遺産分割(906条〜914条)とは
いさんぶんかつ
遺産分割とは、共同相続人の共有に属する相続財産を各相続人に分けて帰属させる手続で、共同相続人の協議により、協議が調わなければ家庭裁判所の審判によって行い、その効力は相続開始の時に遡りますが第三者の権利を害することはできません(906条〜909条)。
相続人が何人もいると、遺産はひとまずみんなの共有になります。家は長男、預金は次男というように、誰が何を取るかを決めて共有を解消するのが遺産分割です。まずは相続人全員で話し合い(協議)、まとまらなければ家庭裁判所が審判で分けます。分け方が決まると相続開始の時から各自が持っていたことになりますが、それまでに権利を取得した第三者の立場は守られます。
遺産分割は協議でいつでもでき、協議が調わなければ家庭裁判所の審判によるので、地方裁判所に分割の訴えは起こせません
共同相続人は、遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも、その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができます(907条1項)。熟慮期間中であっても分割できるので、「遺産分割は,相続の承認又は放棄をすべき期間内には,することができない」という肢は誤りです。協議が調わないとき又は協議ができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求できます(907条2項)。判例は、遺産分割は家庭裁判所の審判によって定めるべきもので、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないとしています(最判昭和62年9月4日)。「各相続人は,他の相続人全員を被告として遺産分割の訴えを提起することができる」という肢は誤りです。遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してします(906条)。数人の子の親権者が子を代理して遺産分割協議をすることは利益相反行為に当たり、その扱いは親権の内容と利益相反行為の語で扱います。
被相続人は遺言で分割の方法を定め、第三者に委託し、5年以内に限って分割を禁止できます
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます(908条1項)。「遺言で,遺産の分割の方法を定めることを第三者に委託することができる」という肢は正しく、「禁止期間を限定したとしても,遺言で遺産の分割を禁ずることはできない」という肢は誤りです。共同相続人も5年以内の期間を定めて分割しない旨の契約ができ、家庭裁判所も特別の事由があれば5年以内の期間を定めて分割を禁止できますが、いずれも終期は相続開始の時から10年を超えられません(908条2項〜5項、令和3年改正)。特定の財産を相続人に相続させる遺言(特定財産承継遺言)は遺産分割の方法の指定で、遺産分割を経ずに承継されることは遺贈と特定財産承継遺言の語で扱います。
分割の効力は相続開始時に遡り、相続開始後に認知された者は価額の支払しか請求できず、共同相続人は売主と同じ担保責任を負います
遺産の分割は相続開始の時に遡って効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(909条)。分割と登記の関係は前半の相続と登記の語で扱います。相続の開始後に認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合に、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしていたときは、価額のみによる支払を請求できます(910条)。既にされた分割は効力を失わないので、「Dは,価額のみによる支払の請求権を有する」という肢は正しく、遺産分割の審判や分割が「効力を失う」という肢は誤りです。判例は、母とその嫡出でない子の親子関係は原則として分娩の事実で当然に生じるので、母の死亡による相続では、遺産分割後に共同相続人の存在が判明しても910条は類推適用されないとしています(最判昭和54年3月23日)。「その子は,他の共同相続人らに対し,価額のみによる支払の請求権を有する」という肢は誤りです。各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じくその相続分に応じて担保の責任を負います(911条)。分割で取得した建物に欠陥があれば、取得した相続人は他の相続人に担保責任を追及できるので、「瑕疵担保責任を追及することができない」という肢は誤りです。出題当時の瑕疵担保責任は、現在は売買の契約不適合責任(562条以下)として読み替えます。
遺産分割協議は債務不履行を理由に解除できませんが、全員の合意で解除し直すことはでき、詐害行為取消しの対象にもなります
判例は、遺産分割協議で相続人の一人が負担した債務を履行しなくても、他の相続人は541条によって協議を解除できないとしています(最判平成元年2月9日)。遺産分割は協議の成立で終了し、その後は負担した者と債権者の間の債権債務関係が残るだけで、解除を認めると再分割を余儀なくされ法的安定性が害されるからです。「BはAの債務不履行を理由に遺産分割協議を解除することはできない」という肢は正しいです。他方で判例は、共同相続人全員が既に成立した遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除し、改めて協議することは妨げられないとしています(最判平成2年9月27日)。「改めて遺産分割協議を成立させることはできない」という肢は誤りです。判例は、遺産分割協議は相続財産の帰属を確定させる財産権を目的とする法律行為なので、詐害行為取消権行使の対象となり得るとしています(最判平成11年6月11日)。「遺産分割協議は,詐害行為取消権行使の対象とすることができる」という肢は正しいです。
持分の譲受人は共有物分割訴訟によって共有を解消し、同居していた相続人は遺産分割まで無償で使用でき、相続回復請求権の時効は悪意の共同相続人には使えません
判例は、共同相続人の一人から遺産中の特定の不動産の共有持分を譲り受けた第三者が共有関係の解消を求める手続は、遺産分割審判ではなく共有物分割訴訟(258条)であるとしています(最判昭和50年11月7日)。「共有関係の解消のためにとるべき裁判手続は,共有物分割訴訟である」という肢は正しく、「遺産分割審判である」という肢は誤りです。判例は、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物で被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、遺産分割で建物の所有関係が最終的に確定するまでは引き続き無償で使用させる旨の合意があったものと推認され、他の相続人を貸主とする使用貸借関係が存続するとしています(最判平成8年12月17日)。この肢は正しく、同居していた相続人が「当該建物を無償で使用することができない」という肢は誤りです。配偶者の居住の保護は配偶者居住権と配偶者短期居住権の語で扱います。相続回復の請求権は、相続権を侵害された事実を知った時から5年、相続開始の時から20年で時効により消滅します(884条)。判例は、共同相続人の一人が、他に共同相続人がいることを知りながら、又は自己に持分があると信ずべき合理的な事由がないのに、その部分も自己の持分だと称して占有管理している場合は、相続回復請求権の消滅時効を援用できないとしています(最大判昭和53年12月20日)。遺産分割協議書を偽造して単独名義の登記をした相続人は援用できず、「Bは,相続回復請求権の5年の短期消滅時効が完成したことを主張することができない」という肢と、「Bは,Aの相続回復請求権の消滅時効を援用することができない」という肢は正しいです。相続回復請求権は相続権の侵害の回復を求める請求権で、一方的な意思表示で法律関係を変動させる形成権には当たらないので、形成権としての性質を有するものに数える肢は誤りです。
民法909条
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
民法910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
民法884条
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
論文ではこう使う
論文では、遺産分割協議で負担した債務の不履行を理由に他の相続人が協議の解除を主張する場面で使います。遺産分割は協議の成立で終了し、その後は負担した者と債権者の間の債権債務関係が残るだけであること、909条本文の遡及効の下で解除を認めると再分割を余儀なくされ法的安定性が害されることから、541条による解除はできないとする判例を示し、全員の合意による解除と再協議は妨げられないこととの違いを書きます。共同相続人間の相続回復請求権では、884条の時効を援用できるのは他に共同相続人がいることを知らず、そう信ずべき合理的な事由がある者に限られることを当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。