第179条過去問 8
1被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、捜索、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
2前項の請求を受けた裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
この条文の過去問 8問
弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、公訴の提起前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
解説
本肢は誤り。証拠保全を定める刑訴法179条1項は、「被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。」と規定する。時的限界は「公訴の提起前」ではなく「第一回の公判期日前」であり、公訴提起後であっても第一回公判期日前であれば請求は可能である。捜査機関が強制処分権限を独占する捜査段階において、防御側にも裁判官の手を借りて証拠を確保する途を開くとともに、証拠が散逸・変質しやすい起訴直後の段階までこれを認めた趣旨である。請求先は裁判所ではなく裁判官であり、請求を受けた裁判官は裁判所又は裁判長と同一の権限を有する(179条2項)。また、保全された証拠については、被告人・被疑者・弁護人は裁判官の許可を得て書類・証拠物を閲覧謄写することができる(180条1項)。本肢は請求可能な時期を「公訴の提起前に限り」としている点で条文と食い違うから、誤りである。
弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、起訴前であっても、裁判官に証人の尋問を請求することができる。
解説
本肢は正しい。捜査段階では、証拠の収集手段は原則として捜査機関に独占されており、被疑者・弁護人には強制処分の権限がない。そこで刑訴法は、当事者対等および防御権保障の見地から証拠保全の制度を設け、「被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる」と規定する(179条1項)。請求権者に「被疑者」および「弁護人」が明示されているとおり、公訴提起前の段階であっても請求は可能であり、また処分の対象として「証人の尋問」が明文で挙げられている。請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する(179条2項)。なお、請求は書面で行い、証拠保全の必要性等を疎明しなければならず(刑訴規則137条)、請求を却下する裁判に対しては不服申立てとして準抗告が認められている(刑訴法179条の2、規則138条参照)。したがって、弁護人は起訴前であっても裁判官に証人尋問を請求することができ、本肢は正しい。
弁護人は,あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは,第1回の公判期日前に限り,裁判官に証人の尋問を請求することができる。
解説
本肢は正しい。179条1項は「被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる」と定める(証拠保全)。捜査機関は強制処分権限を有し自ら証拠を収集できるのに対し、被疑者・被告人側にはそのような権限がないため、当事者対等の理念の下、防御に必要な証拠が散逸・変質するのを防ぐ手段として設けられた制度である。請求権者には弁護人が明文で含まれており、請求先は受訴裁判所ではなく「裁判官」(証拠保全請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所または裁判長と同一の権限を有する。179条2項)である点、時期的限界が「第1回の公判期日前」に限られる点が要件である。第1回公判期日後は、通常の証拠調べ請求(298条1項)や公判廷外の証人尋問(158条)等によるべきであるから、証拠保全の必要がないためである。証人の尋問も請求できる処分として列挙されているから、本肢の記述は179条1項の内容にそのまま合致し、正しい。なお、請求は書面により、証拠保全の必要性等を疎明しなければならない(刑訴規則137条)。
第1回公判期日前の証人尋問調書
解説
本肢は正しい。刑訴法321条1項1号のいわゆる裁判官面前調書(裁面調書)とは、被告人以外の者の供述を録取した書面のうち、裁判官の面前における供述を録取したものをいう。公判段階以前に作成されるものとしては、検察官の請求による第1回公判期日前の証人尋問(226条・227条、被告人以外の者が任意の取調べに応じない場合等)、証人尋問請求に基づく尋問手続(228条)、および被告人・弁護人等の請求による証拠保全としての証人尋問(179条)の各調書が典型例である。これらはいずれも裁判官が主宰し、宣誓・偽証罪の制裁の下で、あるいは少なくとも中立的な司法官憲の面前で行われる手続において作成されるため、供述の任意性および録取の正確性について類型的に高度の情況的保障が認められる。そこで1号書面は、供述者が死亡・精神若しくは身体の故障・所在不明又は国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき(供述不能)に加え、公判準備・公判期日において前の供述と異なる供述をしたとき(相反供述)にも、特信情況の証明を要することなく証拠能力が認められ、伝聞例外の中で最も緩やかな要件が定められている(同項2号・3号と対比せよ)。したがって、第1回公判期日前の証人尋問調書は、まさに321条1項1号の裁面調書に当たる。
被疑者,被告人又は弁護人は,あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは,第1回の公判期日前に限り,裁判官に押収,捜索,検証,証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
解説
