法人の不法行為責任と代表者の権限外の行為(一般法人法77条・78条と110条)とは
ほうじんのふほうこういせきにんとだいひょうしゃのけんげんがいのこうい
法人の不法行為責任とは、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を法人が賠償する責任のことです(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条)。代表者の権限外の行為とは、定款などで制限された代表権を超えて代表者がした行為のことで、相手方は善意であれば制限を対抗されず(同法77条5項)、制限が解除されたと信じたことに正当な理由があれば110条の類推適用で保護されます。
法人の代表者が仕事中に事故を起こしたり、取引で相手をだましたりしたとき、被害者は法人に賠償を求めたいと考えます。法人は代表者を通じて活動し利益を得ているので、代表者が職務を行うについて加えた損害は法人が賠償することになっています。もっとも、代表者個人が責任を免れるわけではありません。また、代表者が権限を超えて取引した場合でも、外から見て職務に見えれば法人が責任を負いますが、権限外と知っていた相手方まで守る必要はありません。
法人は代表者が職務を行うについて加えた損害を賠償し、その場合も代表者個人の不法行為責任は残ります
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条は、一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています(一般財団法人も同じです)。法人が代表者の活動から利益を得ている以上、その危険も負担すべきだからです。この規定は法人の責任を定めるだけで、行為者の責任を免除するものではありません。判例は、株式会社の代表取締役が職務を行うにつき不法行為をして会社が賠償責任を負う場合にも、代表取締役は個人として不法行為責任を負うとしています(最判昭和49年2月28日)。「その理事は,個人として不法行為責任を負うことはない」という肢は誤りです。
外形上職務行為に見える代表者の取引でも、職務行為に属しないことを相手方が知り又は重大な過失で知らなかったときは、法人は責任を負いません
「職務を行うについて」に当たるかは、行為の外形から客観的に職務行為に属すると認められるかで判断します(外形理論)。法人と取引したと信じた相手方を守るための考え方なので、守る必要のない相手方は除かれます。判例は、行為の外形から見て職務行為に属すると認められる場合でも、相手方がその職務行為に属さないことを知っていたか、知らないことにつき重大な過失があったときは、法人は損害賠償の責任を負わないとしています(最判昭和50年7月14日)。「相手方がその職務行為に属さないことを知っていたときは,法人は,代表者の当該行為に基づいて相手方に生じた損害の賠償責任を負わない」という肢は正しいです。使用者責任の取引的不法行為についても、判例は同じく、相手方が悪意又は重大な過失のときは使用者は責任を負わないとしています(最判昭和42年11月2日)。
代表者でない者の加害には715条の使用者責任が及び、法人の代表者は現実に選任監督を担当していなければ代理監督者の責任を負いません
78条は法人の責任の原因を代表者の行為に限る趣旨ではないので、代表者でない従業員などが事業の執行について第三者に損害を加えたときは、715条の要件を満たす限り法人は使用者責任を負います。「一般社団法人は,代表者でない者が職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うことはない」という肢は誤りです。715条2項は使用者に代わって事業を監督する者にも同じ責任を負わせますが、判例は、法人の代表者は、現実に被用者の選任・監督を担当しているときに代理監督者となり、代表機関として一般的な業務執行権限を持つことからただちに個人責任を問うことはできないとしています(最判昭和42年5月30日)。代表者が現実に選任監督を担当していなかったときは代理監督者としての責任を負わないという肢は正しいです。使用者責任の要件と求償は、使用者責任と求償の語で扱います。
定款などによる代表権の制限は善意の第三者に対抗できず、制限が解除されたと信じた第三者は正当な理由があれば110条の類推適用で保護されます
代表理事は一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持ち(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律77条4項)、その権限に加えた制限は善意の第三者に対抗できません(同条5項)。この善意は制限があることを知らないことをいうので、制限を知っていた第三者は5項では守られません。判例は、漁業協同組合の定款で固定資産の処分には理事会の決定が要るとされていたのに、理事長が理事会の承認なく土地を売った事案で、善意とは代表権に制限が加えられていることを知らないことをいい、その主張立証責任は第三者にあるとしたうえで、善意といえない第三者でも、理事会の決議等を得て適法に代表する権限があると信じ、そう信じたことに正当な理由があれば、110条の類推適用により保護されるとしました(最判昭和60年11月29日。この事案では正当な理由が否定されました)。表見代理の要件は権限外の行為の表見代理の語で、代表権の濫用は107条の語で扱います。
- 78条の責任代表者が職務を行うについて加えた損害を法人が賠償。理事個人の責任も残ります(最判昭和49年2月28日)
- 相手方の悪意・重過失外形上職務行為でも、職務に属しないと知り又は重過失で知らなければ法人は責任を負いません(最判昭和50年7月14日)
- 代表者でない者の加害715条の使用者責任
- 代表者の代理監督者責任現実に選任監督を担当していなければ負いません(最判昭和42年5月30日)
- 代表権の制限善意の第三者に対抗できない(77条5項)。制限解除を信じた第三者は110条類推(最判昭和60年11月29日)
論文ではこう使う
論文では、代表者が権限を超えて取引した事案で、法人に履行を求める構成と損害賠償を求める構成を分けて書きます。履行を求めるなら、代表権の制限について77条5項の善意を検討し、制限を知っていた相手方には、制限が解除されたと信じた正当な理由があるかを110条の類推適用として論じます。損害賠償なら78条の「職務を行うについて」を外形理論で判断し、相手方に悪意・重過失があれば法人の責任が否定されることを示し、あわせて代表者個人の709条の責任にも触れます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。