申込みの撤回・失効と申込者の死亡(523条〜526条)とは
もうしこみのてっかいしっこうともうしこみしゃのしぼう
申込みの撤回とは、申込者が自分のした申込みを将来に向かってなかったことにすることで、承諾期間を定めた申込みは撤回できず、期間を定めない申込みも承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回できません(523条1項・525条1項)。申込みの失効とは、承諾期間の経過などにより申込みが効力を失うことです。
「この絵を100万円で買います。1週間以内にお返事ください」と申し込んだ人が、翌日に気が変わって取り消したいと言い出したら、返事を考えている相手は困ります。そこで民法は、申込みがいったん相手に届いた後は、一定の間は申込者を申込みに縛り、勝手に撤回できないようにしています。どれだけ縛るかは、返事の期限を決めたかどうか、手紙のように離れた相手か目の前の相手かで変わります。申込者が通知を出した後に亡くなった場合の扱いも条文で決まっています。
承諾の期間を定めた申込みは、申込者が撤回する権利を留保しない限り撤回できません
523条1項は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができず、申込者が撤回をする権利を留保したときに限り撤回できると定めています。相手方は期間中は申込みが維持されると信じて検討や準備を進めるので、その信頼を守る趣旨です。承諾期間を申込みから1週間と定め撤回権を留保しなかったAが2日後に撤回しても、撤回は効力を生じず、Bが申込みから5日後に承諾すれば契約は成立します(司法2020の「契約が成立していないもの」に当たりません)。もっとも、この制限は申込みが効力を生じた後の話で、申込みも到達によって効力を生じるので(97条1項)、到達前か到達と同時に撤回の通知が届けば撤回できます。「承諾期間の定めのある契約の申込みであっても,申込みの到達前又は到達と同時であれば撤回することができる」という肢は正しいです。期間内に承諾の通知を受けなかったときは、申込みは効力を失います(523条2項)。
承諾の期間を定めない申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまで撤回できません
525条1項は、承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができず、撤回をする権利を留保したときはこの限りでないと定めています。「隔地者に対して承諾期間を定めないでした申込みは、申込者が撤回する権利を留保した場合を除き、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない」という肢は正しいです。司法2009の事例で、申込みの手紙が4月3日午後3時に届いた後、同日午後9時に撤回のファクシミリが届いても、相当な期間は経過していないので撤回は効力を生じません。Bの承諾の手紙は4月4日に出され4月6日に届いたので、現在は4月6日に契約が成立し、「甲の売買契約が4月4日に成立する」という肢は誤りです。出題当時は承諾を発信した4月4日に成立したので、正解は正しいでした。これに対し、撤回のファクシミリが申込みの手紙より先の4月2日に届いた場合は、申込みは効力を生じないまま撤回されたので契約は成立せず、「甲の売買契約が4月5日に成立する」という肢は誤りです。改正前は、承諾の通知を発した後に申込みの撤回の通知が延着した場合について、承諾者が延着の通知をしなければ契約は成立しなかったものとみなす規定(旧527条)がありましたが、改正で削除されました。延着の通知をしたか否かにかかわらず「契約は成立しなかったものとみなされる」という肢は、出題当時も現在も誤りです。
対話者への申込みは対話が続いている間はいつでも撤回でき、対話中に承諾がなければ原則として効力を失います
目の前や電話で話している相手への申込みは、その場で返事をもらうのが普通です。そこで525条2項は、対話者に対してした承諾の期間を定めない申込みは、その対話が継続している間はいつでも撤回することができるとし、同条3項は、対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは申込みは効力を失うと定めています。ただし、申込者が対話の終了後も申込みが効力を失わない旨を表示したときは、効力を失いません。「Aが対話者Bに対して承諾の期間を定めないで申込みをしたときは、対話が継続している間は、Aは、申込みを撤回することができる」という肢は正しいです。対話終了後も効力を失わない旨を表示しなかった申込みに対し、Bが対話終了後の翌日に承諾した場合は、申込みはすでに効力を失っているので契約は成立していません(司法2020の「契約が成立していないもの」に当たります)。
申込者が通知を発した後に死亡などした場合、申込者がその旨を表示していたか相手方が承諾の通知を発するまでに知ったときは、申込みは効力を有しません
意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けても、効力を妨げられないのが原則です(97条3項)。もっとも、申込みは承諾があればすぐに契約上の義務を生じさせるので、526条は例外を置いています。申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合に、申込者がその事実が生じたとすれば申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又は相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、申込みは効力を有しません。そのため、申込みの到達後にAが死亡し、Bが承諾の通知を発する前に死亡を知った場合に「その後にBが承諾をしたとしても、契約は、成立しない」という肢は正しいです。「相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは,その申込みは,その効力を有しない」という意思能力の喪失の肢も正しいです。反対に、Aがその旨の意思を表示しておらず、BがA死亡の事実を知らずに承諾した場合は、申込みは効力を失わず契約が成立します(司法2020の「契約が成立していないもの」に当たりません)。行為能力の制限を受けたことをBが知っていたのに「当該契約申込みの効力は生じる」という肢は誤りです。
承諾者が承諾の通知を発した後に死亡しても、承諾の効力は妨げられません
526条は申込者の側の事情についての例外なので、承諾者の側には97条3項の原則がそのまま当てはまります。承諾者が承諾の通知を発した後に死亡しても、承諾の通知が申込者に届けば、その時に契約が成立します。申込者が承諾者の死亡を知っていたかどうかも関係がありません。「到達前に承諾者が死亡した場合,相手方が承諾者死亡の事実を知っていれば契約は成立しない」という肢は誤りです。同じ理由で、Bが承諾の通知を発した後に死亡し、Aがその到達前にB死亡の事実を知っていた場合も、契約は成立します(司法2020の「契約が成立していないもの」に当たりません)。発信後の死亡などが意思表示一般に及ぼす影響は、意思表示の到達の語で扱います。
民法523条
承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
民法525条
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。2 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。3 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。
民法526条
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。