本肢は正しい。証拠保全(179条1項)に関する条文知識の問題である。同項は、被告人、被疑者又は弁護人につき、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができると定める。本肢は主体の並べ方が条文と前後するだけで、請求権者・要件・時期のいずれも条文どおりであり、正しい。
趣旨を確認しておくと、捜査段階では強制処分の権限は捜査機関に独占されており、被疑者・被告人側には証拠を強制的に収集する手段がない。そこで、時の経過により散逸・変質してしまう証拠(重傷の被害者や高齢の目撃者の供述、損壊されるおそれのある物、変化する現場の状況など)について、防御側からの請求により裁判官の権限で証拠を確保させ、当事者対等(武器対等)を実質化しようとするのが本条の趣旨である。
要件面では、単に証拠が欲しいというだけでは足りず、「保全しておかなければ使用することが困難な事情」という保全の必要性・緊急性が求められる点、時期が「第1回の公判期日前に限り」とされる点が重要である。第1回公判期日後は、裁判所に対する通常の証拠調べ請求(298条1項)によればよいからである。なお、請求を受けるのは受訴裁判所ではなく令状裁判官と同様の中立的な「裁判官」であり、請求を却下する裁判に対しては準抗告ではなく異議の申立てによる(179条2項、429条1項5号参照)。処分によって作成された調書等は、裁判官の保管に係るものとして弁護人等が閲覧・謄写することができる(180条)。
被疑者,被告人又は弁護人は,あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは,第1回の公判期日前に限り,裁判官に押収,捜索,検証,証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
解説
本肢は正しい。証拠保全の請求を定める刑訴法179条1項の内容そのものである。被告人側は捜査機関と異なり自ら強制処分を用いて証拠を収集・確保する権限を持たないため、証拠が散逸・変質して後の公判で利用できなくなる事態を防ぐ趣旨で、裁判官の強制力を借りる制度が設けられている。要件・効果を分解すると、①請求権者は被疑者・被告人・弁護人であり、②「あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるとき」という必要性の要件の下で、③第1回の公判期日前に限り、④押収・捜索・検証・証人の尋問・鑑定の各処分を、⑤受訴裁判所ではなく裁判官に対して請求することができる。第1回公判期日後は受訴裁判所に対する通常の証拠調べ請求(298条1項)によれば足りるため、時期的な限界が置かれている点が重要である。請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有し(179条2項)、被疑者・被告人・弁護人は、裁判官の許可を得て、保全された書類及び証拠物を閲覧・謄写することができる(180条1項)。本肢は条文の文言どおりであり、正しい。
弁護人は,被告人のアリバイを供述する証人に海外赴任の予定があるなど,あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときでも,第1回の公判期日前に,裁判官に証人の尋問を請求することはできない。
解説
本肢は誤り。本肢が問うのは刑訴法179条1項の証拠保全請求である。同項は、被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができると定める。226条・227条が検察官のみに認められた捜査側の制度であるのに対し、179条は防御側にも裁判官の強制処分権限の発動を求める道を開いたものであり、当事者主義的訴訟構造の下で被告人・被疑者側の証拠収集能力の乏しさを補う趣旨に出る。
「証拠を使用することが困難な事情」とは、証人の重篤な疾病・高齢、遠隔地への転居、そして本肢のような海外赴任の予定など、公判段階まで待っていては当該証拠の取調べが事実上不可能又は著しく困難になる事情をいう。アリバイ証人が近く海外に赴任する予定であるという事情は、まさにその典型例に当たる。
また、請求権者は「被告人、被疑者又は弁護人」であり、弁護人は被告人・被疑者の意思に従属することなく固有の権限としてこの請求をすることができる。したがって、弁護人が第1回公判期日前に裁判官に証人尋問を請求することは可能であり、これを一律にできないとする本肢は誤りである。なお、請求は書面で事由を疎明して行う必要がある(179条2項、刑訴規則137条参照)。
弁護人は,被告人のアリバイを供述する証人に海外赴任の予定があるなど,あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときでも,第1回の公判期日前に,裁判官に証人の尋問を請求することはできない。
解説
本肢は誤り。刑訴法179条1項は、被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができると定める(証拠保全)。強制的な証拠収集手段を持たない被疑者・被告人側に、証拠の散逸を防ぐための手段を与え、当事者主義の下での防御の実質化を図る趣旨である。
本肢のように、被告人のアリバイを供述する証人に海外赴任の予定があるという事情は、時の経過により供述を得ることが事実上困難となる典型例であり、「あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるとき」に当たり得る。そして179条1項は請求できる処分として明文で「証人の尋問」を挙げているから、弁護人は第1回の公判期日前に裁判官に対して証人尋問を請求することができる。よって、およそ請求できないとする本肢は誤りである。
なお、226条・227条の公判期日前の証人尋問は検察官のみが請求権者であるのに対し、179条の証拠保全は被告人・被疑者・弁護人が請求権者である点、両者は主体を異にする。請求を受けた裁判官が裁判所又は裁判長と同一の権限を有すること(179条2項)は、228条1項と同様である。