遺贈と特定財産承継遺言(964条・986条〜1003条・1014条)とは
いぞうととくていざいさんしょうけいいごん
遺贈とは、遺言によって包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を他人に無償で与えることで、特定財産承継遺言とは、遺産分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(いわゆる相続させる遺言)です(964条・1014条2項)。
遺言で「この土地はAにあげる」と書くのが遺贈です。相続人以外の人にも、相続人にもできます。財産の全部や半分のように割合で与えるのが包括遺贈、特定の物を与えるのが特定遺贈です。包括受遺者は相続人と同じ立場になるので借金も引き継ぎます。また、相続人の一人に「相続させる」と書いた遺言は、遺贈ではなく遺産の分け方の指定と解され、遺産分割をしなくても、亡くなった時にその相続人のものになります。
遺贈は相続人にも胎児にもでき、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つので割合的な包括遺贈でも相続債務を承継します
遺言者は、包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分でき(964条)、相続人に対する遺贈を禁じる規定はないので、「遺贈は,相続人に対してすることができない」という肢は誤りです。遺贈は遺言でするので15歳に達していればでき(961条)、「遺贈は,成年に達しなければ,することができない」という肢は誤りです。受遺者には886条と891条が準用されるので(965条)、胎児も受遺者になれ、「胎児を受遺者として遺贈をすることはできない」という肢は誤りです。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので(990条)、相続債務も承継します。「包括遺贈を受けた者は,相続財産に属する債務を承継する」という肢は正しく、「相続財産の一部の割合について包括遺贈を受けた者は,相続財産に属する債務を承継しない」という肢は誤りです。遺言に停止条件を付けた遺贈は、条件が遺言者の死亡後に成就したときは成就の時から効力を生じます(985条2項)。この肢は正しいです。
特定遺贈は遺言者の死亡後いつでも放棄でき、催告に答えなければ承認とみなされ、承認と放棄は撤回できませんが取り消すことはできます
受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができ、放棄は死亡の時に遡って効力を生じます(986条)。「Aが死亡した後いつでも遺贈の放棄をすることができる」という肢は正しいです。特定遺贈の放棄には相続放棄のような家庭裁判所への申述の規定がないので、「家庭裁判所に申述することを要しない」という肢は正しいです(包括遺贈の放棄は990条により相続放棄と同じく申述によります)。遺贈義務者その他の利害関係人が相当の期間を定めて承認か放棄かを催告し、受遺者が期間内に意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされます(987条)。「遺贈を承認したものとみなされる」という肢は正しく、「その遺贈を放棄したものとみなされる」という肢は誤りです。受遺者が承認も放棄もせずに死亡したときは、その相続人は自己の相続権の範囲内で承認又は放棄ができるので(988条)、「共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる」という肢は誤りです。遺贈の承認及び放棄は撤回できませんが(989条1項)、919条2項・3項が準用されるので総則・親族編の規定による取消しはできます(989条2項)。「遺贈の承認及び放棄は,撤回することができない」という肢は正しく、「遺贈義務者が履行に着手するまでは,撤回することができる」という肢と、錯誤による放棄を「取り消すことができない」という肢は誤りです。
受遺者が遺言者の死亡以前に死亡すれば遺贈は効力を生じず、目的物が死亡時に相続財産に属しない遺贈も原則として効力を生じません
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは効力を生じません(994条1項)。遺言者の意思は通常その受遺者その人に向けられているからで、効力を生じない遺贈の目的は相続人に帰属します(995条)。「遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない」という肢は正しく、受遺者の相続人が遺贈を受ける権利を相続するとする肢、受遺者の地位が受遺者の相続人に承継されるとする肢、「Bの子Cが受遺者の地位を承継する」という肢は誤りです。受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得します(992条)。この肢は正しいです。遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時に相続財産に属しなかったときは原則として効力を生じません(996条)。基準は遺言書の作成時ではないので、「遺言書作成の時において遺言者の財産に属しなかったときは,その効力を有しない」という肢は誤りです。
負担付遺贈の受遺者は目的の価額の限度で負担を履行し、受遺者が放棄すれば負担の利益を受ける者が受遺者になれ、不履行のときは家庭裁判所に遺言の取消しを請求します
負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ負担した義務を履行する責任を負います(1002条1項)。この肢は正しいです。受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができ(同条2項)、この肢は正しいです。負担付遺贈を受けた者が義務を履行しないときは、相続人は相当の期間を定めて催告し、期間内に履行がなければ負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます(1027条)。取消しは受遺者への意思表示によるのではないので、「受遺者に対する意思表示によって行う」という肢は誤りで、期間の経過で「負担付遺贈は,その期間を経過した時にその効力を失う」という肢も誤りです。
特定の遺産を相続人に相続させる遺言は特段の事情がない限り遺産分割の方法の指定で、何らの行為を要せずに死亡の時にその相続人に承継されます
判例は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺贈であることが明らかであるか遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法を定めた遺言であり、相続による承継を相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに被相続人の死亡の時に直ちにその遺産がその相続人に承継されるとしています(最判平成3年4月19日)。平成30年改正でこの遺言は特定財産承継遺言と名付けられました(1014条2項)。「特定財産承継遺言と解される」という肢と、「何らの行為を要せずして,その不動産の所有権は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により当該相続人に承継される」という肢は正しく、「遺産分割協議を経なければ,Aは甲不動産を取得することができない」という肢と、「遺産分割手続を経なければ,甲建物を取得することができない」という肢は誤りです。判例は、相続させる遺言で遺産を承継するとされた推定相続人が遺言者より先に死亡した場合は、遺言者がその代襲者などに遺産を承継させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り、遺言は効力を生じないとしています(最判平成23年2月22日)。出題当時の判例は、相続させる遺言で取得した不動産は登記なしに第三者に対抗できるとしていたので(最判平成14年6月10日)、「Aは,登記をしなくても甲土地の所有権の取得を第三者に対抗することができる」という肢は正しいとされました。現在は899条の2第1項により法定相続分を超える部分は登記がなければ第三者に対抗できないので、この肢は誤りになります。相続と登記の詳細は前半の相続と登記の語で扱います。
民法990条
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
民法994条1項
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
民法1014条2項
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
論文ではこう使う
論文では、相続させる遺言で遺産を承継するとされた推定相続人が遺言者より先に死亡した場合に、その代襲者が遺産を取得するかを論じるときに使います。相続させる遺言は特段の事情がない限り遺産分割の方法の指定と解され、死亡時に何らの行為を要せず承継されるという性質を示したうえで、遺言者は通常その推定相続人に承継させる意思を持つにとどまるから、代襲者などに承継させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り遺言は効力を生じないとする判例に当てはめます。遺贈と解されるときは994条1項で同じ結論になります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。