嫡出推定と嫡出否認(772条〜778条の4・令和4年改正)とは
ちゃくしゅつすいていとちゃくしゅつひにん
嫡出推定とは、妻が婚姻中に懐胎した子と、婚姻前に懐胎し婚姻成立後に生まれた子を、当該婚姻における夫の子と推定することで(772条1項)、嫡出否認とは、この推定を受ける子について、父・子・母・前夫が出訴期間内に嫡出否認の訴えによって父子関係を否定することです(774条〜778条の4)。
妻が産んだ子は、まず夫の子と扱われます。いちいち血のつながりを調べずに父を決めて、子の身分を早く安定させるためです。これを覆すには、法律が認めた人が決められた期間内に嫡出否認の訴えを起こすしかありません。令和4年の改正(令和6年4月施行)で、結婚前に妊娠して結婚後に生まれた子も夫の子と推定されるようになり、否認できる人も夫だけから子と母、前の夫に広がり、期間も1年から3年になりました。古い規定で出された過去問は、結論が変わるものが多くあります。
妻が婚姻中に懐胎した子と、婚姻前に懐胎し婚姻後に生まれた子は夫の子と推定され、懐胎の時期は出生の日から推定されます
妻が婚姻中に懐胎した子は当該婚姻における夫の子と推定し、女が婚姻前に懐胎した子で婚姻が成立した後に生まれたものも同様です(772条1項)。婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定し、200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定します(同条2項)。出題当時の規定は、婚姻成立から200日以内に生まれた子を推定しておらず(推定されない嫡出子)、判例も婚姻成立の日を婚姻の届出の日とし、内縁や同棲の開始時に代えることを認めませんでした(最判昭和41年2月15日)。そのため、婚姻の届出から1か月後に生まれた子について「婚姻前に数年にわたり内縁関係が先行するときは,嫡出否認の訴えによらなければならない」という肢と、同棲開始から200日経過後に生まれた子について「嫡出子であることが推定され,親子関係を否定するには,嫡出否認の方法によらなければならない」という肢は、出題当時は誤りでした。現在はどちらの子も772条1項後段で夫の子と推定されるので、嫡出否認の訴えによらなければならず、両肢とも正しくなります。婚姻が強迫を理由に取り消されても取消しは将来に向かってのみ効力を生じるので(748条1項)、婚姻中に懐胎した子について「A男の子とは推定されない」という肢は誤りです。772条は婚姻の規定なので内縁の子には嫡出推定が及びませんが、判例は認知の訴えでは772条を類推して内縁の夫の子と推定するので(最判昭和29年1月21日)、「その子はAの子と推定されない」という肢は誤りです(内縁の語を参照)。
女が懐胎から出生までに二以上の婚姻をしていたときは直近の婚姻の夫の子と推定し、父を定める訴えは重婚の場合に限られます
女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は出生の直近の婚姻における夫の子と推定します(772条3項)。この規定で推定の重複がなくなるので、女性の再婚禁止期間(旧733条)は削除されました。父を定めることを目的とする訴えは、重婚の禁止(732条)に違反して婚姻をした女が出産し、772条によって父を定めることができないときに、裁判所が父を定めるものです(773条)。出題当時は再婚禁止期間に違反した再婚で推定が重複する場合に使われ、「再婚禁止期間内に再婚をした女性が出産した場合において…父を定めることを目的とする訴えにより,裁判所がこれを定める」という肢(司法2013・予備2013)と、誤って受理された再婚での推定の重複について同じ結論をいう肢(司法2018)は正しいとされました。現在は再婚禁止期間がなく、772条3項で直近の夫の子と推定されるので、これらの肢は問いの前提が成り立ちません。
- 772条1項前段婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定
- 772条1項後段婚姻前に懐胎し婚姻後に生まれた子も夫の子と推定(令和4年改正)
- 772条2項200日以内の出生は婚姻前の懐胎、200日経過後・解消後300日以内の出生は婚姻中の懐胎と推定
- 772条3項二以上の婚姻があれば出生の直近の婚姻の夫の子と推定
- 773条重婚違反で父が定まらないときは裁判所が定める
嫡出否認の訴えを提起できるのは父・子・母・前夫で、血縁上の父には否認権がありません
772条により子の父が定められる場合、父又は子は子が嫡出であることを否認でき(774条1項)、子の否認権は親権を行う母・親権を行う養親・未成年後見人が子のために行使できます(同条2項)。母も否認でき(同条3項)、772条3項で父が定められる場合の前夫も否認できますが(同条4項)、母と前夫の否認権は、その行使が子の利益を害することが明らかなときは認められません。出題当時の否認権者は夫だけだったので、「妻は,夫が嫡出否認の訴えを提起せずに死亡した場合には,嫡出否認の訴えを提起することができる」という肢は誤りとされましたが、現在は母が自らの否認権を持つので(774条3項)、子の出生の時から3年以内であれば提起でき、正しくなります。子の血縁上の父は否認権者に含まれないので、「夫のほか,子の血縁上の父も提起することができる」という肢は出題当時も現在も誤りです。父又は母は子の出生後に嫡出であることを承認したときは否認権を失います(776条)。
- 父(774条1項)相手方は子又は親権を行う母。父が子の出生を知った時から3年
- 子(774条1項・2項)親権を行う母・養親・未成年後見人が子のために行使。出生の時から3年(同居3年未満なら21歳まで、778条の2第2項)
- 母(774条3項)子の利益を害することが明らかなときは不可。出生の時から3年
- 前夫(774条4項)772条3項の場合。前夫が出生を知った時から3年。子が成年に達した後は不可
- 血縁上の父否認権はない
嫡出否認の訴えの出訴期間は3年で、否認されても子は父であった者の監護費用を償還しません
嫡出否認の訴えは、父の否認権は父が子の出生を知った時から、子と母の否認権は子の出生の時から、前夫の否認権は前夫が子の出生を知った時から、それぞれ3年以内に提起しなければなりません(777条)。出題当時は夫が子の出生を知った時から1年でした。「嫡出否認の訴えは,子が出生した時から1年を経過すると提起することができない」という肢は、出題当時は起算点が違い、現在は期間も違うので、どちらでも誤りです。婚姻後200日以内に生まれ嫡出子として届け出られた子について「夫が子の出生を知った時から1年を経過しても争うことができる」という肢は、出題当時は推定されない嫡出子で親子関係不存在確認により期間の制限なく争えたので正しいとされました。現在はこの子にも嫡出推定が及び、争うには嫡出否認の訴えによる必要があり、期間は出生を知った時から3年に限られます。否認されても、子は父であった者が支出した監護費用を償還する義務を負いません(778条の3)。相続の開始後に否認されて新たに父と定められた者の相続人が遺産分割を請求するときは、価額のみによる支払の請求によります(778条の4)。
民法772条1項
妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
民法772条3項
第一項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
民法774条1項
第七百七十二条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。
民法777条柱書
次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、それぞれ当該各号に定める時から三年以内に提起しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、夫と子の父子関係を争う手段を選ぶ場面で使います。まず772条で推定が及ぶか(婚姻前懐胎の子・二以上の婚姻の場合を含む)を確かめ、及ぶなら嫡出否認の訴え(否認権者・相手方・3年の期間)によるしかないことを示し、推定の及ばない子かどうか(外観説)の検討に進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。