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用語集 / 民法 / 同時履行の抗弁権の効果

同時履行の抗弁権の効果(存在効果・提供の継続・引換給付判決)と留置権との比較とは

どうじりこうのこうべんけんのこうか

民法 契約総論

同時履行の抗弁権の効果とは、同時履行の抗弁権が付いている債務について、履行期を過ぎても履行遅滞の責任を負わず(存在効果)、訴訟で主張されれば反対給付と引換えに給付を命じる引換給付判決がされることなど、この抗弁権が生じさせる法律上の働きです。

同時履行の抗弁権は、相手が履行を提供するまで自分の履行を拒めるという権利です。この権利があると、約束の日を過ぎて代金を払わなくても、遅れたことの責任は問われません。相手が代金を求めて訴えても、裁判所は請求をはねつけるのではなく、「品物を受け取るのと引換えに払え」と命じます。相手が一度だけ品物を持ってきても、それで権利が消えるわけではありません。似た働きをする留置権とは、拒める内容や物を手放したときの扱いが違います。

法廷の場面。正面の裁判官席に先生が裁判官役(札「裁判所」)で座り、判決書を読み上げている。判決書の見出し「主文 被告は、原告から甲動産の引渡しを受けるのと引換えに、原告に対し代金を支払え」。左の原告席に売主の男性(札「原告・売主」)、右の被

同時履行の抗弁権が付いている債務は、履行期を過ぎても履行遅滞にならないので、相手方は自分の履行を提供しなければ解除も相殺もできません

判例は、同時履行の抗弁権を有する者は履行期を過ぎても遅滞の責任を負わないとしています(大判大正14年10月29日)。抗弁権が存在すること自体で履行しないことの違法性がなくなると説明され、存在効果と呼ばれます。そのため、履行期が同じ売買で履行期が過ぎても、一方の当事者は自分の債務の弁済又はその提供をしなければ相手方を遅滞に陥らせることができず、債務不履行を理由に解除することもできません(最判昭和29年7月27日)。「自己の債務について弁済又はその提供をしなければ,債務不履行に基づく契約の解除をすることができない」という肢は正しいです。自働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付いている場合は、相殺も許されません(大判昭和13年3月1日)。相殺を認めると、相手方は反対給付を受けないまま抗弁権を一方的に奪われるからです。引渡しの提供をしていない売主は、代金債権と別の貸金債権とを「対当額で相殺することができない」という肢は正しいです。要件事実の問では、この効果の説明の仕方が主張立証の振り分けに影響します。同時履行の抗弁権が存在すれば遅滞の違法性が阻却されるとする見解(存在効果説)に立つと、売買契約の主張だけで抗弁権の存在が明らかになるので、履行遅滞に基づく損害賠償を求める原告は、請求原因として自己の債務の履行又は履行の提供を主張立証しなければならないことになります。司法2006・2017の肢はこの見解からの帰結を問うもので、正本はいずれも○としています。抗弁権を行使して初めて履行拒絶が正当化されるとする見解(行使効果説)からは、被告が同時履行の抗弁を主張し、原告が履行又は提供を再抗弁として主張立証することになります。

相手方が一度履行の提供をしても、提供を継続しない限り、同時履行の抗弁権は失われません

判例は、双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものではないとしています(最判昭和34年5月14日)。一度提供した者が後で無資力になることもあるので、一回の提供で抗弁権を消すと公平を欠くからです。買主がいったん受領を拒んだ場合も同じで、売主が後で代金を請求するには、提供を継続するか改めて提供しなければなりません(大判明治44年12月11日)。「買主は、売主が履行の提供を継続し、又は改めて履行の提供をしなければ、同時履行の抗弁権を主張して売買代金の支払を拒むことができる」という肢と、「その提供が継続されていないときは,買主は同時履行の抗弁権を失わない」という肢は正しいです。売主が一度持参して受領を拒まれたワインについて、1週間後の代金請求に「ワインの引渡しとの同時履行の抗弁を主張することができない」という肢は誤りです。売主の引渡しが先、買主の代金支払が後と定めていても、双方が履行しないまま代金の支払期日も過ぎれば両債務は同時履行の関係になります。そのため、代金を提供しないまま引渡しを求めた買主に対し、売主が「同時履行の抗弁権を主張して,Bからの引渡請求を拒むことができる」という肢は正しいです。

解除のために履行を提供して催告した者は、催告期間中に提供を継続しなくても解除できます

本来の履行を求める場面と違い、解除の場面では、相手方を一度遅滞に陥らせれば足ります。判例は、債権者は先に履行の催告をした際に自己の債務の履行を提供し、債務者を遅滞に付した以上、解除権を行使するに当たってはその提供を継続することを要しないとしています(大判昭和3年5月31日)。解除すれば相手方の債務も消えるので履行上の結び付きを保つ必要がなく、提供を続けなければ解除できないとすると解除権が不当に制約されるからです。そのため、同時履行の関係に立つ債務で相当の期間を定めて催告した当事者は「当該期間中弁済の提供を継続しなければ契約を解除することはできない」という肢は誤りです。

酒店の店先の場面。売主の男性(札「売主」)がワインの木箱を抱えて買主の家の玄関に来たが、玄関先の買主の女性(札「買主」)は手を振って受け取らない(1枚目の小さなコマ「1週間前」)。右の大きなコマで、売主が手ぶらで「代金を払ってください」と請

