留置権の効力と消滅(引換給付判決・果実・保存に必要な使用・無断賃貸・代担保・占有喪失・期限の許与)とは
りゅうちけんのこうりょくとしょうめつ
留置権の効力とは、留置権者が債権の全部の弁済を受けるまで目的物の全部を留め置き、果実を収取して弁済に充てることができることです(296条・297条)。留置権は、債務者の承諾のない使用・賃貸に対する消滅請求、代わりの担保の提供、占有の喪失などによって消滅します(298条3項・301条・302条)。
修理代を払ってもらうまで時計を預かっている修理店は、その時計を勝手に使ったり人に貸したりしてよいわけではありません。留置権は弁済を促すために物を留め置く権利なので、物を大切に保管する義務を負い、使ってよいのは物を保つのに必要な範囲だけです。物を手放せば権利も消えます。他方で、所有者の側は、代わりの担保を出せば物を取り戻せます。留め置く力をどこまで認めるかの線引きが、この語の中身です。
留置権の抗弁が認められると、請求棄却ではなく、被担保債権の弁済と引換えに物を引き渡せという判決になります
物の引渡しを求める訴訟で被告の留置権の抗弁が認められると、裁判所は請求を棄却せず、原告が被担保債権を弁済するのと引換えに物を引き渡すよう命じる判決をします(最判昭和47年11月16日)。留置権は債権の弁済を受けるまで物を留め置く権利にとどまり、引渡義務そのものを否定するものではないからです。売主Aの代金債権による留置権が転売の買主Cに対して認められる場合も同じです。「Cが提起した所有権に基づく建設機械の引渡請求訴訟においてAの留置権が認められるときは,Cの請求は棄却される」という肢は誤りです。質権は優先弁済を本体とする権利なので、質権の主張が認められれば債務者の返還請求は棄却されます。「質権の主張が認められるときは,債務者の請求は棄却されるが,」留置権の主張が認められるときは「引換給付判決がされる」とする肢は正しいです。留置権は物権なので、目的物が第三者に譲渡されても全部の弁済を受けるまで第三者に主張できます。「当該第三者に対して留置権を主張することができる」という部分を含む肢は正しいです。同時履行の抗弁権との比較は、同時履行の抗弁権の効果と留置権との比較の語で扱います。
留置権者は善管注意で物を占有し、保存に必要な使用はできますが、使用の利益は返還し、債務者の承諾なく使用・賃貸すれば消滅を請求されます
留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有し(298条1項)、債務者の承諾を得なければ留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができません(同条2項本文)。ただし、物の保存に必要な使用はできます(同項ただし書)。判例は、建物の賃借人が費用償還請求権で留置権を行使し、従前と同じように居住を続けることは保存に必要な使用に当たるとしつつ(大判昭和10年5月13日)、居住による利益は不当利得として所有者に返還すべきだとしています(大判昭和13年12月17日)。「Bは,Aに対し,その居住による利得を返還する義務を負う」という肢は正しく、「留置権を行使している間の建物の使用の対価を支払うことを要しない」という肢は誤りです。債務者の承諾を得れば留置物を賃貸でき、賃料は果実として収取し、他の債権者に先立って弁済に充当できます(297条1項)。果実はまず利息に充当し、残りがあれば元本に充当します(同条2項)。「留置権者は,債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸してその賃料を自己の債権の弁済に充当することができる」という肢と、「目的物から生じた果実からは優先弁済を受けることができる」という部分を含む肢は正しく、果実は利息に充当されて「元本に充当することはできない」とする肢は誤りです。留置権者が298条1項・2項に違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求できます(同条3項)。「留置権者は,債務者の承諾を得なくても,目的不動産を賃貸することができる」という肢は誤りで、「留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を賃貸した場合,債務者は,留置権の消滅を請求することができる」という肢は正しいです。判例は、無断賃貸が終了して留置権者が物の返還を受けていても消滅請求はできるとしています(最判昭和38年5月31日)。「その賃貸が終了して留置権者が留置物の返還を受けていたときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができない」という肢は誤りです。
留置権者が支出した必要費は所有者に償還させることができ、留置中にさらに支出した必要費も被担保債権に加わります
留置権者が留置物について必要費を支出したときは所有者に償還させることができ、有益費は価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い支出した金額又は増価額を償還させることができます(299条)。「留置権者は,留置物について必要費を支出したときは,所有者に対し,その償還を請求することができる」という肢は正しいです。必要費償還請求権で建物を留置している間に、さらに必要費を支出した場合、その償還請求権も含めて留置権を行使できます(最判昭和33年1月17日)。「後者の必要費償還請求権を被担保債権として留置権を行使することはできない」という肢は誤りで、「更に支出したものを含めた必要費全額の弁済を受けるまで,留置権を行使することができる」という肢は正しいです。有益費については、裁判所が所有者の請求により償還に相当の期限を許与できます(299条2項ただし書)。期限が許与されると被担保債権が弁済期にないことになり、留置権は消滅します。「裁判所がその償還について期限を許与したときは,留置権は消滅する」という肢は正しいです。
