的相当性を欠く行為の違法性は阻却されない(最決昭55.11.13)。
傷害罪は個人の身体を保護する罪であるが、被害者の承諾があれば常に違法性が阻却されるわけではない。最決昭55.11.13は、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきであるとした。この枠組みでは、承諾があっても、行為が社会的に相当といえないときは違法性が阻却されない。東京高判平9.8.4は、医師でない者が、医学的に必要とされる措置を採らず、身体に重大な傷害を生じさせかねない危険な方法で豊胸手術を行った事案で、被害者の承諾があっても、社会通念上許容される範囲・程度を超え、社会的相当性を欠くとして、違法性の阻却を否定している。本肢の甲の行為も、手段・方法の危険が大きく、Aがあらかじめ承諾していても違法性は阻却されないから、傷害罪が成立し得る。

被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである
本肢は誤り。刑法204条は「人の身体を傷害した者」と規定し、208条は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に暴行罪が成立する旨を定める。この規定の仕方から、暴行を加えて傷害の結果を生じさせた場合には傷害罪が成立するのであって、傷害罪は、当初から傷害の故意で結果を生じさせた場合のみならず、暴行の故意しかない者が傷害結果を惹起した場合をも含む、暴行罪の結果的加重犯としての性格を併有すると解されている。判例も、暴行の故意があれば傷害の結果についての認識がなくても傷害罪が成立するとしている(最判昭和25年11月9日刑集4巻11号2239頁)。結果的加重犯の重い結果については故意を要しないからであり、責任主義との関係では基本行為である暴行と傷害結果との間の因果関係(および少なくとも重い結果の予見可能性)が問題となるにとどまる。したがって、傷害結果の認識を欠く場合には傷害罪が成立しないとする本肢の記述は誤りである。なお、暴行によらずに傷害結果を生じさせる場合には、傷害の故意が必要である。
誤り。違うのは「傷害罪が成立することはない」の部分である。傷害罪の成立には、傷害の原因である暴行についての意思があれば足り、傷害の意思を必要としない(最判昭25.11.9)。
208条は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に暴行罪が成立すると定めている。この文言は、暴行を加えた者が人を傷害するに至ったときには、暴行罪ではなく傷害罪(204条)が成立することを前提にしている。つまり、傷害罪には、傷害の故意で傷害の結果を生じさせた場合のほか、暴行の故意で暴行を加えたところ傷害の結果が生じた場合が含まれ、後者の傷害罪は暴行罪の結果的加重犯に当たる。判例も、傷害罪の成立には傷害の原因である暴行についての意思があれば足り、傷害の意思を必要としないとしている(最判昭25.11.9)。人の身体に不法な有形力を加える行為は、それ自体に傷害を生じさせる危険を含んでおり、その危険が現実になった以上、結果の認識がなくても重い責任を問うことができるからである。したがって、相手方に暴行を加えて負傷させた者は、傷害の結果が発生することについての認識を欠いていても、傷害罪の責任を負う。

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
| 場合 | 必要な故意 | 根拠 |
|---|---|---|
| 暴行を加えて負傷させた | 暴行の故意で足りる | 最判昭25.11.9。暴行罪の結果的加重犯 |
| 暴行によらない方法で傷害を負わせた | 傷害の故意が必要 | 暴行の故意が観念できない |
| 暴行・傷害から死亡の結果が生じた | 致死の結果の予見は不要 | 最判昭32.2.26 |
正しい。職務質問中の警察官を殴って負傷させた1個の暴行が、公務執行妨害罪と傷害罪の2個の罪名に触れるから、両罪は観念的競合となる。
公務執行妨害罪(95条1項)は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する。制服警察官Bによる職務質問は適法な職務の執行であり、丙がBを殴った行為はこれに対する暴行に当たる。同罪は公務の円滑な遂行を保護する罪であり、公務員の身体の安全を保護する傷害罪(204条)とは保護法益が異なる。同罪の法定刑も、暴行によって傷害の結果が生じることまでは評価に含めていない。そのため、暴行によって公務員を負傷させた場合には、公務執行妨害罪のほかに傷害罪が成立する。判例も、両罪の成立を認めたうえで、観念的競合になるとしている。Bを殴るという行為は、自然的観察のもとで社会的見解上1個の行為であり、それが公務執行妨害罪と傷害罪という2個の罪名に触れているからである。したがって、丙がBを殴って全治2週間を要する打撲傷を負わせた行為には両罪が成立し、54条1項前段により、最も重い刑で処断される。

