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用語集 / 民法 / 信義則と権利濫用の禁止

信義則と権利濫用の禁止(1条2項・3項)とは

しんぎそくとけんりらんようのきんし

民法 民法の基礎と権利の主体

信義則とは、権利の行使と義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならないという原則(1条2項)で、権利の濫用の禁止とは、形式上は権利の行使に当たっても権利の濫用となるものは許さないという原則(1条3項)です。

隣の土地の地下に、自分の土地をわずかにかすめる管が通っていたとします。管を撤去させる権利は形の上ではありますが、損失はほとんどないのに、撤去には莫大な費用がかかり、しかも土地を高値で買い取らせる目的だったらどうでしょう。民法は1条で、権利は信義に従い誠実に行使しなければならず(信義則)、権利の濫用は許さないと定めています。条文を形式的に当てはめると不当な結果になる場面で、最後の歯止めとして働く規定です。

山あいの温泉町の場面。斜面の山林のごく端を細い木の引湯管が通り、その先に温泉旅館の湯けむりが見える。山林の端に男性(札「土地の買主」)が立ち、図面を突き出している。吹き出し「管をどけないなら、この荒れ地を高値で買い取れ」。手前に先生が裁判官

信義則は、権利の行使と義務の履行を信義に従い誠実に行うことを求め、条文の隙間を補ったり契約を解釈したりする基準になります

1条2項は、権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないと定めています。信義則は、法律の規定をそのまま当てはめると妥当でない結果になる場合にこれを修正し、当てはまる規定がない場合に隙間を埋め、契約の趣旨がはっきりしない場合に解釈の基準になります。自分の示した態度と矛盾する主張を許さない禁反言の原則や、長く行使されなかった権利の行使を許さない権利失効の原則は、信義則から派生した原則と説明されています。たとえば判例は、債務者が消滅時効の完成を知らずに債務を承認した後に時効を援用することは、信義則に照らして許されないとしています(最大判昭和41年4月20日。時効の援用の語で扱います)。

安全配慮義務、解除権の失効、引渡場所を問い合わせる義務は、いずれも信義則から導かれた判例です

司法2008年の問題は、五つの判例の記述から権利濫用禁止の原則を述べたものを選ばせました。「国は,公務員に対して,その生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき義務を負う」という肢は、安全配慮義務を、特別な社会的接触の関係に入った当事者間で信義則上負う義務とした判例(最判昭和50年2月25日)を述べたもので、権利濫用禁止の原則を述べたものには当たりません。「解除権を有する者が長期にわたりこれを行使せず」、相手方がもはや行使されないと信頼すべき正当の事由を有するに至った特段の事情があれば解除は許されないという肢も、解除権の行使が信義誠実に反するとした判例(最判昭和30年11月22日)で、信義則の例です。「問い合わせを怠った買主は,遅滞の責任を免れない」という肢も、引渡場所を問い合わせれば容易に知ることができた買主には信義則上問い合わせる義務があるとした判例(大判大正14年12月3日)で、信義則の例です。安全配慮義務と契約締結過程の説明義務は、信義則上の義務の語で詳しく扱います。

所有権に基づく請求でも、損失が軽微で除去が著しく困難なのに不当な利益を得る目的でするものは、権利の濫用として認められません

宇奈月温泉事件では、温泉を引く木管が他人の山林のごく一部を通っていたところ、その土地を買い受けた者が、木管の撤去を迫り、応じなければ周辺の土地を不相当に高い値段で買い取るよう求めました。大審院は、侵害による損失がわずかで、除去には莫大な費用がかかるうえ、不当な利益を得る目的で所有権の行使に名を借りたものであるとして、撤去の請求を権利の濫用に当たるとしました(大判昭和10年10月5日)。「妨害により所有権が侵害されても,生じた損失が軽微であり,妨害を除去することが著しく困難で,多大の費用を要する場合には,不当な利益を獲得する目的で妨害の除去を求めることは許されない」という肢は、権利濫用禁止の原則を述べたものに当たります。権利の濫用に当たるかは、当事者の利益状況の比較という客観面を基本にし、害意という主観面も考慮して判断すると説明されています。

教室の黒板の前。先生が教師役(札「先生」)で立ち、黒板を左右二つに分けて書いている。左の見出し「信義則(1条2項)」の下に「安全配慮義務」「解除権の長期不行使」「引渡場所の問い合わせ」、右の見出し「権利の濫用(1条3項)」の下に「宇奈月温泉

権利の濫用に当たると、権利の行使の効果が生じないほか、その行使が不法行為になることもあります

信玄公旗掛松事件では、国が鉄道を運行するに当たり煤煙を防ぐ設備を設けなかったため、線路のすぐ近くにあった由緒ある松が枯れました。大審院は、権利の行使であっても、社会観念上被害者が認容すべきものと一般に認められる程度を超えたときは、権利の行使の適当な範囲を超えるから不法行為になるとしました(大判大正8年3月3日)。「権利の行使であっても,社会観念上被害者が認容しなければならない程度を超える場合には,不法行為が成立する」という肢は、権利濫用禁止の原則を述べたものに当たります。権利の濫用の効果は、①権利の行使の効果が生じない(妨害排除請求が認められない、解除の効果が生じない)、②行使が不法行為になる、③親権の喪失(834条)のように明文があれば権利そのものが奪われる、の三つに整理されます。

  • 権利の行使の効果が生じない妨害排除請求が認められない(大判昭和10年10月5日)、解除の効果が生じないなど
  • 不法行為になる被害者が認容すべき程度を超える権利の行使(大判大正8年3月3日)
  • 権利そのものを失う親権の喪失(834条)のように明文がある場合に限られます

信義則と権利の濫用の禁止は、債権法と物権法で使い分けるものではなく、判例も厳格に区別していません

かつては、信義則は主に債権法で、権利の濫用の禁止は主に物権法で働くと区別する見解が有力でしたが、現在は両者の適用範囲を厳格に区別しないのが一般的で、判例も区別していません。判例は、ビルの賃貸人が転貸を予定してサブリース業者に一括して賃貸し、再転貸にも承諾を与えていた事案で、賃借人の更新拒絶により賃貸借が期間満了で終了しても、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとしました(最判平成14年3月28日)。所有権留保の売主による返還請求を権利の濫用とした判例は、所有権留保の語で扱います。どちらも一般条項なので、安易に使うと個別の条文を置いた意味が失われます。答案では、まず個別の条文と判例の規範で解決できないかを考え、それでも不当な結果になる場合に使います。

民法1条

私権は、公共の福祉に適合しなければならない。2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。3 権利の濫用は、これを許さない。

論文ではこう使う

論文で信義則や権利の濫用を使うのは、条文と判例の規範を当てはめると結論が不当になる場面です。たとえば転借人が賃貸借の終了を対抗される場面では、613条と賃貸借の終了の原則を確認したうえで、賃貸人が転貸を予定して賃貸し再転貸にも加わったといった事情を挙げ、信義則上終了を対抗できないと論じます。権利の濫用は、客観的な利益状況の比較(行使する側の利益と相手方の損失・除去の困難さ)と主観的な害意を挙げて当てはめます。一般条項は最後の手段なので、個別の規定で解決できない理由を一文入れます。

試験ではこう問われる

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