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用語集 / 民法 / 事務管理の成立と管理者の義務

事務管理の成立と管理者の義務(697条〜701条)とは

じむかんりのせいりつとかんりしゃのぎむ

民法 事務管理・不当利得・不法行為

事務管理とは、義務なく他人のためにその事務の管理を始めることで、管理者は、事務の性質に従い最も本人の利益に適合する方法で、本人の意思を知り又は推知できるときはその意思に従って管理し、開始の通知・継続・報告などの義務を負います(697条〜701条)。

留守中の隣家の生け垣が台風で倒れたのを見て、頼まれてもいないのに直してあげることがあります。こうした親切は、本来は他人の生活への勝手な干渉で、不法行為にもなりかねません。民法は、義務がないのに他人のために事務の管理を始めた場合を事務管理として適法とし、そのかわり管理者に、本人の利益と意思に沿って丁寧に管理し、途中で投げ出さない義務を課しました。助け合いを認めつつ、余計なお世話から本人を守るための仕組みです。

台風の翌朝の住宅街の場面。隣家の倒れた生け垣を、先生(札「管理者」)が支柱を立てて直している。隣家の窓には「長期出張中」の貼り紙があり、隣家の主人はいない。先生の吹き出し「頼まれてはいませんが、お隣のために直しています。うちの防犯にも役立ち

事務管理は、義務なく、他人のために、他人の事務の管理を始めたときに成立します

697条1項は、義務なく他人のために事務の管理を始めた者を管理者と呼び、事務管理の規定を当てはめます。要件は、①他人の事務の管理であること、②その事務を管理する義務がないこと、③他人のためにする意思があること、④本人の意思や利益に反することが明らかでないことの4つと整理されています。管理の対象は法律行為でも屋根の修理のような事実行為でもよく、腐りかけた物を売る処分行為も含みます。親が法律上の親権に基づいて法定代理人として子の事務を行うのは、法律上の義務に基づく行為なので、②の要件を欠きます。「親が,法律上定められた親の権限に基づいて,法定代理人として子の事務を行う場合にも,事務管理は成立する」という肢は誤りです。

事務管理の成立要件

  • 他人の事務の管理を始めたこと(事実行為でも法律行為でもよい。697条1項)
  • その事務を管理する義務がないこと(契約・法律上の義務があれば成立しない)
  • 他人のためにする意思があること(自己のためにする意思が併存してもよい)
  • 本人の意思や利益に反することが明らかでないこと(700条ただし書から導かれる)

自分のためにする意思が併せてあっても、他人のためにする意思があれば事務管理は成立します

他人のためにする意思とは、他人の利益を図る意思で事務を管理することをいいます。判例は、他人のためにする意思と自己のためにする意思が併存していても事務管理は成立するとしています(大判大正8年6月26日)。隣家の生け垣や垣根を直すことが自分の家の防犯にも役立つとしても、隣家のために直す意思がある以上、事務管理になります。「隣家の垣根を直して自分の家の防犯も図るという場合にも,他人のためにする意思があると認められる」という肢は正しいです。同じく、Bが「Aの居宅の防犯だけでなくBの居宅の防犯も目的として自ら生け垣を修理した場合には,Bは,Aに対し,その修理に要した費用の支払を請求することはできない」という肢は誤りで、Bは702条1項により有益な費用の償還を請求できます。これに対し、もっぱら自己のためにする意思で他人の事務を管理した場合は事務管理が成立せず、得た利益の引渡しを事務管理の規定の類推で求められるかが準事務管理の問題として論じられています。

管理を始めた時に本人の意思に反することが明らかなら事務管理は成立せず、後で明らかになれば中止しなければなりません

697条は本人の意思に反しないことを明文の要件にしていませんが、事務管理は本人の意思と利益に沿うことを理由に他人への干渉を適法とする制度なので、管理を始めた時に本人の意思に反することが明らかであれば成立しないと解されています。「管理者が他人の事務の管理を始めた時にそれが本人の意思に反することが明らかであったときは、事務管理は、成立しない」という肢は正しいです。一方、本人の意思に反していても、それが管理を始めた時に明らかでなかったなら事務管理は成立し、費用の償還が現存利益の限度に絞られるだけです(702条3項)。管理の途中で本人の意思に反し又は本人に不利であることが明らかになったときは、700条ただし書により、管理者は管理を継続してはならず、中止する義務を負います。

