解除権の行使と消滅(540条・544条・547条・548条)とは
かいじょけんのこうしとしょうめつ
解除権の行使とは、契約又は法律の規定により解除権を有する当事者が、相手方に対する意思表示によって契約を解除することで、その意思表示は撤回できません(540条)。解除権の消滅とは、相手方の催告に対する不確答(547条)や解除権者による目的物の著しい損傷(548条)などによって解除権が失われることです。
解除権を持つ人は、相手に「契約を解除します」と伝えるだけで契約を終わらせることができます。相手の同意は要りませんが、その分、一度伝えた解除を取り消すことは許されません。相手は解除を前提に動き始めるからです。いつまでも解除するかどうか決めない人に対しては、相手から「解除するのかしないのか、期間内に答えてください」と迫ることができ、返事がなければ解除権は消えます。解除権を持つ人が自分で目的物を壊してしまった場合も、原則として解除権を失います。
解除は相手方に対する意思表示によってし、一度した解除の意思表示は撤回できません
540条1項は、契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は相手方に対する意思表示によってすると定め、同条2項は、その意思表示は撤回することができないと定めています。解除権は相手方の同意なしに契約を消滅させる形成権なので、撤回を認めると相手方の地位が不安定になり、消えた契約が復活して法律関係が複雑になるからです。「解除の意思表示は,撤回することができない」という肢は正しいです。解除の意思表示にも意思表示の一般原則が当てはまります。相手方が未成年者で、法定代理人がその意思表示を知った後は対抗できるので(98条の2ただし書)、その旨の肢は正しいです。相手方が正当な理由なく受取を拒んだときは通常到達すべきであった時に到達したものとみなされ(97条2項)、発送後に表意者が死亡しても効力は妨げられないので(97条3項)、これらの肢も正しいです。通信システムの不具合で電子メールが届かなかったときは到達がないので、解除の意思表示は「その効力を生ずる」という肢は誤りです。所在を知らない相手方には公示の方法で意思表示ができますが、所在を知らないことに過失があれば到達の効力を生じないので(98条3項ただし書)、過失があっても「その効力を生ずる」という肢は誤りです。意思表示の到達そのものは前半の意思表示の語で扱います。
当事者の一方が数人あるときは、解除は全員から又は全員に対してしなければなりませんが、共有物の賃貸借の解除は持分の過半数で決められます
544条1項は、当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除はその全員から又はその全員に対してのみすることができると定めています。一つの契約が一部の者との間でだけ消えると、法律関係が複雑になるからです。同条2項により、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅します。賃借人が死亡して複数の相続人が賃借権を共同相続した場合、賃貸人が賃貸借契約を解除するには「その相続人全員に対して解除の意思表示をしなければならない」という肢は正しいです。もっとも、判例は、共有者が共有物を目的とする賃貸借契約を解除することは共有物の管理に関する事項に当たり、544条1項の適用はなく、持分の価格の過半数で決することができるとしています(最判昭和39年2月25日)。そのため、共有物の賃貸借契約の解除は「共有者全員によってされる必要がある」という肢と、「共有者全員が解除権を行使しなければならない」という肢は誤りです。共有物の管理の要件は前半の共有の語で扱います。
行使期間の定めのない解除権は、相手方の催告に対し期間内に解除の通知がなければ消滅しますが、債務不履行の責任は消えません
547条は、解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、その期間内に解除の通知を受けないときは解除権は消滅すると定めています。解除されるかどうか分からない相手方の不安定な地位を、相手方の側から解消できるようにする趣旨です。「解除権の行使について期間の定めがない場合において」相当の期間を定めて確答を催告し、期間内に解除の通知を受けないときは「解除権は消滅する」という肢は、どの年度の出題でも正しいです。ただし、この催告で消えるのは解除権だけで、不履行をした債務者の責任が消えるわけではありません。債権者は、契約を維持したまま履行や損害賠償を請求できます。そのため、確答がなかったときは債務不履行に陥っていたAは「以後債務不履行責任を負わない」という肢と、「相手方から損害賠償の請求を受けることはない」という肢は誤りです。民法上の催告の効果は、催告の一覧の語にまとめています。
解除権者が故意や過失で目的物を著しく損傷するなどしたときは解除権を失いますが、解除権を有することを知らなかったときは失いません
548条本文は、解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は消滅すると定めています。目的物を自分で損なうことは、解除しないで契約を維持する意思の表れとみられるからです。そう評価できるのは解除権があることを知っている場合に限られるので、同条ただし書は、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは消滅しないとしています。このただし書は令和2年の改正で加わりました。そのため、過失で目的物を返還できなくなった場合や著しく損傷した場合に、解除権を有することを知らなかったとしても「解除権は消滅する」という肢は誤りです。
解除権が生じても、行使する前に債務者が遅延賠償とともに履行すれば、もはや解除できません
解除の意思表示がされるまでは、契約はなお存続しています。判例は、債務者が解除される前に遅延賠償とともに債務の本旨に従った履行又は履行の提供をしたときは、解除権は消滅するとしています(大判大正6年7月10日)。履行を受けた債権者には、契約から離れる理由がなくなるからです。「その解除権の行使前に買主がその債務を履行したときは,売主は,その解除権を行使することができない」という肢は正しく、催告期間の経過後で解除権の行使前に弁済の提供を受けた売主が「これを拒絶して解除権を行使することができる」という肢は誤りです。解除権は時効によっても消滅しますが、債務者が国外にいることは時効の完成猶予の事由ではないので、国外にいる期間も時効は進行します。「その国外にいる期間その進行を停止する」という肢は誤りです。
民法540条
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。2 前項の意思表示は、撤回することができない。
民法544条
当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。
民法547条
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。
民法548条
解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。
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