費用償還の一覧(必要費・有益費の横断)とは
ひようしょうかんのいちらん
費用償還の一覧とは、他人の物や事務について支出した必要費・有益費を誰がどの範囲で償還するかを、占有者・賃借人・使用借主・留置権者・第三取得者・受任者・事務管理者などの立場ごとに並べた整理です。必要費は原則として償還されますが、物を使い果実を得る立場の者は通常の必要費を負担し、有益費は価格の増加が現存する限り償還する側の選択で支出額か増価額を償還します。
他人の物にお金をかけたとき、誰がその費用を負担するかは、民法のあちこちに散らばって定められています。物を保つために必ず要る必要費は、原則として持ち主が負担し、使ったり果実を得たりしている側は、日常的な通常の必要費だけ自分で負担します。物の価値を高める有益費は、価値が残っている限りで、持ち主が支出額か増加額の安い方を選んで返します。立場ごとの違いを並べて覚えます。
必要費は原則として所有者側が償還しますが、物を使い果実を取る立場の者は通常の必要費を自分で負担します
占有者は、占有物を返還するときに必要費を回復者から償還させることができますが、果実を取得したときは、通常の必要費は占有者の負担になります(196条1項)。悪意の占有者も必要費の償還は請求できます。「占有者が占有物から生ずる果実を取得したときは,通常の必要費は,占有者の負担に帰する」という肢と「果実を取得したときには,回復者にその償還をさせることはできない」という肢は正しく、悪意の占有者は「通常の必要費の償還をAに請求することはできない」という肢は誤りです。占有者と回復者の関係の語に詳しく書きました。賃借人は、賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、直ちに償還を請求できます(608条1項)。使用貸借の借主は、借用物の通常の必要費を負担します(595条1項)。ただで借りて使っているからです。「借主は,目的物の通常の必要費を負担する」という肢と「Bは、その償還をAに請求することができない」という肢は正しく、使用借主が通常の必要費を請求できるとする肢は誤りです。配偶者居住権者も居住建物の通常の必要費を負担します(1034条1項)。留置権者は留置物について必要費を支出したときは所有者に償還させることができ(299条1項)、質権者にも準用されます(350条)。「留置権者は,留置物について必要費を支出したときは,所有者に対し,その償還を請求することができる」という肢は正しく、動産質権者は必要費の「償還をさせることはできない」とする肢は誤りです。抵当不動産の第三取得者は、必要費・有益費を196条の区別に従い、抵当不動産の代価から他の債権者より先に償還を受けられます(391条)。「その代価から最先順位の抵当権者より先にその支出した額の償還を受けることができる」という肢と「他の債権者より先にその償還を受けることができる」という肢は正しいです。196条の区別に従うので、果実を取得した第三取得者は通常の必要費の優先償還を受けられません。「果実を取得したときであっても」優先償還を受けられるとする肢は誤りです。
有益費は価格の増加が現存する限り、償還する側が支出額か増価額かを選び、賃借人の有益費は賃貸借の終了の時に償還されます
占有者の有益費は、価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、支出した金額又は増価額を償還させます(196条2項本文)。賃貸人は賃貸借の終了の時に196条2項に従って償還し(608条2項)、使用貸借の貸主・配偶者居住権の目的建物の所有者も同じ扱いです(595条2項・1034条2項・583条2項)。選ぶのは償還する側で、支出した側ではありません。地上権には独自の償還規定がなく、地上権者は占有者として196条2項によります。「地上権者と賃借人は,いずれも,その選択に従い,支出した金額又は増価額の償還を土地所有者に請求することができる」という肢は誤りです。「Aは,Bが支出した金額ではなく,Bが有益費を支出したことによる甲建物の増価額をBに支払うことができる」という肢、「貸主は,その選択に従い,借主が支出した金額又は増価額のいずれかを償還すれば足りる」という肢、配偶者居住権者が「Aの選択に従い,その支出した金額又は増価額について償還を受けることができる」という肢は正しいです。賃借人の有益費は必要費と違って終了の時に償還されるので、「有益費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」という肢は誤りです。有益費については、裁判所が償還する側の請求により相当の期限を許与できますが、占有者の場合は悪意の占有者に限られます(196条2項ただし書)。「その占有者が善意であったときでも、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる」という肢は誤りです。
他人のために事務を処理する者は費用の償還と代弁済を求められ、本人の意思に反する事務管理は現に利益を受けている限度に限られます
受任者は、必要と認められる費用を支出したときは、支出の日以後の利息とともに償還を請求でき(650条1項)、必要な債務を負担したときは代弁済と担保を求められます(同条2項)。償還は委任の終了を待ちません。「委任が終了した日以後に,その費用の償還を請求することができる」という肢は誤りです。受寄者にも650条1項・2項が準用されます(665条)。「受寄者は,受寄物を保管するのに必要と認められる債務を負担したときは,寄託者に対し,自己に代わってその弁済をすることを請求することができ」るという肢は正しいです。事務管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは償還を請求でき(702条1項)、有益な債務を負担したときは650条2項が準用されます(702条2項)。「本人に対し,自己に代わってその弁済をすることを請求することができる」という事務管理の肢は正しいです。ただし、本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度に限られます(同条3項)。「本人のために有益な費用を出したときは,本人に対し,その全額の償還を請求することができる」という肢は誤りです。詳しくは委任者の義務・寄託・事務管理の効果の語にあります。
費用の負担は、契約の費用は双方が半分ずつ、弁済の費用は債務者、受領遅滞で増えた費用は債権者、相続財産の費用は相続財産が負担します
売買契約に関する費用は当事者双方が等しい割合で負担し(558条)、有償契約に準用されます(559条)。「賃貸借契約の締結に関する費用は,当事者双方が等しい割合で負担する」という肢は正しいです。弁済の費用は、別段の意思表示がなければ債務者が負担しますが、債権者が住所の移転などで増加させた分は債権者が負担します(485条)。債権者が履行を受けることを拒み又は受けることができないことで履行の費用が増加したときは、その増加額は債権者の負担です(413条2項)。「それによって増加した履行の費用は,債務者が負担する」という肢は誤りです。相続財産に関する費用は、相続人の過失によるものを除き、相続財産の中から支弁します(885条)。「相続財産に関する費用は,相続人の過失によるものを除き,相続財産の中から支弁する」という肢は正しいです。
- 占有者(196条)必要費は償還。果実を取得すれば通常の必要費は自己負担。有益費は回復者の選択。期限の許与は悪意の占有者のみ
- 賃借人(608条)必要費は直ちに。有益費は終了の時に、賃貸人の選択で
- 使用借主(595条)通常の必要費は自己負担。それ以外は583条2項・196条
- 配偶者居住権者(1034条)通常の必要費は自己負担。それ以外は583条2項・196条
- 留置権者・質権者(299条・350条)必要費は償還。有益費は所有者の選択で、期限の許与あり
- 抵当不動産の第三取得者(391条)196条の区別に従い代価から優先償還
- 受任者・受寄者(650条・665条)費用と利息の償還、代弁済・担保
- 事務管理者(702条)有益な費用の償還と代弁済。本人の意思に反すれば現に利益を受けている限度
民法196条1項
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
民法196条2項
占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法608条1項
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
民法595条1項
借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。