相続と登記(共同相続・相続放棄・遺産分割・遺贈・特定財産承継遺言・遺言執行者)とは
そうぞくととうき
相続と登記とは、相続によって不動産を取得した者が、その取得を第三者に主張するのに登記が要るかという問題です。自己の法定相続分は登記なしに対抗でき、相続放棄の効力も登記なしに主張できますが、遺産分割や特定財産承継遺言で法定相続分を超えて取得した部分は登記がなければ第三者に対抗できず(899条の2第1項)、遺贈も登記がなければ対抗できません。
親が亡くなって子どもたちが土地を相続すると、まずは法定相続分に従って皆の共有になります。自分の相続分は法律で当然に決まるので、登記がなくても誰にでも主張できます。しかし、遺産分割や遺言で自分の相続分より多く取得した部分は、登記を見て取引する第三者には外から分かりません。そこで民法は、法定相続分を超える部分は登記をしなければ第三者に対抗できないとしました。相続を放棄した人は初めから相続人でなかったことになり、遺贈は意思表示による移転なので登記が要ります。
共同相続人の一人が単独相続の登記をして売却しても、他の共同相続人は自己の持分を登記なしに対抗でき、持分についての更正登記を求めます
判例は、相続財産に属する不動産について単独所有権移転の登記をした共同相続人と、その者から移転登記を受けた第三取得者に対し、他の共同相続人は自己の持分を登記なしに対抗できるとしました(最判昭和38年2月22日)。単独登記は他の相続人の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力がないので、譲受人もその持分を取得できないからです。もっとも、単独登記をした相続人自身の持分は有効に譲渡されているので、他の相続人が求めることができるのは登記の全部の抹消ではなく、自己の持分についての一部抹消(更正)登記です。「Bは,Dに対し,登記をしなければ自己の持分の取得を対抗することができない」という肢、「Aの持分について,AがDに対して自己の権利を主張するためには登記が必要である」という肢、「Bは,Eに対し,甲土地について2分の1の持分の取得を主張することができない」という肢、「この所有権移転登記の全部抹消を求めることができる」という肢、遺産分割前に無断で単独登記して売られた場合に「C及びDは,Eに対し,それぞれの持分権を対抗することができない」という肢は誤りです。「Hは,相続登記をしなくても,甲土地について有する法定相続分に応じた持分の帰属を主張することができる」という肢は正しいです。被相続人から買って未登記の者と、相続人の一人が単独登記をして売った相手との関係では、その相続人の持分2分の1について二重譲渡と同じ対抗関係になり、他の相続人の持分は譲受人が取得できないので、「Bは,Eに対し,2分の1の限度で甲土地の共有持分の取得を主張することができる」という肢は正しいです。
遺産分割で法定相続分を超えて取得した部分は、登記をしなければ分割後の第三者に対抗できず、分割前の第三者は909条ただし書で保護されます
899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分(900条・901条で算定した相続分)を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めています。平成30年の相続法改正で、遺産分割後の第三者との関係を177条の対抗問題とした判例(最判昭和46年1月26日)を明文化したものです。遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできず(909条)、分割前に持分に抵当権の設定を受けて登記した者は保護されます。分割後に他の相続人の法定相続分を買い受けた者に対し、「登記をしなくても法定相続分を超える所有権の取得を対抗することができる」という肢、「Bは,遺産分割によって取得した持分について登記なくしてDに主張することができる」という肢は誤りです。遺産分割後に代位で共同相続登記がされ持分が差し押さえられた場合に「自己の権利の取得をYに対抗することができない」という肢と「Aは,Cに対し法定相続分を超える権利の取得を対抗することができない」という肢、「Bの持分について,AがDに対して自己の権利を主張するためには登記が必要である」という肢、「Eは,Bに対し,甲土地について4分の1の持分の取得を主張することができる」という肢、「Bは,Dに対し,抵当権設定登記の抹消を請求することができない」という肢、「Bは,Dに対し,甲土地の単独所有権の取得を対抗することができない」という肢は正しいです。
特定財産承継遺言(相続させる遺言)で取得した部分も、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できなくなりました
特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、特段の事情のない限り遺産分割の方法の指定で、何らの行為を要せず死亡の時に直ちにその相続人に承継されます(最判平成3年4月19日)。現行法はこれを特定財産承継遺言と呼びます(1014条2項)。旧判例は、この承継は法定相続分による相続と本質が同じだとして、登記なしに第三者に対抗できるとしていました(最判平成14年6月10日)。しかし899条の2第1項は「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」と定め、令和元年7月1日以降に開始した相続では、法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できません。他の相続人の債権者が代位で共同相続登記をして持分を差し押さえた場合、「Bは,Dに対し,登記をしなくても上記遺言による所有権の取得を対抗することができる」という肢は現行法で誤りで、正本も現行法に合わせて誤りとしています。同じ場面の司法2007年の肢「Ⅹは,甲の所有権取得をYに対抗することができる」は出題当時は正しいとされましたが、現在は誤りです。妻Bが法定相続分で登記して持分2分の1を売った場面の「Cは,Eに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができない」という肢は、出題当時は誤りとされましたが、現在はCは自己の法定相続分を超える部分を登記なしにEに主張できないので、その限りで正しいことになります。共同相続人自身は第三者ではないので、受益相続人は「Bと共にAを相続したCに対し,登記がなくても,甲土地の単独所有権の取得を対抗することができる」という肢は正しいです。