訴訟で同時履行の抗弁が認められると、請求棄却ではなく引換給付判決がされ、留置権の抗弁でも同じです

同時履行の抗弁は、請求権そのものを否定するのではなく、反対給付があるまで履行を拒むことを認めるだけなので、判例は引換給付判決をすべきだとしています(大判明治44年12月11日)。判決主文には、「被告は、原告から甲動産の引渡しを受けるのと引換えに、代金を支払え」というように引換えの旨が記載されます。そのため、Bの同時履行の抗弁が認められるときは「Aの請求は全部棄却される」という肢は誤りで、引渡しを受けるのと引換えに代金を支払うべき旨が判決主文に記載されなければならないという肢は正しいです。留置権も、物の引渡請求訴訟で抗弁が認められれば、被担保債権の弁済と引換えに引渡しを命じる引換給付判決になります(最判昭和33年3月13日)。そのため、同時履行の抗弁なら引換給付判決だが「留置権の抗弁が認められた場合は,請求棄却の判決がされる」という肢は誤りです。これに対し、質権は弁済を受けるまで質物を留置できる権利で、弁済が先履行なので(大判大正9年3月29日)、質権の主張が認められると請求は棄却されます。質権なら請求棄却、留置権なら引換給付判決とする肢は正しいです。

同時履行の抗弁は被告が履行を拒む旨を主張して行使し、先履行の合意は再抗弁になりますが、過去の履行の提供は再抗弁になりません

売主が代金を請求する訴訟では、売買契約の締結を請求原因として主張すれば、双務契約であることから同時履行の抗弁権の存在も基礎付けられます。それでも、私的自治の観点から、被告の買主は、相手方が履行するまで支払を拒絶するとの権利主張をしなければ抗弁になりません。被告が引渡しの履行期の到来や未引渡しの事実まで主張する必要はありません(533条ただし書の弁済期の未到来は原告が主張する事情です)。そのため、Bが甲動産の引渡しの履行期の到来と未引渡しを「主張しなければならない」という肢は誤りで、Bの抗弁は「Aが甲動産の引渡しをするまで代金の支払を拒絶することを主張して行使しなければならない」という肢は正しいです。代金の支払を目的物の引渡しより先に履行する合意は、533条ただし書に当たる事実として原告の再抗弁になります。したがって、先履行の合意は再抗弁として主張することができるという肢は正しく、代金支払の10日後に引き渡す旨の合意を主張しても「再抗弁にならない」という肢は誤りです。これに対し、訴え提起前に一度履行の提供をしたことは、提供が継続されない限り抗弁権を失わせないので再抗弁になりません。電話で取りに来るよう伝えた事実を主張しても再抗弁にならないという肢は正しく、履行の提供をしたことを再抗弁として主張することができるという肢は誤りです。

留置権は物の引渡しだけを拒める物権で、占有を失えば消え、代担保で消滅を請求されますが、同時履行の抗弁権にはこれらの制約がありません

留置権は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで物を留置できる権利で(295条1項)、拒めるのは物の引渡しに限られます。同時履行の抗弁権は、自己の債務の履行を拒める権利なので、金銭の支払や登記手続など物の引渡し以外の給付も拒めます。留置権は留置物の占有を失うと消滅しますが(302条)、同時履行の抗弁権は占有を要件としないので、売主が目的物の占有を失っても代金支払との同時履行は主張できます。留置権については債務者が相当の担保を供して消滅を請求できますが(301条)、同時履行の抗弁権には同じ規定がありません。司法2011の留置権と同時履行の抗弁権の比較の問で、拒める給付の内容が物の引渡しに限られないとする肢、占有を失った売主も同時履行は主張できるとする肢、担保を供して消滅を請求できるのは留置権だけとする肢は、いずれも正しいです。留置権は物権なので契約の相手方以外の第三者にも主張できますが、同時履行の抗弁権は双務契約の相手方に対して主張する権利です。留置権の成立要件と効力は前半の担保物権の語で扱い、両者の比較はこの語にまとめています。

留置権と同時履行の抗弁権の比較

  • 根拠: 留置権は物権(295条)、同時履行の抗弁権は双務契約の効力(533条)
  • 拒める給付: 留置権は物の引渡しだけ、同時履行の抗弁権は自己の債務一般
  • 主張できる相手: 留置権は第三者にも、同時履行の抗弁権は契約の相手方(債権譲受人・代位債権者を含む)
  • 占有の喪失: 留置権は消滅する(302条)、同時履行の抗弁権は影響を受けない
  • 代担保による消滅請求: 留置権はできる(301条)、同時履行の抗弁権はできない
  • 訴訟での扱い: どちらも引換給付判決(質権は請求棄却)

民法533条

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

民法301条

債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

民法302条

留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

論文ではこう使う

論文では、同時履行の抗弁権と留置権が両方問題になる場面(売買の売主が引渡しを拒む場面、賃貸借終了後の費用償還請求権を理由に明渡しを拒む場面)で、まず契約の相手方に対しては533条を、第三者に対しては物権である留置権を検討する、という順で書きます。留置権は物と債権の牽連性と占有の継続が要件になり、同時履行の抗弁権は同じ双務契約の対価的な債務であることが要件になる、と違いを示します。解除の可否を論じるときは、相手方に同時履行の抗弁権がある場合は履行期を過ぎても遅滞にならないので、解除する側が自分の債務の履行を提供したかを先に確認します。

試験ではこう問われる

「同時履行の抗弁権の効果」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型11件と関係する過去問の肢24本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、民法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

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