留置権は全部の弁済まで目的物の全部に及びますが、債務者は相当の担保を供して消滅を請求できます
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部について権利を行使できます(296条)。「留置権者は,債権の全部の弁済を受けるまでは,留置物の全部についてその権利を行使することができる」という肢は正しいです。判例は、留置物の一部の占有を失った場合でも、債権の全部の弁済を受けるまで残部について留置権を行使できるとしています(最判平成3年7月16日)。「留置権は,その目的物の一部が債務者に引き渡された場合,目的物の残部についても消滅する」という肢は誤りです。他方、債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求できます(301条)。物の価値が債権額より大きいとき、物を留め置かれ続けるのは債務者に酷だからです。「債務者は,相当の担保を供して,留置権の消滅を請求することができる」という肢と、留置権について「債務者が相当の担保を提供して留置権の消滅を請求することができる」という部分を含む肢は正しいです。
留置権は占有を失うと消滅しますが、占有回収の訴えで占有を取り戻せば消滅しません
302条本文は、留置権は留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅すると定めています。占有は留置権の存続要件なので、紛失しても、第三者に奪われても消滅します。「留置権者が目的物を紛失したときは,留置権は消滅する」という肢は正しく、「留置権は,占有を第三者に奪われた場合も消滅しない」とする肢は誤りです。留置権そのものに基づく返還請求はできません。「留置権は,物を占有する権利を含む物権であるから,それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することができる」という肢は誤りです。ただし、債務者の承諾を得て賃貸し、又は質権の目的としたときは、間接占有が続くので消滅しません(302条ただし書)。「目的物の賃貸について所有者の同意を得ていても,留置権は消滅する」とする肢は誤りです。また、留置権者も占有者なので、占有を奪われれば占有回収の訴えを提起でき(200条1項)、勝訴して現実に占有を回復すれば、占有は継続していたものとされ、留置権は消滅しません(203条ただし書、最判昭和44年12月2日)。「留置権者が占有回収の訴えを提起して勝訴し,現実の占有を回復すれば,留置権は消滅しない」という肢と、「占有回収の訴えによってその物の占有を回復すれば、留置権は消滅しない」という肢は正しく、「Bは、Cに対して、占有回収の訴えによって甲の返還を求めることができない」という肢は誤りです。
留置権者は競売を申し立てられますが優先弁済は受けられず、留置している間も被担保債権の消滅時効は進行します
民事執行法195条により、留置権者も目的物の競売を申し立てられます。「留置権者は,留置権に基づき,目的物の競売を申し立てることはできない」という肢は誤りです。もっとも、これは換価のための競売で、換価金から優先弁済を受けることはできません。「換価金から優先的に弁済を受けることができる」という部分を含む肢は誤りです。留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げません(300条)。「留置権者が留置権を行使して目的物を留置している間は,留置権の被担保債権の消滅時効は,進行しない」という肢は誤りで、「留置権者が留置物の占有を継続している間であっても,その被担保債権についての消滅時効は進行する」という肢と、請負人が報酬債権で仕事の目的物の引渡しを拒んでいても「その報酬債権の消滅時効の進行は妨げられない」という肢は正しいです。訴訟で留置権の抗弁を出しても、被担保債権について裁判上の請求に準じた効力は生じず、訴訟が係属している間、催告としての効力が続くにとどまります(最大判昭和38年10月30日)。「留置権の抗弁を主張したときは,その被担保債権について裁判上の請求による時効中断の効力を生ずる」という肢は誤りで、現行法の言葉では裁判上の請求による完成猶予・更新は生じないことになります。
- 消滅請求(298条3項)善管注意義務違反、債務者の承諾のない使用・賃貸・担保提供。賃貸が終了していても請求できます
- 代わりの担保(301条)債務者が相当の担保を供して請求できます
- 占有の喪失(302条)消滅します。承諾を得た賃貸・質入れは除きます。占有回収の訴えで回復すれば消滅しません
- 期限の許与(299条2項ただし書)有益費の償還に期限が許与されると消滅します
- 被担保債権の消滅付従性により消滅します。留置中も消滅時効は進行します(300条)
民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
民法298条3項
留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
民法301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。
民法302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。