相続放棄の効力は絶対的で、放棄者の債権者が代位で共同相続登記をして差し押さえても、他の相続人は登記なしに対抗できます
相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(939条)。判例は、放棄の申述をすると相続人は相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったのと同じ地位に置かれ、この効力は絶対的で、何人に対しても登記等なくして効力を生ずるとしました(最判昭和42年1月20日)。遺産分割と違って909条ただし書のような第三者保護の規定がなく、放棄は熟慮期間内に家庭裁判所に申述してするので第三者が現れる余地も小さいからです。放棄者の債権者が代位で共同相続登記をして持分を差し押さえた場合に、他の相続人は「登記をしなくても相続による当該建物の取得を対抗することができる」という肢と、「Cは,Dに対し,登記をしなくても単独相続による甲土地の所有権の取得を対抗することができる」という肢は正しいです。「Aによる相続放棄は,Cに対して効力を生じない」という肢、「BCは,Dに対し,甲土地がBCのみの共有であることを主張することができない」という肢、放棄後の持分の譲受人が「4分の1の持分の取得を主張することができる」という肢は誤りです。
遺贈は意思表示による物権変動なので、受遺者は登記がなければ相続人からの譲受人や相続人の差押債権者に対抗できません
判例は、遺贈は遺言による意思表示で物権変動を生じる点で贈与と異ならないから、177条が適用され、受遺者は登記をしなければ第三者に対抗できないとしています(最判昭和39年3月6日)。受遺者は相続人自身には登記なしに主張できますが、相続人の債権者が持分を差し押さえた場合や、相続人が第三者に売って登記をした場合は対抗関係になります。受遺者が「乙土地の所有権を亡Bから取得したことを主張することができる」という肢、「登記をしなくても遺贈による甲土地の単独所有権の取得を対抗することができる」という肢、「所有権移転登記をしなくても,甲土地の所有権取得を対抗することができる」という肢は誤りです。遺贈があったことを知らず登記の機会がなかった受遺者も「Yに対し,甲の所有権取得を対抗することができない」という肢と、相続人から買って登記をした者に対し受遺者は「CからDへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することができない」という肢は正しいです。被相続人からの生前贈与と相続人への遺贈も対抗関係で、受贈者・受遺者が相続人として履行義務を承継していても登記の有無で決まります(最判昭和46年11月16日)。「Bは,Cに対し,登記をしなければ贈与による所有権の取得を対抗することができない」という肢と、「CがAの相続人であっても,Bは,Cに対し,甲不動産の所有権の取得を対抗することができない」という肢は正しいです。
遺言執行者がある場合の相続人の処分は無効ですが善意の第三者には対抗できず、限定承認をした受贈相続人は相続債権者に対抗できません
遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず(1013条1項)、これに違反した行為は無効ですが、善意の第三者に対抗することができません(1013条2項)。旧判例は相続人の処分を絶対的に無効とし、受遺者は登記なしに処分の相手方に対抗できるとしていました(最判昭和62年4月23日)。遺言執行者がある場合に妻Bが持分を売った場面の「Eは,Gに対し,甲土地の所有権の取得を主張することができる」という肢は、出題当時は正しいとされましたが、現行法ではGが遺言執行者のあることを知らなければEは主張できないので、無条件には正しいといえません。不動産の死因贈与を受けた相続人が限定承認をした場合、限定承認者は相続財産を清算して相続債権者に弁済すべき立場にあるので、信義則に照らし、死因贈与による移転登記が相続債権者の差押登記より先でも相続債権者に所有権取得を対抗できません(最判平成10年2月13日)。「Aは,Cに対し,その不動産の所有権の取得を対抗することができない」という肢は正しいです。
民法899条の2第1項
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
民法1013条
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
最判昭和42年1月20日
家庭裁判所に放棄の申述をすると、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる
論文ではこう使う
論文では、相続が絡む不動産の争いで、相続人が取得した権利のうち法定相続分の範囲は登記なしに対抗でき、それを超える部分は899条の2第1項により登記が要ることを出発点にします。単独登記からの譲受人には自己の持分の限度で無権利を主張し更正登記を求める、遺産分割の前の第三者は909条ただし書、後の第三者は899条の2、相続放棄は絶対的効力で登記不要、遺贈は177条で登記が要る、と場面ごとに根拠を書き分けます。特定財産承継遺言は令和元年7月1日以降の相続かどうかで規律が変わる点にも触れます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。