一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
正しい。職務質問中の警察官を殴って負傷させた1個の暴行が、公務執行妨害罪と傷害罪の2個の罪名に触れるから、両罪は観念的競合となる。
公務執行妨害罪(95条1項)は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する。制服警察官Bによる職務質問は適法な職務の執行であり、丙がBを殴った行為はこれに対する暴行に当たる。同罪は公務の円滑な遂行を保護する罪であり、公務員の身体の安全を保護する傷害罪(204条)とは保護法益が異なる。同罪の法定刑も、暴行によって傷害の結果が生じることまでは評価に含めていない。そのため、暴行によって公務員を負傷させた場合には、公務執行妨害罪のほかに傷害罪が成立する。判例も、両罪の成立を認めたうえで、観念的競合になるとしている。Bを殴るという行為は、自然的観察のもとで社会的見解上1個の行為であり、それが公務執行妨害罪と傷害罪という2個の罪名に触れているからである。したがって、丙がBを殴って全治2週間を要する打撲傷を負わせた行為には両罪が成立し、54条1項前段により、最も重い刑で処断される。

一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
誤り。違うのは「乙が傷害を負わされることに同意している以上、甲に傷害罪は成立しない」の部分である。保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた承諾は、傷害行為の違法性を阻却しない(最決昭55.11.13)。
被害者の承諾は、法益の主体がその法益を処分したものとして違法性を阻却することがあるが、身体という重要な法益については、承諾があれば常に違法性が阻却されるわけではない。判例は、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきであるとしたうえで、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的で、被害者の承諾を得て故意に自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、その承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって傷害行為の違法性を阻却するものではないとした(最決昭55.11.13)。甲と乙は保険金詐欺のために事故を装って追突しており、乙の同意はまさにこの違法な目的のために得られたものであるから、甲に傷害罪が成立する。

右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであつて、これによつて当該傷害行為の違法性を阻却するものではない
正しい。現行犯逮捕の際に抵抗を受けたときは、社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使することが許され、その行使が刑罰法令に触れても35条により罰せられない(最判昭50.4.3)。
刑事訴訟法213条は、現行犯人は何人でも逮捕状なくして逮捕することができると定めており、私人による現行犯逮捕は法令による行為(35条)に当たる。逮捕は相手の意思に反して身体を拘束する行為であるから、抵抗を受けたときに実力を用いることは、逮捕を認めた法令が当然に予定している。判例は、現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法35条により罰せられないとした(最判昭50.4.3)。この限度内の実力行使によって犯人に傷害を負わせた場合、その行為は傷害罪の構成要件に該当するが、法令による行為として違法性が阻却されるので、傷害罪は成立しない。限度を超えた実力行使は、この範囲に含まれない。

その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法三五条により罰せられない
誤り。違うのは「傷害罪が成立することはない」の部分である。判例は、PTSDのような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たるとしている(最決平24.7.24)。
傷害罪(204条)にいう傷害とは、他人の身体の生理的機能を毀損することをいう(最判昭27.6.6)。生理的機能は身体の外形や臓器の働きに限られず、精神の働きも人の生理的機能の一部であるから、精神の機能を害することも生理的機能の毀損に当たる。判例は、被害者を監禁して医学的な診断基準で求められる特徴的な精神症状が継続して発現したPTSDを負わせた事案で、精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たるとして、監禁致傷罪の成立を認めた(最決平24.7.24)。本肢は、傷害が生理的機能の毀損であるという前提から、精神的機能の障害は傷害にならないという結論を導いているが、その前提自体が精神的機能の障害を除外するものではない。PTSDが一過性の不快感や精神的な動揺にとどまらず、医学的に認められる精神疾患として生活機能に障害を生じさせている以上、傷害罪が成立する。本肢は、精神的機能の障害を傷害から除く点で判例と食い違っている。

