取得時効と登記(時効完成前後の第三者・起算点の固定・再度の時効取得)とは
しゅとくじこうととうき
取得時効と登記とは、不動産を時効取得した者が、その取得を第三者に主張するのに登記が要るかという問題です。判例は、時効完成前に所有権を取得した者に対しては登記なしに対抗でき、時効完成後に取得した第三者とは対抗関係に立つとし、起算点は占有開始時に固定して任意に選べないとしています。
他人の土地を自分の物として長年使い続けた人は、時効で所有権を取得します。では、その途中や後に元の持ち主が土地を別の人に売った場合はどうなるでしょう。時効が完成する前に買った人は、時効によって所有権を失う当事者そのものなので、時効取得した人は登記なしに勝てます。時効が完成した後に買った人とは、元の持ち主から二重に譲渡されたのと似た関係になるので、登記の早い方が勝ちます。時効取得した人は、完成後に登記ができたのにしなかったからです。
時効完成前に所有権を取得した者は当事者に当たるので、時効取得者は登記なしに対抗でき、その者の登記が時効完成の前か後かは問いません
判例は、時効による不動産の所有権取得は、時効完成の時にその不動産の所有者であった者に対しては登記なしに主張できるとしています(大判大正7年3月2日)。第三者が登記をした後に時効が完成した場合は、その第三者に対して登記を経由しなくても時効取得を対抗できます(最判昭和41年11月22日)。時効完成前の譲受人は、時効取得によって直接所有権を失う当事者の立場にあり、177条の第三者に当たらないからです。「Aは,Cに対し,乙土地の所有権を時効取得したことを主張することができる」という肢、「Aは,Cに対し所有権の取得を対抗することができる」という肢は正しいです。Bが時効完成前に所有権の登記をしていた場合に「Cは,Bに対し,甲土地の所有権を主張することができない」という肢、占有開始から5年の時点で譲渡と登記がされ通算22年が経過した場合に「時効取得をしたことを主張することができない」という肢は誤りです。時効完成前に譲り受けた者が完成後に登記をしても、完成時の所有者がその者であることは変わらないので、時効取得者は登記なしに対抗できます(最判昭和42年7月21日)。「その取得時効の完成後にCが乙土地の所有権移転登記をしたときは,Aは,Cに対し,乙土地の所有権を時効取得したことを主張することができない」という肢は誤りです。
時効完成後に旧所有者から権利を取得した第三者とは対抗関係に立ち、時効取得者は登記がなければ対抗できません
判例は、取得時効による不動産の所有権の取得についても、登記がなければ、時効完成後にその不動産について旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意悪意を問わず時効による所有権の取得を対抗できないとしています(大連判大正14年7月8日、最判昭和33年8月28日)。旧所有者を起点に、時効取得者への移転と第三者への譲渡が二重譲渡に似た関係になるからです。「Bは,その登記をしなければ,その後にAからその不動産を取得したCに対しては,時効による権利の取得を対抗することができない」という肢は正しいです。所有権以外の権利の時効取得も同じで、竹木所有のための地上権を時効取得した者が「登記をしなくても,その後にその地上権の目的土地を購入しその旨の登記をした者に地上権の取得を対抗することができる」という肢は誤りです。完成後の第三者が多年の占有を知り、登記の欠缺を主張することが信義に反する事情があれば、背信的悪意者として第三者から外れます(最判平成18年1月17日)。
時効の起算点は占有を始めた時に固定され、援用する者が任意に選んで時効完成の時期をずらすことはできません
完成前か後かで結論が変わるので、援用者が起算点を遅らせて第三者を完成前の第三者にできれば、対抗関係の規律が骨抜きになります。判例は、取得時効完成の時期を定めるには、時効の基礎たる事実の開始した時を起算点としなければならず、援用者が任意に起算点を選択して時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできないとしています(最判昭和35年7月27日)。「占有を開始した以後の任意の時点を時効の起算点として選択することができる」という肢は誤りです。二重譲渡の第一買主が引渡しを受けて占有を続けた場合も、第一買主が占有を取得した時から時効期間を数え(最判昭和46年11月5日)、第二買主の登記の時から数えるのではありません。「Bが主張する所有権の取得時効の期間は,Cが所有権移転登記を備えた時から起算する」という肢は誤りです。
完成後の第三者が登記をした後も、さらに時効取得に必要な期間占有を続ければ、再度の時効取得によって登記なしに対抗できます
判例は、時効完成後に第三者が登記をした場合でも、その登記の後に占有者が引き続き時効取得に必要な期間占有を継続して時効が完成したときは、その第三者に対し登記なしに時効取得を対抗できるとしています(最判昭和36年7月20日)。第三者の登記の時から新しい時効が進み、第三者はその時効の完成時の所有者、つまり当事者になるからです。「Cが登記をした時から再度取得時効の期間が経過したときは,Aは,Cに対し,所有権移転登記をしなくても時効による所有権取得を主張することができる」という肢は正しいです。
時効完成後に設定登記された抵当権も再度の時効取得で消滅しますが、占有者が抵当権の存在を容認していた場合は消滅しません
判例は、取得時効の完成後、所有権移転登記がされないまま第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて登記をした場合に、占有者がその後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは、占有者が抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者は不動産を時効取得し、その結果抵当権は消滅するとしました(最判平成24年3月16日)。抵当権の設定の事実を知らずに占有を続けた者について「Bは,Cに対し,抵当権の消滅を主張することができる」という肢は正しいです。占有者が抵当権の存在を容認していたときは特段の事情に当たるので、「AがCの抵当権の存在を容認していたときであっても,Cの抵当権は消滅する」という肢は誤りです。
最判昭和41年11月22日
第三者のなした登記後に時効が完成した場合においては、その第三者に対しては、登記を経由しなくても時効取得をもつてこれに対抗することができる
最判昭和35年7月27日
取得時効を援用する者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を或いは早め或いは遅らせることはできない
論文ではこう使う
論文では、時効取得者が第三者に所有権を主張する場面で、判例の準則を順に当てはめます。第三者が時効完成前の権利取得者なら当事者として登記不要、完成後の第三者なら対抗関係で登記が要る、起算点は占有開始時に固定、第三者の登記後さらに時効期間が経過すれば再度の時効取得で登記不要、という流れです。完成後の第三者については、多年の占有を知っていれば背信的悪意者とされる余地も検討し、抵当権者が相手なら再度の時効取得による抵当権の消滅と容認の有無を検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。