管理者は善良な管理者の注意で管理しなければならず、急迫の危害を免れさせる緊急事務管理に限って、悪意又は重大な過失がなければ責任を負いません

697条1項は、管理者は事務の性質に従い最も本人の利益に適合する方法で管理しなければならないと定め、同条2項は、本人の意思を知っているとき又は推知することができるときはその意思に従わなければならないと定めています。「管理者は、本人の意思を推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない」という肢は正しいです。注意義務の程度は条文に書かれていませんが、698条が緊急の場合に限って責任を軽くしていることの反対解釈から、通常の事務管理では善良な管理者の注意義務を負うと解されています。報酬を受けない管理者でも同じです。「管理者は,自己の財産に対するのと同一の注意をもって管理に当たらなければならない」という肢、飼い主不明の犬の世話について「自己の財産に対するのと同一の注意で足りる」という肢、「本人に対し相当の額の報酬を請求することができる場合に限り,善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う」という肢は、いずれも誤りです。698条は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わないと定めます。車にひかれそうな人を突き飛ばして助け、高価な着物を汚した場合、管理者は着物の損害を賠償する必要はなく、その肢は正しいです。「管理者に故意又は過失があったときは,管理者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という肢は、責任の基準を「悪意又は重大な過失」から広げているので誤りです。

交差点の横断歩道の場面。迫ってくる自動車の手前で、先生(札「管理者」)が着物姿の女性(札「本人」)を歩道側へ突き飛ばして助けた直後で、女性の着物の裾が泥で汚れている。女性が着物を指さしている。先生の吹き出し「急迫の危害から助けるための緊急事

管理者は、開始を通知し、本人側が管理できるようになるまで継続し、委任の規定に従って報告・引渡しをします

699条は、管理者は事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならず、本人が既に知っているときはこの限りでないと定めています。その旨の肢は正しいです。700条本文は、管理者は本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで事務管理を継続しなければならないと定めます。基準は「管理をすることができるに至るまで」であり、「本人が現に管理に着手するまで,事務管理を継続しなければならない」という肢は誤りです。いったん始めた管理を途中で放置して本人に損害を生じさせれば、管理者は継続義務違反として損害賠償責任を負い得るので、生け垣の修理を途中で放置して全体を枯らした場合に「Aは,Bに対し,生け垣が枯れた分の損害の賠償を請求することはできない」という肢は誤りです。701条は645条から647条までを準用するので、管理者は、本人の請求があればいつでも管理の状況を報告し、終了後は遅滞なく経過と結果を報告し(645条)、受け取った金銭その他の物を引き渡し(646条)、引き渡すべき金額を自己のために消費したときは消費した日以後の利息を支払い、なお損害があれば賠償します(647条)。これらの報告義務と利息の支払義務を述べた肢はいずれも正しいです。

管理者の義務(条文の順)

  • 管理の方法: 事務の性質に従い最も本人の利益に適合する方法で(697条1項)。本人の意思を知り又は推知できるときはその意思に従う(同条2項)
  • 注意義務: 善良な管理者の注意(698条の反対解釈)。緊急事務管理は悪意又は重大な過失がなければ損害賠償責任なし(698条)
  • 通知: 遅滞なく本人に通知。本人が既に知っていれば不要(699条)
  • 継続: 本人・相続人・法定代理人が管理をすることができるに至るまで。継続が本人の意思に反し又は本人に不利であることが明らかなら中止(700条)
  • 報告・受取物の引渡し・権利の移転・消費した金銭の利息と損害賠償: 委任の645条〜647条を準用(701条)

民法697条1項

義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。

民法697条2項

管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

民法698条

管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

民法700条

管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。

民法701条

第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。

論文ではこう使う

論文で事務管理を使うのは、管理者から本人への費用償還請求(702条)の根拠を示す場面と、管理者の行為が不法行為にならないことを示す場面です。まず697条1項の要件として、①他人の事務の管理、②義務の不存在、③他人のためにする意思(自己の利益を図る意思が併存してもよい)、④本人の意思・利益に反することが明らかでないことを、事実に当てはめます。そのうえで、管理者の義務違反(善管注意義務・継続義務)が問われていれば697条・700条を、救助の場面なら698条の緊急事務管理を検討します。もっぱら自分のために他人の権利を使って利益を得た者への請求は、準事務管理として701条・646条の類推適用の可否を論じ、否定するなら不当利得・不法行為で処理します。

試験ではこう問われる

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