人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
誤り。違うのは「暴行を加えずに身体の生理的機能を毀損した場合,傷害罪が成立することはない」の部分である。傷害の方法に限定はなく、暴行によらない方法で傷害の結果を生じさせても傷害罪が成立する(最決平17.3.29)。
傷害罪(204条)は、暴行の故意で暴行を加えて傷害の結果が生じた場合に暴行罪の結果的加重犯として成立するが、それに限られず、傷害の故意で傷害の結果を生じさせた場合にも成立する。条文は「人の身体を傷害した者」と定めるだけで手段を限定しておらず、判例も、傷害の手段が何であるかを問わないとしている(最判昭27.6.6)。したがって、殴る蹴るといった有形力の行使によらず、病毒を感染させたり、精神的に圧迫して障害を生じさせたりする無形的な方法でも、傷害の故意があれば傷害罪になる。判例は、隣家に向けて約1年半にわたりラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続け、精神的ストレスによる慢性頭痛症や睡眠障害を負わせた事案で、被告人の行為は傷害罪の実行行為に当たるとして、同罪の成立を認めた(最決平17.3.29)。暴行による場合と異なり、暴行によらない場合は暴行の故意では足りず傷害の故意が必要であるが、それは故意の問題であって、暴行を加えなければ傷害罪にならないということではない。本肢は、傷害罪を暴行罪の結果的加重犯に限る点で誤っている。

人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
正しい。傷害事件は290条の2第1項1号・2号の事件ではないが、名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件として同項3号の対象になり、被害者は秘匿の申出ができる。
290条の2第1項は、秘匿決定の対象事件を三つに分けて定める。1号は不同意わいせつ・不同意性交等(刑法176条〜179条)やその致死傷(181条)、わいせつ目的の略取誘拐などの性犯罪であり、2号は児童福祉法60条1項の罪や児童買春・児童ポルノに関する罪などである。これらは被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされたときの打撃が類型的に大きいため、罪名だけで対象になる。これに対して3号は、前二号に掲げる事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件を対象に取り込む受け皿の規定である。傷害罪(刑法204条)は1号にも2号にも掲げられていないが、3号は罪名による限定を置かず個別の事情で判断するから、そのおそれが認められる場合には被害者は秘匿の申出をすることができる。肢は3号の要件をそのまま述べたものである。なお、申出があっても決定をするかどうかは裁判所が相当性を判断する。

前二号に掲げる事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
- 対象事件(1項):1号=不同意わいせつ・不同意性交等(刑法176条〜179条・181条・182条)やわいせつ目的の略取誘拐などの性犯罪、2号=児童福祉法・児童買春等の罪、3号=そのほか名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件(傷害などの罪名でも可)
- 申出権者(1項):被害者等(被害者、及び被害者が死亡し又は心身に重大な故障がある場合の配偶者・直系の親族・兄弟姉妹)、被害者の法定代理人、これらの者から委託を受けた弁護士。申出はあらかじめ検察官にする(2項)
- 職権の決定(3項):被害者や親族への加害・畏怖・困惑のおそれがある事件では、申出がなくても検察官と被告人・弁護人の意見を聴いて決定できる
- 効果:起訴状の朗読は被害者特定事項を明らかにしない方法で行い(291条2項)、裁判長は被害者特定事項にわたる尋問・陳述を制限することが「できる」(295条3項。犯罪の証明に重大な支障や被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除く)。遮へい措置(157条の5)が義務になるわけではない
- 不服申立て:判決前の訴訟手続に関する決定であり、抗告はできない(420条1項)
誤り。違うのは「甲には傷害罪は成立しない」の部分である。傷害罪は暴行の故意で暴行を加えて傷害の結果が生じた場合にも成立し、傷害を負わせる意思は要らない。
判例は、傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因である暴行についての意思があれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないとしている(最判昭25.11.9)。208条が、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに暴行罪が成立すると定めていることから、暴行の故意で暴行を加えて傷害に至ったときは204条が適用されると読めるからである。この場合の傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、傷害の結果について故意はもちろん予見も要らない。本肢の甲は、Aの太ももを蹴るという人の身体に対する有形力の行使を認識しながら行っており、暴行の故意がある。その暴行によってAが怪我をしている以上、Aに傷害を負わせるまでの意思がなかったとしても、甲には傷害罪が成立する。傷害の故意が必要になるのは、病毒の感染や騒音のように暴行によらない方法で傷害を生じさせた場合であり、本肢はこれに当たらない。

傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としない
| 傷害の方法 | 必要な故意 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 暴行によって傷害を生じさせた(殴る・蹴る・刃物を振り回す) | 暴行の故意で足りる | 暴行罪の結果的加重犯としての傷害罪 |
| 暴行によらずに傷害を生じさせた(病毒の感染・騒音・無言電話) | 傷害の故意が必要 | 故意犯としての傷害罪 |
誤り。違うのは「甲には現場助勢罪(刑法第206条)が成立する」の部分である。現場助勢罪は傷害罪又は傷害致死罪が行われるに当たり成立する罪であり、Aらの暴行が暴行罪にとどまる場合には成立しない。
206条は、「前二条の犯罪が行われるに当たり」、現場において勢いを助けた者を、自ら人を傷害しなくても処罰すると定める。前二条とは204条の傷害罪と205条の傷害致死罪であり、現場助勢罪は、傷害又は傷害致死の現場で勢いを助けるという、傷害の結果と結び付いた扇動的な行為を独立に処罰するものである。したがって、現場で行われた行為が傷害に至らず暴行罪(208条)にとどまるときは、前二条の犯罪が行われたとはいえず、勢いを助けた者に現場助勢罪は成立しない。本肢の甲は、Aら数名の殴り合いのけんかに通り掛かり、「もっとやれ。」と言ってはやし立てているが、Aらは誰も怪我をしておらず、Aらの暴行は互いの相手に対する暴行罪にとどまっている。傷害罪も傷害致死罪も行われていない以上、甲には現場助勢罪は成立しない。なお、はやし立てる行為が特定の者の暴行を幇助したといえる場合には暴行罪の幇助犯の成否が問題になるが、本肢はそれを問うていない。

前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
誤り。違うのは「Aには傷害罪の共同正犯が成立する」の部分である。共同正犯には意思の連絡が必要であり、判例は片面的共同正犯を否定するので、Bに気付かれずに加わったAに共同正犯は成立せず、幇助犯にとどまる。
共同正犯(60条)が、各人を自己の行為だけでなく共同者の行為についても正犯として全部の責任を負わせるのは、行為者相互の間に意思の連絡、すなわち共同して犯行を行う認識があり、互いに相手の行為を利用し補い合って犯罪を実現するからである。判例は、この理由から、一方だけが共同して実行する意思を持ち、相手方がそれを知らない片面的共同正犯の成立を否定している(大判大11.2.25)。本肢のAは、BがVを殴打しようとしているときに、Bに気付かれずにVの足を押さえ付けており、AとBの間に意思の連絡は全くない。Bは自分の暴行だけを認識して実行しており、Aの行為を利用しているという関係もない。したがって、Aには傷害罪の共同正犯は成立しない。もっとも、Vの足を押さえ付けたことによってBはVの顔面を殴打して傷害を負わせることができたのであるから、Aの行為はBの実行を物理的に容易にしており、片面的幇助を認める判例の立場からは、Aには傷害罪の幇助犯が成立する。

二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
| 類型 | 判例の結論 | 理由 |
|---|---|---|
| 片面的共同正犯 | 否定(大判大11.2.25) | 共同正犯の根拠は互いに利用し補い合う関係にあり、意思の連絡がなければ成り立たない。各自は自分の行為から生じた結果だけに責任を負う |
| 片面的幇助 | 肯定(大判大14.1.22) | 正犯の行為を認識して幇助する意思があれば足り、正犯との意思の連絡は要らない。ただし正犯の実行を物理的に容易にしたことが必要である |
誤り。違うのは「両罪は牽連犯となる」の部分である。車道にロープを張った一個の行為が往来妨害罪と傷害罪の二つの罪名に触れるのであり、両罪は手段と結果の関係ではなく観念的競合になる。
124条2項の往来妨害致死傷罪は、往来妨害罪の結果的加重犯であり、死傷の結果について予見がなくても成立する。これに対し、甲に乙が負傷することについて故意がある本肢では、死傷の結果は傷害罪(204条)として故意犯で評価されるので、往来妨害罪(124条1項)と傷害罪が成立する。問題はその罪数関係である。牽連犯(54条1項後段)は、犯罪の手段又は結果である行為が他の罪名に触れる場合、すなわち二個の行為が罪質上通例として手段と結果の関係にある場合をいう。本肢で甲がしたのは、夜間に車道上にロープを張って車道を閉塞するという一個の行為であり、この同じ行為が、陸路の往来を妨害する点で往来妨害罪に、通り掛かった乙を転倒させて負傷させる点で傷害罪に触れている。往来を妨害する行為と乙を負傷させる行為が別々にあるわけではないので、手段と結果の関係を論じる前提を欠く。一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合であるから、両罪は54条1項前段の観念的競合として最も重い刑により処断される。したがって、牽連犯とする本肢は誤りである。

一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
誤り。違うのは「甲に傷害致死罪は成立しない」の部分である。無関係なBに対する行為は緊急避難の問題になるが、犬にかまれる傷害を避けるためにBの生命を失わせており、生じた害が避けようとした害の程度を超えているから、緊急避難は成立しない。
Bは犬の飼い主ではなく甲の危難と無関係の第三者であるから、Bを突き飛ばした行為について正当防衛は成立せず、緊急避難(37条1項)の成否が問題になる。甲には犬にかみつかれそうになっているという身体に対する現在の危難があり、逃げ場がなかったのであるから、Bを突き飛ばして身をかわす行為は危難を避けるためのやむを得ない行為であったといえる余地がある。しかし緊急避難は、無関係な第三者に害を転嫁する行為であるから、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限って違法性が阻却される。甲が避けようとした害は、犬にかまれることによる身体の傷害であるのに対し、甲の行為によって生じた害はBの死亡という生命の喪失である。生命は身体より重い法益であるから、生じた害が避けようとした害の程度を超えており、緊急避難は成立しない。甲は暴行の故意でBを突き飛ばし、その結果Bが死亡しているから、傷害致死罪(205条)が成立する。害の均衡を超えた過剰避難として、37条1項ただし書により刑が減軽又は免除される余地があるにとどまる。本肢は誤りである。

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
正しい。事例Ⅰでは窃盗罪と傷害罪が成立して併合罪となり、最も重い傷害罪の長期15年に2分の1を加えた22年6月が処断刑の上限となるから、懲役22年を言い渡すことができる。
甲はおにぎりを窃取しており窃盗罪(235条)が成立する。その後、捕まるのを免れる目的で店員乙に暴行を加えているが、この暴行は反抗を抑圧するに至らない程度のものであるから、事後強盗罪(238条)は成立せず、強盗致傷罪(240条)も成立しない。暴行によって加療約1週間の傷害を負わせているので傷害罪(204条)が成立する。窃盗罪と傷害罪は、窃取と暴行という別個の行為によるものであり、手段と結果の関係にもないから、併合罪(45条前段)となる。併合罪のうち二個以上の罪について有期の自由刑に処するときは、47条により、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とし、各罪の長期の合計を超えることはできない。最も重い傷害罪の長期は15年であり、これに2分の1を加えると22年6月になる。各罪の長期の合計は窃盗罪10年と傷害罪15年を足した25年であり、22年6月はこれを超えない。したがって処断刑の上限は22年6月であり、懲役22年を言い渡すことができる。出題当時の懲役は現行法では拘禁刑であるが、計算は同じである。本肢は正しい。

併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
- ["事例Ⅰ", "窃盗罪+傷害罪の併合罪。15年×1.5=22年6月(合計25年を超えない)"]
- ["事例Ⅱ", "恐喝罪と傷害罪の観念的競合。重い傷害罪の長期15年"]
- ["事例Ⅲ", "住居侵入罪を要にした窃盗罪・強盗罪のかすがい現象。強盗罪の長期20年"]
誤り。違うのは「甲には傷害罪は成立しない」の部分である。誤信した侵害に対する防衛行為としても相当性を超える反撃をした誤想過剰防衛では、過剰な反撃をしていることの認識がある以上故意は阻却されず、傷害罪が成立したうえで36条2項による刑の減軽・免除があり得るにとどまる(最決昭62.3.26)。
客観的には乙は酩酊して暴れる丙を取り押さえていただけで急迫不正の侵害はなく、甲に正当防衛は成立しない。甲は侵害を誤信して反撃しており誤想防衛として故意の阻却が問題になるが、本肢では、甲の暴行の程度が、認識した侵害に対する防衛行為としての相当性を超えている。この誤想過剰防衛について、判例は、空手の有段者が誤信した侵害に対して回し蹴りをして相手を死亡させた事案で、誤想過剰防衛に当たるとして傷害致死罪の成立を認めたうえで、36条2項により刑を減軽した原判断を正当としている(最決昭62.3.26)。誤信した侵害を前提にしても過剰な反撃であることを基礎づける事実を認識していれば、正当化されない事実を認識して行為しているので、故意を否定する理由がないからである。甲は、乙の腹部をゴルフクラブで数回強く殴打することを認識して重傷を負わせており、傷害罪が成立する。36条2項による減軽・免除の余地はあっても、罪が成立しないわけではない。したがって、本肢は誤りである。

防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
誤り。違うのは「甲には傷害罪が成立する」の部分である。傷害とは人の生理的機能の障害をいい、判例は毛髪の切断を傷害ではなく暴行としている(大判明45.6.20)。
傷害罪(204条)の傷害とは、人の生理的機能に障害を与えることをいい、判例もこの立場に立っている。毛髪は身体の一部ではあるが、これを切っても身体の働きが損なわれるわけではなく、外観が変わるにすぎない。判例は、毛髪の切断や剃去は傷害に当たらず、人の身体に対する不法な有形力の行使として暴行に当たるとしている(大判明45.6.20)。身体の完全性を害する行為をすべて傷害とする考え方もあり得るが、それでは軽微な行為まで重い傷害罪になるので、判例は生理的機能の障害があるかどうかで傷害と暴行を分けている。甲は、丁寧に手入れされていたVの長髪を、Vが寝ている間に無断で切って短くしている。Vの身体に対する不法な有形力の行使であるから暴行罪(208条)は成立するが、Vの生理的機能には何の障害も生じていないので、傷害には当たらない。したがって、甲に傷害罪は成立せず、本肢は誤りである。髪の手入れの程度や被害者の精神的な苦痛は、傷害の有無の判断を変えるものではない。

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
| 行為・結果 | 評価 |
|---|---|
| 毛髪の切断・剃去 | 傷害でなく暴行(大判明45.6.20) |
| 腐敗した食品で下痢を起こさせる(数時間で完治) | 一時的でも生理的機能の障害=傷害 |
| 睡眠薬による意識障害・病毒の感染・慢性頭痛症・PTSD | 傷害 |
| 無言電話を続けたが精神の障害は生じない | 有形力の行使でなく暴行罪も成立しない |
誤り。違うのは「甲には傷害罪は成立しない」の部分である。判例は、傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因である暴行についての意思があれば足り、傷害の意思は必要でないとしている(最判昭25.11.9)。
最判昭25.11.9は、傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないとした。208条が、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときに暴行罪が成立すると定めていることから、暴行の故意で暴行を加えて傷害の結果が生じれば傷害罪になるという関係が読み取れ、暴行による傷害については、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯として扱われるからである。人の身体に有形力を加える者は、そこから傷害が生じる危険を自ら作り出しているので、傷害の結果まで認識していなくても傷害罪の責任を負わせることが不当とはいえない。甲は、傷害を負わせる意思なくVの顔面を手拳で殴打しているが、人の身体に対する不法な有形力の行使である暴行の故意はあり、その殴打によってVが傷害を負っている。暴行の故意と暴行から生じた傷害の結果がある以上、甲の意に反する結果であっても傷害罪が成立する。したがって、本肢は誤りである。暴行によらない方法で傷害を生じさせた場合に傷害の故意が必要になるのとは区別される。

傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としない
正しい。傷害とは人の生理的機能の障害をいい、腐敗した食品を食べさせて下痢の症状を起こさせれば、数時間で完治する一時的なものであっても生理的機能を害したといえ、暴行によらない方法でも傷害の故意があるので傷害罪が成立する。
傷害罪(204条)の傷害とは、人の生理的機能に障害を与えることをいう。外形上の身体の完全性が保たれていても、身体の働きが損なわれれば傷害であり、判例は、飲料水に毒物を混入して中毒症状やめまい、嘔吐を生じさせた事案で、一時的に生理的機能を害した場合にも傷害罪が成立するとしている(大判昭8.6.5)。治るまでの時間の長短は、障害の程度の問題であって、傷害に当たるかどうかを左右しない。また、204条は傷害の手段を限定していないので、暴行によらない方法で生理的機能を害した場合にも傷害罪は成立するが、その場合には暴行の故意では足りず、傷害の故意が必要になる。甲は、Vに下痢の症状を起こさせようと考えて腐敗した食品を食べさせ、Vは実際に下痢の症状を起こしている。下痢は消化器の働きが損なわれた状態であり、生理的機能の障害に当たるので、数時間安静にして完治したとしても傷害である。甲には下痢を起こさせる意思、すなわち傷害の故意があるので、暴行によらない方法であっても傷害罪が成立する。したがって、本肢は正しい。

人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
| 行為・結果 | 評価 |
|---|---|
| 毛髪の切断・剃去 | 傷害でなく暴行(大判明45.6.20) |
| 腐敗した食品で下痢を起こさせる(数時間で完治) | 一時的でも生理的機能の障害=傷害 |
| 睡眠薬による意識障害・病毒の感染・慢性頭痛症・PTSD | 傷害 |
| 無言電話を続けたが精神の障害は生じない | 有形力の行使でなく暴行罪も成立しない |
正しい。殺人罪の有期刑は5年以上20年以下、傷害罪は1月以上15年以下であり、併合罪の加重により長期は重い殺人罪の20年に2分の1を加えた30年、短期は重い殺人罪の5年となるから、処断刑は5年以上30年以下である。
併合罪のうち2個以上の罪について有期の自由刑に処するときは、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とし、ただし各罪の長期の合計を超えることはできない(47条)。殺人罪の有期刑は5年以上であり、長期は12条1項により20年である。傷害罪の自由刑は15年以下で、短期は1月である。最も重い罪は殺人罪であるから、長期は20年に10年を加えた30年となり、各罪の長期の合計35年も、有期刑を加重する場合の上限30年(14条2項)も超えない。短期は、併合罪の加重によって引き下げられることはなく、最も重い罪の短期である5年がそのまま処断刑の短期になる。したがって、処断刑は5年以上30年以下となり、本肢は正しい。出題当時の懲役刑は、現行法では拘禁刑に一本化されているが、刑期の計算は変わらない。

併合罪のうちの二個以上の罪について有期拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
| 場面 | 計算 | 処断刑 |
|---|---|---|
| 殺人(有期)+傷害の併合罪 | 重い殺人の長期20年×1.5=30年。各罪の長期の合計35年を超えない。短期は重い殺人の5年 | 5年以上30年以下 |
| 窃盗の従犯(法律上の減軽) | 1月以上10年以下の長期・短期を2分の1。短期は1月未満に下げられる | 15日以上5年以下 |
| 強盗致傷の有期刑を酌量減軽 | 6年以上20年以下の長期・短期を2分の1 | 3年以上10年以下 |















